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第3章 10 お祝い

「兄さん!」


「……エドガー、周りに人はいないか?」


「う、うん」


 闘技大会決勝戦が終わった直後。クザンは救護班の治療を断って選手控え室に戻っていく。様々な大会関係者が話してくるが、相づちのみ。控え室に入ると、そこにはエドガーが心配した表情で待っていた。一瞬エドガーを見たクザンはソファーに大きな身体を倒した。


「……っ」


「兄さん!?」


「……げほっ、げほっ! 今まで戦ってきた奴らで1番の強敵だった……」


 クザンが横たわる姿に驚く弟のエドガー。このような兄を見たことなかった。クザンは咳き込み、決勝戦で戦った人間スバルを思い返す。


「すごいでしょ、スバルくん。僕たちドラゴニュートには無い強さを持っているね」


「ああ……。奴は魔力切れ、俺は重体。ルールでは俺の勝ちだが、勝った気が全くしない。実戦だと、俺の敗け。……エドガーが変わるわけだ」


「スバルくんは僕の目標。産まれもった肉体に甘えていた自分が恥ずかしくなったよ」


「そうだな、俺も1から出直しだ」


 クザンはエドガーの言うことを素直に同意。ドラゴニュートは様々な種族でもトップクラス、ヴァンパイアと同等とも言われる。それが最も弱い種族の人間に追いつめられたのは事実。人間は弱いからこそ色んな知識を覚え、色んなことを挑戦している。特にスバルは闇属性という人間の中でも珍しい持ち主、闇属性の情報や知識が世間に無いからこそ、周りの魔法を全て覚えて思考して理解して吸収していた。

 エドガーはドラゴニュートの基本能力に頼りきっていた。だからこそ、氷結の魔女に敗れたり、スバルの影魔法に恐れたりしていた。その思いを兄に伝えると、同じ思いだったのかクザンも身にしみた。伝説の冒険者イストールの子孫達は新しいスタート地点に立つのであった。





「あ、が、が、が」


「坊っちゃん、しっかりしてくだされ! おのれ星影め、坊っちゃんに恥をかかせるなど不届き者が……!」


 別の選手控え室。そこにはテトラと執事が2人きり。テトラは自らの毒魔法を身体中に浴びてしまい、肉体と精神が弱っていた。救護班も毒魔法の治療は想定外で治療方法を探している。執事はテトラをこのような状態にしたスバルを怨んでおり、良からぬことを考えていた。


「……ただいま戻りました」


「ちょうど良い、サキュバス! お前を使ってやる。奴隷首輪よ、感情無き兵士に変えろ……洗脳〈パラサイトメンタル〉!」


「ひっ!? うあああぁぁぁ……! あああぁぁぁ……」


「くはははっ! 決行は深夜だ。坊っちゃん、仇は取ります。星影め、目にもの見せてくれるわ」


 シャロンは執事に命令されていた高級ステーキを買って戻ってきた。執事は赤い輪の魔道具を取り出して、いきなりシャロンの首に奴隷首輪を魔法で装着させた。突然のことに驚くシャロンは高級ステーキを地面に落として首輪を外そうとする。しかし、執事は魔法を唱えて苦しむシャロンを操ることに成功。スバルが決勝戦で病院に運ばれているのは分かっており、1番弱っている現在が狙い目だと悪そうに笑い声をあげるのであった。





「水治療〈ウォーターヒール〉……ふう。これで大丈夫ですが、絶対安静です」


 闘技大会決勝戦が終わってから3時間後、デュラントの街は夕方。救護班によって運ばれたスバルは、冒険者ギルド専用の病院で治療を受けていた。ミランダ達も一緒についてきて、ようやく安定してきたと聞いてホッと胸を撫で下ろした。クリスのミニゴーレムもまた安心したのか動かなくなった。おそらく、マヨネップ帝国にいるクリスの魔力が足りなくなったとミランダは考える。とりあえず、ミニゴーレムはベッドの近くに置いておく。


「メアリーが医師とは驚いた」


「あくまでも臨時です。そういえば、初心者ダンジョン時ミランダは気絶していましたし、スバル様もギルドに着いてから倒れましたので知らないですね。受付嬢だけでは緊急時に役立ちませんから」


「そうだったのか……」


 スバルを治療していたのは受付嬢のメアリーだった。水属性は治療魔法が全属性でトップクラスのため、医師や看護師が多い。スバルやミランダは知らなかったが、ヴァンパイアとの傷を治したのもメアリー。ミランダは親しくなる前からお世話になっていたこと、ヴァンパイアの血魔法すら治療する実力に驚く。


「魔力が自然回復するまでは、しばらくスバル様は目覚めないですね」


「そうか……。だが、私はここにいておく」


「分かりました。私は受付嬢の仕事に戻ります。おそらく、スバル様を尋ねる大勢の人々に対応することになりますから」


「ありがとう、メアリー」


 ミランダはメアリーの許可を得てスバルの側にいることにした。スバルがいつ起きても大丈夫なように側にいる。メアリーは、スバルが活躍した闘技大会の対応するために冒険者ギルドへ戻る。闇属性の人間など珍しいから野次馬もたくさん出てくるに違いない。帰ったら間違いなく大忙しだ。それを理解したミランダは改めてメアリーに頭を下げて礼。メアリーを見送った後、応援の疲れが出てきたのかスバルの横で眠った。





〈助けて……!〉


 コスモス様のもとで休んでいた俺の頭にいきなり声が聞こえた。誰?


〈……わたし、シャロン。執事に操られてスバルさんのもとに行っている……スバルさんが危ない……!〉


 あの執事め、シャロンを使って復讐に来たのか! いや、怒ってるいる場合じゃない。俺もシャロンも大ピンチだ。何か考えないと! シャロン、どうやって伝えているの?


〈……サキュバスの能力。スバルさんの夢に語りかけている……大変、スバルさんの病室に入った……!〉


 夢に!? それにこの感覚は覚えがある……修行している念話に近い! もしかしたら、念話できるかもしれない! シャロン、俺の声をミランダに送れるか?


〈う、うん……。ああ、スバルさんが! わたし、止まって……!〉


 落ち着いて。シャロン、必ず助けるから! ミランダ、聞こえてくれ!





「…………」


 深夜。満天の星空に雲がかかり始める。スバルが眠っている病室。同じようにミランダも寝ている。そこに窓から音も無く侵入してきた者がいた。目が弱っており意思の無いサキュバスのシャロン。執事の奴隷首輪によって操り人形にされて、スバルの暗殺を無理やり実行しようとしている。右手には鋭いナイフを持っており、スバルの目の前に来た。そして、ナイフを振り下ろそうとした。





〈ミランダ、起きて!〉


「な、何だ!?」


〈俺が襲われている!〉


 いきなりスバルの声が頭に聞こえた。スバルが目覚めたのかと思ったが、何やら焦った声。うとうとしていたが、目の前でナイフを持った人物がスバルを狙っていることに意識が一気に覚醒した。


「誰だ! スバルから離れろ!」


「……!」


「お前は……シャロン!?」


 私は置いてあった槍を掴み、ナイフを持った人物を凪ぎ払う。暗闇だが、ダークエルフの目は問題ない。目の前にいたのはサキュバスのシャロン。この前スバルが庇った奴隷……何故、ここに!? しかも、スバルを傷つけようとする女性には見えなかったはずだ!


〈ミランダ……シャロンは……操られ……〉


「スバル!? 聞こえなくなった……そうか、誰かに操られているのか!」


「……っ」


「させん! クリス、聞こえるか! 緊急事態だ!」


 私の頭に響いていたスバルの声が聞こえなくなっていく。何故スバルが念話出来ていたのかは置いて、目の前に集中。操られているシャロンはナイフを投げてスバルを狙ってきた。私は何とか槍でナイフを弾く。そして、置いてあるミニゴーレムに魔力を与えてクリスに連絡、奴隷首輪について詳しいのはアイツしかいない。


《なんなの、ミランダ~~。昼間に起きすぎて眠いの~~。手短にお願いなの~~》


「スバルが殺されかかっている!」


《ぶほっ!? な、ななな、何ですってーー!》


「幸い、今のところ無事だ。だが、ベッドから動かせない! 敵は奴隷首輪を着けたサキュバスで意識が無い! スバルを傷つけるような奴ではないが、奴隷首輪に操られている! どうすれば首輪を壊せるか?」


 クリスは寝ていたようだ。真夜中だから当たり前か。だが、今はクリスに合わせている状況ではない。スバルが危ないことを伝えると、慌てふためたクリスの大声が聞こえてくる。流石に立体映像を出す魔力の余裕は無いか。私は出来るだけの情報をまとめてクリスに伝える。1番聞きたいのは奴隷首輪の破壊方法だ。


《………………まさか……それって赤色の奴隷首輪なの?》


「ああ、赤色だ! 危ない!」


 クリスが何か思い出したのか、奴隷首輪について聞いてきた。私は特徴を言いながらシャロンの攻撃を防ぐ。病室の戦闘は思った以上にやりづらい!


《一時期、裏市場で話題になったことがある古代の魔道具なの! 商人情報だと金持ちが買ったと言われているの。でも、あまりの機能に国の法律で使用禁止されているの!》


「つまり、黒幕はそれなりの地位があって、なおかつスバルに恨みを持っている奴……あの坊っちゃん……いや、執事か!」


《スバルさんを狙うなんて許せないの!》


 赤い奴隷首輪は私が思った以上の魔道具だった。古代の魔道具など、ダンジョンや古代遺跡でも見つからない。ダークエルフの私でさえ初めてだ。クリスによると、シャロンを操っている犯人は金持ちである可能性が高い。私はスバルが恨まれる相手を考え、すぐに思いつく。闘技大会で毒魔法を使った坊っちゃんは治療中だから、あの執事! メアリーがクレームを出しているにも関わらず、狙ってきたのか。クリスも怒っている。


「奴隷首輪の解除方法は!」


《3つあるの。1つ目は命令者に命令を解かせること。2つ目は上級魔法クラスで破壊すること。3つ目は命令者の魔力を上回る魔力を注ぎこんで逆に支配すること》


「1つ目は不可能。2つ目は何とか出来そうか。3つ目はスバルなら出来そうだが、私ではキツいな」


 とにかく今はシャロンを止めることが1番だ。クリスに奴隷首輪の解除方法を聞きながら、シャロンの攻撃を防ぐ。ナイフが多くなってきた。危険な雰囲気が伝わってくる。一刻も早く、上級魔法で破壊する!


「……っ!」


「させるか! ……勝負っ! 風音牙〈サイクロンソニックファング〉!」


《壊れたの!》


 シャロンはナイフを大量に召喚して飛ばしてきた。1つでもスバルに当たれば良いというわけか。しかし、そうはさせない。スバルは私を裏社会の奴隷から救ってくれた。今度は私がスバルを守る番だ! 大量のナイフを槍を回転させて防ぎつつ、シャロンに飛びかかる。狙いは赤い奴隷首輪、ぎりぎりまで魔力を抑えた槍を細くして奴隷首輪のみを粉砕。

 シャロンはそのまま倒れた。窓からの日光が眩しい。夜明けか……早くメアリーに連絡したいが疲れた……。でも、スバルを守れた……本当に良かった。





「くくく。坊っちゃん、仇は取りましたよ。サキュバスが暗殺の成功、失敗しようとも犯人はサキュバス。自らが庇ったサキュバスが、自警団に捕まっていく絶望を坊っちゃんに見せてやりたかった」


 闘技大会の翌日。デュラント領主の家では執事が街を見晴らしながら坊っちゃんを思っている。本来なら坊っちゃんが闘技大会で優勝して次期領主への道筋が広がったはずだった。しかし、スバルに負けて冒険者ギルドからクレームまで来た。昨夜にスバルを襲わせたシャロンは使い捨て。また奴隷を買えばいいと考えながら、坊っちゃんの治療方法を探していた。


「ワルダーさん、お客さまです」


「何だ?」


 メイドに呼ばれた執事。今さらだが執事の名前はワルダーである。


「失礼」


「これはこれはギルドマスター様。何か御用で?」


「執事のワルダーだな。冒険者スバルの暗殺未遂および国が禁じる奴隷首輪の使用などの罪。お前を連行する」


 ギルドマスターのジャックがデュラント領主の家を訪れていた。闘技大会でスバルの魔法に驚いていた時と全く違う真剣な表情の眼差し。現れたワルダーに一言挨拶してから、ある書類を取り出して突きつける。それは冒険者ギルドが調べ上げた執事ワルダーへの逮捕状だった。


「はて、何の話ですか」


「とぼけても無駄だ。お前が操っていた者は無事でお前を告発。これが証拠の首輪で、お前の魔力と一致すれば決まりだ。ついでに『禁呪』の毒魔法についても話してもらおうか。観念することだな」


「ば、馬鹿なっ!」


 ワルダーは逮捕状を見ても表情を変えることなく冷静。何故ならサキュバスにかけた奴隷首輪は簡単に外せない仕組みだと自負していた。しかし、ジャックはワルダーの企みをシャロンから聞くことに成功。壊れた赤い奴隷首輪を取り出して、魔力の検査を確かめさせる。魔道具は使用者の魔力が残留していることが多い。まさかの証拠に、ワルダーはその場に崩れ落ちる。こうして、執事の暴走はギルドによって終演を迎えるのであった。





「調子はどうだ、スバル? メアリーもご苦労さん」


「……お邪魔します」


「ジャックさん。シャロン!」


「順調に回復していますよ」


 闘技大会から1週間後、相変わらずの病室。メアリーさんが毎日治療してくれている。ようやく自力で動けるようになった俺のもとへ、ジャックさんとシャロンが現れた。シャロンは冒険者ギルドと協力して執事を捕まえることに成功したらしい。良かった、良かった。


「用件が2つある。まずは闘技大会準優勝のスバルには、賞金100万ソンが贈られる。受け取れ!」


「100万ソン!?」


「見たことないお金の量だな」


《すごいの、スバルさん!》


 俺は仲間を守ることしか考えていなかったから、賞品のことをすっかり忘れていた。優勝はA級冒険者の資格とお金で、準優勝はお金のみだった。ジャックさんはスーツケースのような物を魔法で取り出して中身を見せる。そこにはたくさんのお金が入っていた。これ全部俺達のお金!? ミランダとクリスも一緒に驚く。1年間何もしなくても生活出来る金額だ!


「もう1つはシャロンについて。本人からの願いだ」


「……スバルさん、本当にありがとうございました……。この恩を返したいので……わたしを……仲間にしてください……」


「ええ!?」


 シャロンが仲間に!? お金と同じくらい驚いた。何でいきなりそんな話になったの!? そしたらジャックさんが説明してくれた。


「シャロンは現状危うい立場でな。領主関係者が悪事を起こしたことは、デュラントの街に悪影響を与えかねない。公表はしていないが、裏社会は気付いているはず。被害者であり奴隷のシャロンが1番、裏社会から狙われるってことだ」


「何より、執事の洗脳魔法によって、シャロン様の記憶がどうやら曖昧になっております。性格もより子どもに近い状態です。記憶喪失までは悪化しなかったのが幸いです」


「……何でもやります、だから……」


「わ、分かったから土下座は止めて!」


 今のシャロンは俺達と同じくらい似た境遇。珍しい人間や魔族は裏社会から狙われやすい。俺が闘技大会に出た理由も俺達のパーティ『星影の衣』を悪意を持った奴らに畏怖を示すためだった。しかも記憶喪失!? あの執事め、絶対に許さないぞ。重い罪になっていることを願おう。そのシャロンは何と土下座をした。この世界にも土下座ってあるんだ。もしかして、この世界にも侍や忍者がいるのかな? とにかく、シャロンが仲間になった。


《メアリーに続いて、また女なの! ミランダ、ライバルが増えて困らないの!》


「…………ああ、そうだな」


《ミランダ?》


「…………うん? すまない、クリス。少し考え事をしていた。ちょっと聞いてほしい。実はな……」


《分かったの……ふむふむ、言われてみれば……》


 クリスとミランダは、シャロンと俺を見ながら、こそこそと話し合っている。やっぱり2人と相談してからシャロンの仲間入りを決めたほうが良かったかも。久しぶりの反省だ。





「賞金100万ソンに、シャロンが仲間入り! めでたいことがいっぱい。早速、宴だ!」


「スバル、料理は任せろ! ……クリス、良いな?」


《宴は大好きなの! スバルさんが動けない1週間、この時を待ってたの! ……大賛成なの》


 俺は良いことがあったことに嬉しくなって宴を宣言。お金はいっぱいあるから1回くらい美味しい食べ物をいっぱい食べよう! ミランダは既に買い出ししていた食材を用意しており、クリスはいつの間にか出していたジョッキをたくさん持ってくる。ミニゴーレム、本当に便利だね。2人とも俺が動けるまで宴の準備をしていたのか。


「スバル様、病室ではお静かに……」


「ほら、メアリーさんも、シャロンも一緒に!」


「はぁ、仕方ないですね……。特別ですよ」


「う、うん……!」


 メアリーさんが注意してくれるけど、テンションが上がっている俺は止まらない。ジョッキを渡してビールを注いであげる。俺はビールが苦手だからジュースだけどね。どんちゃん騒ぎになってくる雰囲気にメアリーさんは諦めたみたいで、シャロンにもジョッキを渡して参加してくれた。ミランダの料理が次々と出てくる、美味しそうだ!


「では、ギルドマスターの俺が代表して。スバル、改めて闘技大会準優勝おめでとさん! シャロンは『星影の衣』仲間入りおめでとさん! 乾杯!」


「「「《「かんぱーーーーい!」》」」」


 乾杯の音頭はジャックさんがしてくれた。ギルドマスター直々なんてありがたいね。俺、ミランダ、クリス、メアリーさん、シャロン。皆で乾杯! 冒険者ギルドの病院で、食って飲んで騒いで賑やか。宴の様子を見に来た患者や医者さんも巻き込んで、どんちゃん騒ぎが止まらない。食材が尽きるまで続いた宴はすごく楽しかった!





「良いお湯だ~」


 宴が終わっての1週間ぶりのお風呂。皆、宴で気持ちよさそうに寝ている。まさか、ギルドの病院にこんな広いお風呂があるとは思わなかった。窓の外には満天の星空が見える。極楽、極楽。やっぱりお風呂は良いね、前世でもあまり体験出来なかったから人一倍まったりしたい。


「は、入るぞ、スバル」


「へ?」


「よいしょ」


 のんびりしていると、ミランダが入ってきた。しかも、タオル1枚!? 俺はすぐにミランダから目を離した。どんちゃん騒ぎで寝ていたはずじゃ!


「ミランダ、何やっているの!?」


「改めて、闘技大会準優勝おめでとう。大会前に言っていた『ご褒美』だ、背中を洗いに来た」


「恥ずかしいよ」


 俺はミランダに背を向けながら聞く。そのミランダは身体をさっと洗って隣に浸かってきた。顔が真っ赤になるよー。これが『ご褒美』、そういえば大会前に言っていたね。嬉しいけど、恥ずかしい。


「私やクリスがこんなにアピールしているのに、相変わらず答えてくれないな」


「ご、ごめんね」


 俺はミランダに負けて背中を洗ってもらうことにした。まだ身体は動かしにくいのもあると言い訳。お風呂から上がった時に見てしまったけど、ミランダの褐色肌にむちむちな身体はすごかった。背中を洗ってもらいながら、理性を保つのがやっとだ。色々な意味で苦しんでいると、ミランダが話しかけてきた。俺が避けている恋愛話。ミランダとクリスが俺に好意を持っているのは分かっている。でも、謝ることしか出来ない。


「謝ることは無い。スバルが恋愛より冒険がしたいことは分かっている。そんな自由なスバルが私は大好きだ。だからこそ、いつか必ず振り向かせてやる」


「ミランダ……」


「今は奴隷と主人でも満足だしな」


「ありがとう……」


 そんな俺の気持ちはミランダも分かっている。しかも理解した上で堂々と愛の告白をしてくれた。男前だね、俺もミランダが好きだよ。でも、クリスも好きだから困ってしまう。せっかく仲間になったのに、仲の良い2人が喧嘩になってしまうことが怖い。ヘタレな考えだけど、俺は皆が仲良くて冒険できたら良いと思っている。流石に恥ずかしくて言えないけどね。


「シャロンが仲間になって考えていたことがある」


「ん?」


「今回の暗殺、私1人では無理だった。魔道具に詳しいクリス、治療魔法が得意なメアリー。改めて感じたが、スバルの闇属性に関する危険性は私1人では対応出来ない。だから、クリスと相談して皆で平等にスバルを愛することに決めた! 女が2、3人増えても問題無い!」


「ぶはっ!? 何、決めちゃっているの!」


 ミランダの爆弾発言に驚く。さっきの俺の気持ち返して! これじゃあ悩んでいた意味無くなったよ。いつの間にかミランダとクリスが組んじゃった。俺の意志は無いの!? これっていわゆるハーレム状態、しかも皆が決めちゃった。どうすれば良いの! 俺、前世も含めて恋愛話に頼れる人がいないよー! 助けて、コスモス様ぁぁぁっ!


「名付けて『星影護衛計画』だ! クリスも喜んで賛成してくれた。今のところ、私にクリス、そしてメアリーも怪しいな。シャロンもこれからだろう。ふふふ……モテモテだな、スバル」


「嬉しいけど、恥ずかしいよ……」


 外堀は埋まっていた。まさかクリスも同意するなんて。しかも、俺が冒険者になって関わってきた女性ばかりが好意を持ってくれているのか。俺の顔は真っ赤を通り越して真っ白になっていると思う。ミランダが背中から抱き着いて、むちむちの胸が伝わってくる。理性が崩れていくよ。


「もちろん、こんな計画はノリで決めたわけではない。スバルは私達を守るため、闘技大会に参加したことが本当に嬉しかった。皆、スバルが大好きだ。ならば、私達はスバルを守るために冒険していこう!」


「ありがとう……。これからもよろしくね、ミランダ」


「よろしく、スバル」


 ミランダの覚悟を決めた真剣な言葉は理性を戻した。俺とミランダ達の関係は恋愛を通り越して、お互いを支えて守りあうこと。夢の冒険は様々な敵が現れるだろう。それらをぶっ飛ばしていくだけだ! 俺は改めてミランダに頭を下げた。再びお風呂に浸かって、窓の外にある満天の星空が見える。星空を眺めていると、こつんと肩にミランダが顔を乗せてくる。告白の返事はクリスと再会した時にしよう。しばらく冒険したら責任とらないとなー、と思いながら満天の星空を改めて見上げるのであった。





星影(ほしかげ)(ころも)

リーダー  スバル

副リーダー ミランダ

臨時    クリス

仲間    シャロン

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