第4章 6 キャッスルゴーレム
「魔物のランク?」
「はい、スバル様。これから行く魔人の塔にいる魔物は、ギルドでは確認されておらず未知数なんです」
「ランク未知数か。どんな魔物なのかな」
魔人の塔へ着く前の高速馬車でメアリーから聞いた話。魔物にも冒険者と同じようにランクがあるらしい。初めて戦ったゴブリンはE級、初心者ダンジョンのウルフはD級、ペガサス山で出会ったペガサスはC級である。ちなみにヴァンパイア族は最高ランクのS級。測定不能もいるらしいけど、遥か昔なのでメアリー曰く分からないとのこと。
「こちらが、その一覧表です」
「分かりやすいね」
E級 冒険者1人
D級 冒険者3人
C級 冒険者5人
B級 冒険者10人
A級 冒険者100人
AA級 冒険者1000人
AAA級 冒険者1万人
S級 冒険者10万人
測定不能 冒険者100万人以上
この時、俺は仲間への信頼やエドガー先輩率いるパーティの戦力で何とかなると考えており、苦戦するとは思っていなかった。
「バオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォーーッ!」
「来るぞ! そっちに逃げろ!」
「でかすぎるわああああああああああああああぁぁーーっ!」
魔人の塔最上階。ドームのような巨大広場には巨大魔物キャッスルゴーレム。雄叫びと共に巨大過ぎる右手が俺達に襲いかかる。まるで隕石が落ちてきたかのような迫力に、回復したミランダが逃げ場を示す。俺達は全力疾走で動いて避けることが出来た。俺の悲鳴は恐らく全員の本音だろう。
「コラム殿から聞いた時は半信半疑だったが、我らエルフ族の神聖な領域にゴーレムが住み込んでいるとは不覚ぜよ!」
「エルフの裁きを与えてやりますわ!」
「ふーふーっ、落ち着け。僕はもうあの時の僕じゃない!」
侍ハイエルフと勘違いエルフの残念エルフ親子は俺達とは離れた場所に逃げていた。相変わらずの上から目線。うん、あっちは放置していても大丈夫そうだな。唯一心配なエドガー先輩は呼吸を整えてキャッスルゴーレムに立ち向かおうとしているね。ヘタレは完璧に克服したな、期待しているぜ。
「ミランダ、大丈夫?」
「ああ。しかし、ゴーレムの巨大さは想定外だったな」
「俺は巨大ゴーレムのプレアデスに魔力を溜める。ただ、あの巨大さになるには相当の時間がかかるから、それまで耐えてほしい」
「前衛はミランダとシャロン様、後衛は私とスバル様ですね。私の水範囲治療〈ウォーターワイドヒール〉は離れていても治療出来ます。前衛の2人は攻撃に集中してください」
「了解だ」
「……がんばる」
俺達『星影の衣』は作戦通り、前衛と後衛に分かれて戦う。俺がいかに魔力を速く込めて闘技大会で活躍した巨大シャドウゴーレムのプレアデスを作り出すかが勝負の鍵だ。ミランダのスピードとシャロンのパワー、メアリーの回復とバランスは良い。早速前衛の2人はキャッスルゴーレムの背後に回り込み、右足を狙う。
「ドラン、エルフくん達を援護しなさい」
「分かったでやんす、師匠!」
コラムさんはドランに指示してエドガー先輩達へと向かう。これで4人組が2つ出来て、俺達9人いやコラムさんを除いた8人の戦いが始まる。俺達の戦闘能力をランクに合わせるとこうなる。
スバル B級
ミランダ B級
シャロン D級
メアリー D級
エドガー C級
クレセント C級
ムサシ A級
ドラン C級
「バオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォーーッ!」
そして、巨大魔物キャッスルゴーレムは、A級ランクとメアリーさんが認定。これは街1つを1人で破壊出来る基準である。俺達はこんな化け物を倒さないといけない。魔物は1匹と聞いていただけに、心のどこかで油断していたな。反省は後にして、ひたすら手のひらサイズの魔道具ゴーレム、プレアデスに魔力を注ぎ込む。闘技大会の時は魔力が乱れていたから速く作れたけど、今は厳しい。頑張ってくれ、皆!
「せいっ! はぁっ!」
「……えいっ、えいっ、……固い」
ミランダとシャロンはキャッスルゴーレムの右足を槍とメイスで攻撃中。しかし、ゴーレムの右足は岩石であって、攻撃は砕けるというより削っている感じで、2人は効いているか実感が持てない。何せ巨大魔物の大きさは約20メートル、倒すのにどれだけ時間がかかるのか。
「スバル様、あの巨大ゴーレムは動作が遅いです。1つ1つの威力は大きいですが、次の攻撃まで10秒ほどのインターバルがあります」
「よし、念話〈テレパシー〉で皆に伝えてくれ」
「分かりました!」
メアリーが後方支援しながらキャッスルゴーレムの動きを観察していたようで、攻撃パターンに気付いた。流石、冒険者ギルドで働く実力者。頼りになるね。俺は直ぐ様皆に伝えるように指示。メアリーは元々念話を使えており、俺達より熟練でこの場にいる全員に内容が伝わっていく。
「了解した!」
「……頑張る」
ミランダとシャロンはやる気が増える。
「助言など不要! 我らエルフ族が倒すぜよ!」
「その通りですわ、お父様!」
残念エルフ親子はスルーで、自己中心の塊だ。
「はぁ、今頃になってスバルくんの気持ちが分かったよ……」
「苦労しているでやんすね……」
エドガー先輩は何故か落ち込んでおり、ドランが慰めている。
「バオオオオォォォーーッ!?」
「今だ! 全員、右足に一斉攻撃いいいいいいぃぃっ!」
メアリーの念話によって残念エルフ達除く4人が、コミュニケーションを取りながら交互に巨大ゴーレムを攻撃していた戦闘に変化が訪れる。巨大ゴーレムの右足首に亀裂が発生した! あの場所はシャロンのメイスがたくさん当てており、ミランダの槍で突いている。火属性と風属性はお互いを強くする関係だから、そのお陰かもしれない。俺はやっときたチャンスを全員に大声で叫んだ。
「……火槌矛〈ヒートメイス〉」
「任せろ、風槍〈サイクロンスピア〉!」
「命令するな! 火矢〈ヒートアロー〉!」
「やむを得ん、木刀〈アースブレード〉」
「光弾〈ライトボール〉!」
「水射〈ウォーターシュート〉!」
「バオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォーーッ!?」
6人が様々な想いを交えながら、巨大ゴーレムの右足首に闇属性を除く5属性の集中攻撃。亀裂が発生した右足首は攻撃が当たる度に大きく広がっていき、ついに砕けた。大きな穴が出来た右足首は巨体のバランスを崩して、巨大ゴーレムを頭から転げさせることに成功。しかもその影響で右足だけでなく、左足も砕けた。巨大ゴーレムの驚きが声によって伝わる。いけるぞ、皆!
「順調ですね、スバル様」
「俺も負けてられないな。ぬおおおおおおおおおおおぉぉーーっ!」
皆の頑張りに答えるためにも、さらに闇属性の魔力を魔道具ゴーレムに注ぎ込む。シャドウゴーレムのプレアデス完成までもう少しだ。
「…………………………きひひ、面白いな。ただの人間にしては中々良い闇の魔力……アイツが認めただけはあるね」
その時、俺は魔力を込めることに全神経集中していたために、背後にいたコラムさんの呟きに気付かなかった。
「バオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォーーッ」
「何だ!?」
「……身体が再生していく」
キャッスルゴーレムの落ち着いた低い声が広場に響く。頭から崩れて転がっていた巨体の上半身はいきなり浮き上がり、両足が腹から生えてきた。そこには元の見た目に戻ったキャッスルゴーレムが現れる。ミランダとシャロンも驚いているけどちょっと待て、今の現象はまさか!?
「このゴーレム…………、魔法が使えるのか?」
「スバル様、見てください。身体が少し縮んでいます」
「自分の身体の岩石を移動させて両足を作り直したのか」
器用な巨大ゴーレムだな。でも、ただの魔物がここまで魔法を使いこなせるのか。まるで自我を持っているみたいだ。メアリーの言う通り、約20メートル近くあった巨体は、半分の約10メートルほどになっている。俺達の攻撃は効いているけど、赤い1つ眼がじっと俺達を見ており、その視線に寒気を感じた。何か来る……!?
「バオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォーーッ!」
「か、身体が……」
「……重い」
「た、立てない」
「こ、これは重力魔法!?」
「きひひ、重力世界〈グラビティワールド〉か。なかなか応える」
キャッスルゴーレムが叫んだ瞬間、俺達の身体が急に重たくなった。ミランダ達と離れてサポートしている俺とメアリー、コラムさんにも影響が出ている。たしか重力魔法は土属性の魔法。さっき上半身の巨大ゴーレムが浮かんだのはこの魔法のお陰か。くそっ、シャドウゴーレムのプレアデス完成まであと少しなのに魔力が乱れる。
「バォ、バォ、バォ、バォ、バォ、バオオオオオオオォォォーーッ!」
「水盾〈ウォーターシールド〉!」
「木盾〈アースシールド〉。重力弾〈グラビティボール〉の雨でござる!」
「光壁〈ライトウォール〉! 魔法主体で攻めてきたか。フレア、僕の後ろに隠れて!」
「はい、エドガー様!」
エドガー先輩と残念エルフ親子とドランもまた、キャッスルゴーレムの重力魔法に対して苦戦している。黄土色のグラビティボールが次々と巨体の穴から繰り出されており、防御魔法で対抗。あの身体中の穴は魔法を出すためのものだったのか。エドガー先輩はドラゴニュートの大きな翼を広げて防いでいるけど皆、攻撃する暇が無い。
「バオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォーーッ!」
「でかい!」
「あれは重力隕石〈グラビティメテオ〉!? 間に合ってください、水範囲盾〈ウォーターワイドシールド〉!」
「皆、逃げろ!」
キャッスルゴーレムは雄叫びをあげながら両手の穴からグラビティボールをどんどん空中に浮かべていく。やがて、幾つものグラビティボールが1つに纏まって巨大なグラビティボールになった。その光景は『氷結』のカシオペアや『雷撃』のクザンさんを思い出す。メアリーが魔本を開いて膨大な魔力で、巨大な水のバリアを広場全体に被せた瞬間、グラビティメテオが俺達を襲った。
「「「「「「うわああああああああああああああぁぁぁぁーーー!」」」」」」
「みんなああああぁぁぁぁっ!」
皆の悲鳴とグラビティメテオによる衝撃波が広場に響く。土煙で何も見えないけど、皆は大丈夫なのか!
「シャロン、無事か?」
「…………ありがとう……」
シャロンとミランダの声だ。無事みたい。
「重いでやんす~」
「なっ!? レディに向かって失礼ですわ!」
「怒ってないで早く降りて、フレア……」
「く、苦しいぜよ……」
エドガー先輩達も無事なようだ。どうやら勘違いエルフが男3人を押し潰しているようだ。
「無事ですか、スバル様、コラム様」
「メアリー、ありがとうございます」
「きひひ、助かったよ」
俺はメアリーの水魔法によって守られていた。いや、正確には俺達全員だった。土煙が晴れて、ミランダ達やエドガー先輩達には青いバリアが覆われている。本当にすごいや、メアリー。その時、魔道具ゴーレムのプレアデスが黒く輝いた。良いタイミングだ!
「メアリー、行ってくる!」
「お気をつけて、スバル様」
俺はメアリーにコラムさんの防衛を任せて、キャッスルゴーレムとの戦場に参加。魔道具ゴーレムのプレアデスはいつでも起動可能で、ミランダ達全員を下がらせないといけないな。何せ巨大ゴーレムと巨大ゴーレムの戦いだから確実に巻き込むからだ。今の体内魔力は半分ぐらいか、まだまだ大丈夫。離れていた戦場の中心へ走ってミランダ達と合流した。
「待たせた!」
「スバル!」
「……スバルさん」
「2人とも本当にありがとう。ここから先は俺が……いや、俺達が相手する。全員、下がってくれ。影腕〈シャドウアーム〉」
ミランダ達はボロボロで傷付いている。幸い、キャッスルゴーレムは強力な重力魔法を使った反動なのか、動くことなく魔力を回復させている。俺はその隙にミランダとシャロンにお礼を言う。2人が頑張ってくれたからこそ、キャッスルゴーレムは縮小して、魔道具ゴーレムを用意出来た。俺はシャドウアームを出して右手でミランダとシャロンの身体を優しく握る。
「きゃっ!? 何様のつもりですわ、星影!」
「離せ、あれは我々エルフ族が倒すべき敵ぜよ!」
「頼むよ、スバルくん」
「助かったでやんす」
そして、左手でエドガー先輩達を握る。残念エルフ親子が抵抗しようとしているけどお構い無し。右手のミランダ達と一緒にメアリーのいる離れた隅っこへシャドウアームで持っていった。広場の中心には俺とキャッスルゴーレムのみで一騎討ち。皆が頑張ってくれた、今度は俺の番だ!
「おう。出番だぜ、プレアデス!」
「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォーーッ!」
俺が手のひらサイズの魔道具ゴーレムを地面に置くと、黒い六芒星の魔法陣が地面に刻まれる。魔道具ゴーレムが漆黒に変化して巨大化していくなか、俺はゴーレムの左肩に立つ。やがて巨大化は収まり、キャッスルゴーレムと同等の高さ10メートルになった。闘技大会より巨大化してないか、いや好都合。赤い単眼がクポーンと輝いて、俺の仲間巨大シャドウゴーレムのプレアデスが現れた。
「な、なんですわ、あれ?」
「なんと禍々しい巨大ゴーレムぜよ!」
「きひひ……す、素晴らしい……」
プレアデスを初めて見る残念エルフ達やコラムさんは驚いている。
「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォーーッ!」
「バオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォーーッ!」
プレアデスの雄叫びにキャッスルゴーレムは今までにない大きな雄叫びだ。相手も本気みたいだな。さて、始めるかキャッスルゴーレム。巨大ゴーレム対決だ!




