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赤髪の女騎士

先にいったエイダを追いかける透。


 しかし。


 「迷った……。」


 完全に迷子になってしまった。

 田舎町といえどそれなりに人通りが多く知らない土地なのでここからエイダと合流するのは少々厳しい状況である。


 はて、どうしたものか。


 ガムシャラに探してもいいのだがエイダとすれ違いになりそうだしなにより効率が悪い。


 じっとしていてもいいのだが再会した後グチグチいわれそうで面倒くさい。


 と、なればとっておきの最終手段だけが残る。


 「……このままバックレるか。」


 そうバックレる。つまりはこの場から逃げると言う事。


 正直盗賊なんて聞くだけでも危ない事やってられない。

 それならばこの町ないしどこか違うところでのんびり暮らす方が全然良いに決まっている。

 ここは日本と違って働き口もそう困らなさそうだし、そうだそれがいい!そうしよう!


 ――バックレてからの異世界生活、いいじゃあないか!始めよう!一から……いいや、ゼロから!


 そうと決まれば行動開始。期待に胸を膨らませながら回れ右をして新たなスタートの一歩目を踏み出す。


 ところが。


 ――ドンッ!


 「ぐぇっ!」


 何かにぶつかり間抜けな声を上げて尻餅をつく透。


 そのままぶつかった物の正体を確認しようと顔を上げると黄色いマントをした一人の女性が立っていた。


 身長は見上げているので恐らくではあるが透よりも高く、赤髪のポニーテールで透き通った翡翠(ひすい)色をした瞳がジッとこちらを見据えていた。


 「すまない、大丈夫か?」


 するとその女性は謝りながら右手を差し出してくる。


 「ああ、すいません。」


 そういって差し出した手を握って上体を起こす透。……なにげに女性の手を握るのがこれが始めてかもしれない。


 「すまん、つい考え事をしていたらぶつかってしまった。」


 「いや、別に気にしなくていいですよ。えっと……。」

 

 「私はアリスカット・ブリューリッヒだ。」


 「えっと、アリスカットさん?ブリューリッヒさん?」


 「ふふっアリスで構わないよ。ところで君の名は?」


 「あ、そうっすか。俺は早坂 透って言います。俺も透でいいっすよ。」


 「ふむ、トオルか私と同じで珍しい名だな。」


 まぁこの世界じゃ名前皆横文字みたいだし珍しいにはわかる。

 そして自分と同じ珍しい名前が面白かったのか嬉しかったのか凛々しくもどこかあどけなく笑うアリス。

 今度は透の服装をジッと見ながら。


 「トオルは見た限りここの町民ではないようだが、旅人か?それとも盗賊とか……。」


 「旅人です!」


 そう、急展開で盗賊になったがまだ自分の口から宣言していないので違う。断じて盗賊などではない。


 「そうか、気を悪くしたなら悪かった。……最近盗賊による被害が増えていてな。なにを隠そう私も領主から守衛の依頼を受けて王都から派兵されたのだが。なんでもここ最近勢いのある女盗賊共が屋敷の宝狙っているとかなんとか。」


 「へ、へぇー物騒ナ世の中ダナー」


 ジトリと透の額から冷や汗が垂れる。


 ――いや、俺知らないし関わってないし!?元殺し屋とかおっとり顔の女の子とか暴力しまパン女とか絶対に知らないからなっ!?


 すると遠くから聞いたことのある、しかし今は聞きたくない声が聞こえてくる。


 「おーい、どこほっつき歩いてんだよ!」


 こっちに向かってくるエイダ、しかし透はこれを敢えて聞こえないふりをした。


 「おや?誰かが向かってくる様だが君の待ち人か?」


 「いいえ、人違いです。」


 「何で無視すんだよ、聞いてんのか?」


 聞こえていないふりを決め込む透に尚も話しかけるエイダ。


 ――ああもう、空気読めよなあの馬鹿女っ!


 盗賊のエイダと領主を守衛するために来たと言うアリス、この二人を合わせるのはまずい。そう透の直感は叫んでいたのだ。


 「なんだやっぱり君の知り合いじゃないか。ふふっトオルは変わっているな。……待ち人が来たところで私はそろそろ失礼するよ。今度あったらお茶でもしよう。」


 そういって後ろを振り向きそのまま去っていくアリス。

 彼女が羽織っている何かの紋章が刻まれている黄色いマントが見えなくなるまで見つめていると。


 「おい。無視い続けるとはいい度胸してんじゃねーか。」


 「いや、これには理由がって痛たたたた!!!!!」


 耳をつねりながら引っ張られる透。そしてエイダ口元を近づけてひそひそ声で。


 「……今話してた奴、あいつ王都の騎士団だぞ。それに黄色いマントって事は師団長クラスだ。余計なことは言ってないと思うが気をつけとけよな。」


 そういい終えると耳からバッと手を離した。





 ジーンと熱を帯びる耳を押さえながらアリスが去っていった方向を見据える。




 ――今度会ったらお茶をしようと気品のある笑顔で行ってくれたアリス。その『今度』が最悪な形にならなければいいが。

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