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シチューと煮込み料理

 時刻は夕方を回り、夕日が景色全体を赤く染め始めた頃、二人はアジトへ帰ってきた。


 「ただいまー、ったく今日はこいつのせいで疲れたぜ。」


 「……何が疲れただよ、荷物全部俺に押し付けやがって。」


 両手に食材やらなんやらがたくさん詰め込まれている手さげバックを待ち肩で息をする透。

 このアジトは町外れの森、さらにその奥地にあるため引きこもりには堪える距離である。


 「ふんっお前が貧弱の証拠だな。」


 勝ち誇った顔で透を一見した後そのままリビングのソファーに寝転んだ。


 「あらあら二人ともおつかいご苦労様。ふふっちょっとは仲良くなれたみたいね。」


 「ほら、いった通りでしょ?作戦大成功だね。」


 そこにやってきたのはカトレアとどこか自慢げなスピカ。


 「どこが仲良くなったんだよ。こんな暴言女と仲良くなれた訳ねーだろ。」


 「ほほぉ、中々言うようになったじゃねーか。」


 ソファーから立ち上がり透を睨み付けるエイダ。透も負けじと両手に持った荷物を置いて睨み返した。


 「あらぁ。ほんとに仲がよくなったみたいで私嬉しいわ。」


 「「なってない!」」


 カトレアに対してのツッコミが被りお互いに一瞬呆気に取られるもまた向き直し睨みあいを続行。


 「ふふっ二人とも、もうその辺にしといてね。もうすぐご飯ができるからねぇ。」


 「「フンっ!」」


 プイッと顔を背ける二人。そのタイミングも何故だか同じでカトレアとスピカは微笑ましそうに笑った。




 「はい、出来たわよぉ。冷めない内にどうぞぉ。」


 テーブルにつくとカトレアが料理を運んできてくれた。

 今晩のメニューは現実世界で言うビーフシチューの様な見た目で何かの動物の肉や野菜がゴロゴロと皿の中に入っていて見ているだけでも食欲が沸き立つ。


 「じゃ、じゃあさっそく……。」


 スプーンを持って恐る恐る口に運ぶ。そしてパクリと一口食べて見ると。


 「……美味い!」


 シチューはトマトの様な酸味と煮込んでいるため他の食材のうま味が凝縮されている。そして正体不明の肉も牛肉の様な食感とこれも煮込んでいるので口の中でホロホロと溶ける。


 「美味い、美味すぎる……!」


 「ったりめーだろ?カトレアが作ったんだぜ。あーんっと……うめー!」


 スプーンを指で持て余しながら自慢げに鼻を鳴らすエイダ。それを他所(よそ)に皿を持って口に掻きこむ透。

 ずっと部屋でインスタント麺ばかり食べてきたのでこれほど美味しい手料理を食べたのは久しぶりだ。


 「あらあら、急がなくてもおかわりはたくさんあるからねぇ。」


 「そうだぞ、がっつきやがって。って肘当たってんだよ!」


 右利きの透と左利きのエイダ、テーブルの席の関係で両者の肘と肘がぶつかってしまうのだ。


 「…………。」


 いがみ合いながらもカトレアの美味しい料理に夢中な透とエイダ。それをジィーとおっとりした眼で見つめるスピカ。透もその視線に気づいたが特に気にすることはなかった。






 夕食を食べ終えお腹を満たした透は今日の疲れを癒すため風呂に入ることにした。


 脱衣所にて。


 「ふいー疲れたな。」


 ふぅーと一息ついてから上着を脱ごうと手をかける。


 「……そういや、あいつらも風呂入った後かぁ」


 透は一人っ子な為、姉や妹などおらず『女の子』が浸かった後の浴槽に入るのは初めてだ。


 豚骨スープや煮干の出汁というのはお湯でじっくり煮込んでからうま味を抽出すると言うが女の子が浸かったお湯はどうなのだろうか……。


 「ってなに考えてんだ俺は。」


 自分の変な考えを取っ払うかの様に服を脱いで脱衣カゴにいれようとすると。


 「げっ!」


 そこには見覚えのあるしまパンツが。恐らくとり忘れだと思うが。


 「どうすっかな。持って行ったらまたガミガミうるさそうだし。」


 触らぬ神に祟りなし、という様にここはスルーすることにして浴場の引き戸に手をかけた。


 かけたのだが。


 ちらりともう一度しまパンツに目をやる。


 脱衣カゴに入れてあると言うことはエイダが脱いだ後だという事。しかも柄が今朝見たときと同じなのでその推測は正しいといえるだろう。

 今透の眼前にある物、手に届くほどの距離にあるそれは紛れも無く脱ぎたてのパンツなのだ。

 エイダは性格こそどこぞのヤンキーみたいだが顔はかわいい。

 そんな女の子の脱ぎたてホヤホヤなパンツを目の前にして何もしない男が世の中に存在するのだろうか。



 「――いいや、やっぱり駄目だ!」


 グッと歯を食いしばり引き戸を勢い良く開けた。

 最後には透の理性、いや極度の臆病(チキン)さが勝った。


 このモヤモヤも疲れごと湯船に浸かって癒そうじゃあないか。そう思い風呂に目を向ける。






 ――ここで透は大きな過ちを犯していた。変な妄想をしていて気づかなかったのだ。




 体を洗いながら鼻歌を歌う彼女の声が。



 ガラガラっ!!!


 勢い良く開く引き戸。その音にビクりと反応するエイダ。想像していない光景にフリーズする透。



 ――そして。






 「なに覗いてんだこの変態野郎がああああああああ!!!!」



 投げつけられた風呂桶が顔面にクリーンヒットし透の目の前がブラックアウトした。

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