ウチと良いことシよ?
目を覚ますとそこは寝室の様で透はベットに寝かされていた。
「……俺は一体?」
頭に手をあて記憶を探るがいまいち思い出せない。変わりに顔がズキズキと痛む。
「ええと、確か風呂に入ろうとして、そしたらあいつのパンツがあって……。」
その後何か凄い物を見た気がするのだが、そこからはどうにも思い出せないのであった。
「もういいや。寝よ。」
記憶の探索を諦めて寝ることに。掛け布団を掛けて目を瞑った。
――今日は色々あったよなぁ。
朝起きれば知らない場所に知らない女の子。そして直ぐ縛られたと思ったら成り行きで盗賊団の仲間入りをし、知らない町で買い物最中に迷って良い人に助けられて。
全て内容が濃い一日だった。透が今まで過ごして来た平穏で平和な日常がペラペラの紙のように思えるくらいに。
そしてなによりも不思議なのが。
『――右のポケットだよ。』
もう一度あの時の声を思い出す。
あの時、声が聞こえなければもしかしたら今頃死んでいたかもしれない。
あの声は一体……。
森の何処かで鳥が透の為に子守唄を歌う。だんだんと眠気が身体中を覆い、激動の一日に終わりを告げた。
コンコン。
と、その時誰かが部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「ん?なんだ?」
大きな欠伸を一つして地毛の茶色い髪を掻きながらズルズルと気だるげにベットから降りてドアに向かう。
「……どーぞ。」
気だるげな声でドアの向こうにいる誰かに返事を送る。
「お邪魔するねぇ。」
透と同様に気だるげな声でドアを開け入って来たのはスピカだった。
「何か用か?」
「いや、用って訳じゃないけど元気してるかなって。」
「?別に元気だけど?」
透の返答にやや呆れ気味のスピカ。
「『あの後』大変だったんだよ。エイダもすっごく機嫌悪いし。透も裸のまま気絶しちゃってたから服とか着せてあげて……。この部屋だってウチが運んであげたんだからね。」
「え?エイダが機嫌悪い?俺が裸?」
何のことだかさっぱりわからず。一体気絶する前に何があったのか。
透が一部始終を覚えていない事を様子から察したスピカはため息を一つ吐きベットにチョコンと座って。
「トオルも座れば?」
チョイチョイと自分の隣のスペースを指さしてこちらに手招きする。
どうにも頭の中がスッキリしないがスピカに応じて隣に座ることにした。
夜も深まり部屋に静けさが生じる中、透とスピカ達にも沈黙が生じていた。
先ほど点けた蝋燭の光が部屋を心もとなく照らす。透はただその光をボーっと見つめることしかできなかった。
――き、気まずい。
夜に、しかもなんかちょっといい雰囲気で女の子と二人きりと言うのも初めての体験でこんな時どんな事を話せばいのか童貞の透は知らない。
隣のスピカはどんな顔をしているのだろうか。
ドキドキしながら横目でチラッとスピカを見て見ると。
「……。」
何か考え事をしているのか、それとも透と同じで気まずいのか顔を伏せていた。明かりに照らされているからかわからないがほんのり頬が赤い気がする。
「トオル……。」
自分の名を呼び少しずつ距離を詰めるスピカ。
半そでのパーカーとショートパンツの服装な為、彼女の色白いすべすべな二の腕と太ももが肌にくっつく。
「ちょっ!近いんだけどっ!」
透が注意するも二人の距離は変わらず、何か言いたげにもじもじと太ももをくねらせる。
その度に透の太ももとも擦れあって……。
「ちょっとスピカちゃん聞いてる?これ以上まずいんだけど色々と。」
「あ、あのねトオル!」
再三の注意も無視し話を切り出すスピカ。
潤んだ瞳に上目づかい。おまけに顔も近いので心臓の鼓動が一気に加速し始める。
「今日、楽しかった?エイダとお買い物?」
「あ、ああ。楽しかったぞ。すげー疲れたけど。」
顔を明後日の方向を向きながら返答する透。
スピカはホッと胸を撫で下ろしてから。
「それは良かった。エイダも楽しそうだったし。でもね。」
キュッと透の服の裾を掴んでから。
「でも、トオルとエイダが仲良くしてるとこ見てたらちょっと寂しくなちゃって。――だからね。」
ドンっ!
両手で胸板を押されベットに倒される透。
その上にスピカが四つんばいになって。
「ウチも透と『仲良し』したくなちゃって。」
濡れた瞳に紅潮した頬、密着しそうな二人の身体。
爆発しそうなくらい心臓が鼓動を鳴らし、動悸と汗が止まらない。息切れまでしてきた。
これってもしかして……!?この展開ってもしかして……!?
今にも気が狂いそうな透の耳元にソッと顔を近づけて。
「ねぇ、ウチと『良いこと』シよ?」




