第3章 9 決勝戦 雷撃のクザン
【決勝戦であります!】
【いよいよか。今年のデュランドの街で1番強い奴が決定する】
【まず出てきたのは全ての試合を圧倒したドラゴニュート。伝説の勇者オリオン=フォン=イストールの子孫にして、オレメロン王国騎士団第5隊長『雷撃』クザン=フォン=イストール選手!】
【続いて出てきたのは初出場ながらにして、決勝戦まで来たダークホース。闇属性の人間であり、数々の試合で我々を驚かせた冒険者『星影』スバル選手!】
ついに闘技大会決勝。決勝で戦うと約束していたエドガー先輩は、兄であるクザンさんに敗北していた。お互いドラゴニュートの能力を出して戦っていたらしい。エドガー先輩と戦えないことは残念だったけど、今は決勝戦に集中しよう。幸い、坊っちゃんが失格のおかげで準決勝が短かったため、思っていたより魔力の消費が少なかった。俺はレフトさんの実況に合わせてフィールドに出る。コロシアムの大歓声が身体に伝わってくる。でも、それ以上に目の前にいる相手からの魔力が上回っている。この人がクザンさん!
「お前が弟の言っていた男か」
「初めまして。俺はエドガー先輩と……」
「やはり愚弟か。少しはマシになったと思えば、こんな得体の知れぬ人間と知り合うとはな。イストール家の恥め」
「……っ」
クザンさんは俺を知っていた。弟であるエドガー先輩が俺のことを話したのかと思ったけど、いきなり愚弟宣言。俺を悪く言うのはともかく、エドガー先輩を悪く言うのは驚きを隠せない。今まで会ったこと無いタイプだ。何だかイライラしてきたぞ。
【試合開始!】
「お前は我が国にとって危険人物だ。闇属性の人間など、マヨネップ帝国やランガード共和国から良からぬ人間を招いてしまう」
「言いたいことはそれだけか! 影連弾〈シャドウボール・シックス〉!」
「ふっ」
レフトさんの合図で決勝戦の試合が始まる。俺は魔力を貯めて集中しようとしているけど、クザンさんは相変わらず痛いところを言ってくる。正しいから余計に腹が立つ。エドガー先輩の兄さんといえど、容赦しない! 俺はいきなりシャドウボール・シックスを作ってクザンさんに放つ。だけど、クザンさんは腰にある剣を抜くと、シャドウボールを次々と斬っていく。
「マジか……」
「それだけだ。お前は2度と表の世界に出れぬよう再起不能にする。民衆も1ヶ月ほど経てば忘れるだろう」
俺は渾身のシャドウボールが斬られたことに驚きを隠せない。今までヴァンパイアのルビー、氷結の魔女カシオペア、賢者シリウスさん相手に戦ってきてくれた魔法。それが全く通じないのは初めてだった。クザンさんは剣を納して再び俺に嫌なことを話してくる。実力は相手のほうが上だけど、これだけ言われて黙っていられるか!
「俺は命令や支配されることが大っ嫌いなんだよ! 影分身〈シャドウクローン〉!」
「無駄だ。雷矢〈サンダーアロー〉」
「ぐわあ!」「どわあ!」「ぎゃあ!」「だああ!」「がああ!」「ぐはあ!」
「一撃……!?」
俺は久しぶりに頭に血が登ることを感じながらシャドウクローンを用意。影から現れた6人の俺がクザンさんに向かって走るが、サンダーアローによって撃ち抜かれていく。6人の俺の悲鳴を聞きながら考えてしまう。この人、マジで強い……!
「雷転〈サンダードライブ〉」
「はや……っああ!」
「ほう。これを初見で防いだのは、お前で2人目だ。愚弟よりマシか」
「先輩を馬鹿にするな……!」
クザンさんが剣を抜くと同時に高速移動。次の瞬間、俺の目の前にいて剣先が心臓に迫っていた。考えるより先に足が動いて横っ飛び、ぎりぎり回避できた。雷魔法は全魔法で1番速いとされるから避けたのは奇跡。少し驚いたクザンさんはエドガー先輩のことも話してくる。本当に許せない!
「しぶとい。お前に勝ち目が無いのは分かっているはずだ」
「勝手に決めるな!」
「ならば格の違いを見せよう。武装魔法、天竜突破〈ドラゴンブレイク〉」
「な、何だ!?」
クザンさんは俺が雷魔法をぎりぎりで避けたことを良く思っていない。しかも勝ったつもりでいる。確かに強いけど、まだ試合は終わってない! そんな俺に対して、クザンさんは魔力を身体から放出して緑の魔法陣を空中に作り出した。何だ、この魔法は!? 俺が戸惑っている間にも緑の魔法陣は大きくなっていく。そして、空中にあった緑の巨大魔法陣を頭から通り越したクザンさんはドラゴンに変身した。あまりの魔力に地面に魔法陣の跡が出来るほどだ。まさか、さっき以上に強くなったのか……!?
【出たぁぁぁぁぁぁっ! 準決勝でエドガー選手を倒した魔法! クザン選手の武装魔法であります!】
【しかも、独自魔法。クザンしか使えない魔法だ】
「ドラゴン……」
「影は影らしく光の下に這いつくばれ」
クザンさんの魔法の正体はレフトさんとジャックさんの実況で分かった。独特魔法は魔本にすら載っていない世界で1つだけの魔法。じいちゃんが昔に話していたから分かったけど、何も分からなかったら何が起こったことすら分からない。クザンさんの独特魔法はドラゴンに変身するみたいで、大きさは変わらないけど魔力が違い過ぎる! 俺が思わず後退りしてしまうなか、クザンさんが俺を睨み付けた。く、来る……!
「消えっ……」
「雷爪〈サンダークロー〉」
「があああああああぁぁぁっ!?」
俺は今持てる最大の警戒をしていた。そんな俺を嘲笑うかのように目の前にドラゴンの爪が目に映った。次の瞬間、俺は3本の爪に斬られて感電。激痛と痺れが身体中を襲う。意識が飛んで行ってしまいそうだ。嘘だろ、こんな威力……勝てない……、やられる……。
「うわあああああぁぁぁ! 影衣〈シャドウスタイル〉!」
「錯乱したか。そろそろ終わりだな」
俺はもう何も考える余裕が無かった。ただ、目の前のドラゴンを吹き飛ばすことしか本能が告げている。貯めていた全ての魔力を必殺技に注ぎこんでいた。シャドウスタイルで足を固定、左手で右手首を掴み、右掌に全ての魔力を集めていく。クザンさんが何かを言っているが、もう頭が理解していない。目の前の驚異を俺の必殺技で消す……消えろ!
「いけええええぇぇぇ! 星影砲〈スターライトバスター〉!」
「その魔法は強い。だが、上には上がある。疾風迅雷〈サイクロンサンダーボルト〉」
【あれはクザンの複合魔法!】
【影と雷の魔法がぶつかり合っております! あまりの魔力にコロシアムが揺れているであります! 結界班、頑張ってください! 近年見られぬ大決戦であります!】
「吹き飛べええええええええええぇっ!」
俺は全力全開のスターライトバスターを右掌から解き放った。黒い流星がクザンさんに迫るが、全く恐れていない。風と雷の魔力が口に溜まり、ドラゴンブレスが発射。緑の雷が黒い流星に直撃、その衝撃でコロシアムが揺れる。レフトさん達も必死に実況しており、観客を守る結界魔法をしている結界班も必死。そんな周りに気付かない俺は、ただスターライトバスターを撃ち続けた。そして、コロシアムが真っ白になり衝撃を受けた。
「ふん、まずまずだな」
「はぁ……はぁ……っ…………がはっ!」
【クザン選手が立っているであります!】
俺はいつの間にか吹き飛ばされて倒れていた。シャドウスタイルの固定も無かったかのように地面から抜けている。最後の瞬間に見たのは緑の雷、スターライトバスターが負けるなんて思っていなかった。口から血が出て、手が真っ赤だ。クザンさんは全く無傷。駄目だ、心が折れた……。じいちゃん、必殺技を破られてごめん……。父さん、修行不足でごめん……。母さん、身体をボロボロにしてごめん……。コスモス様、ごめんなさい……。
「雷撃!」「雷撃!」「雷撃!」「雷撃!」「雷撃!」
【コロシアムからは雷撃コールであります! やはり、勇者が最強なら子孫もまた最強なのか!】
コロシアムが盛り上がっているけど、倒れている俺の耳には何も聞こえていない。俺は消されるのか……。この世界でようやく手に入れた自由は無くなる。結局、ここでも誰にも知られないまま消えていくのか……。俺は何のために産まれ……。
「スバル、立てーーっ!」
ミランダ……!?
《スバルさんは、こんなところで倒れる人じゃないの!》
クリス……!
「スバル様、しっかりしてください!」
メアリーさん……。
「「《がんばれーーっ!》」」
聞こえる……。俺を呼ぶ声が……。そうだ、俺には……仲間が……いた。この世界で、いや前世からの初めて……こんな俺を慕ってくれる仲間……!
「が、んば、る……っ」
「ほう」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……っ」
俺は影を杖代わりにして無理矢理立ち上がる。クザンさんは小さく驚くだけ。呼吸が荒い……せめて一撃は与えたい。俺が少しでも戦ったことを仲間のためにも残したい。前世の名言……諦めたら、そこで試合終了……! 諦めて、たまるか……。
「立ち上がるか。ここまで勝ち上がった褒美だ。敬意を持って我が雷剣で斬らせてもらう。両足を失えば、2度と外に出ることは無い」
「……っ!?」
「さらばだ、闇属性の人間」
両足を失う? また白いベットで寝たきりの生活。クザンさんの剣が迫ってくる。それだけは嫌だ! でも、このまま何も出来ずに負ける。怖い、怖い、怖い! それだけはダメだ。俺だけじゃない! ミランダに、クリスに、メアリーさんに悪意が行く! 俺は何のためにここにいる! 仲間を守るためだろうが、スバル=ブラックスター!
(畏怖を示せ)
畏怖。ジャックさんが言ってた。でも、畏怖ってどうすれば。俺が怖がられたのは確か……勘違いエルフを閉じこめた時、巨大ゴーレムのプレアデスを出した時か。でも、今の俺にプレアデスを出せるほどの魔力は無い。魔力は微塵だけど、やるしかない。ここが勝負だ……!
「あああぁぁぁ! 影腕〈シャドウアーム〉!」
「自分を投げ飛ばした? 血迷ったか」
「ここだ……。うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
「何?」
俺は俺自身を影を使って投げ飛ばした。クザンさんの剣は避けて、ある場所に着地。再び無理矢理立ち上がって魔力を地面に注ぐ。身体から悲鳴が上がる。魔力がわずかなら振り絞れ! 普段抑えている闇の魔力。感情が高ぶると無意識に溢れ出ていた魔力。ならば、思いっきり自分の意志で魔力を解放してみたらどうなるか……! もう心を折れたりするもんか!
【闇の魔力がスバル選手の身体からどんどん放出されているであります!】
【あそこは確か、クザンの巨大魔法陣の跡が……まさか!】
【ジャック様?】
【あいつ、クザンに対抗するために、ありったけの魔力を練ってやがる。武装魔法を生み出す気だ!】
その、まさかだ! このまま魔力を振り絞ってもクザンさんには勝てない。俺自身が変わる必要がある。そう、俺もクザンさんのような進化をするしかない! この地面に刻まれた魔法陣を利用して、今ここで俺はパワーアップする!
「無駄だ。俺の武装魔法を真似るなど出来ない。何故ならーー」
「ぐわあああああああああっ!」
「俺の魔法は独自魔法。俺にしか発動しない。それが世界の常識であり事実。お前の魔法は不可能だ」
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
魔法陣が俺を拒んでいるのか! 只でさえ辛い身体に激痛が走る。だけど……。
「へっ」
「……?」
「不可能という言葉は、初めて影魔法を使った時に忘れたよ! うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
こんなに追いつめられているのに思わず笑顔になる。今でも覚えている。父さんのサイクロンボールに憧れて、じいちゃんに教わって出来たシャドウボール。それを掌から発射した感動。生まれて初めての影魔法。地球ではテレビや小説でしか無かった。魔法は不可能を可能にする! 俺の想いに応えてくれ! 闇の魔力、影の魔法!
『面白そうやな。コスモス様、許してあげてもええんちゃう?』
『許すも何も、私は何事も一生懸命なスバルさんの願いなら叶えてあげますよ。さあ、新しい力を見せてあげなさい。あなたが人間として自由に冒険出来るように転生したブラックスター家の根源を!』
スバルを暖かく見守る闇の精霊シェイドと闇の女神コスモスの会話が世界のどこかであった。
「ま、まさか……っ」
「いくぞおおおおおおっ! 武装魔法! スゥゥゥゥパァァァァァ! ノォヴァァァァァァァァ!」
自然と頭に浮かんだ超新星〈スーパーノヴァ〉。フィールドに注いだ闇の魔力が、クザンさんが刻んだ巨大魔法陣の跡を元に創られていく。それは人が1人通り抜けれるような小さな黒い魔法陣に変化。黒い魔法陣が俺の正面に現れて後退、俺を通過していく。シャドウスタイルと同じように影が身体に纏って身体が黒くなる。俺の名前の由来であるプレアデス星団の6つ星が、両肩・両腰・両膝に現れる。頭には2本の角が出てきた、これは牡牛座だね。
俺は超新星〈スーパーノヴァ〉によってパワーアップした。クザンさんのようなカッコいいドラゴンではない。まるでファンタジーに出てくるミノタウロスや特撮に出てくる牛の怪人みたいだ。畏怖を示すにはちょうど良い姿かな。父さんが言っていたブラックスター家の誇りである『ノヴァ』を名前にした魔法に相応しいね。それにしても、気持ちがとても軽い。何故だ?
「馬鹿な……武装魔法だと……」
【ジャックさん、あれが影の武装魔法でありますか?】
【いや、クザンと同じ独自魔法ではない。ところどころが違っている。俺もまだ理解できないが、スバルが復活したのは事実だ。……………………それにしてもあの魔力、まさかな】
クザンさんが初めて驚いた表情を見せた。その表情を見れただけでも良い。だけど、今からもっと驚かせてやる! 本当の戦いはこれからだ!
「そのような姿、所詮は真似事! 俺の武装魔法に迫る訳が無い。雷矢〈サンダーアロー〉」
「……っ!」
「なっ!? 雷魔法を吸収するだと……」
クザンさんがドラゴンの爪を模した3本の矢を放ってきた。シャドウクローンを倒した時より圧倒的に速い。俺はとっさのことで回避することが出来ず、サンダーアローが身体中に突き刺さる。やられた、と思ったけどサンダーアローが俺の身体に吸収されていった。うん……痛みは無い! しかも!
「いける! うおおおおおおおおっ!」
「何!? はやーーーー」
「さっきまでと同じと思うな、影蹴り〈シャドウキック〉!」
「ぐわあぁぁぁっ!」
俺はサンダーアローを吸収して、その魔力を自分の魔力に変化していた。まるで必殺技のスターライトバスターだ。周りの力を自分の力に出来る。まさに影魔法の基本だ! 今まで生きてきたなかで1番の速さでフィールドを走り、クザンさんをシャドウキックでおもいっきり真上に蹴り飛ばした。気持ちだけでなく、身体も軽い!
「影連弾〈シャドウボール・シックス〉!」
「ぐわあああぁぁぁっ!」
「俺は自由に生きる! 仲間を守る! 強い相手なら、さらに強くなるだけだ! 俺は戦う、俺を認めてくれた大切な仲間のために!」
「くっ! 雷盾〈サンダーシールド〉!」
「オラァ!」
俺は真上に飛んでいくクザンさんに向けてパワーアップしたシャドウボールを両手で撃ちまくる。何故か分からないけど、魔力がどんどん溢れ出る。クザンさんが初めて防御魔法を出してきたなら攻撃を緩めるな、俺の覚悟をクザンさんに思い知らせる! 俺は仲間を守る! そして自由に冒険するんだ!
「まさか……お前は仲間を護るためだけに参加したのか?」
「当たり前だ! 俺は闇属性、色んな悪意を引き寄せる。だけど、そんな俺をリーダーと認めてくれた仲間が出来た。ならば、その大切な仲間を守るのが俺の役目だ!」
「……っ!」
俺は叫ぶ。ミランダ、クリス、メアリーさん、そしてシャロン。俺を認めて応援してくれる皆のためにも……勝つ!
「どうだ! これでも真似事と言えるか!」
「……先程までの無礼を詫びよう。改めて、貴公の名を述べてほしい」
「俺の名前はスバル! 大切な仲間が名付けてくれた『星影』の魔法使いだ!」
「クザン=フォン=イストールだ、参る!」
俺はクザンさんに名乗る。そして、初めて『星影』を叫ぶ! ここからが俺のスタートだ。クザンさんも名乗ってくれて雷魔法を構えて空中から迫ってくる。行くぞ、影魔法で迎え撃つ!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
「はああああああああああああああああああっ!」
俺とクザンさんの戦いはフィールド全体を使って暴れ回る。雷と影の魔法が次々と飛び回り、コロシアムを震わせる。楽しくなってきたぜ!
【す、すごい……】
【ああ……】
「星影!」「星影!」「星影!」「星影!」「星影!」
「雷撃!」「雷撃!」「雷撃!」「雷撃!」「雷撃!」
「スバル!」《スバルさん!》「スバル様!」
レフトとジャックが実況を忘れるほどの戦い。コロシアムの観客達も最高の試合にコールが巻き起こる。スバルとクザンの活気が観客達を一体化していく。そのなかでミランダ、クリス、メアリーは誰よりもスバルを応援する。
「とびっきりの魔法、やってやるぜ!」
「受けて立つ!」
「ひっさああああああああああああああああああぁぁぁつ!」
俺とクザンさんはお互いに距離をとって止まる。お互い必殺技を出すのは分かっている。俺は雄叫びを上げて、闇の魔力を爆発的に貯め始める。あまりの魔力にフィールドが割れていく。
【っ! 結界班、客を護れ!】
【お客様、避難してください! 結界班、急いでください! あれは危険であります!】
「「「3重結界! 光鉄壁〈ライトハイパーウォール〉!」」」
レフトさんとジャックさんが夢から覚めたように慌て始める。俺とクザンさんの魔力がびりびりとコロシアムに伝わっていく。観客を守る結界班ドラゴニュート達も気合いを込めて結界魔法を作りあげた。その瞬間が合図かのように、俺とクザンさんは同時に必殺技を発動。
「スタァァァライトォ! バスタァァァァァァ!!」
「疾風迅雷〈サイクロンサンダーボルト〉!」
黒い流星と緑の雷が衝突した!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
「ぬうううううううううううううううううううううううううううううううううっ!」
俺は必殺技の星影砲〈スターライトバスター〉を発射。今までのシャドウスタイルで足を固定する必要も無い。武装魔法スーパーノヴァは俺自身の身体が強化されているからだ。左手で右手首を支えていない。クザンさんも風と雷が合わさった必殺技で対抗している。でも、さっきと違って負けていない! 俺のスターライトバスターは消えていない、本当の力を見せてやれ!
「飲おおおおおおぉぉーーみいいいぃぃーー込おおおおおおーーめえええええええええっ!」
「先程より強い……!? しかも私の魔法を吸収して強大化している! ならば……闇を斬り裂け、雷鳴剣〈ライトニングセイバー〉!」
黒い流星は緑の雷を吸収し始める。吸収したことで自らの力となって大きくなる。まさに俺が他属性の魔法を真似て強くなるのと同じ。スターライトバスターは俺そのもの。クザンさんは押されていることに気付き飛翔しながらドラゴンブレスを吐く。ある程度空中に行ってブレスを止めて切り換え、腰にある剣を構える。下から迫る黒い流星に対して、まるで雷が落ちたかのような剣を振り下ろす。
「はああああああああああああああああっ!」
【クザン選手、影魔法を真っ二つに斬っております! やはり、クザン選手の勝利か!】
「負けてたまるかああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁっ!」
「!?」
スターライトバスターが雷に斬られていく! 魔法を吸収する速度より純粋にパワーが強い。でも、さっきよりショックは無い。クザンさんが強いのは身を持って実感している。ならば、限界を超えていくまでだ!
「ダァブルゥゥゥ! スタァァァライトォ! バスタァァァァァァ!」
俺は両手を突き出す。今まで右腕を支えていた左手からもスターライトバスターを発射。名付けて、双星影砲〈ダブルスターライトバスター〉。黒い流星が青い空に2つ流れていく。クザンさんはもう1つのスターライトバスターは予想していなかったのか、斬り裂きながら直撃した。
「ぐわあああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁっ!」
俺はクザンさんの悲鳴を聞きながらスターライトバスターを放出し続けていると、眼がぼやけて意識が霞み始めた。あ……れ……?
「きゃあああああ!」
「どわあああああ!」
「ひいいいいいい!」
「3つの結界が壊れていく!? お前ら、何としてでも客を護れ!」
「「おうっ!」」
観客達の歓声は必殺技のぶつかり合いによって悲鳴に変わっていく。さらには、凄まじい影魔法が結界すら少しずつひび割れていき、闇の魔力が観客達に伝わる。結界班ドラゴニュート達は全力で結界を張ることを止めず、コロシアムはスターライトバスターが消えるまで揺れ続けた。
【げほっ、げほっ……! な、なんという破壊力であります! 流石のクザン選手もリタイアか!?】
「兄さん!」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
レフトが実況に戻って試合を確認。砂煙がフィールドを覆っている。兄を心配するエドガーが叫ぶなか、ドラゴンになっていたクザンが空中から降りてフィールドに着地。呼吸を荒くして膝をついている。
【クザン選手、生きております!】
「ぐはっ!」
【しかし、右の翼がありません! これでは戦いを続けれるか分かりません! 大逆転、スバル選手の勝利が決まっ……】
しかし、クザンの口から吐血。スターライトバスターをもろに当たったドラゴンの身体は、背中の右翼が失われていた。レフトがクザンの戦闘状態を危険と考え、スバルの勝利を告げようとした。その砂煙が晴れた光景を見た瞬間、口が止まった。
「やった……これ、で、仲間を守れ……」
目の前が暗くなる。ここまでが覚えている俺の闘技大会決勝戦だった。
『スバルさん』
『あ、な、た、は……』
『仲間を守る気持ちは分かりますが、無理はしないでください。それ以上の魔力消費は命に関わってきます。あなたが倒れたら可愛い仲間が悲しみますよ。これから私の加護で身体を丈夫にしていきます。本当に申し訳ないですけど、今から眠ってください』
『コ、スモス、様……』
『でも、最後まで諦めない姿勢は素敵でした。あなたは私の誇りですよ。ゆっくり休んでくださいね』
俺はふらふら状態。気が付くとコロシアムじゃない場所にいた。どこかの神殿? 周りは暗闇で神殿も黒い。でも、不思議なことに全く怖くない。むしろ気持ちが良い。ふらふらした状態でいると、誰かが前から来た。女性だ。長い黒髪に黒いドレス、見たことない大きさの胸。優しい声は聞き覚えがあった。俺はこの人を知っている気がした。いつも祈っている闇の女神様……コスモス様。嬉しい、俺のことを知ってくださっていた。コスモス様によるドクターストップで、俺は暖かく大きな柔らかい胸に抱き締められながら意識を無くした。
【スバル選手……、両手を突き出して立ったまま……気絶しているであります……】
「スバル!」
《スバルさん!》
「スバル様!」
レフト、ジャック、エドガー、クザン、観客達が見たのは全身が傷だらけで気絶しているスバルの姿。そこには決して諦めることなく立ち向かう姿だった。気絶してもなお立っていて、今にも勝つために動こうとしている。あまりのスバルの状態にミランダ、クリス、メアリーが観客席から飛び出す。
【担架だ! 救護班、急げ!】
【す、スバル選手、魔力切れによる気絶。ルール上、スバル選手の敗北であります。……よって勝者、クザン選手!】
ジャックが待機していた救護班を呼び、フィールドに走らせる。スバルは担架によって運ばれて、ミランダ達が一緒について行きながら退場。観客が静寂するなか、レフトは状況を判断してクザンの勝利を告げた。
「素晴らしい!」
「かっけええ!」
「よくやった!」
「すげええぞ!」
「最高の決勝戦だった!」
コロシアムは拍手の嵐。優勝はクザン=フォン=イストール。こうして、闘技大会は幕を閉じた。




