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第4章 9 スバルVSサファイア

「………………何故、俺だけ残した?」


「きひひ! きみのことは最初から気になっていた。最弱種族である人間でありながらボク達と同じ闇属性。しかも想像力が豊かで無ければ発動すらしない影魔法の使い手。影魔法はボクでも初めて見る。1人の魔法学者として、キミは実にきょぉ~~~~み、深い!」


「………………そりゃどーも」


 1人残された俺は、ヴァンパイアバロンのサファイアと対峙している。ブラッディウィップは何故か解除してくれた。疑問に感じて尋ねてみると、あっさりと答えてくれた。こいつの狙いは俺自身と影魔法か。マッドサイエンティストの雰囲気があるけど、油断は全く出来ない。かつて戦ったヴァンパイアバロンのルビーと同じヴァンパイアの進化体。はっきり言って怖い……。


「さらには闇属性の魔道具シャドウゴーレムという切り札。まさか、1人でキャッスルゴーレムをねじ伏せるとは嬉しい誤算だったよ。おかげでボクの計画は大成功だ、ありがとう!」


「………………言いたいことはそれだけか」


「きひ?」


 サファイアからお礼を言われるけど、皮肉にしか聞こえない。これはヤバイな。身体は逃げたがっているけど、そうはいかない。キャッスルゴーレムとシャドウゴーレムが戦闘していたのに、この最上階の広場はヒビがある程度。相当頑丈な造りだ。ミランダ達が流された入り口はガレキによって塞がれている。この密室広場で、ヴァンパイアバロンのサファイアと戦うしかない。緊迫する状況に冷や汗が背中に流れている。でも、今の俺はある感情で頭が一杯だ!


「お前の目的は分からないけど、どうでもいい。お前が最強種族ヴァンパイアであろうと関係ない。お前は俺の仲間を傷つけた。俺はお前を絶対に許さない! 五体満足で生きて帰れるとは思うなよ!」


 怒りが爆発して、身体から溢れ出す闇の魔力全開になった! 闘技大会時、クザンさんに追い詰められた状態と同じだ。この魔力解放状態になると、何故か身体や魔法の調子が良いのは謎だけど今はありがたい。ヴァンパイアバロンのサファイア! お前はミランダ、シャロン、メアリーを傷付けた。お前はここで俺がぶっ飛ばす!





「きひひ。素晴らしい闇の魔力だ。これは参ったね」


「命乞いか?」


「違うね。早く調べたくて仕方がないのさ。目の前に珍しい影魔法を使う人間がいるんだ。全ての魔法を究めることが魔法学者であるボクの夢だよ」


 サファイアは俺の怒気が混じった魔力を当てられているにも関わらず、変わらずに笑っていやがる。余程の自信家なのか、狂っているのか……この場合は後者だな。今まで会ったことのない不気味さが伝わってくる。こいつは本気で魔法を究めるつもりだ。その夢の熱意は感心するけど、その対象が俺であることは嫌。サファイアは杖を構えた。所々が折れ曲がっており、今までに見たことない型の杖だ。


「凶悪そうな杖だな」


「おや、そういえばキミは魔法使いなのに杖を使わないのか?」


「杖は便利すぎて成長を止めるから、じいちゃんに禁止されている」


「理にはかなっている。ますます楽しめそうだ。さあ、キミの力を思う存分出したまえ!」


 サファイアの杖は見るからに強力な魔道具であることが分かる。冒険者になってから、いくつか魔道具を見てきたけど1番魔力を感じる。俺も戦闘態勢になると、サファイアが質問してきた。確かに魔法使いにとって杖は必需品。持っているだけで魔力が強化されるからね。でも、俺は使わない。その理由をサファイアに答えると納得してくれた。性格はアレで認めたくないけど、魔法学者としては優秀だな。サファイアが戦闘態勢になる。すごい、濃い魔力だ!


「そのつもりだ! ヴァンパイアが相手なら、出し惜しみは無しでいくぜ。超新星〈スーパーノヴァ〉!」


「おおっ、それは武装魔法陣。肉体強化をする魔法。もしや影の武装魔法かい。面白い!」


「そっちが吸血鬼なら、こっちは牛鬼だ!」


 ヴァンパイアの弱点はルビーとの戦闘後にミランダから聞いている。太陽光と光属性の魔法。太陽光はこの魔人の塔では期待できないし、光魔法は論外。だったら、俺の持っている全ての魔法をぶつける。幸い、サファイアは俺を研究対象として見ている。命を奪われることは無いと信じるしかない。

 まずは俺自身の強化のためにスーパーノヴァを発動。黒くて丸い魔法陣が俺の身体を前方から通り抜ける。おうし座の2つ角が頭に生えて、影が衣のように身体に纏うっていく。両肩・両腰・両膝にはプレアデス星団の6つ星が輝いている。これでスーパーノヴァの完成だ。見た目はファンタジーのミノタウロスや妖怪の牛鬼のような姿に変化。一応、闘技大会では畏怖を示したはずだったけど、サファイアはこの姿を見て怯えるどころか喜んでいる。


「影連弾〈シャドウマシンガン〉!」


「早速、影の攻撃魔法! 血矢〈ブラッディアロー〉では無理だね……血盾〈ブラッディシールド〉」


「あの変化……ミランダが話していた通りか」


 俺はシャドウボールをいつものような6連弾ではなく撃ちまくる。とにかくサファイアに攻撃させてはいけない。いくら、闇属性の俺でも血魔法が全く効かない訳ではない。他の属性よりも抵抗力が強いだけだ。サファイアはアロー系から防御に一瞬で変えた。この変化をミランダから聞いていた。ミランダが戦ったタンザナイトというヴァンパイアを守ったルビーの血魔法は、血がまるで意志を持っているかのように武具が変化したらしい。つまり、血さえあれば一瞬で攻撃と防御を使いわけることが出来る。俺の影魔法も似たようなことは出来るが、まだまだ未熟な段階だ。





「やるね~。これは影の初級魔法というより、他属性の初級魔法を真似しているのかね」


「そっちこそ仲間が言っていた通りの血魔法だな。宝箱の中身といい、ミランダを誘拐するとか、お前達()ヴァンパイアは何が目的なんだ!」


「お前、()? キミはボク以外のヴァンパイアに出会ったことがあるのかい?」


 サファイアはシャドウマシンガンを防ぎながら、俺の影魔法を触って調べている。攻撃魔法を触るなんてヴァンパイア以外の種族なら出来ないことだ。俺はずっと気になっていたヴァンパイアの目的について聞いてみた。あのルビーは語らないと思うけど、俺に興味のあるサファイアならば、もしかしたら答えてくれると思った。そしたら案の定、サファイアは俺の言葉に反応した。


「ルビーと名乗るヴァンパイアだ!」


「なるほど。あの任務の時か。良かろう、キミはダークエルフをここに連れてきてくれた。特別に教えてあげよう。ボク達は『王』の復活を目指している」


「王…………ヴァンパイアキングのことか!」


「その通り。500年前の戦争で封印された我らの王だ! 各地に眠るこの『魔皇石』を集めれば王は蘇る!」


 俺はルビーと出会ったことを話す。その状況はサファイアにも心当たりがあったみたいで、特別にヴァンパイアの目的を教えてくれた。それはヴァンパイアキングの復活という、伝説の冒険者ゼファーが戦った500年前の話。今では子ども達が読む絵本の物語やおとぎ話にもなっている。俺も小さい頃に読んだことがある。ヴァンパイアキングはその名の通り、ヴァンパイアの王様で全種族を相手に戦争をした悪者として伝えられている。そんな危険なヴァンパイアが復活したら、世界の平和が乱れてしまう。そしたら、俺の自由な冒険が出来なくなる! 宝箱に保管されていた『魔皇石』とやらが、サファイアの目的だったのか。





「事情は分かった。そんな危険な目的は、ここで叩きのめす! 影弾〈シャドウボール〉!」


「おっと! きひひ、やはり分かり合えないか。それにしても最弱種族の人間にしては見事な影魔法。どこか血弾〈ブラッディボール〉に似ている」


「影魔法の基本は物真似だ! ヴァンパイアバロン、ルビーの血魔法をイメージしているからな!」


「きひひ。それは厄介」


 俺はヴァンパイアの目的を知って、さらに燃え上がる。俺の夢、仲間の安全のためにも負ける訳にはいかない。特にこいつは狂っており、絶対に諦めないタイプだ。何としてでもここで倒す! 手のひらにあるシャドウボールを俺の身長ほどに大きくして、あるイメージを考えながらサファイアに放つ。武装魔法スーパーノヴァのおかげで、俺の魔法は強くなっている。

 サファイアが俺のシャドウボールに対して考えるのも無理はない。影魔法は闘った強い相手の魔法をイメージすることで、それに近いものが出来る。父さん、ルビー、氷結カシオペア、賢者レグルスさん、雷撃クザンさん。俺の影魔法は俺自身が経験した魔法を再現してくれる最高の魔法だ!


「影砲〈シャドウバスター〉!」


「痛い! しかし、それが良い! 痛いということは生きている証拠! ヴァンパイアの身体を傷つける影魔法! 素晴らしい!」


 俺はスターライトバスターの簡易版シャドウバスターで攻めていく。魔法吸収は無いけど、少ない魔力で攻撃出来る新しい影魔法。サファイアは血が吹き出て傷付いていくが、俺の影魔法を避ける気配が無い。それどころか血まみれの笑顔で褒めながら迫ってくる!? な、何かの作戦か?


「影拳〈シャドウパンチ〉!」


「げはっ!? 良いぞ、良いぞ、良いぞ! キミの影魔法によって、ボクの研究欲がどんどん溢れ出てくる! 星影くん、もっとボクを楽しませてくれ!」


「気持ち悪っ!」


 血まみれで迫ってくるサファイアに対して、俺は身長と同じぐらいの巨大化させたシャドウパンチで思いっきり殴った。サファイアは血を撒き散らしながら、高速で吹き飛んで壁に打ち付いた。良いパンチが入ったと思ったのも束の間、よろよろとサファイアが立ち上がる。さっきよりも血まみれの笑顔で俺を大声で褒めてくる。こ、これは作戦じゃないぞ。ただの変態だった! こいつは痛めつけられることが好きなのか? 流石にドン引きだ……。





「きひひ。見事な影魔法の攻撃だった。最高だよ。今度は影魔法の防御を見せてくれ。血矢〈ブラッディアロー〉」


「くっ! 影盾〈シャドウシールド〉!」


「無駄だよ。ただの防御魔法では、この血魔法は防げない」


「うわっ!?」


 サファイアは笑いきったのか、攻撃を仕掛けてきた。くそっ、想像以上にヴァンパイアの身体は厄介だ。全然ダメージが通っているように見えない。逆に血まみれの身体を利用して、ブラッディアローを放ってくる。俺はシャドウシールドで防いだつもりだったが、貫いてきた!? 危ない、もう少しで身体に当たるところだった! 血魔法に当たってしまったら動けなくなってアウトだ……。防ぐ方法を変えないといけない!


「さぁて、どうする。次は、どんな影魔法で対処するんだい。血矢〈ブラッディアロー〉」


「シールドじゃ防げないなら……影壁〈シャドウウォール〉! そして、影喰い〈シールドイート〉!」


「おおっ! 面白い魔法だね! なるほど、影によって魔法を無効果させるのか。しかし、それは魔法の影響が人体に作用するはずだが……むむむーーー」


 俺はブラッディアローを防ぐために巨大なシャドウウォールを前方に造る。ブラッディアローが壁に突き刺さるが、シャドウイートで影に飲み込ませた。よし、これなら血魔法の影響は無いな。俺の影魔法を見てサファイアが唸っている。今日初めて隙を見せた!


「影走〈シャドウラン〉!」


「ん? お、お、おおおおー?」


 俺は壁に映っている影に足裏の魔力を張り付けて走り始める。いわゆる壁走りってヤツだ。今までは密室空間内での戦闘が少なかったから披露することは無かったけど、今回役に立ってもらう。サファイアが俺に気付いて真上に赤目で見ているなか、天井に向かって走っていく。やがて、天井に到着。今の俺は逆立ちに近い状態だ。





「何をするつもりかね?」


「ここからなら避けられないだろ!」


「きひひ、確かにね」


「ぶちかませ! 星影砲〈スターライトバスター〉ああああああああっ!」


 俺は天井に足裏を膨大な魔力で張り付ける。ここまで登ってきたのはスターライトバスターを確実に当てるため。正面きっての攻撃だと、影魔法に興味津々のサファイアでも避けられる可能性があったからだ。右手の手のひらを広げて真下にいるサファイアに向かって構える。ここから放って、広場の中心にいるサファイアに直撃させる! 俺は必殺技スターライトバスターを発射した。黒い流星がヴァンパイアに襲いかかる!


「これまた面白い。膨大な闇の魔力だ。見たところ、キミの必殺技と呼ぶべき魔法だね。さて、どのくらいのパワーかな? 血矢〈ブラッディアロー〉、血矢〈ブラッディアロー〉」


「無駄だ! 飲み込め!」


「ほうほう、魔法を吸収する魔法か。先程の防御魔法と同じ原理か。しかも最初より速度が上がっており、これは吸収することで強化していく魔法なのか。実に素晴らしい。ならば血雨〈ブラッディレイン〉」


「どんどん飲み込めえええっ!」


「む? これは……」


 サファイアはスターライトバスターに対して、ブラッディアローを連発して放ってくるけど吸収していく。この魔法はサファイアが考えている通り、魔法を吸収して強化していく必殺技。じいちゃんに教えてもらった誇りある魔法、そう簡単に止められると思うなよ! サファイアは小声でぶつぶつ一人言を呟きながら、血魔法を放つのを止めずに広場の中心から左側に逃げていく。確かに今右手から出しているスターライトバスターは、広場の右側全てを攻撃している。闘技大会前の俺だったら、苦戦していたに違いない。だけど……!


「逃ーがーすーかああぁぁぁー!」


「むむっ?」


「双星影砲〈ダブルスターライトバスター〉ああああああああああああああああっ!」


 今の俺は左手からもスターライトバスターを放てる。サファイアが逃げた広場の左側にも攻撃開始。これで広場全体にスターライトバスターが襲いかかる。これでサファイアに逃げ道は無い!


「なるほど。両手から放ちボクの逃げ場を無くしたか。素晴らしい魔法……だが、それだけに勿体ない。血盾〈ブラッディシールド〉」


「………………防がれた!?」


「タネさえ分かれば簡単に防げる。残念だ、血鞭〈ブラッディウイップ〉」


「なっ!? うわあああああああああああああああああああああ!」


 スターライトバスターがサファイアを直撃して、広場全体に埃が舞いちる。確かに直撃はしたはず。でも、サファイアは逃げることを諦めたのか突然止まって、スターライトバスターが落ちてくるのを待っているように見えた。埃が晴れると、サファイアは無傷のまま立っていた。そんな馬鹿な!? いくらヴァンパイアといえど無傷はおかしいだろ。さっきの影魔法攻撃では血まみれだった。サファイアの鋭く尖った形をしたブラッディシールドが変化して、天井近くにいた俺はブラッディウイップによって叩き落とされた。くぅー、身体中がメチャクチャ痛い。同じように闘技大会でレグルスさんと戦った時に落とされたことを思い出してしまった。





「くそっ…………」


「キミは本当に強いね。血魔法とも互角に渡り合っている。きひひ、キミが欲しくなった。ボクらと同志にならないか? ボクならキミをヴァンパイアの血魔法を操る『鮮血』の魔法使いにしてあげよう」


「断る!」


 俺の必殺技スターライトバスターが通じない……。闘技大会で身に付けた両手バージョンも同じ結果だった……。武装魔法スーパーノヴァで強化、血魔法を吸収して強化したにも関わらず、サファイアには届かなかった……。今の俺が出せる最高の必殺技だったから流石にショックが大きい……。そんな俺にサファイアは何とスカウトしてきた。ふざけるな、何が『鮮血』の魔法使いだ……! 俺は即座に断った。


「きひひ。即答かい」


「俺の仲間を傷付ける奴の仲間になんてゴメンだ。お前はここで俺がぶっ潰す!」


「きひひ。ボクをぶっ潰すと言うならば、この『魔人の塔』の壁を壊すぐらいのパワーが無いとね。同志となるキミには特別に、ヴァンパイア進化体の力の一端を見せてやろう」


 サファイアは俺の答えを分かっていた上で小さく笑う。サファイアを倒したい、それは本当の気持ちだけど、正直なところ俺は強がっているしかない。必殺技スターライトバスターを封じられた今、サファイアの言動を見ているだけだ。そのサファイアは俺にヴァンパイアの力を見せてくれるそうだ。本気で俺を欲しいのかと考えた瞬間、サファイアから膨大な魔力が溢れ出した! な、何だこの魔力は!?





「月閃〈ルナ〉」


「ーーーーーーーーっ!」


 サファイアが右手の人差し指を天井に向ける。人差し指から蒼いレーザーが発射。俺が呆然とするなか、蒼いレーザーは天井を突き破るどころか跡形もなく消滅させた。





「て、天井が消えた……」


「きひひひひ、今の魔法は月魔法。ボクらヴァンパイアは月の光が魔力の源。今夜は良い満月だ」


「月、魔法……」


 天を見上げると満月が見えた。シャドウやキャッスルの攻撃、俺の必殺技スターライトバスターすら防いでいた最上階の壁が蒼いレーザーで消滅した。最上階の広場は見晴らしの良い展望台に変わった。俺はいつの間にか尻餅をついていた。な、何だよ、あの月魔法って魔法は……こんなの反則じゃないか……勝てる訳がない……。最初から俺はサファイアの手のひらで無様に踊っていたのか……。


「ボクはヴァンパイアが進化したヴァンパイアバロン。普通のヴァンパイアでも血魔法は使えるが、この月閃〈ルナ〉は進化したヴァンパイアのみが使える魔法。そして、キミがいくら攻撃しようと、ボクには決定的なダメージが通ることは無い」


「ちく……しょう……」


 サファイアの残酷が言葉が俺の心を壊した……。スーパーノヴァ解除……。血まみれだったサファイアの身体はいつの間にか回復していた……。俺の攻撃は最初から効いていなかった……。所詮、俺は闇属性の影魔法が使えるとヴァンパイアに対して互角に戦えると慢心していた、ただの人間だったのか……。





「これがヴァンパイアの圧倒的な力だ。さあ、どうする?」


「…………分かった。今の俺じゃヴァンパイアに勝てない……あんたの仲間になる……」


「きひひ! 素晴らしい判断だ。ようこそ、星影くん。歓迎するよ!」


「だけど、1つ条件がある! スターライトバスターの弱点を教えてくれ。それを克服してみせる!」


 こいつは強い。今の俺では目の前にいるヴァンパイアの身体を傷つけることが出来ない。このまま戦っても魔力の無駄遣い。ならば、最後の賭けだ。サファイアは俺のことをスカウトしている。そのマッドな性格を利用して、打開策を考える。説明好きのサファイアから必殺技のヒントを聞く。もし、失敗すれば……俺は2度と仲間に会えなくなる。慎重に……いくぞ……。


「きひひ。良い欲望だ。キミはボクが『鮮血』の魔法使いにするため、特別に教えてあげよう。その必殺技は1種類の魔法しか吸収出来ない」


「!?」


 サファイアが俺の条件に乗っかってきた……! スターライトバスターの弱点が分かったけど、純粋に驚いた。じいちゃんが教えてくれた魔法吸収は無敵ではなかった。


「確かに、キミの必殺技はどんな魔法でも吸収出来る。人間が考えた魔法にしては大したものだ」


「………………」


「ところが、魔法が複数ある場合は吸収しにくい現象を確認した。ボクは水属性と闇属性を備えており、先程のブラッディレインは水と血の複合魔法。キミの必殺技はブラッディレインを吸収したことで威力と速度が強化されているようにみえるが、それは一時的な効果。ボクに当たる頃には威力が弱まっていた。ボクが近くにいれば、必殺技は決まっていただろうね。つまり、キミの必殺技は複合魔法には太刀打ち出来ない」


 サファイアはマッドな部分が出てきたのか、次々と説明してくれる。俺の必殺技の弱点は複合魔法……! スターライトバスターはブラッディレインの攻撃で弱まって、ブラッディシールドの防御で完全に打ち消されたのか。そういえば、レグルスさんも同じ戦闘方法だった。4属性の攻撃と防御だったけど、あの時はコロシアムという狭いフィールドで戦っていたから無理やり当たっただけか! それにクザンさんの時は天高く飛んでいたクザンさんの複合魔法に対して、俺はスターライトバスターを遠くまで届かせる必要があった。考えてみると、今まで弱点を知る機会はあったのか。攻撃と防御のやり方1つで、全てが変わることが分かった。それならスターライトバスターもやり方次第では弱点を克服出来る可能性がある……! まだ喜ぶな……。サファイアが語っている間に考えろ、考えろ……イメージしろ……! 影魔法の原点はイメージだ……!





「いやー、それにしてもお見事だった」


「………………何がだ?」


「影魔法だよ。恐らく世界でも影魔法をメインに戦う者など極僅かだろう。何よりもキミの必殺技だ。月魔法に負けたとはいえ、進化していく魔法はまさに革命。しかし、弱点があるのは残念だ。どうにか弱点を克服せねば、キミを『鮮血』の魔法使いには出来ない。今後のボクの課題だね」


 サファイアの説明は終わって、俺を純粋に褒めてくる。褒めてくれるのは嬉しいけど、俺より強い人はいっぱいいる。さっきの月魔法だって、恐らくルビーも使えるだろうし。でも、俺の必殺技のからくりは攻撃力50%、吸収力50%と分けており、相手の魔法を吸収して攻撃力を増していく、まさに進化していく魔法だ。ここで進化の限界を決めてはいけない…………………ん、待てよ? いつも攻撃力と吸収力をバランスよくしているから必殺技が安定している。つまり、攻撃力と吸収力のバランスを上手く調節すれば、弱点を克服できるかもしれない! よし、新たな必殺技のイメージは固まった! あとは俺の覚悟のみ……行くぞ!


「………………そうか、そういうことか……」


「きひッ?」


「………………お望み通り、やってやるよ……。その弱点を克服した魔法……」


「おおっ!」


「お前を実験台としてな! 超新星〈スーパーノヴァ〉あああああああああああああああああああ!」


「なぬっ」


 俺はサファイアに弱点克服したことを伝える。サファイアは純粋に喜び、満面の笑みで俺に近づいてくるが、敵意を向けると笑みが消えた。俺は闇の魔力を開放した。ずっとサファイアが語っている間、魔力を貯めて気付かれないように極限まで隠していたスーパーノヴァ発動。そして、ヴァンパイア対策もイメージ通りに用意し始める。これが最後の大一番、俺は絶対に勝ってみせる……再び仲間と冒険するために!





「影面〈シャドウフィールド〉! 影空間〈シャドウスペース〉!」


「むっ!? な、何だ、これは!」


「いくらヴァンパイアでも、身体を影に沈められることは初めてだろ!」


「う、動けん……」


「そして……、こっちに……来ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉい!」


 俺はヴァンパイア対策としてイメージした影魔法を発動。広場全体に俺の影を広げて、サファイアが立っている部分のみ空間を開ける。サファイアは影魔法を初めて見たと言っていた。つまり、俺の影魔法の全てを知らない! 攻撃、防御が効かないなら補助魔法で攻める。変化球は影魔法の十八番だ。サファイアの身体はどんどん沈んで腰あたりで止まって抵抗されたけど、足止めには充分だ! そして、思いっきりこっちに引っ張る!


「まさか……、距離を縮めて必殺技を当てる算段か!」


「そうだ。必殺技の弱点を教えてくれてありがとう。おかげで、俺は仲間を守るためにもっと強くなれる!」


「キサマあああああああああぁぁ!」


「俺は『鮮血』の魔法使いなんかじゃない! 大切な仲間が名付けてくれた『星影』の魔法使いだ!」


「……ッ!」


 俺は迫ってくるサファイアに対してお礼を言う。サファイアは吠えているが、決して皮肉ではない。俺自身スターライトバスターについて何も知らなかった。じいちゃんに教えてもらって、氷結の魔女カシオペアに初めて使って、闘技大会でレグルスさんやクザンさんを倒して使いこなしたと思っていた。まさか、弱点があるなんて考えていなかった。でも、この魔法はまだまだ可能性がある。俺はサファイアが求める『鮮血』ではなく、仲間が求める『星影』の魔法使いだ!





「影腕〈シャドウアーム〉!」


 これから発動する魔法は未知数の威力。恐らく、2本腕では支えきれない。影腕を2本用意して4本腕になる。


「超必殺!」


 4手首を合わせて4つ手を開く。

 クリスからの警告メッセージを聞いてから2日間ずっと考えていた。俺は『星影の衣』のリーダー。少しでも強くならないといけない。世の中には俺より強い人がいっぱいいる。俺が弱いと仲間を守れない。強くなるヒントを見つけるために魔本を読み続けた。結論は今の最強魔法スターライトバスターを越える魔法が必要だった。


「スーパー……!」


 4手首を合わせたまま4つ手を右腰に構える。

 でも、無理だった。たった2日間では魔本に書いてある強そうな魔法を覚えれなかった。何よりも、今の俺ではスターライトバスターのイメージを越えられない。それにじいちゃんが教えてくれた誇りの魔法。思い入れがいっぱいある。それなら超強化すれば良い。


「スターライト……!!」


 4つ手にありったけの魔力を溜めていく。

 ダブルスターライトバスターは片手ずつ発射出来る。それを利用して4つ手に纏めていく。ここまではイメージ出来たけど、ここから先が上手くいかなかった。俺には破壊するという荒々しさが無いから。でも、ヒントになったのは月魔法ルナ。蒼いレーザーはサファイアが教えてくれた弱点すら解決するイメージそのものだった。あれはまさに俺が見てきたなかで1番威力が強い魔法!


「バスタァァァァァァァァァァァァっ!!!」


 4手首を合わせた4つ手をサファイアに向けて伸ばして、新しいスターライトバスターを放出した。

 スーパーノヴァによる肉体強化とサファイアの月魔法ルナのイメージが新たなるスターライトバスターを生み出した。純粋なパワーのみを特化。それが超星影砲〈スーパースターライトバスター〉。ミランダ! クリス! シャロン! メアリー! 仲間を守る超必殺技だああああああああああああああああああああああああああああああっ!





「いつの間にこれほどの魔力を!? しかし、無駄だよ星影くん。血雨〈ブラッディレイン〉。先程と同じように消え去れ!」


「なーめーるーなああああああああ!」


「何っ!? 消えない、だと……? どういうことだ!?」


 サファイアはスーパースターライトバスターに対して、複合魔法のブラッディレインを発射。たくさんの血の塊が飛んでくる。さっきのように必殺技を消し去るつもりだろうが、その思惑はもう通用しない。俺は予めスターライトバスターの吸収能力をわざと弱くして、その分だけ威力を高めた。本来の攻撃力50%、吸収力50%に対して、攻撃力75%で吸収力25%に調節。これは純粋なパワー対決。かつてクザンさんのライトニングセイバーで斬られた時と同じだ。スーパースターライトバスターはブラッディレインを吸収しながら弾いていく!


「これは……流石にヤバいかもね。ルナ〈月閃〉!」


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


「きひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ!」


 サファイアは俺の魔法を見て脅威と感じ取ったのか、ルナを発射。ルナは複合魔法ではないと考える。何故なら、基本の6属性ではない魔法だからだ。でも、もし違っていたら負ける。正真正銘、最後の賭け。黒の極太レーザーと蒼のレーザーが広場の中心でぶつかった。その瞬間、魔人の塔が揺れた。


「ぐううううううううううううううううう!」


「ボクを貶めるとは大したものだ! だが! どんな魔法だろうが、月魔法には敵わない! それがこの世の魔法に対するボクの導き出した結論だ!」


 蒼のレーザーが黒のレーザーを押し始める。サファイアは月魔法こそが最強だと語っているけど、聞く余裕は全く無い。身体が悲鳴をあげており、両手からは血が噴き出してきた。あまりの魔力に手が耐えられない。痛い、痛い、痛い! でも、ここで逃げたら全てが終わる! 俺の夢も、仲間の命も、そして俺を転生させてくれた闇の女神コスモス様への恩返しも!


「そ、れ、が、どうしたああああああああああああああああああああっっっ!」


「………………なっ」


「ぶ、ち、や、ぶ、れ、ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」


「馬鹿な! つ、月魔法を打ち消してくる!? そんなことは有り得ない! 月魔法はヴァンパイアにしか解けない魔法だぞ! ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!? な、何だ、ボクの身体が消えていく!? ヴァンパイアの身体を打ち消すなど……き、キミは一体……何者……なん……だ……っ……………………」


 俺は眼からも血が流れ、口の中が鉄のような味を感じながらも叫ぶ。全ての魔力を一点集中! 超必殺技が蒼のレーザーを魔法吸収どころか打ち消し始めた。サファイアは目の前で起こっている現象に頭の理解が追いついていない。俺も分からないけど、今はどうでも良い! その間にも超必殺技はサファイアに迫っており、ついに蒼のレーザーを完全に打ち消した。そのままサファイアの身体を飲み込み始める。ヴァンパイアの身体には今まで全く効いていなかったはずの魔法が効いている! サファイアはこの出来事に頭が良すぎるために混乱して理解できないまま消滅。やったぞ、俺の、勝ち、だ……!





「はあ……はあ……はあ……。どうだ、この野郎……。お前が教えてくれた、魔法の、力は……。ざまあ、みろ………………」


 手応えあり……。スーパースターライトバスターは魔人の塔の壁すら貫通。パワー不足は解決したなー、と思いながら大の字で後ろにバターんと倒れた。いつの間にかスーパーノヴァも解けていた。もう魔力はすっからかんだ。目に映るのは夜空に浮かぶ綺麗な満月。明るすぎて星を霞ませてしまうけど、月は月で嫌いじゃないよ。月だって俺の大好きな星と呼べるからね。俺が嫌いなのは星空や月を隠してしまう暗雲ぐらいだ。息を整えてゆっくり起き上がって、あいつの身体を確認。サファイアの上半身は跡形もなく吹き飛び、下半身はシャドウスペースに残ったまま。おまけにサファイアの魔力を全て吸い取った。ヴァンパイアの魔力を吸いとって大丈夫かな? それよりも急ごう。皆が心配ーーーー









「きひひひひ……これで終わったと思ったかい?」


 この声は……! チクショウ、倒しきれなかったか!









「「「「素晴らしい! 素晴らし過ぎるよ! キミは!」」」」


「なっ……」


 いつの間にか蒼い蝙蝠がたくさん飛んでいた。その全てからサファイアの声が聞こえる。これもヴァンパイアの能力なのか!? や、ヤバいぞ……。今の俺は魔力が空っぽで身体も全く動けない。


「「「「驚いたよ」」」」

「「「「この短時間で弱点を克服」」」」

「「「「素晴らしい素質」」」」

「「「「キミはボクの夢を叶えてくれる」」」」

「「「「ヴァンパイアの悲願のためにも」」」」

「「「「キミが欲しい」」」」

「「「「「「鮮血の魔法使いよ……!」」」」」」


 たくさんの蒼い蝙蝠がサファイアに変化していく。少なくとも30人以上はいるぞ。ヤバい、ヤバい、ヤバい! 頼む、魔力! 1滴でも良いから発動してくれ!





「くそっ、たれ……」


「「「「キミは合格だ。ボクの研究に役立ったもらおう。来い、グリーンキメラ!」」」」


「GYAAAAA!」


「……っ!?」


 魔力は全く出てこない……。頑張ったけど、ここまでか。俺はサファイアが求める『鮮血』の魔法使いにされるのか……。サファイアが紅い魔法陣から魔物を呼び出した。何だ、この魔物は!? 見たことない。分かるのはおぞましい魔力で、身体が震える。


「「「「このキメラは同胞のペット。あの人間を捕らえろ」」」」


「GYAAAAAAA!」


「ぐわああああああああああああああああああああああああああああ!」


「「「「やはり魔法ではない物理攻撃には弱いね。さあて、まずは人間では珍しい闇属性であるキミの身体の隅々まで解剖しようかね。血魔法の影響が出ない肉体、闇の魔力を宿す臓器、月魔法すら打ち消す影魔法。さらにはヴァンパイアの身体を消滅させる何か。他にも調べてみたいことが山ほどある。そして、調査が終わり次第にはキミをベースにした新しい魔法をたくさん造ろうではないか。ボクは誰も見たことない未知なる魔法が出来ると確信している。それが完成した時こそが、闇属性の闇魔法、影魔法、血魔法、黒魔法、さらにはボク達の月魔法すら操る史上最凶の魔法使いが誕生するね! 最弱種族の人間が全ての種族、我々ヴァンパイアすらも上回る『鮮血』の魔法使い! まさにキミが大好きなロマンがあるじゃないか! きひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ!!」」」」


 キメラと呼ばれる魔物によって、俺の身体は握りしめられて骨の音が聞こえるほど、壊され始める。俺の冒険は……ここで……終わるのか……。サファイアの勝ち誇った声が聞こえてはいるけど、もうどうでも良い。ごめんよ、ミランダ、クリス、シャロン、メアリー。これで『星影の衣』は終わりだ……。ごめんなさい、父さん、母さん、じいちゃん。いっぱい魔法を教えてくれたのに生かせなかったよ、今まで育ててくれてありがとう……。そして、コスモス様。俺を転生させてくれてありがとうございました……。スバル=ブラックスターこと佐藤昴、2回目の人生は本当に本当にとても楽しかった……………………みんな、さようなーーーーーー









「そうはさせないの。私達のリーダーはここで終わる人間じゃないの。土拳〈ランドナックル〉」


「GYAAAAAAA!?」


 誰かがキメラを殴り飛ばした。でも、この声って……。









「「「「きひっ!? 何者だ!」」」」


「助けにきたの、スバルさん!」


「ク、リス……」


 いきなり現れた謎の人物にサファイアが驚く。絶体絶命のピンチに、マヨネップ帝国にいるはずの黄色い仮面を着けた『星影の衣』の仲間クリスが現れた。

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