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第4章 2 宝探しの依頼

「シャロンの冒険者カードを作ろう」


「……ありがとう」


 満腹亭に帰った翌日。俺はシャロンを連れて冒険者ギルドに行くことを話す。冒険者から奴隷になったミランダと違って、シャロンは平民から奴隷になったため、冒険者登録をしていない。これから『星影の衣』として冒険するから必須だ。


「私は買い物をしてくる。2人ともリクエストはあるか?」


「……オムライスが食べたい」


「俺も同じ」


「分かった。楽しみにしていろ」


 ミランダは料理の食材を用意するために別行動。すっかり料理にハマっており、食べる度に美味しくなっている。いつも本当にありがとう。ミランダを見送ってと、俺とシャロンは冒険者ギルドに向かおう。野次馬に会わないように帽子を被って出発だ。俺の特徴は闇属性で黒髪だから、黒髪さえ隠しておけば良い。





「こんにちは、メアリーさん」


「こんにちは、スバル様。素敵な帽子ですね。今日はどのようなご用件ですか?」


 俺とシャロンは冒険者ギルドに無事到着した。やっぱり黒髪を隠せば、俺と分からないな。俺達の専属受付嬢になったメアリーさん。受付場所も変わって、高いランクの冒険者が集う場所になった。これだけでもB級冒険者になった実感がわくね。


「シャロンの冒険者カードを作ってください」


「……お願いします」


「分かりました。しばらくお待ちください」


 俺達の用件である冒険者カードの作成をメアリーさんに伝えた。メアリーさんが書類を用意、シャロンが書いていく。その様子を見ていると、自分が初めて冒険者登録したことを思い出した。ついこの間のことなのに懐かしいなー。シャロンは書類を書き終わり、メアリーさんが冒険者カードを用意するまで時間があるようだ。


「その間に何か依頼を探してみるか」


「……初依頼」


「そうだね、シャロンは初めてか。簡単そうな依頼があるかな?」


「……むむ」


 俺は久々に依頼掲示板を確認。たくさんの依頼書が貼ってある。闘技大会以来、何もしていなかったからね。シャロンは依頼を見ること自体初めてだから、1つ1つ確認している。俺も初心に戻って探そう。


「見つからないね。流石に高ランクの依頼ばっかりだ」


「……残念」


 シャロンには悪いけど、高ランク冒険者には高ランク冒険者用の依頼掲示板になる。今までは1日生活出来るだけの簡単な依頼ばっかりだったけど、高ランク依頼は収入が高い分、難しいものが多い。俺は高ランク冒険者になったけど、まだまだ半人前。まずはコツコツと依頼をこなそう。





「……スバルさん」


「ん?」


「この『天空の虹』って何?」


 シャロンが指差したのは額に納まっているボロボロの依頼書。そこにはヴァンパイアキング討伐達成と書かれている『天空の虹』パーティ。もう500年前の話で全員故人だけどね。そっか、シャロンの記憶は曖昧だから忘れてしましたのか。


「これはね、伝説の勇者オリオンが率いたパーティの名前だよ」


「伝説……」


 勇者オリオンが率いたパーティ『天空の虹』には、5人いたと言われている。俺が知っているのは『オリオン』『カニスマイヨス』『カニスミノル』『ジェミニ』『アウリガ』。これってどう考えても星座だよな。オリオン座、おおいぬ座、こいぬ座、ふたご座、ぎょしゃ座。ここに俺と関わりある『おうし座』が加われば冬のダイヤモンドが完成するけどね。この世界の星座は前世と違うけど、共通点があるのは調べた。んー、どうなっているんだ?


「それなら……スバルさんも勇者……」


「ゆ、勇者!?」


「……わたしを助けてくれたから」


「そっか……。ありがとう、シャロン」


「……えへへ」


 俺が唸っていると、シャロンが俺のことを勇者と言ってきた。驚いていると、嬉しい理由を答えてくれた。心が温かくなったよ。今は難しいことは忘れて、シャロンの頭を撫でることにした。シャロンはやっぱり笑顔が似合っているよ。





「スバル様、お待たせしました。こちらがシャロン様の冒険者カードになります」


「ありがとう、メアリーさん」


「……すごい」


 シャロンの冒険者カードが出来たようだ。メアリーさんから渡された冒険者カードに、シャロンが目を輝かし笑顔になっている。普段は無表情なだけに良い笑顔だ。冒険者カードは自分の魔力を流すと表示される。早速シャロンは魔力を流していた。





シャロン

性別 女性

年齢 ???歳

種族 サキュバス

出身 不明

職業 冒険者スバルの戦闘奴隷

属性 火

魔法 火

称号 サキュバスの加護





「……スバルさんのカードは?」


「見てみるか?」


「……うん」


 シャロンは俺の冒険者カードも見たいらしい。魔力を流して冒険者カードを見せた。





スバル=ブラックスター

性別 男性

年齢 15歳

種族 人間

出身 カルデア村

職業 B級冒険者

属性 闇

魔法 影

称号 闇の女神ソフィアの加護

   闇の精霊シェイドの加護

異名 星影





「色々と増えてる!?」


「……闇ばっかり。やっぱり人型の魔物?」


「勘弁してくれ……。俺は人間なんだよ……」


 俺の冒険者カードはいつの間にか更新されている。更新機能まであるのか。B級冒険者なのは分かるけど、まさか闇の精霊シェイドさんの加護があるとは。ありがたいけど、シャロンからの純粋な質問が辛い。闇属性だけど、俺は人間だよ! 何気に『星影』が冒険者ギルド公式になっている。自称からレベルアップだね。





「おっす!」


「……?」


 シャロンと冒険者カードについて会話していると、誰かが俺に話しかけてきた。シャロンは首を傾けている。それは俺も同じだった。


「星影のスバル、久しぶりでやんす」


「……誰?」


「おいらは闘技大会で闘った『水蛇』のドランでやんす!」


「………………あぁ~。闘技大会の印象が薄くて忘れていた」


「ひどいでやんす!」


 話してきたのは『水蛇』のドラン。俺が闘技大会2回戦で戦った相手だ。その時はシャロンを苦しめた坊っちゃんや、決勝戦のクザンさんの印象が大きかったから忘れていた。確か情報を素早く集めるのが得意なマーマンだったはず。それにしても何の用だろ?


「ぶひひ。弟子が世話になったようだ」


「あなたは?」


「コラム。トレジャーハンターだ」


「コラムさんはオイラの師匠でやんす!」


 ドランの後ろにいた人が俺に話しかけてきた。この人もマーマンで、特徴的な身体をしている。ぶっちゃけ、ぽっちゃり体型だ。ドランの師匠ってことは水属性なのか。それにしても、トレジャーハンターは俺も冒険者と同じくらいなりたかった職業だ。宝探しはロマンだね!


「初めまして、スバルです」


「ぶひひ。弟子から聞いたが、君は闘技大会準優勝なのか。それは心強い。実はあるダンジョンで宝箱を見つけたが、強い魔物が1匹だけ潜んでいて苦戦している。手伝ってくれないか?」


「宝箱かー、まさに男のロマン。ちなみに場所はどこですか?」


「ぶひひ。場所はランガード共和国にある。ダンジョンの名前は『魔人の塔』。ドランからの依頼として受けてくれないか?」


 コラムさんによると、宝箱があるのはランガード共和国。俺達がいるオレメロン王国は人間が中心の生活をしているけど、ランガード公国は魔族が中心の生活をしていると、聞いたことがある。詳しいことは今度メアリーさんに聞くか。魔物相手も久しぶりだ。初心者ダンジョン以来、しばらく戦っていないな。魔人の塔って名前だから、相手はゴーレム系かな?


「おいらからも、お願いでやんす」


「もちろんです。久々の遠出だ。楽しみだね、シャロン」


「……楽しみ」


 ドランの頼みも合わせて、俺はコラムさんの依頼を引き受けることにした。何より、シャロンの初依頼だからね。シャロンのためにも、楽しく自由に冒険しながら宝箱を見つけよう。こうやって考えるだけでもロマンを感じる。わくわくするぜ。





「実はもう1つ、冒険者パーティにもお願いしたでやんす。今から呼びに……」


「いつまで待たせるのですわ。わたくし達を誰だと思っている! この方はイストール家の次男、エドガー様ですわ!」


「げっ……」


「……誰?」


 ドランとコラムさんの依頼には、もう1つパーティが参加するみたい。ドランが呼びに行こうとしたら、聞き覚えのある声が聞こえてきた。ていうか、聞きたくなかったよ。確かエドガー先輩の従者っぽい勘違いエルフだ、名前は何だっけ? まぁいいか。


「そして、わたくしはイストール家の従者フレアですわ!」


「やあ、スバルくん。久しぶり。あれから入院していたらしいけど大丈夫?」


「大丈夫です、エドガー先輩。実は新しい仲間が出来ました。サキュバスのシャロンです」


「……よろしく」


「よろしくね、シャロンちゃん」


 俺は勘違いエルフを自然にスルーして、エドガー先輩に挨拶。闘技大会以来、入院していたから会っていなかった。早速シャロンを紹介。シャロンはドラゴニュートを見るのは初めてらしく、じろじろ見ている。微笑ましいな。


「き、貴様は……星影! ここで会ったが100年目、わたくしがどんな目にあったか……!」


「……ひぅ」


「フレア、うるさい。シャロンちゃんが怖がっている。僕が話しているんだから、口を閉じて下がっていろ!」


「ひゃ、ひゃぃ……」


 勘違いエルフが横から怒鳴ってくる。シャロンが怖がっているじゃないか。俺が怒ろうとしたところ、エドガー先輩が代わりに怒ってくれた。ヘタレから本当に変わったね。勘違いエルフは大人しくなった。ドラゴニュートの怒った顔は、まさにドラゴンの畏怖そのもの。


「全く変わっていないな、フレア。イストール殿、情けない娘ですまないぜよ。謝りなさい」


「も、申し訳ございませんですわ……」


 勘違いエルフの隣にいたのは、同じエルフだ。でも、雰囲気が全然違う。まるでギルドマスターのジャックさんや『賢者』のレグルスさんみたい。勘違いエルフのお偉いさんかな?


「誰?」


「ハイエルフのシリウスさんだ。フレアのお父さん。実は今まで色んな人に迷惑をかけたから『日天の剣』をしばらく休止することを考えている。最後の依頼者だよ」


「シリウス=アイゼンクと申す。拙者は『天空の虹』の一員『カニスマイヨス』の息子。見てのとおりハイエルフぜよ」


「よ、よろしくお願いします……!」


 エドガー先輩は責任を取るのか。良いことだね。それにしても、このシリウスさんってハイエルフ。まさか、あの伝説の勇者オリオンが率いたパーティ『天空の虹』の『カニスマイヨス』の息子とは驚いた! 勘違いエルフが自称英雄って戯れ言は間違ってはいなかったのか。どうでもいいけどね。でも、見てのとおりっていうか、拙者にぜよ口調は侍にしか見えん。なんか刀とか使いそう、こういうのをギャップというのかな? 氷結のカシオペアや賢者レグルスさんといい、星座関係の名前の人が多い。まあ、俺もその1人だけどね。


「今回我々エルフ族は、光の女神カオス様から魔人の塔にある秘宝に、闇が迫っているという天命を受けたぜよ」


「闇……」


 まさか俺のことじゃないだろうな。闇の女神コスモス様と違って、光の女神様はあまり知らない。カオス様っていうのか。闇と光、コスモスとカオス、対になっているね。


「秘宝は我々エルフ族が、昔から監視しているぜよ。コラム殿には我々が定期的に確認することで、特別に手に入れることを許可したぜよ」


「目的は同じか」


「スバルくん。塔に着いたら、どっちが先に秘宝を見つけるか、勝負といかないか?」


「いいね。闘技大会のリベンジだ」


 シリウスさんによると、秘宝はエルフ族にとって大切なもので、ハイエルフが出てくること自体珍しいことらしい。そのエルフ族が特例として秘宝を手に入れることを認めたって、コラムさんすごいな。そして、エドガー先輩が面白い勝負を持ち掛けてきた。宝探し競争か、これはわくわくしてきたぜ。





「ぶひひ。では、皆さん。明後日にランガード共和国へ出発します。それまでに準備しておいてください。よろしくお願いします」


「よろしくでやんす」


 ドランとコラムさんの依頼をメアリーさんに渡して、俺達は冒険者ギルドから解散した。参加するパーティは『星影の衣』と『日天の剣』。ペガサス山を思い出す面々だ。シャロンの初依頼、自由に楽しく出来るように頑張ろう。





「クリス、依頼を受けた」


《どこなの?》


「ランガード共和国にある『魔人の塔』というダンジョンだって」


 その夜、俺はミランダ達とマヨネップ帝国にいるクリスに連絡。ミニゴーレムから立体映像として現れたクリスに、今日の出来事を説明。始めは俺がB級冒険者になったことを喜んでいたけど、依頼内容を話すと口数が少なくなった。


《……本当に困ったの》


「クリス?」


「どうした?」


「……クリスさん?」


 黄色い仮面を被っていても分かるくらいクリスは、表情を暗くしている。特におかしなことは話していないはず。ミランダとシャロンも、クリスの様子がおかしいことに気付いた。


《皆、ごめんなの。しばらく連絡出来ないの……気をつけて》


「わ、分かった」


「何があったか知らないが、クリスも気をつけろよ」


「……皆、仲間」


 クリスの言葉は俺達から離れていくような感覚。立体映像を見ていても何かに苦しんでいるように見える。ミランダとシャロンが励ましている。俺も精一杯の言葉をかけた。


「クリス。どんなことがあっても、俺達はクリスの仲間だ! それだけは覚えていてほしい!」


《………………ありがとなの》


「切れたな。スバル、本当に繋がらなくなったぞ……」


 俺の言葉を最期にクリスの立体映像が消えた。ミニゴーレムもまた動かなくなった。クリスが何故苦しんでいたかは分からない。だけども、1つだけ分かった。今回の依頼は、油断してはいけない危険があるということだ。


「ミランダ、シャロン。これはクリスからの警告メッセージだと思う。考え過ぎかもしれないけど、油断は禁物だ。今から2日間で出来る限りの対策を考えるぞ!」


「ああ!」


「……うん!」


 俺達は明後日の出発までに、出来るだけの対策をミランダとシャロンと相談するのであった。

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