第2章 10 パーティ『星影の衣』
「ペガサス、気をつけてね」
「キュオオオオオン」
俺達が助けたペガサスはミランダの回復魔法の効果もあって、すっかり元気になった。ふわふわの身体を撫でていると、白い翼が輝き始めた。翼から小さな羽が俺の目の前に浮いている。
「くれるのか?」
「キュオオオオオン」
「ありがとう。今度は悪い奴らに捕まるなよ。元気でなー!」
「キュオオオオオン!」
俺はペガサスの羽をお礼として受け取る。ペガサスは力強い鳴き声でペガサス山に翼を広げて帰って行く。ファンタジー定番のペガサスが見れて良かった。そういや、ペガサスもまた星座があったなー、と見送りながら思った。
「ただいまなの」
「仮面さん、ちょうど良かった。ハウスゴーレムの中にいる旦那さんを出してほしい」
「分かったの」
仮面さんがタイミングよく帰ってきた。ハウスゴーレムは仮面さんにしか開けれないからね。中にいた旦那さんは無事だった。
「本当にありがとうございました。もし宜しかったらお名前を聞かせてください」
「俺はスバル。こっちはミランダ、仮面さんです」
「スバルさんは『星影』の魔法使いなの」
旦那さんは自力で集落に戻るらしい。奴隷腕輪が無いから魔法を使って帰れるそうだ。最後にお礼を言われて、旦那さんと別れた。奥さんと娘さんによろしくねー! でも、やっぱり『星影』は恥ずかしかった。
「仮面さん、大事な話があるけど良い?」
「大丈夫なの」
「仮面さん、俺達のパーティに入ってくれないか?」
「スバル!?」
「……詳しい説明が欲しいの」
旦那さんと別れてペガサス山を下り始めた俺達。俺は歩きながら考えていたことを仲間に伝える。それは仮面さんをパーティにスカウトすることで、ミランダは驚き仮面さんは警戒しているように見える。いきなりで悪かったかな?
「1つ目は強いから。何だかんだで俺やミランダとも連携も出来た。初めて一緒に戦ったのにサポートが素晴らしかった」
「他の人でも出来るの」
そうだね。
「2つ目は商人だから。色んな武具を持っていたり、魔道具を使いこなしている。今回の護衛商品、奴隷首輪なんて王族ですら喉から手が出る品物も持っている手腕」
「褒めても何も出ないの」
それも、そうだね。
「そして、3つ目は……」
「下らない勧誘理由なら断るの」
「楽しかったから」
「……………………へ?」
仮面さんの気の抜けた声って初めて聞いた。
「仮面さんと話していると、すっごく楽しかった。安心して背中を預けれる。何より、今まで受けた依頼で1番面白かったから!」
「ぷっ、ふふふ、あははははははははははははっ! 楽しかったの? そんな理由で私をスカウトって、えええ!」
俺の3つ目の理由が余程ツボに入ったのか、仮面さんがいきなり笑い始めた。周りの目も気にしないで笑い続けている。
「か、仮面さん?」
「おかしくなったのか?」
「あー、久々に笑ったの。いいよ、スバルさんのパーティに入ってあげる、だけど条件があるの」
俺とミランダが戸惑っていると、ようやく仮面さんは落ち着いてくれた。それから俺達のパーティに入ってくれるようで嬉しいぜ! でも、条件?
「何?」
「臨時の仲間にしてほしいの」
「ずっとは無理?」
「ごめんなさいなの。私は商人だから、ずっと一緒には居られないの」
「そっか……」
「でも、嬉しかったの。これからよろしくお願いしますの」
俺達のパーティには入るけど、いつも一緒では居れない。そうだよね、仮面さんは商人だから色んな場所に行く必要がある。その時はまた一緒に旅が出来る、楽しみだ。俺達のパーティはこれで3人、そろそろ真剣にパーティの名前を決めないと。あとで2人と相談して決めよう!
「ここがマヨネップ帝国か。でっかい樹だなー」
「あれは世界樹と呼ばれている。ドラゴニュート達は飛行船を使って樹の上で暮らしているらしいぞ」
「…………………………」
「仮面さん?」
「っ! ごめんなの。ぼーっとしていたの」
俺達はマヨネップ帝国に入国した。入り口にも関わらず、巨大な樹が雲の上までそびえ立っている。ミランダによると、世界樹らしい。ファンタジーっぽいね。住んでいる人達がドラゴニュートであることに驚いた。詳しくは知らないけど、マヨネップ帝国はドラゴニュートが住む国らしい。オレメロン王国との境界線にも関わらず、たくさんの飛行船があった。飛行船なんて初めて見たけど、それを使わないといけないほどの相当広い国みたいだ。仮面さんは世界樹を無言で見続けている。何か思い出でもあるのかな?
「冒険者スバル様ですね。指名依頼達成を確認しました。それと賞金首『氷結』カシオペア及び『氷結団』の捕縛ありがとうございます。緊急臨時報酬を後日お送りさせていただきます」
「ありがとうございます」
マヨネップ帝国の冒険者ギルドにて、護衛依頼の達成を確認してもらう。俺達が来たオレメロン王国と似たような冒険者ギルドだったので、見た目とかは変わらない。結局、3日位で来れたけど中身の濃い3日間だったな。ギルドの人もまさか『氷結の魔女』と『氷結団』を捕まえたことには驚いていたね。他にもD級パーティ『日天の剣』の迷惑行為。これは俺達とアレックスさんの証言、エドガー先輩の自白が決定的になった。原因となった勘違いエルフに関して、治療が終わり次第ギルドによる刑罰が与えられるみたいだ。
「ここでお別れか。せっかく仲間になったのに寂しくなるね」
「また会おう、仮面女」
「ちょうど良い機会なの、スバルさん、ダークエルフ。私の本当の名前はクリスタルなの」
俺とミランダはオレメロン王国に帰る。仮面さんはマヨネップ帝国で商人として商売。だから、一旦お別れで寂しくなる。お別れの握手をし終えると、仮面さんが名前を教えてくれた。クリスタルさんか、綺麗な名前だね。
「クリスタルさん」
「クリスでいいの、スバルさん」
「改めて。また会おうね、クリス」
「ありがとなの、スバルさんのこと頼むのミランダ」
「ああ、任せろクリス」
呼び方も決まり、ミランダとクリスもお互い見た目や種族名で言わなくなった。これで少しは仲間として認めあってくれたかな。
「スバルさん。このミニゴーレムと魔道具ゴーレムをあげるの。ミニゴーレムは商品が欲しい時や情報を買い取るとか連絡が出来るの。魔道具ゴーレムは、戦闘で使う時に魔力を込めると助けてくれるの」
「ありがとう。そうだ、クリスは欲しい物は無い?」
「スバルさんの血……。なんちゃって♪」
「良いよ」
「……………………へ?」
クリスはしばらく会えないからと、珍しい魔道具を2つくれた。ミニゴーレムは携帯電話みたいな物で、離れた場所からでも会話や立体映像を出せる。魔道具ゴーレムは、クリスが『氷結の魔女』と戦っていたのと同じ物。これは有難い、強かったからね。俺は仲間とは言うものの、これだけ便利な魔道具をくれたクリスにお返しがしたくなった。クリスは冗談で『血』が欲しいって言ったけど、そのくらいなら問題ないよ。仲間だからね。あ、また抜けた声だ、面白いよクリス。
「はい、どうぞ」
「そ、そそそ、それじゃあ、ありがたく受け取らせて、いただきます、なの」
「クリス、動揺し過ぎだよ。ちなみに仮面は外さない?」
「これに関しては500万ソンを支払ってくれたら、特別に見せてあげるの」
俺はクリスが何故か仮面を被っているにも関わらず、身体を震わしてお礼を言っているのが楽しかった。ついでに仮面のことを尋ねると、やっぱり外してくれなかった。仲間になってくれただけで充分だよ。ちなみに『血』に関しては注射で抜き取った。クリスが丁寧に魔道具に納しているのが可愛かった。俺達は、笑いながらお別れをした。オレメロン王国に帰ろう!
「スバルさん、少しお別れなの。でも、また直ぐに会える気がするの。その時は敵対していないことを願っているの……ヴァンパイアバロネス、クリスタルの名にかけて!」
スバルとミランダが帰った夜。クリスは星空がかすむような明るい満月を見つめながら仮面を外す。そして、スバルがくれた血を見て微笑む。赤い目と鋭い牙が露になり、ヴァンパイアとして覚醒。ヴァンパイアバロネスは女男爵という女性のヴァンパイアが進化した者。仮面さんことクリスタルが、スバルがいるオレメロン王国に向けて、鋭い雰囲気を纏い紅い眼が輝くのであった。
「………………ごくり。こ、これがスバルさんの血。今まで見た血の中で1番美味しそうで良い香りなの! 飲んでみようかなー、でも、非常にもったいないの。でも、飲んでみたいのー! う~~、困ったのーーーっ!」
鋭い雰囲気から一転、クリスはヴァンパイアの本能と理性の狭間で、スバルの『血』の取り扱いを真剣に悩み始めるのであった。
「ただいま、メアリーさん」
「スバル様、お帰りなさい。指名依頼達成おめでとうございます。そして『氷結の魔女』及び『氷結団』の捕縛、お見事です!」
仮面さんをマヨネップ帝国に送った俺達は、オレメロン王国に帰って冒険者ギルドに報告した。そこにはお久し振りのメアリーさんがいて、依頼達成を一緒に喜んでくれた。氷結団の話になると、すっごく心配されてしまった。そりゃあ、新米パーティと有名盗賊団の争いなんて非常識だからね。今だから思うけど、よく勝てたな俺達。
「お礼の手紙も来てますよ」
「手紙?」
「スバル様のことを絵本の冒険者みたいと、喜んでいたそうです」
あの集落の親子からだった。手紙を読むと、あれから騎士団の方々が来て事情を説明したみたい。元気そうで良かった。やっぱり家族はみんな一緒が1番だね! ちなみに絵本のタイトルは『勇者オリオンの大冒険』。オリオンの子孫があんなヘタレだったことは、俺の心にしまっておこう。
「お前がスバルか?」
「はい。どちら様ですか?」
「俺はジャック。マヨネップ帝国の冒険者ギルドから聞いている。あの『氷結の魔女』を生け捕りするとは期待の新星だな」
「ギルドマスター!」
メアリーと話していると、後ろから声をかけられた。オレンジ色の髪で大人の雰囲気がすごい人だ。メアリーさんによると、ジャックさんがギルドマスターらしい。つまり、この冒険者ギルドで1番偉い人!
「初めまして、スバルです。今回のことは仲間のミランダとクリスがいたおかげです。仲間がいなければ、俺はこの世にいませんでした」
「良い心構えだ。仲間を大切にすることは熟練になっても覚えておくことだ」
俺は『氷結団』と戦ったことについて1人で勝ったとは思わない。特に氷結の魔女カシオペアは、クリスがアイスワールドを破って、ミランダが致命傷を与えて、俺がトドメをした。1人でも欠けていたら出来なかった。ジャックさんに俺の気持ちが伝わったみたいで嬉しいぜ。
「賞金だ、受け取れ!」
「ありがとうございます。やったね、ミランダ」
「しばらくの生活費は稼げたな」
俺はジャックさんから『護衛依頼の達成』『氷結団の壊滅』『賞金首の生け捕り』の賞金を頂いた。10万ソンだから半年は節約すれば生活出来る。ミランダと一緒に喜んだ。
「ただ、魔女が気になることを話していたそうだ。ダークエルフを捕まえたのは依頼されたからだ、と」
「何……!?」
「……まさか」
「ああ。ミランダが戦闘奴隷になったのも偶然じゃない。誰かが計画的に行った可能性が高い」
「氷結の裏に黒幕がいるのか……!?」
「許せない……」
俺はジャックさんから聞いた話に驚いた。ミランダが奴隷になった理由は魔女が実行犯だけど、計画的に依頼されたらしい。ミランダの因縁は終わったわけじゃない、始まったばかりだったのだ。見えないところで暗躍する黒幕め、必ず暴いてみせる! そして、ミランダと一緒に倒してやる!
「いずれにせよ、魔女の話では匿名の依頼で高額な報酬が前払いされている。ただ者ではないな」
「今より強くならないと……」
「そうだな。まずは冒険者ランクを上げろ。闇属性の人間に、ダークエルフは裏社会から狙われやすい。仲間を増やす、武器の強化など、魔女の賞金を使って備えるべきだ」
「はい! ありがとうございました!」
黒幕は俺の想像以上に厄介そうだ。賞金首とはいえ、氷結団と氷結の魔女カシオペアを大金で動かしたのは事実。今後、俺達が黒幕に近付いて行くにつれて、今回以上の手段が来るかもしれない。わくわくどころか、ゾクッと来る。俺の気持ちに気付いたのか、ジャックさんがアドバイスしてくれた。そうだ、まずは冒険者としての実力を上げていこう。ミランダとクリスが俺には居る。1人じゃない!
「……………………」
「ミランダ、帰ってからずっと黙っているけど、どうしたの?」
「狙われる人物に、心当たりは1つある」
「誰?」
「エルフだ。長年、対立しているからな」
俺達は冒険者ギルドを出て満腹亭へ久しぶりに帰宅。俺はのんびり身体を伸ばしているけど、ミランダは何か考えているみたいで硬い表情だ。理由を聞くと、ずっと黒幕について考えているようで犯人がエルフかもしれないらしい。エルフとダークエルフの仲が悪いのは知っているけど、今は忘れよう!
「ストップ、ストップ! 暗い話はここまで! まずは俺達の指名依頼達成のお祝いをしよう! ミランダ、食堂に行くよ! 今夜は宴だーーーっ!」
「ああ! …………ありがとう、スバル」
俺はミランダを無理矢理止める。そして、食堂のおばちゃんに料理をいっぱい作ってもらった。依頼達成の記念もあって、俺達は満腹亭で名の通り満腹になるまで小さな宴を楽しむのであった。
「無名の新米パーティが有名盗賊団を壊滅。スバル様、これほどの結果は冒険者ギルドとしても世間に知らせる義務があります。パーティの名前が必要です」
「メアリーさん、実は俺達のパーティ名が決まりました。ミランダとクリスと一緒に決めた名前……『星影の衣』です。よろしくお願いします」
『星影の衣』
リーダー スバル
副リーダー ミランダ
臨時 クリス
「はい。パーティ『星影の衣』改めておめでとうございます! そして、スバル様は数々の特例によってE級からC級冒険者にランクアップです!」
後日、俺は冒険者ギルドでメアリーさんにパーティ名を伝えた。パーティ名は『星影の衣』。ミランダとクリスが俺の魔法と戦闘を見て思い付いたらしい、恥ずかしいぞ。パーティ名も決まったし、今後の目標も出来た。ヴァンパイアの目撃、氷結団の壊滅、魔女の捕縛によって冒険者のレベルも上がって嬉しいな。今日も1日頑張ろう!




