カトレアお姉さんといっしょ!
カトレアに優しく『ツンツン』されて起こされた透は二人で昨日エイダといったメイクン区の商店街に足を運んできた。
「つってもなんで俺何かと一緒に買い物なんて。」
カトレアの隣で頬を赤くさせながらブツブツ呟く透。
それを横目にカトレアがニコッと笑いながら。
「ふふっ荷物持ちは多いほうがいいでしょ?」
それに、っと付け加えて。
「昨日二人とデートしたんだし、次は私の番かなって。」
笑顔を絶やさず言うカトレア。それに半笑いで応えた。
デートって言ってもエイダに完全にパシリにされたりスピカには偵察を手伝わされたりでデートらしいデートなどしてないのだが。
それにわざわざ自分を起こしてまで買い物に付き合わせる必要があるのだろうか。
どうも怪しい。何か裏があるのではないか。恐らくあるだろう。何故な……。
「ん?なぁに?私の顔になにかついてる?」
「ひぇっなんでもないです……。」
何故なのか、そう考えている途中でこちらに振り向き、まるで思考を遮るように話しかけてくるカトレア。
――恐えぇ……。暫く何も考えないでおこう……。
乾いた唇で掠れた口笛を吹き何も考えないようにした。
それをみてカトレアはまた微笑み、二人は先へ進むのであった。
その後は何も考えないようにしていたからか特に問題はなく買い物が続く
「あらぁ見てトオル君、大きいキノコだわぁ……これ、どう思う?」
「……すごく大きいです。」
山菜屋にて。傘が黄、水色、紫となんとも毒々しいキノコを眺めていると。
「おや、お二人さん!それは今日採れたばかりの新鮮な奴だよ。」
店の奥から何とも商業人らしい顔つきをした小太りの店主が話しかけてきた。
「これ本当に食えんのか?」
透がキノコに指を刺しながら。すると店主はよくぞ聞いてくれたとばかりに顔をニヤつかせて。
「こいつはウ゛ォルザーク名物『デストロイドメタルキノコ』といってね、そりゃもう絶品さ!」
「……名前が禍々しいな。」
「このキノコは切ると特殊な粘り気がでてね、刻んでから練って十分粘り気がでたら米にかけてそのまま掻っ込む!これが堪らないんだよ!」
ほう、日本でいう所の納豆やオクラみたいなものか。
少し興味を示すと店主が畳み掛けるように。
「それにこのキノコの粘り気から恋の祈願にもなっていてね。気になる異性とこのキノコを一緒に食えばこの粘り気に負けないくらいくっついて離れない熱々のカップルになれるとかなんとか……。」
気分がいいのか店主の口は閉じず。
「あっ!もうお二人さんみたいなラブラブカップルには余計だったかな?」
調子の良い店主は自分で言ったジョークに大口を開けて笑う。
それを若干引き気味で聞いている透。
そしてカトレアは。
「……ねぇ、その熱々カップルって私達の事ですか?」
「ん?そうだけど?他に誰がいるんだい?」
アメリカのコメディドラマの様にオーバーリアクションで肩を透かす店主。
そんな店主をクスりと鼻で嗤う。
まずい、何かまずい。
この嵐の前の静けさの中、最初に口を開いたのは店主だった。
「おやぁ、あんたらもしかして付き合いたての初心なのかい?いやぁ初々しいってのはいいもんだねぇ。」
おい、空気を読め店主!
さらに店主の饒舌は回りに回り。
「俺もあんたら見てると昔を思い出すよ。こう見えて昔はもっとスマートでハンサムだったんだよ。」
だから空気を読めって!この馬鹿店主がっ!
上機嫌な店主に対してこちら側の空気がどんどん冷えていくのを体感する。
――そして。
「うふふっ。」
カトレアが顔を伏せたまま一瞬ニヤリと口元を上げ。
「そうですかぁ?私は今のままの店主さんも素敵だと思うんですけどぉ。」
一瞬みた表情とは違う満面の笑みで言うカトレア。
「お、そうかい?そいつぁ照れるねぇ。」
照れるといっておきながら満更でもない様子の店主。
そして。
「だって太ってる人のお腹ってね、掻っ捌くと肉汁みたいに血が出てとっても面白いんですよぉ。」
「「えっ?」」
カトレアの発言に疑問符が重なる透と店主。
そしてふふふっと笑いながら店主との距離を数十センチ程に詰めてから。
「店主さんもきっと、いい「肉汁」でると思いますよぉ。ほらこんなにタプタプだもん。」
店主の丸いお腹を摩りながら耳元で呟く。それを聞いた瞬間一気に青ぜめて、腰が抜けたのかドサッとその場に座り込む店主。
そんな店主を見下ろしながらカトレアが。
「あらぁ店主さんったら自分の体重を支えきれなくなったのかしらぁ?」
大丈夫?などとこれっぽちも思っていないことを口にして、手を差し出し店主を引っ張りあげる。
「ところで店主さん、このキノコおいくらかしらぁ?」
「た、無料だよ。好きなだけ持っていってください……。」
青ざめる店主に悪いわねぇと一声かけてから大量にキノコを袋に詰め山菜屋を後にしたカトレア。
その後に付いていく透、ちょっと距離が空いた時にふと山菜屋の方を見ると店主はただボーっと立ち尽くしているだけだった。
――カトレアさんまじ恐ぇ……。




