第3章 8 準決勝 テトラ坊っちゃん
【午後1時であります。闘技大会準決勝に出場するクザン選手、エドガー選手、テトラ選手、スバル選手はフィールドに集合するであります】
お昼休みが終わり、いよいよ準決勝が始まる。控え室でミランダ達のお弁当を食べ終わって雑談していると、レフトさんの放送が聞こえてくる。俺は身体に流れる魔力を確かめていると、ミニゴーレムのクリスが声をかけてきた。
《スバルさん、ちょっと話があるの》
「クリス?」
《今まで観戦してきて気付いたの。あのお坊っちゃんの魔道具、この前に話した魔道具なの》
「たしか……『曰く付き』の魔道具のこと?」
《そうなの。あれは厄介でなおかつ気に入らないから教えてあげる。時間が無いから簡単に説明するの》
クリスは坊っちゃんが使っている魔道具を知っているらしい。それは闘技大会に参加することを決めたことを皆に報告した時に話題になっていた。その魔道具は裏市場で最近売られていた『曰く付き』なことは覚えている。だけど、まさか坊っちゃんが持っていたとは世間は狭いねー。クリスはその魔道具は気に入らないようで少し怒りながら俺に弱点を教えてくれる。しっかり覚えておこう。
「メアリー、あの執事は今のところ何もしていないか?」
「この前の騒ぎで、正式に冒険者ギルドからクレームを出しましたので大丈夫です」
「分かった。だが一応、警戒はしておく」
ミランダとメアリーさんは俺とクリスの横で領主の執事について話し合っている。あの人が1番怪しいし危険だ。でも、今は坊っちゃんに集中しよう。そっちは頼むよ、ミランダ、メアリーさん!
「……そんな弱点があるのか。ありがとう、クリス」
《お役に立てて良かったの。あのお坊っちゃんをぼこぼこにしてあげるの》
「ま、油断はしないよ。魔道具専門のクリスが警戒する魔道具だからね」
《スバルさん、ますますリーダーの器が大きくなったの》
俺はクリスから魔道具の弱点を聞いた。でも、その弱点を突くことは簡単では無かった。クリスのぼこぼこに答えてあげたいけど、あくまでも戦略の1つであること。予想外のことが起こるのが闘技大会で『賢者』レグルスさんとの戦いが特にそうだ。あの試合、本当は俺が負けていた。魔道具についてやそのことをクリスに話すと何故か褒めてくれた。ミランダとメアリーさんもこっちを見て笑顔。不思議だ?
「スバル、がんばってこい!」
《スバルさん、ファイトなの!》
「スバル様、こ武運を」
俺はミランダ、クリス、メアリーさんに応援されながら控え室を出た。準決勝は坊っちゃん。ここにいないサキュバスのシャロンのためにも勝つ!
「じいや、この試合が終わったら高級ステーキが食べたい。用意しといてくれ」
「かしこまりました。サキュバス、30分以内に買ってこい」
「……分かりました。………………スバルさん、絶対勝ってね……」
テトラもまた控え室で準備完了。執事に大好物のステーキを頼んで控え室を出ていく。執事はテトラを見送り、待機しているシャロンに買い出しを命令。奴隷のシャロンはしぶしぶ買いに出かけた。テトラの相手であるスバルの勝利を願ってコロシアムを後にした。
【準決勝は同時に行うであります!】
【その後、すぐに決勝戦だからお互い平等の疲労状態になっている】
【それでは選手入場! 観客の皆様、拍手で出迎えてくださいであります!】
レフトさんの実況で準決勝と決勝について説明があった。準決勝は同時進行か、疑問に思ったけどジャックさんが理由を言っている。エドガー先輩と決勝で戦うと約束したからな。それも含めて負けられない。俺は観客による拍手の嵐のなか、フィールドに立った。
【準決勝第1試合は、まさに奇跡! この場に生きていることを感謝するであります! 冒険者『日天』エドガー=フォン=イストール選手、騎士団最年少隊長『雷撃』クザン=フォン=イストール選手。なんと伝説の勇者オリオン=フォン=イストールの子孫による兄弟対決であります!】
「兄さん……!」
「エドガー」
「今日こそ僕は兄さんを超える! そして、スバルくんと戦う!」
「俺に勝つか……、それは不可能だ」
フィールド右側ではイストール兄弟が向かい合っている。D級冒険者のエドガー、オレメロン王国騎士団の大型ルーキーのクザン。どちらも戦闘能力トップクラスの竜人ドラゴニュートである。エドガーはヘタレを克服して光の魔力を覆い、そんな弟を見下ろすかのような兄エドガーが雷の魔力を纏う。
【準決勝第2試合は圧倒的な魔道具の力を使いこなすデュランド領主の息子テトラ=フォン=デュランド選手。対するは今大会ダークホースの闇属性『星影』スバル選手であります!】
「まさか、ここまで勝ち上がってくるとはね。だけど、僕の力には勝てない。この大観衆の中で、僕に倒されるのを光栄に思いたまえ」
「やだね。お前はシャロンの分も含めて、ぼこぼこにしてやるよ」
俺は坊っちゃんと向かいあう。相変わらず嫌みな顔だ。偉そうに自分が上であることを語っているけど、偉いのは父親で強いのは魔道具だ。警戒度は魔道具99で坊っちゃん1と考えておこう。この準決勝は『星影の衣』の仲間との約束、サキュバスのシャロンとの約束、エドガー先輩との約束がある。色んな約束を叶えてみせる!
【決勝戦の切符をかけた準決勝、試合開始!】
「出でよ、魔導剣〈マジックブレード〉。魔導盾〈マジックシールド〉」
《サモン マジックブレード》
《サモン マジックシールド》
「出たな『曰く付き』魔道具!」
レフトさんの合図で2つの準決勝が開始。坊っちゃんは金ぴか魔道具を取り出して魔力を注ぎ込む。すると、魔道具は大型剣と大型盾になって坊っちゃんの身体に装着した。すげえ、魔道具から不気味な雰囲気が伝わってくる。クリスが警戒するわけだ。
「切り刻め、衝撃波〈ソニックブーム〉!」
「ふっ! 影弾〈シャドウボール〉!」
「ひいぃ、魔力吸収! ……ハハハ、効かないよ!」
ソニックブームは魔導剣に備えられている魔力を発射する魔法。白い衝撃波だ。風魔法サイクロンエッジに似ているけど、風魔法ほど速くない。俺は足に魔力を纏って跳びあがって避け、そのままシャドウボールを発射。坊っちゃんが悲鳴をあげながら魔導盾に身体を隠すと、シャドウボールは盾に吸収された。クリスの言っていた通りか、坊っちゃんが何か言っているけど無視。
「やっぱり吸収するか……」
「これでじいやの作戦通りだ。衝撃波〈ソニックブーム〉!」
「っ! 俺の魔力か!?」
坊っちゃんは再びソニックブームを放ってきた。でも、白い衝撃波じゃない、黒い衝撃波だ! それは先ほど盾に吸収された俺の魔力だ! やっぱりクリスの言う通り、あの剣と盾は繋がっている。そしてどちらかを潰せば勝機が出てくる。あとは仕掛けるタイミングが大事!
「衝撃波〈ソニックブーム〉、衝撃波〈ソニックブーム〉!」
「ふっ! はっ! ……あれ?」
黒い衝撃波がフィールドを走ってくるけど、避けれない速さではない。俺は次に攻撃を仕掛けると考えて黒い衝撃波を避けた瞬間、足が思うように動かなかった。危ない、かすった!
「効き始めたな、衝撃波〈ソニックブーム〉!」
「なっ!? 影気〈シャドウオーラ〉! こ、これは……」
今度は完全に足が遅れてしまった。黒い衝撃波はシャドウオーラで身体に魔力を纏って防御したけど、このソニックブームおかしいぞ。何で俺の魔力以外に別の魔力を感じる!? この粘りつく魔力……坊っちゃんの魔力では無い。どこかで感じたことがある!
「衝撃波〈ソニックブーム〉、衝撃波〈ソニックブーム〉、衝撃波〈ソニックブーム〉!」
「影壁〈シャドウウォール〉! この魔力は……微量の毒魔法!? まさか……あの禁呪の魔本か!」
「そらそらそら、どうしたどうした!」
「……卑怯者め。闇属性の俺だからぎりぎり気付けたけど、ヴァンパイアの血魔法と同レベルじゃないか」
違和感の魔力。これはサキュバスのシャロンが当たっていた毒魔法じゃないか! しかもご丁寧に俺の魔力で毒魔法の色を隠してやがる。毒魔法は紫色で俺の影魔法は黒。おそらく毒魔法が盾に仕込んでおり、それを剣に送り込んでソニックブームとして放っている。毒衝撃波〈ポイズンソニックブーム〉か!
毒魔法は火・水・風・土・光・闇の6属性に当てはまらない。毒魔法という1つのジャンルだ。禁呪として使うことが許されない。何故ならヴァンパイアの血魔法と同格で、使用者にも悪影響を与える力を持っている。影魔法のバリエーションを広げるために魔本をたくさん読んでいたのが、こんな場面で役立つとはな!
【さあ、イストール兄弟の戦闘は盛り上がってきており、滅多に見れない飛行対決であります!】
「腕を上げたな、エドガー。だが、俺に勝つのは不可能だ」
「強い……でも、負けない。絶対に勝つ!」
ドラゴニュート同士のイストール兄弟による空中決戦。お互い翼を広げて爪を構えて魔法を放ち合っている。エドガーはクザンに押されながらも諦めていない。光と雷の魔法がぶつかり合って爆発が起こる。
【こちらはテトラ選手がスバル選手を追いつめているであります!】
「ひゃひゃひゃ、いいねぇ!」
「毒魔法は想定外だった。だけど、坊っちゃんの実力は想定内……出番だよ」
衝撃波の攻撃は遅いから何とか避けれる。でも、こっちからは影魔法を吸収されるから押し切れない。防戦一方だけど分かったことがある。坊っちゃんは毒魔法でじわじわ倒したいのか必殺の一撃が来ない。おかげで魔力を貯める時間が出来ていた。俺は懐から掌サイズの魔道具を取り出した。それはクリスがくれた戦闘用ゴーレム!
「魔道具には魔道具だ」
「うん? そんなガキの玩具で何が出来る」
「俺の仲間をなめるな! うりゃあああああああああああああああっ!」
「何だ!?」
俺が魔道具ゴーレムを出すと笑い始めた坊っちゃん。確かにその『曰く付き』金ぴか魔道具より珍しくは無い。手のひらサイズで可愛いぐらいだ。だけど、俺にとっては仲間と同じくらい大切。かつて魔道具ゴーレムは『氷結』との闘いでミランダを救ってくれたこともある。使い方は簡単、魔力をたくさん注ぎ込むとその魔力に応じたゴーレムが現れる。坊っちゃんが馬鹿にしたゴーレムの力を見せてやる! 俺はおもいっきり魔力を手のひらにある魔道具に注いだ。
「俺の力になってほしい。出てこい、魔人〈ゴーレム〉!」
《サモン シャドウゴーレム》
「ゴオオオオオオォォォォゥー」
「ん? でかくない? わ、ちょっ……えええええええええええええええええ!? た、高いっ!」
「ひ、ひ……ひいぃぃ……」
ただ、俺は毒魔法によって魔力が乱れていることに気付けなかった。魔道具ゴーレムを地面に置いた瞬間、黒い魔法陣が展開。その黒い魔法陣は大きく、地面から黒い何かが盛り上がってきた。どんどん盛り上がっていき、目線が高くなっていく。ちょっ、降りられない! ゴーレムの形をした小さな掌サイズの魔道具は、俺の予想を遥かに越えて巨大ゴーレムとして現れた。あれ、この前クリスが出したゴーレムは俺達より少し高い2メートルくらいだったような? 頭上に乗っているけど、コロシアムの観客席と同じくらいの高さだぞ。だいたい8メートルくらいかな。あ、お客さんと目が合った。こんにちは。
【……………………】
【……………………】
レフトさんとジャックさんも同じ目線で見える。2人ともポカーンと口を大きく開けている。よく見るとコロシアムの観客まで同じ表情だ。唯一、エドガー先輩とクザンさんの戦いの音を除いて、盛り上がっていたコロシアムが静寂になった。もしかして、俺のせい?
「す、スバル……?」
「な、なんて禍々しい巨人ですか……」
ミランダは驚き、メアリーは怯える。魔道具として一般に売られている人型のゴーレム。しかし、スバルが出したゴーレムは見たこと無い巨大さで、闇属性を宿した漆黒の身体に血のような1つ眼、胸には六芒星の紋章が存在している。圧倒的な威圧を放つ存在感は見る者達を恐怖に陥れた。
《か、カッコいいの!》
「ゴー!」
「「え?」」
《え?》
ただし、例外がいた。クリスは仮面越しからでも分かる笑顔で巨大ゴーレムを見ている。まるで子供が大好きな英雄を見ているかのようにキラキラが出ており、クリスを映すミニゴーレムも同じ表情(?)をしていた。そのリアクションにミランダとメアリーは驚き、クリスも同じように驚く。ここだけ周りと違っていた。
【…………………………はっ、失礼したであります!】
【何だ、ありゃ……】
【スバル選手が召喚した巨大ゴーレム! しかし、黒いゴーレムであります!? 長年解説しておりますが見たことないであります!】
レフトさんが実況することを忘れるという大失態を取り返すようにマシンガントークを再開。ジャックさんはまだ現実に戻ってきていない。闇属性のゴーレムなど冒険者でも無い限り、一般人が見ることは無い。コロシアムの観客達も色んな表情を見せている。
「おおっ!」
「ゴオオオオォォォォゥゥー」
どうやら魔力制御が毒魔法の影響で不安定だったのか、魔力を込め過ぎた結果、すごいゴーレムが現れたみたい。嬉しい誤算だ。頭にこのゴーレムの情報が流れてくる。俺の魔法をゴーレムが覚えて使えるのか。名前はシャドウゴーレム。俺らしいゴーレムだけど、そのままだと他にもいるかもしれないシャドウゴーレムと被るな。俺の魔力で現れたから、俺の名前から名付けてあげよう。ゴーレム、俺はスバル。スバルはおうし座のプレアデス星団から由来している。だから、今日からきみはプレアデスだ! そしたら、ゴーレムから意志が伝わってきて俺を認めてくれた。
「すげえや、これからよろしくな……プレアデス!」
「ゴオオオオォォォォゥゥー」
「俺は勝つ! 大切な仲間を守るために!」
今日からプレアデスは『星影の衣』の仲間! いい返事ありがとう、そして俺達は珍しいから世間の悪意に狙われやすいことを覚えてほしい。そして、俺はその悪意から仲間を守るために強くなる!
「そそそ、衝撃波〈ソニックブーム〉!」
「ゴー?」
「だめかぁぁぁ~~~!」
坊っちゃんがプレアデスに攻撃してきた。巨大ゴーレムのインパクトが大きくてすっかり忘れていた。でも、そんな毒魔法に頼った攻撃力の無い魔法は、巨大ゴーレムのプレアデスには全く効かない。
「すごい。プレアデス、俺がイメージする魔法を放てるか?」
「ゴオオオオオオォォォゥー」
「ありがとう。よし、俺がサポートする。目標、尻餅ついている坊っちゃんだ!」
「ゴオオオオゥゥゥゥー」
俺は巨大ゴーレムのプレアデスの頼もしさに期待が膨れた。ゴーレムは注いだ魔力を使って魔法を使うことが出来る。クリスの場合は予め魔力を貯めておいて使うようで、使い方を教わっていて良かった。俺が坊っちゃんを指差し、プレアデスが血のような赤い単眼を向ける。クポーンと赤く光ったのは気のせいかな?
「ヤバい、ヤバい、ヤバい!」
「おっと。影面〈シャドウフィールド〉!」
坊っちゃんはフィールドの外に向かって走り出した。外に出ると俺の勝ちだけど、そうはさせない。俺はプレアデスの大きな足から影をフィールド全体に広げる。これは『氷結』の魔女カシオペアが使っていたアイスフィールドの影魔法版。相手の影を自分の影で縛る!
「ちょっ、動けない! 何だこりゃ、影が影を引っ張ってやがる!?」
「卑怯なことしておいて逃がすか! ひぃぃさああああああああぁつ!」
「ゴオオオオオオォォォォゥー!」
坊っちゃんが俺の魔法に戸惑っているなか、巨大ゴーレムのプレアデスが攻撃体勢に入る。俺がいつもシャドウボールを放つような感じで大きな右手に、とてつもない魔力が溜まっていく。俺が注いだ魔力より多くなっている、これが魔道具の力か!
「動け、動け、動いてくれええええええぇぇぇっ!?」
「坊っちゃん、逃げてくだされーーーー!」
「ひいいいいいいぃぃぃぃぃぃっ!」
「巨大影弾〈ジャイアントシャドウボール〉発射ああああああああああああああああーーーーっ!」
「ゴオオオオオオオオオオオオオオオォォォォーーッ!」
坊っちゃんの危機に執事が逃げろと叫んでいる。誰が逃がすか、この野郎。俺の得意技シャドウボール。それを巨大ゴーレムのプレアデスが使用したら? 答えは簡単、災害級レベルの魔法が生まれる。名付けてジャイアントシャドウボール! 巨大右手から発射された特大のシャドウボールは、魔導盾に隠れた坊っちゃん目掛けて飛んでいく。
「あ、が、が、が、が、が、が……。ん? おお、防いだ、防いでやったぜ!」
「すげー魔道具」
ジャイアントシャドウボールは見事に着弾。しかし、魔導盾によって吸収されてしまった。あんな巨大なシャドウボールも吸収出来るのか。クリスが警戒していた魔道具なだけあるよ。びびっていた坊っちゃんが高笑いし始めた。
「はっはっはっはっ! 見たか、これが僕の実力。この吸収した凄まじい魔力を魔導剣に移してやったぜ! これでゴーレムもろとも消してやる! さあ、僕を怒らせたことを後悔するとい……!」
バキッ。
「………………………………は?」
バキバキ、ガッシャーーーーーンッ!
「よし壊れた! すごいぞ、プレアデス!」
「ゴオオオオォォォォゥゥー」
「ままま、魔道盾〈マジックシールド〉が!? な、何だ!?」
「いけません、坊っちゃん! 早く剣を離してくだされ!」
坊っちゃんが魔導剣を高々と挙げていると、持っていた魔導盾が砕け散った。流石の魔導盾もジャイアントシャドウボールに耐えれなかったようだな。そしたら、魔導剣が紫色に光り始めた。戸惑う坊っちゃんをよそに、執事の焦る大声が聞こえてきた。やっぱり毒魔法は執事の策だったか!
「あれがクリスの言っていた『曰く付き』の正体か」
「ぎゃあああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁっ! 毒が僕にいいいいいいぃぃぃぃっ!」
「坊っちゃーーーーん!」
クリス曰く、あの魔道具セットは必ず剣と盾を両方持たなければいけない。片方の剣の場合、剣に宿った魔法が自らにも攻撃。片方の盾の場合、盾に自らの魔力を吸われ続ける。つまり、両方持つことで剣の攻撃を盾が吸収して、互いのデメリットを消し合っていたわけか。
今の坊っちゃんは魔導剣に加えていた毒魔法が身体を襲っている。俺は闇の魔力で身体を覆って防いでいたけど、坊っちゃんは違う。何の対策もしていない毒魔法によって苦しんでいる。サキュバスのシャロンの苦しみを我が身をもって味わえ!
【ありゃ、禁呪の毒魔法じゃねえか! 試合中断! ルール違反のためテトラを失格にする!】
【テトラ選手、失格であります! 勝者、スバル選手!】
「やったぜ! プレアデス、俺達の勝利だ!」
「ゴオオオオオオオオゥゥゥゥー!」
ジャックさんが毒魔法に気付いてくれた。今まで俺の影魔法で分からなかったから仕方がないとはいえ、もう少し早く気付いて欲しかったな。そして、坊っちゃん失格! 俺と巨大ゴーレムのプレアデスは、コロシアム中に響く雄叫びをあげて、両手を空に向かって突き上げる。ついに決勝戦だ!




