第1章 2 冒険者
「メアリーさん、おはようございます」
「おはようございます、スバル様」
朝8時。俺は冒険者ギルドに来た。いよいよ冒険者デビュー。わくわくするぜ! メアリーさんに朝の挨拶して、初心者用の採取依頼を選んだ。冒険者の主な依頼は採取・討伐・特殊・指名だ。初心者F級の俺はまだ採取しか出来ないけどね。
「採取依頼、お願いします」
「今日の採取依頼は東の森に生息するコボルトの小剣です」
「魔物の武器ですか」
いきなり魔物か。この世界は地球にはいなかった魔物、つまりゲームでいうモンスターがいる。冒険者の依頼にある討伐は主に魔物ばかりだ。俺が受けるコボルトは、一般的に雑魚モンスターらしいけど俺には恐ろしい相手だ。油断せずに頑張ろう。
「採取の仕方は自由です。戦闘して手に入れたり、魔物の隙を見て盗むのも良しです」
「分かりました」
「スバル様は初依頼なので、期限は明後日までです。最低5本持ってきてください」
「行ってきます!」
小剣を取るだけか。コボルトを倒さなくていいのは採取依頼だからだ。新米冒険者の俺にとってはありがたい。達成期限は長いけど、宿泊代1週間分のお金を貯めなきゃならないから急がないとね。冒険者ギルドを飛び出した俺は、コボルトのいる東の森に向かった。わくわくするぜ!
「よし。コボルトを探すぞ、影探知〈シャドウサーチ〉」
東の森に到着。俺は早速、影魔法を使う。シャドウサーチは、周りの魔力を感知する魔法。魔物は闇属性が多いから見つかりやすいな。闇属性だったことでラッキーだ。ここから先にコボルトが1匹いるみたい、行ってみよう。
「まずは、こっそり貰おう。影透明〈シャドウステルス〉」
いたいた、コボルトだ。小剣を持っている。魔物は知力が低いから、今のところ俺には気付いていないみたい。シャドウステルス、この魔法は影を薄くする魔法だ。気配を隠すにはピッタリ。さあ、行くぞ。さし足、そし足、しのび足。
「ギッ?」
「1本、ゲット。影収納〈シャドウホール〉」
魔法が発動していても、やっぱドキドキした。案外気付かれないものだな。コボルトが小剣を無くしたことに気付いたみたいだけど、もう遅いよ。手に入れた小剣は、シャドウホールの魔法で影の中に収納しておく。シャドウホールは便利で試した限り、生物でも1月は保つ。ありがたや、ありがたや。
「次は実戦!」
「ギッ!? ギッ!」
「やあ!」
俺は再びシャドウサーチを使ってコボルトを探す。なるべく、1匹だけでいるコボルトを狙っている。まだ2匹以上は怖いし自信が無い。こういう時に仲間がいれば嬉しいけど、無いものねだりは駄目だ。コボルトを見つけて、わざと前に出る。コボルトは一瞬驚いたけど、すぐに戦闘モードに入ったみたい。でも、俺はすでに戦闘モードだ。
「影弾〈シャドウボール〉!」
「ギッ……」
「失敗。威力が強かったかな?」
あらかじめ闇の魔力を貯めて、コボルトに対してシャドウボールを放った結果、コボルトは小剣と一緒に消滅してしまった。魔物といえど命を奪うことは最初は戸惑ったけど、冒険者になるための修行で克服している。不意討ちだったのもあるけど、俺の影魔法が強かったみたい。コボルトを一撃で倒せたのは嬉しかったけど、依頼内容は失敗。反省、次に行ってみよう。
「ギッ!」
「影盾〈シャドウシールド〉!」
「ギッ!?」
「影弾〈シャドウボール〉!」
「ギッ……」
「上手くいった」
今度はコボルトが俺を見つけるようにしてみた。俺を見つけたコボルトは小剣を降りおろしてきたけど、防御魔法シャドウシールドで全身を魔力で固めて防御。コボルトが俺に効かないことに驚いた隙に小剣を右手で奪って、左手からシャドウボールを放った。コボルトは消滅して、小剣は無事。シャドウサーチで周りに危険が無いことを調べてからガッツポーズ! この調子で小剣を集めていこう。
「ギィィィィ!」「ギィィィィ!」「ギィィィィ!」「ギィィィィ!」
「な、何だ!?」
あれから色んな方法でコボルトから小剣を奪っていった。結局、2匹以上は自信が無くて1匹だけを見つけるのは時間がかかったけど、何とか5本は確保。森から帰る時に3本こっそり隠れて手に入れたのはラッキーだった。
コボルトの小剣が8個揃って、そろそろ帰ろうとしたところ、いきなりコボルトの集団が林から出てきた。俺は咄嗟にシャドウシールドを発動したけど、コボルト集団は俺に構うことなく後ろに走っていく。
「グオオオオっ!」
「ぎゃあああああぁぁぁっ!」
現れたのは俺の倍はある大きさの赤熊。何故か右腕が無い。まさか、コボルト集団はこの熊から逃げてきたのか!? どうする、俺! 熊といえば死んだふり……って、叫んだ時点でアウト! 大きな赤い熊は俺に目を向けて襲いかかってきた。な、何かの魔法をしないと……。
「グオオオオっ!」
「ーーーーっ」
赤熊は無抵抗の俺を大きな左手の爪で引き裂いた。地面には黒い液体が飛び散る。赤熊は周りをあたふた見ながら、走り去っていった。
「ふー、危なかった……」
俺は影から出てきた。ちなみに引き裂かれたのは影人形〈シャドウドール〉。魔力を元にした身代わりの影魔法だ。父さんとの修行に感謝。俺は周りを警戒しながらデュラント街へ戻るのであった。
「ただいま戻りました、メアリーさん」
「お帰りなさい、スバル様。コボルトの小剣は集まりましたか?」
「はい。合計8本です。確認よろしくお願いします」
「確認終わりました。おめでとうございます。採取依頼コボルトの小剣、達成です。それでは1000ソンです。お受け取りください」
俺の冒険者デビュー戦はとりあえず成功。メアリーさんに報告して1000ソンをゲット、これで1週間分の宿泊代は大丈夫。これからは採取依頼をこなして討伐依頼が出来るE級を目指そう。
「メアリーさん、依頼中に大きな赤熊を見たのですが。右腕が無かったです」
「赤熊ですか? この辺りには熊は居りませんが……分かりました、調べておきますね」
「ありがとうございます」
俺は右腕の無い赤熊のことをメアリーさんに伝えておいた。でも、赤い熊なんて居ないらしい。じゃあ何であんなところに居たんだろう?
「採取依頼の完了を確認しました。これで昇格条件の達成です。スバル様おめでとうございます。E級に昇格です」
「ありがとうございます!」
冒険者登録から1週間後。俺は採取依頼をこなしてE級になった。赤熊はあれ以来は見ていない。ホッとした。夢の冒険者生活の世界が広まったと同時に身体が緊張で震える。何故なら、E級からは討伐依頼が出来るからだ。魔物との戦いが身近になる。わくわくするぜ!