第3章 5 1回戦 本選開始
【闘技大会本選は、午前9時から! たくさんのご来訪お待ちしているであります!】
オレメロン王国デュランドの街は最高潮に達している。街中では魔道具による映像が流れて、闘技大会のコロシアムを映す。映像の右下ではマイクを持ったリポーターが話しており、冒険者ギルド職員らしい。わくわくしてきたぜ!
「ミランダ、頑張ってくる」
「応援しているぞスバル。そうだ、優勝したら『ご褒美』をあげよう」
「ご褒美?」
「秘密だ。楽しみにしておいてくれ」
俺は『満腹亭』を出てミランダと共にコロシアムへ向かう。ダークエルフのミランダはなるべく目立たないようにフードを被っている。俺達のパーティは珍しいからね、注意しないとね。途中、ミランダが何か思い付いたのかご褒美を考えてくれた。何だろう、気になるなー。
《もしもし、スバルさん》
「クリス」
《私はミニゴーレムから見て応援するの! ミランダ、ミニゴーレムをよろしくなの》
「分かった」
クリスからの連絡。マヨネップ帝国にいるクリスは、ミニゴーレムからの応援だ。今は俺の左肩に座っているミニゴーレムをミランダに渡す。今回の闘技大会はオレメロン王国限定だから、マヨネップ帝国には映像が流れていない。3人で会話をしているとコロシアムが見えてきた。
「スバル様」
「メアリーさん」
「がんばってください。今日は冒険者ギルド職員関係なく、個人のメアリーとして応援しますね」
コロシアムにはメアリーさんが待っていた。予選の実況をしていたメアリーさん、今回は他のギルド職員が担当するために1人の国民として観戦する。ダークエルフのミランダが、大勢の中で孤立したらマズイと思ったけど大丈夫だね。
「皆、ありがとう! 俺、皆のために優勝してみせる!」
ミランダ、クリス、メアリーさんの応援を貰って、俺はコロシアムに入って本選出場者の登録を行って参加。俺達のパーティ『星影の衣』を守るためにも目標は優勝だ!
【皆さん、お待たせしましたであります。オレメロン王国主催、闘技大会の決勝トーナメントを開催するであります! 司会はレフトでお送りするであります!】
「わあああああああ!」
「いえええええええーーい!」
「うおおおおおおおおお!」
円形のコロシアム。実況席では先程のリポーターがいる。フィールドを囲む階段上の観客席は街人全員いると思うほど、ぎっしりで盛り上がっている。警備員にはエドガー先輩と同じドラゴニュートさん達がいて厳重だ。あ、最前席でミランダとメアリーさんがいた。ミニゴーレムも分かりやすい。
【まずはデュランドの街の領主サイサス様のご挨拶であります】
「どうも皆さん、サイサス=フォン=デュランドです。この闘技大会はオレメロン王国の国民が、自由に実力を試せる目的とした大会です。ベテラン、ルーキー問わず、腕を競いあってください。楽しみにしています」
フィールドの真ん中でマイクに向かって話し始めた男性。あれがデュランドの街の領主か。息子と違って真面目な印象だな。観客からも歓声があがっている。
【サイサス様ありがとうございました! 本選実況は我輩レフト、解説は冒険者ギルドマスターのジャックさんであります!】
【よろしく】
【予選を勝ち上がった32名の入場であります!】
領主の挨拶が終わると、コロシアムの雰囲気が更に盛り上がってきた。実況席ではギルドマスターのジャックさんがいる。闘技大会を勧めてくれたジャックさんの期待に応えるためにも、頑張るよ。さて、入場だ!
「スバル、ファイト!」
「スバル様、頑張ってください」
《スバルさん、頑張るの!》
コロシアムの中央フィールドに集まった俺を含めた32名。歓声が響いてくる。ちょっと緊張してくるね。ミランダ、クリス、メアリーさんが近くにいたから手を振った。
【今回の闘技大会、まず紹介するのはサイサス様のご子息、テトラ様! 初出場ながら魔道具を用いた予選の戦闘は無傷であります!】
【最年長レグルスのじいさんも大事だな。4属性を使いこなす魔法使いは未だに現役だぜ】
【他にも居られますが、1番の注目はなんと言っても伝説の勇者オリオン=フォン=イストールの子孫、イストール兄弟! 兄は騎士団、弟は冒険者と有名であります!】
「イストール!」「イストール!」「イストール!」「イストール!」「イストール!」
レフトさんの実況では、注目選手の紹介をしている。幸い、俺は紹介されなかった。影魔法は初見殺しでも通用できるから目立たないに限る。目標は優勝だけど、まずは1回戦を勝たないと始まらないからね。それにしても、エドガー先輩も出場していたのか。あの勘違いエルフがいないことを願おう。そのエドガー先輩の兄さんもドラゴニュートか、歓声が凄くてコールが起こっている。流石、伝説の勇者オリオンだな。おうし座に関係する俺としては微妙な気分だけどね。
【続いてルール説明! 予選の勝利条件は相手をフィールドから場外させることでした。しかし、本選では追加があります! シンプルに相手を戦闘不能による勝利や、魔力切れの敗北などあります! その判断はジャックさんに決めてもらうであります!】
【よろしく】
【本選出場者32名! 5回勝てば優勝です! 優勝者にはA級冒険者の資格、賞金300万ソンが贈られます!】
ルール説明はガチンコ対決か。予選ではラッキーもあったけど、本選では起こりにくい。まさに実力をぶつけ合う、燃えてくるね。優勝すれば、国からも認めてもらえるA級冒険者。俺達のパーティ『星影の衣』を守る後ろ盾としては最高だ。俺達の野望を胸に歓声が轟き、ついに闘技大会本選が始まった!
「お久しぶり、エドガー先輩」
「スバルくん! きみも出場していたんだ」
「はい。ところで先輩、変わりましたね」
俺はエドガー先輩に挨拶。一瞬だけ驚かれたけど、爽やかイケメン笑顔で対応してくれた。この前のようなヘタレ要素が無くなっていた。不思議に思って尋ねてみる。
「うん。今までフレアに頼ってばっかりだった。でも、スバルくんが率先して戦う姿を見て、自分がどれだけ甘えていたか分かった。自分を変えるために闘技大会に参加したんだ」
「カッコいいですよ」
「何より、僕は今日こそ兄さんに勝つ! スバルくん、決勝で会おう!」
エドガー先輩は勘違いエルフとの関係を自覚したようだ。俺が『星影の衣』を守るように、エドガー先輩もまた自分を変えるために参加する。この前『日天の剣』パーティと比べる必要が無いくらいの自信。エドガー先輩の兄は騎士団のクザン、トーナメントでは先輩とは準決勝、俺は決勝だ。俺と先輩は闘いあう約束をして1回戦を迎える。
「雷転〈サンダードライブ〉」
【勝者、クザン選手であります!】
あれは雷魔法か。風属性の上位魔法で全魔法でトップスピードを誇る。加えて、ドラゴニュートの身体能力による組み合わせは強力だな。流石、ナンバーワン優勝候補者。
「光射〈ライトシュート〉!」
【勝者、エドガー選手であります!】
エドガー先輩は光属性の光魔法。雷魔法と似ているけど、魔法の種類が少ない。その分、強力な魔法でパワーを考えるとトップクラス。先輩のヘタレが無くなったから魔法にキレを感じる。
「衝撃波〈ソニックブーム〉!」
【勝者、テトラ選手であります!】
出たな、坊っちゃん。坊っちゃんは魔道具を纏っており、金ぴかの鎧だ。それに金ぴかの魔剣で衝撃波を放っている。サキュバスのシャロンの時に対峙したけど、あんな実力を隠していたのか? いや、魔道具の力だな。そして、あの執事が絶対に絡んでいるな。坊っちゃん大好き執事だから間違いない。
「土波〈ランドウェーブ〉」
【勝者、レグルス選手であります!】
俺がエドガー先輩と同じぐらい気になっている最年長の魔法使いレグルスさん。4属性を使いこなす現役。今の土魔法もフィールド全体を土石流で圧倒した。強いし、経験値も今大会最も多いに違いない。俺が勝ち進めば、当たる相手だから念入りに考えておこう。
【今年は面白いな】
【次々とベスト16へ進出しているであります!】
勝者と敗者がどんどん決まっていき、観客のボルテージが最高潮。ジャックさんとレフトさんの実況にも熱が入っている。いよいよ、俺の試合か。緊張してきたぜ。
【さあ、1回戦最後の試合は前回の闘技大会でベスト4の実力者ジョニー=ベストポンプ選手! 今回の優勝候補の1人であります!】
「ジョニー!」「ジョニー!」「ジョニー!」「ジョニー!」「ジョニー!」「ジョニー!」
【ジョニーコールが止まらないであります!】
フィールドに現れた対戦相手のジョニーさん。あまりの歓声にコロシアムが震えている。完全に俺はアウェーだね。まあ闇属性の時点で元からそうだから、思った以上に動揺していない。ふー、リラックス。
【対するは、冒険者ギルド受付嬢メアリーの推薦! 冒険者スバル選手であります!】
「スバル、頑張れ!」
《ファイトなの!》
「期待していますよ」
俺がジョニーさんとは反対側から入場。その間もジョニーコールは続いている。かすかに聞こえる俺の応援は3人だけ。でも、俺にとっては1番嬉しい応援だ! 俺は右の拳を出して、ミランダ、クリス、メアリーさんに応えた。今、俺に出来ることはただ1つ、勝利だ!
「ふ、ルーキー。先手は譲ってやる」
「よろしくお願いします!」
【試合開始!】
フィールドで向かい合う俺とジョニーさん。予選と違ってフィールドはコロシアム全体で、半径100メートルの広さだ。観客席には結界魔法が囲っており、先程の試合でも活躍している。俺の影魔法でも大丈夫そうだ。ジョニーさんは俺がルーキーだと見破っている。そこは前回ベスト4の観察眼だな、俺には無い経験値だ。レフトさんの合図で試合が始まる。俺の、俺達の、実力を世間に見せる!
「シャドオオオオオオオオオオオオォォォ!」
「へ?」
俺が今出せる最大出力のシャドウボール。かつてヴァンパイアのルビーと戦ったのと同等のパワー。右手から俺の身長と同じほどの黒い球体が現れる。ジョニーさんが予選で戦った対戦相手と同じ呆然とした表情をしているなか、俺は思いっきり魂を込めたシャドウボールを放った。
「ボオオオオオオオオオオオオォォォォルゥゥゥゥ!」
「どわあああああああああああああっ!?」
ジョニーさんをぶっ飛ばした。等身大のシャドウボールをまともに当たったせいか立ち上がってこないけど、相手は優勝候補の1人。油断は出来ない。俺は念のために闇の魔力を身体に纏って構える。しかし、ジョニーさんはいつまでも動かない。あれ?
【………………は?】
【おい、レフト。…………駄目か、止まっていやがる。やれやれ、俺が代わりに言ってやる。勝者、スバル=ブラックスター!】
【………………はっ! 失礼したであります! なんとジョニー選手、一撃KOであります! し、しかし、注目すべきはジョニー選手ではありません! そのジョニー選手を倒したスバル選手の魔法! おっとギルドから資料が届きました。彼は闇属性の人間! 先日あの『氷結団』を捕縛した新米パーティ『星影の衣』の1人であります!】
コロシアムはさっきまでの歓声はどこに行ったのか、静まりかえっている。同じく実況していたレフトさんすら口を開けたまま止まっており、見かねたジャックさんが俺の勝利を宣言した。やった、本選勝利だ! ジャックさんの声を聞いたレフトさんが、今までの時間を取り戻すほどのマシンガントークを始めた。俺の今までの経歴を紹介している。ちょっと恥ずかしいけど、俺達『星影の衣』をアピールするには有り難い。
「闇属性……魔族か?」
「影魔法だと……」
「ジョニー……あり得ない」
「どこかで聞いたような……」
「噂の氷結団捕縛パーティ……」
唖然とする観客。
「ほう」
「すごいよ、スバルくん!」
「じいや、ドリンクはまだかい?」
「ほっほっほ、懐かしい魔法じゃの」
「オイラの2回戦相手か、予選映像の解析をしなければ」
様々なリアクションをする本選出場者達。
「いいぞー、スバル!」
《流石なの》
「最高のデビュー戦ですね」
唯一、驚いていないミランダ、クリス、メアリーさん。
【さあ、これは面白くなってきました! 伝説の勇者の子孫の兄弟、領主のご子息、最年長の現役魔法使い、そして闇属性の人間! 2回戦からも目が離せないであります!】
俺の本選デビュー戦は突如現れたダークホースとして放送されて、デュランドの街を越えてオレメロン王国の国中に知られていくのであった。




