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第4章 1 B級冒険者スバル

「スバル様、退院おめでとうございます」


「メアリーさん、お世話になりました」


 闘技大会から2週間後。俺は魔力が底を尽き、冒険者ギルド病院で入院していたけど、ついに退院。ヴァンパイアバロンのルビーとの戦いや前世の寝たきりを思い出してしまって、病院はこりごりだよ。ずっと治療してくれたメアリーさんには頭が上がらない。ちなみに治療費は冒険者ギルドが出してくれた。伝説の勇者オリオンの子孫である兄弟対決や闇属性の俺によるおかげで、闘技大会が盛り上がったおかげらしい。俺としては新しい魔法をたくさん物真似出来たし、世間に対して実力や畏怖を示せて万々歳だけどね。


「実はスバル様にギルドマスターから大事なお話があります。お時間よろしいですか?」


「いいよ」


 ギルドマスターからの話か、何だろうな?





「おう、スバル。メアリーもご苦労」


 俺はメアリーさんと一緒に冒険者ギルドまで移動して、ギルドマスターの部屋に来た。部屋に入ると机で作業して座っているジャックさんがいて、ダンディーな雰囲気が似合っている。


「では、私は……」


「ちょい待て、メアリーにも残ってもらう」


「……? はい、分かりました」


 俺を案内してくれたメアリーさんは、受付嬢の仕事に戻ろうとしたけど、ジャックさんに呼び止められた。大事な話っていうのはメアリーさんも関係あるのかな。メアリーさんも初耳みたいで首を傾けている。ジャックさんは机にある書類を纏めて、俺達に目を向ける。


「2人とも座れや。まずはスバル、先日は大活躍だったな。闘技大会準優勝に加えて、領主の執事捕縛は大したものだ」


「ありがとうございます。闘技大会は仲間の応援が励みになりました。執事の件はシャロンが頑張ってくれたおかげです」


 ジャックさんの提案から始まった闘技大会。俺自身は参加することをあまり考えていなかったけど、今では参加して本当に良かった。シャロンという仲間も出来たしね。執事の事件は坊っちゃんを返り討ちにしたまでだ。恨まれたのは予想出来たけど、シャロンを巻き込むことは予想出来なかった。本当、シャロンがサキュバスじゃなかったら未完成の『念話』が上手く発動しなかったよ。


「そうか。それでだな、数々の評価としてお前さんを特例のB級冒険者に指定することが決まった」


「本当ですか!? ありがとうございます!」


「領主の推薦込みだ。執事の件での口止め込みだろうな」


 B級冒険者!? A級には及ばないけど普通の冒険者よりは1つ上の存在だ。だいたいの冒険者はC級止まり、理由としては余程の手柄が無いと上がらない。C級より上は、まさに己の実力がある者が集う世界。領主さんの権力込みだけど、やったぜ!


「そこでだな、メアリー。お前さんをスバル及び『星影の衣』の専属受付嬢になってもらう」


「え!?」


「光栄です。かしこまりました、ギルドマスター」


 メアリーさんが俺達の専属受付嬢になった。専属受付嬢は、冒険者ギルドがランクの高いパーティしか認めず、パーティの一員でもある仕事。今までメアリーさんとしか依頼の受付をしていたけど、これからはパーティとしても参加出来る。俺は驚いているなか、メアリーさんがあっさりと受けていた。まあ、仕事だからね。でも、嬉しいぞ!


「それからスバルの父親から手紙が来ていたぞ。ほれ」


「父さん!?」


「帰ってから読むことをオススメする。これで話は終わりだ。これからも期待しているぞ」


「ありがとうございます! 失礼します」


 ジャックさんの話はこれで終わり。B級冒険者に、メアリーさんの専属受付嬢。良いことがいっぱい。何より父さんからの手紙が来た! 父さん、母さん、元気にしているかな~。早く帰って読もうっと。俺はジャックさんとメアリーさんにお礼を言って、部屋を出た。さてと、ミランダとシャロンと一緒に満腹亭に帰ろう!





「わざわざスバル様を席から外しますか。狙いは何ですか、ギルドマスター?」


「くくく、お前さんには隠し事は出来ないな。実は国王からの命令だ」


「国王!?」


 スバル様が部屋を出たのを見届けてから、私はギルドマスターに真意を尋ねます。スバル様は喜んでいましたので気が付いておりませんでしたが、この専属受付嬢の仕事は明らかにおかしいです。スバル様には失礼ですが、冒険者登録から数ヶ月程度で専属受付嬢を付けるなど、余程の新星かギルドが警戒する相手ぐらいです。ギルドマスターに問いただすと、返ってきた答えに驚きました。確かに闘技大会はオレメロン王国全体に魔道具で中継されていましたが、まさか国王がスバル様を注目するとは驚きです!


「最初見たときは俺もびっくりしたぜ。これが書状だ、本物の判子に本人の署名」


「フォーマルハウト=フォン=オレメロン。本物ですね……」


「内容は冒険者スバルを監視して、定期的に報告せよ」


 私はギルドマスターから受け取った書類を確認します。そこにはオレメロン王国の正式な文字や印があって不正が全く無いことが理解出来ました。しかも国王しか使えない王印までありまして、私でさえ滅多に見れません。内容はスバル様の監視ですか……。


「スバル様は闇属性の人間ですからね。きっと警戒されているのでしょう」


「ああ。スバルに闘技大会を推薦した俺が言うのもおかしいが、まさか国王が絡んでくるとは予想外だ。頼むぜ、メアリー」


「分かりました。国王の件は伏せながらスバル様と相談してきます」


 スバル様が危険視されているのではなく、闇属性を警戒されていると思います。ギルドマスターから正式に私をスバル様及び『星影の衣』のパーティに入ることになりました。国王は私も予想外でしたけど、これはチャンスです。

 スバル様は見た目良し、性格良し、実力もめきめき成長して、将来性ばっちりですね。いつか冒険者の頂点であるS級を手に入れるかもしれません。S級冒険者は貴族と同じ1夫多妻が認めてられています。ふふっ、ミランダとクリスの『星影護衛計画』はもちろん私も参戦しますよ。闇属性のスバル様を狙う輩には負けません。スバル様、私の全てを受け入れてくれると信じています。





「はぁ~。確かにスバルのことは気にはかけていた。人間の闇属性など珍しいからな。国王の命令でスバルの冒険者カードを特例で調べようとしたらーーーー」


【よー、ジャック。元気にしているか? 久しぶりだな。冒険者スバルが闘技大会で活躍しただろ。おかげさんで、俺の村でもお祭り騒ぎで盛り上がっているよ。あれ、俺の息子だ。昔同じパーティだったよしみで、よろしくな】


「な・に・が、よろしくだ! こんな大事なことをしれっと手紙で寄越すな! 遅いわ! スバルが、あの(・・)ブラックスター家なんて分かるか! こりゃあ、国王が心労で倒れるぞ……胃薬、用意しておくか……」


 メアリーが去ってから、ジャックは机にある物を見て溜め息をついた。そこにはジャック宛ての、スバルの父親であるアトラスの手紙があった。それを読んだジャックがギルドマスターとは思えないほど荒れている。ごく一部しか知らないブラックスター家のことに悩ませるのであった。





「お待たせ。ミランダ、シャロン」


「お帰りスバル。さあ、満腹亭に戻ろう」


「おう。シャロンおいで」


「……うん」


 俺はミランダと新しく『星影の衣』に入ったシャロンと一緒に満腹亭へ歩いていく。マヨネップ帝国にいるクリスへの連絡は満腹亭に戻ってからにしよう。シャロンは控えめに歩いている。執事が居なくなったことで奴隷では無くなったけど、未だに慣れてないから仕方ない。


「スバル、帰ったら何をしようか?」


「これからの冒険について話したい。いつまでもデュラントの街で止まっていたくない。俺は新しい世界が見たい」


「ふふ、スバルらしい答えだな。いっそ、オレメロン王国から出るのも面白い」


「……楽しみ」


 満腹亭に着くまでの間、ミランダとシャロンとの会話が弾む。俺の目的は色んな世界を見てまわる冒険だから『星影の衣』の皆に、今後のことを相談したかった。闘技大会のおかげで、お金はたくさんあるしね! ミランダの言う通り、オレメロン王国以外の国にも行きたいな。クリスのいるマヨネップ帝国や、ランガード公国も見てみたい。





「む。スバル、少し寄り道してもいいか?」


「うん。良いけど、どうしたの?」


「あの武器屋だ。良い槍が思わず目に入ってな」


 ミランダが指さしているのは武器屋に飾られている槍だ。新品で作られているぐらいしか分からないけど、槍使いのミランダには違いが分かるのかな。値段は30万ソン!? た、高い……。


「ミランダ、もしかして欲しいのか?」


「そ、それは無い! 私にはスバルが買ってくれた槍がある」


「100ソンだけどね」


 30万ソンの槍の購入はミランダが顔を真っ赤にして否定してくれた。使っている槍はクリスから買ったかつての呪いがあった槍。あの時も優しい声が聞こえたけど、ソフィア様だったと今になって気付けた。ずっと守られてきたのか。


「……スバルさん。100ソンって?」


「実はね、この槍はーーーー」


「あの~、すみません。もしかして、星影のスバルさんですか!」


「……? はい」


「おい、皆! 星影のスバルだ!」


 シャロンが気になっているみたい。まだ新入りだからか知らないのは当たり前。ミランダの槍について説明しようとしたところで、街の人から声をかけられた。そういや、ギルドから出てからいくつか視線を感じていた。俺がスバルと答えたら、街の人はいきなり大声で周りに話し始めた。な、なんだ!?


「マジか!」

「サイン下さい!」

「決勝戦すごかったです!」

「影魔法見せて!」

「ぜひ、ウチのパーティに!」

「本当に人間ですか!」


 何故か街の人が次々と現れてパニックになった。まさか闘技大会の影響!? あれから2週間経っているから大丈夫だと思ったけど、予想外だ! サインなんか書いたことない、パーティは入らん、俺は人間だよ! ミランダとシャロンは無事か、心配だ!


「ちょっ、押さないで。ミランダ、シャロン大丈夫か!」


「おい、どさくさ紛れに触るな!」


「……苦しい」


「ちょっと!? 俺の仲間に触れるな! 2人ともしっかり掴まって! 影空間〈シャドウスペース〉!」


 ミランダとシャロンが野次馬達からちょっかいを受けている。俺自身も身動きが取れない。流石にイラっとしてきたから、ミランダとシャロンの手を掴んで影魔法を使った。俺達は建物の影に潜りこんで野次馬から逃げる。やれやれ、ひどい目にあった。


「消えた!?」

「本物の影魔法だ!」

「本当に闇属性だよ」

「さっきのダークエルフか?」

「サキュバスもいたぞ」

「マジで人型の魔物かもな」


 俺達が消えた後、野次馬達の会話が聞こえてくる。俺だけじゃなくミランダ、シャロンのことまで話している。悪意の無い好奇心ほど厄介な物は無いね。ここまで目立つとクリスの仮面商店にも良くなさそうだ。どうしよう、本気でデュラントの街、オレメロン王国から出ようかな。





「拠点が欲しいなー」


「まさか満腹亭まで来るとはな」


「……しつこい」


 俺達は満腹亭に帰ってきた。久しぶりのおばちゃんは、俺が闘技大会で準優勝したことより身体の心配をしてくれた。ありがとう、おばちゃん。その後ほのぼのしていると、どこから知ったのか野次馬達が満腹亭にまで押し掛けてきた。


「お客さんならともかく、野次馬はおばちゃんにも迷惑だよね」


「クリスとも相談だな」


 周りのお客さんにも迷惑だったし、野次馬達はお客さんじゃないから、おばちゃんが凄く怒って追い返していた。俺はおばちゃんにお礼を言ってから考える。シャロンが仲間がなって俺達のパーティは4人、ただでさえ小さい部屋が狭く感じる。旅立ちと拠点、これから実行することがいっぱいだ。


「……もっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅ、ごっくん。ごちそうさま」


「シャロンはすっかりミランダの料理が大好きになったね」


「ふふ。ここまで綺麗に食べてくれると作りがいがある」


「あ、そうだ。俺、B級冒険者になってメアリーさんが専属受付嬢になったよ」


「「……ええぇぇーーっ!?」」


 まずは腹ごしらえ。ミランダの料理の腕は日に日に磨かれており、シャロンが夢中になっている。あの小さい身体にいっぱい入ることも驚きだけどね。坊っちゃんの奴隷時はあまり食べれなかったと聞いている。先ほど聞いたことをぽつりと話した俺の一言に、ミランダとシャロンは驚いた。気持ちは分かる、俺が一番驚いたから。









「失礼する」


「いらっしゃい。って、珍しいお客様なの」


「久しぶりだな、クリスタル」


「ルビー」


 私はマヨネップ帝国で魔道具を販売しているクリス。今日も大好きなスバルさんの『星影の衣』の一員として頑張っているの。ミランダとの『星影護衛計画』が幸せ過ぎて仮面の下に笑顔になっていると、お客さんが来たの。お客さんの名前はルビー、私と同じヴァンパイア。


「そこは義姉さんと呼んでも良いの」


「…………………………任務中だ」


「相変わらず固いの」


 ルビーは私の妹と交際中。将来のイケメン義弟だけど、笑顔が少ないのが残念なの。


「ごほん。クリスタル、裏市場に居なくて探したぞ。何故、表にいる」


「裏は100年かけて調査したの。これからは表で調査するの」


「そうか……」


 ルビーとは100年振りに会ったけど、相変わらずイケメン。スバルさんと戦った時も実力を認めて逃がしたみたいで、見た目だけじゃなく中身もイケメン。スバルさんと会っていなかったら妹の彼氏とはいえ危なかったの。私が裏市場に居たのは、とある物を探しているためなの。こればっかりは大好きなスバルさんにも言えないこと。でも、裏市場では結局見つからなかったの。


「それで何の用なの?」


「サファイアが『水の魔皇石』を取りに行く。それを伝えに来ただけだ」


「分かったの。それだけのために来るなんて相変わらず律儀なの」


「我らが女王の命令だからな。他の奴にも伝えにいく。さらばだ」


 ルビーの用件は『水の魔皇石』に関する話。私が探しているのは『魔皇石』なの。魔皇石自体は稀にダンジョンとかで見つかるけど、私達が探しているのは只の『魔皇石』ではないの。それにしても、サファイアは見た目も中身も苦手なの。100年会ってないけど、なるべく関わりたくないの。ルビーは用件を伝えると、すぐに多数のコウモリに変化して去っていった。


「いよいよ始まるの、ヴァンパイアの戦いが……。でも……、スバルさん……」


 ルビーが去ってから現状を考えるの。私はヴァンパイアであり、ある目的のために頑張ってきたの。でも、最近出会ったスバルさんが私を変えた。最初は闇属性の人間として興味を覚えて、裏から支援をしていたの。でも、次第にスバルさん本人に惚れてしまったの。奴隷のミランダにも負けたくなかったの。今は『星影の衣』の一員にもなったの。見下していたダークエルフすら、今では仲間で恋のライバルなの。正直、今はとても幸せなの。ヴァンパイア悲願の宿命か、スバルさん達との暖かい日常。どちらを選ぶか本当に困ったの……。

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