第3章 6 2回戦 水蛇のドラン
【興奮冷めやまない2回戦であります!】
【今回の注目選手クザン、エドガー、テトラ、レグルスは予想通り3回戦進出だな】
1回戦終了して15分休憩後、2回戦が始まる。レフトさんとジャックさんの実況によってコロシアムは熱気に包まれている。またもや最後の試合の俺は、2回戦の戦いをずっと観戦していた。クザンさんの雷魔法、エドガー先輩の光魔法、レグルスさんの魔法はレベルが高かった。でも、坊っちゃんの戦闘は魔道具が凄かったから割愛。
【さあ、2回戦最後の試合! 初出場ながら健闘している『水蛇』ドラン選手であります!】
【そして、今大会ダークホース『星影』スバル選手の入場であります!】
2回戦からは2つ名が紹介されるようになる。2つ名は予め大会に登録していたり、会場で話題になった言葉を実況がアドリブで出してくれるらしい。俺の場合は恥ずかしかったけど、ミランダとクリスが名づけてくれた『星影』にした。対戦相手は『水蛇』か、どんな戦闘スタイルかな。
「よろしく」
「よろしくでやんす」
【戦闘開始!】
ドランさんは上半身が魚であるマーマン。俺とドランさんは簡単に挨拶のみ。ぴりぴりしている雰囲気がフィールドに感じているからだ。2回戦になると、お互い油断は全くしていない。これは強そうだ。レフトさんの合図とともに、ドランさんはノートを取り出した。何だ?
「あんたのデータは全て収集済みでやんす」
「お?」
「名前はスバル。15歳。闇属性の影魔法を使う新米の冒険者。得意技はシャドウボール。現在パーティ『星影の衣』のリーダーでやんす」
「この短時間でよく調べたね」
「オイラにとって造作も無いことでやんす」
魔本かと思ったけど違った。ドランさんは試合が始まったにも関わらず、俺の情報を話してきた。あまりにも正確な情報に聞き込んでしまった。なんかクリスに似ているな、この人。でも、情報の速さと試合を関係無いね。攻撃開始だ!
「そろそろ行くよ、影弾〈シャドウボール〉!」
「水体〈ウォーターボディ〉」
「水属性か」
俺はシャドウボールを放つ。対して、ドランさんは身体がスライムのように液状化してシャドウボールを避けた。水属性の相手は『氷結』の魔女ぐらいで、氷魔法だったから水魔法は初めてだ。身体の原形を留めていないのは影魔法と似ているな。ならば。
「影腕〈シャドウアーム〉!」
「水腕〈ウォーターアーム〉」
「にゃろう、影拳〈シャドウパンチ〉!」
「よっ、と。そりゃ」
右腕をシャドウアームで強化。接近戦に持ち込むためにフィールドを走る。俺がシャドウアームになったのを見て、ドランさんは液状化した左腕を構える。ますます影魔法かよ。渾身のシャドウパンチを放ち、ドランさんも拳を放つけど当たる直前に魔法自体が避けた。しかも、螺旋状に俺に迫ってきた!? とっさに横に飛び込み避ける。あぶねえ!
「攻撃が当たらない!? ……いや、相手の動きだけじゃない、俺の動きが読まれている」
「気付いたでやんすか。あんたの行動パターンは簡単。決め手が2つしかない、シャドウボールとシャドウパンチ。他の影魔法は補助型。影魔法は影さえ気をつければ問題ないでやんす」
「……本当よく調べているね」
俺はドランさんのシャドウボールとシャドウアームの避け方があまりにも綺麗過ぎたため、疑問が生まれた。すると、ドランさんは待ってましたとばかりに話し始めた。きっと秘密事を軽く話すタイプだな。でも、当たっているから面倒だ。どうする、必殺技スターライトバスターは魔力を一気に使うから、ここぞという場面しか使えない。悩んでいると、ドランさんが攻めてきた。
「水射〈ウォーターシュート〉」
「くっ、影壁〈シャドウウォール〉!」
「曲がれ」
「何!? ぐわっ!」
水の光線が曲がった!? シャドウウォールに当たる寸前、まるで意志を持っているかのように避けて俺に向かってきた。ウォーターアームはぎりぎり対応できたけど、まさかシュート系も曲がるとは予想出来なかった。もろにくらってフィールドに倒れる。いてぇ……。
「オイラは水そのもの。自由自在に変化出来るでやんす」
「ちっ」
「闇属性の進撃もここまで、水全発射〈ウォーターフルシュート〉!」
「自由自在が水だけだと思うなよ。影収納〈シャドウホール〉」
ドランさんは自慢気にフィールドを液状化して移動している。まるで水の蛇みたいだ。俺がダメージで動けないと考えたのか、最大魔法で攻めてくる。幾つもの水の鞭が迫ってくるなか、シャドウホールで影に潜りこむ。水の魔法が当たらない場所に移動して避ける。影に当たったら確実に負けるからね。
「やったか!?」
「やってない、残念でした」
「んな、自分の影に隠れる!? ならば影ごと仕留めるでやんす!」
「じゃあ、こっちも面白い影魔法を出してあげる。騎士団副隊長の魔法を参考にした影分身〈シャドウクローン〉」
液状化から人間の原形に戻ったドラン選手。勝利を確信しているところ悪いけど、俺はしっかり無事。影から出てきた俺に驚くドラン選手に対して、更に驚くことをしてやろう。さっきの複数魔法と予選で戦った騎士団副隊長のランドクローンを真似た魔法、シャドウクローンだ! 影から影の俺が出てくる。
「なっ!?」
「これなら」「攻撃」「防御」「どちらでも」「対応」「出来る」
「馬鹿な、こんなデータは無いでやんす!?」
「そりゃ無いよ、今初めて作った魔法だもん」
「………………は?」
影から出てきた5人の俺。オリジナルの俺も合わせて6人。6人がそれぞれ話し始めたことに動揺を隠せないドランさん。そして、俺が初めて使ったことを聞いて完全に放心したようだ。情報収集が得意でも、想定外の事態には弱いみたいだな。俺が魔力を貯めているのに液状化すること忘れているよ。
「今から」「横一線に」「シャドウボール・シックスを」「放てば」「どうなるかな」「?」
「ちょっ、最後の奴しゃべって無……ぐわああああああああああ!」
「よっしゃあ!」
6人がシャドウホール6発を同時発射、合計36発がドランさんに飛んでいく。俺の発言にツッコミをしながらドラン選手はぶっ飛んで行った。俺はスルーしてガッツポーズ。だって、恥ずかしいじゃん!
【そこまで!】
【勝者『星影』スバル選手であります!】
ドランさんの戦闘不能をジャックさんが判断。レフトさんの実況で俺の勝利を宣言した。う~ん、シャドウクローンのキレがいまいちだった。勝ったけど、不完全燃焼。闘技大会が終わったら要練習だな。
「……スバルさん、お疲れ」
「シャロンちゃん? どうしてここに?」
「……坊っちゃん」
「あー、なるほど」
控え室に戻る途中、サキュバスのシャロンちゃんとばったり会った。この通路は選手しか入れないけど、選手の関係者だったら入れる。奴隷のシャロンちゃんは坊っちゃん関係者として入れたわけか。
「……闇属性、びっくりした。スバルさん、本当に人間……? もしかして、人型の魔物?」
「毎回聞かれるけど、人間だよシャロンちゃん」
「……シャロンでいい、スバルさん」
シャロンちゃん、改めシャロンもまた俺を人間ではないと聞いてきた。最近よく聞くから耳にタコが出来そうだよ。魔物には闇属性が多いから勘違いされるな。ペガサス山で出会ったペガサスは光属性だけど。そういえばダークエルフ、ヴァンパイア、サキュバスと人間じゃない人達と会っているな俺。
「今のところ大丈夫?」
「……坊っちゃんは能天気、執事は坊っちゃんに夢中だから一応大丈夫。……でも、坊っちゃんが時々やらしいことを迫ってくるから……幻覚で対抗している……」
「ひどいな」
「……わたしのことはともかく、次の3回戦も楽しみ……。坊っちゃんなんかより、応援しているから……」
「ありがとう、シャロン」
シャロンの様子は危ないことがあるらしい。幻覚はサキュバスの魔法で相手の精神に攻める魔法。影魔法には無いな、俺も使ってみたい。坊っちゃんと執事の様子が気になるけど、今は闘技大会に集中しよう。シャロンも俺のことを応援してくれている、嬉しいな。そして、ミランダ、クリス、メアリーさんのためにも勝ち続けてみせるぞ!




