◆二人の友人◆
主人公視点ではないです。
石の中にいる。
そんなフレーズが頭に浮かんだ。
まあ石じゃなくて土だし、さすがに息できなかったらこんな余裕な発言してられないから頭も出てるんだが。
光る魔法陣みたいのを見た時点で厄介事に巻き込まれたとは思ったが、これはちょっと予想の斜め上だな…。
埋まってるのに何故こんなにのんびり考えているのかと言われそうだけれど、それはさっき慌てて出ようと体を動かしたら案外簡単に出られそうだったからだ。
しかしあまり地面が緩い感じはしない…逆に俺の力が強くなってるのか?
…でもさすがにもう出るか。
砂浜に埋められた人の気分で少し面白いが状況がよくわからないからな。
動けるようにしておいた方がいい。
「うわあ!
宏太が首だけになってる!」
悲鳴が後ろから聞こえてくる。
…もうちょっと出るのは待とうか。
「な、なんで!?
首だけ転移しちゃったのか?!」
転移ね…。
まだ一応誘拐されて埋められたっていう説もあると思うが。
「なーんて、首から下が埋まってるだけでしょ?
なんか身体能力上がってるっぽいし出られないなら手伝うからさっさと出ようよ。」
「なんだバレてたか、つまらん。」
俺の前に回り込んだ一樹は全身びしょ濡れだった。
「僕もいきなり池ポチャだったからね。
似たような状況だと考えるのは当たり前でしょ。」
ああ、だから濡れてるのか。
「で伊月は?」
地中から出て土を払いながら尋ねる俺に対し一樹はおかし気に笑いをもらしながら答える。
「伊月ならあの召喚陣っぽいのが出てくる前に飛び退いたよ。
僕もそれ見て飛び退こうとしたんだけど一歩遅かったみたい。」
…なるほど、いつものあれか。
伊月は性格も少々変わっているが、何よりも普通でないのが時々発揮されるほとんど予知に近い勘だ。
例えば、真後ろから飛んできた直撃コースの野球ボールを直前に素早く屈んで避けるとか、突然飛び退いたと思ったら鳥の糞が降ってくるとか。
絶対に発動する訳ではないようだが、伊月が突然おかしな動作をしたら確実に何かが起きるというのが周りの共通認識である。
ちなみに極度に集中していると勘の頻度が上がるらしく一度スイッチの入った試合中の伊月は未来を知っているかのようにパスカットを量産する理不尽な存在だ。
まあよほど集中しないとそんなことにはならないが。
「ならまあ伊月のことは心配しなくていいか。」
「うん、伊月なら何だかんだで生き残る気がするもん。」
いや、避けたのに生き残るもくそもないだろう。
「もし一緒に来てたらって意味だよ。
あの勘はこういうときこそ役に立つと思うんだよね。」
確かにそうだな、あれはこういうよくわからない状況の方が有用だとは思う。
…しかし今はいないやつのことを考えるよりも。
「この状況、なんだと思う?」
「たぶんこのところ人気な異世界転移なんじゃないかな。
さっき宏太は掘り返した跡も埋めた跡もないよくある空間転移失敗の見本みたいな埋まり方してたし。
それに宏太探してたときにステータスって言ってみたら画面出てきたから。」
ずいぶん確信があるんだな…って、おい後半、さらっと重要なことを言ってるんじゃないよ。
それじゃ地球じゃないのはほとんど確実じゃないか。
「いきなり画期的なVR技術でも発明されたんじゃなけれぱ地球ではありえないよね。」
最近その技術も上がってきてはいるけれど、ここまでリアルなのはさすがに無理だろう。
「まあ、何が起きてるのか考えるのも重要だけど、とりあえず向こうに村っぽいのが見えたから行かない?
最初にふざけた僕が言うのもなんだけど、特に危なそうな動物とかは見てないとはいえこんなとこでずっと話してるわけにもいかないからさ。
ステータスの確認とかも歩きながらか、着いてからにしよう。」
こいつ、いつもやたら要領がいいがこんなときでも絶好調だな。
「わかった、行くか。」
頼りになるやつ、と思いつつ俺は一樹について歩き始めた。
二人が落ち着いてるのは本人たちの性格もありますが、主人公の勘の良さがちょっとした超能力の域に入っているのでは、と思っていたので超常的な現象を信じてたからというのもあります。