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第3章 1 闘技大会のお知らせ

「むむむむむむ……」


「スバル、あまり無理はするな」


「だけど、覚えたほうが絶対に良いよ『念話〈テレパシー〉』は」


 念話。声を出さずに特定の相手に話しかける魔法。念話が使える同士なら会話も出来る。周りに聞いてほしくない話、戦闘中で声が届かない場合、様々な時に役立つ。この前の『氷結の魔女』戦では覚えておきたかった。しかし、俺は昔から魔本を読んで、毎日修行しているのに覚えることが出来ないでいた。


「それは認める。しかし、闇属性の人間すら珍しいのに上級補助魔法『念話〈テレパシー〉』を我流で会得するのは不可能に近い」


「うー。覚えるまで止めない!」


「やれやれ、本当に困った主人だ。ここにサンドイッチを置いておくから疲れたら食べるようにな」


 俺が『念話』を覚えられない原因は、人間の闇属性だからだ。俺に闇属性の『念話』を教える相手が居ないのだ。父さんは魔力の抑え方、じいちゃんは闇属性について教えてくれたけど、攻撃と防御魔法だけで補助魔法は教えてもらっていなかった。俺のわがままに、ミランダの顔は笑っていた。お礼を『念話』でしているけど全く反応していない様子を見ると失敗しているようだ。結局、今日も覚えることは出来なかった。悔しいぞ! でも、サンドイッチは美味しかった、ごちそうさま。





「闘技大会?」


「はい。毎年ギルドが開催する冒険者の腕試し大会です」


 今日も無事に依頼を終えてギルドに報告していると、メアリーさんから面白い話を聞けた。闘技大会は毎年オレメロン王国内のギルドが主催している。大会に参加するだけでギルドから参加賞、1勝する度に特典が貰えて優勝すると冒険者ランクがA級になる。A級冒険者は、ギルドだけでなく国からもお金が貰えるという、冒険者にとって夢の目標。俺も今の自分がどれだけ実力があるか興味はある。


「腕試し……でも、闇属性の人間なんかが出てもギルドに迷惑かけると思う……」


「ご迷惑だなんて。そんなスバル様にギルドマスターから伝言がありますので読みますね」


「ギルドマスターから?」


 俺が闇属性であることは少しずつ周りが覚えてきた。あの『氷結の魔女』事件が原因で、ギルドの中でもチラチラ見られたりしている。今のところ目立った接触は無いけど、良くも悪くも起こりそうだ。メアリーさんに思いを伝えると、何かメモを出した。ギルドマスターのジャックさんからか、何だろう?


「『時間があるなら闘技大会に出ることを勧める。良くも悪くも目立つ闇属性なら、世間に対して自分を見せつけろ。自分や仲間を守りたいなら実力と畏怖を示せ』だ、そうです」


「こんなこと言われたら出るしかないね。ミランダとクリスが名付けてくれた『星影』を周りに示します!」


「では、私が推薦しておきます。ふふふ、期待していますよスバル様」


「ありがとう、メアリーさん。それと出来れば、姓は恥ずかしいので名前だけでお願いします」


 ギルドマスターから、まさかの出場を勧める伝言。確かにこのまま何もしないままだと、いずれ世界の悪意が俺達に迫ってくる。せっかくミランダとクリスと立ち上げた『星影の衣』が消えてしまう。そんなの嫌だ! 俺は闘技大会に出る、俺自身、そして仲間を守ってみせる! 何故か笑顔のメアリーさんが書類を書いてくれて、推薦もしてくれた。わくわくするぜ! もちろん、母さんとの約束でブラックスターの姓は控えてもらう。





「テトラ坊っちゃんのおな~~りー! 赤絨毯〈レッドカーペット〉」


「は?」


「じいや、ご苦労」


「坊っちゃん、もったいなきお言葉」


「…………」


 メアリーさんが闘技大会の書類を書き終わり、俺は冒険者ギルドを出ようと考えていると入口から何か変な3人組が現れた。白髪の老人が時代劇のような言葉を叫び、赤い絨毯を床に広げてきた。その絨毯の上を歩いてくる同世代っぽいけど小さい男。その様子を後ろで動かずに立っている無表情の小さな女の子。何だ、このカオス!? 賑やかだった冒険者ギルドが静かになった。


「メアリーさん、あれ誰?」


「は、はい。真ん中はデュランド街のご子息テトラ様です。右はデュランド家の執事。左のサキュバスは見たことがありません」


「ふーん。サキュバスは初めて見るね。ミランダと同じ奴隷か」


「そこの受付嬢、話がある」


「……スバル様、少し離れてください」


 俺は突然現れた3人組のインパクトに唖然としながら、同じような表情をしているメアリーさんに尋ねてみた。俺の質問に気付いて表情を戻しながら、メアリーさんは答えてくれた。俺が拠点にしているデュランドの街、そこの領主関係者らしいけど初めて見たな。あんまり興味も無いし。

 息子や隣の執事は置いといて、無表情の小さな女の子は興味が出た。小さな角に翼や細長い尻尾、サキュバスだ! これもファンタジーの定番だけど、桃色のツインテールで綺麗な女の子なのに無表情なのがもったいない。奴隷だからかな。俺がサキュバスちゃんのことを考えていると、執事さんがこっちに来た。メアリーさんに言われて離れたけど、何かの依頼かな?


「坊っちゃんが闘技大会に出られたいと申しておる」


「分かりました。こちらの書類にご記入お願いします」


「良かろう」


「闘技大会は予選を突破して本選に出場できます。そして、参加費100ソンお願いします」


「ふむ、では10万ソン払おう。坊っちゃんを本選から出場してくれ」


「………………はぁ」


 白髪の執事さんは俺と同じ闘技大会に出るのか。出場するのは領主の息子みたいだけどね。メアリーさんが俺に話してくれた内容を同じように説明している。離れて見るメアリーさんはいつもと違って凛々しいね。でも、詳しく聞いていると話の流れがおかしくなってきたぞ、お金の力で出場する気か! いくら領主の息子だからといってズルい、メアリーさんも微妙な顔している。


「いいアイデアだ、じいや」


「もったいなきお言葉」


「…………」


 領主の息子、いいや坊っちゃん呼びにしよう。坊っちゃんが執事のアイデアを称賛している。執事も執事なら、坊っちゃんも坊っちゃんか! 俺が呆れていると、離れて聞いているサキュバスちゃんも俺と同じような表情をしていた。サキュバスちゃんは常識があるみたいで、何となくホッとした。あ、目が合った。


「申し訳ありません。領主様のご子息といえど、お金の有無は関係なくルールは守っていください。闘技大会はオレメロン王国の1大イベントであり、ルール違反は領主様への信頼性が疑われます」


「それは困る。なるほど、ルール通りすれば良いのだな。じいや、早速ぼくの武器を手入れに行こう」


「かしこまりました、坊っちゃん。じいが完璧にメンテナンスしますよ。おいサキュバス、ぼさっと立ってないでさっさと歩け」


「…………」


 メアリーさんは俺の時と違って表情を変化させないまま、事務的にテキパキと領主関係者相手に動じなく答えている。メアリーさんが指摘した言葉に流石の坊っちゃんと執事も、それ以上のことは言うことなく、俺と同じように書類を提出していった。そして、再び赤い絨毯の上を歩いて冒険者ギルドから出ていった。

 でも、執事のサキュバスちゃんへの扱いが坊っちゃんと違い過ぎるのが、ちょっと気になった。ちなみに絨毯は消えた、あれも魔法なのか。





「ふぅ……」


「お疲れ様です、メアリーさん」


「ありがとうございます、スバル様」


「あれは、酷いね……」


「同感です。しかし、それだけの地位がありますからね。事実、デュランド領主はオレメロン王国3大領主に選ばれるほど優秀です」


 メアリーさんが表情を崩して、いつも見る優しい笑顔に戻った。やっぱり、笑顔が1番だね。それにしても、領主関係者はややこしそうで、領主さんはとっても偉くて優秀みたいだけど、息子はダメダメなようだ。今は大丈夫だけどこの街の未来、ヤバくないか?


「ゆっくり休んでください、メアリーさん」


「楽しみにしてますよ、スバル様」


 メアリーさんと別れの挨拶をして、俺は冒険者ギルドを出ようとした。





「失礼」


「っ!」


 冒険者ギルドの入口から男性が入ってきた。俺より身長が高くてムキムキでゴツいドラゴニュートだ。ヘタレなエドガー先輩と全く違い堂々している。しかも魔力が空気中に震えているようだけど、無意識なのか!? つ、強い……。





「おい、見ろよ! オレメロン王国騎士団を史上最年少で入団した『雷撃』のクザンだぜ!」


「マジかよ、エリート中のエリートじゃねえか!?」


「あいつも闘技大会に出場するのか!」


 周りの冒険者達が男性に注目している。領主の坊っちゃんに、王国騎士団ルーキー、まだ見ぬ出場者達。闘技大会か、面白くなってきたぜ。早く帰ってミランダやクリスに出場することを知らせないと。久々にわくわくするぜ!

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