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第2章 9 星影の誕生

「す、すごいの……」


「あれは……影魔法、なのか……?」


 スバルが放った影の上級魔法スターライトバスターを見て、仮面商人とミランダは驚きを隠せていない。スバルを信じていたが、まさか『氷結』の魔女カシオペアを倒すとは思わなかった。しかも、あの魔法は長年生きてきたダークエルフでさえ見たことない。


「スバルさんの影魔法に氷が空に散らばって、星空みたいなの」


「星空の影魔法……星影……」


「ダークエルフにしては良い言葉なの。あの魔法といい『星影』はスバルさんにぴったりの2つ名なの」


「ああ。星の影と書いて光という意味になる言葉だからな。スバルは私達の光だ……」


 真っ黒のスバルが仲間達のところに歩いて戻ってくる。空からはキラキラと輝いている氷が降り、スバルの周りだけ星空のような錯覚を覚える。仮面商人とミランダは不思議な錯覚が、あまりにも今のスバルの雰囲気と合うことから自然と言葉にしていた。その名は『星影』、星の光を意味する言葉。





「助かった!」

「ありがとう!」

「すごいぞ!」

「闇の魔法使い!」

「見たことない魔法だ!」


 俺はシャドウスタイルを解除。相変わらず、不安定の影魔法だ。今回は当てる標的が大きかったから何とか出来たけど、じいちゃんのように上手くいかないな。もっと修行しなきゃ。そんなことを思いながらミランダと仮面さんのもとに戻ると、何か氷結団の奴らからお礼を言われ始めた。いや、仲間を守っただけでお前らを助けた覚えはないぞ!


「みんな注目なの。私達を救ってくれたのはE級パーティの魔法使いスバルさん! 星影の魔法使いなの!」


「星影!」

「星影!」

「星影!」

「星影!」


「恥ずかしいよ……」


「一番の功労者だ。胸を張れ、スバル」


 俺が戸惑っていると、仮面さんがゴーレムに乗って目の上からとんでもない説明をし始めた。っていうか、星影って何!? 恥ずかしい! ヤバい、顔が真っ赤で暑い! しかも、星影コールが!? やーめーてー、恥ずかし過ぎる! 仮面さん、そろそろ終わって、ミランダも止めてよ、お願いだから!





「キュオオオオ」


「風鎖〈サイクロンチェイン〉」


「おほ……」


「魔女は魔力切れで気絶していた。もう抵抗する力は残っていない。このまま連行する」


「お疲れ様なの」


 氷結の魔女カシオペアは俺の影魔法をもろに当たって、なおかつ魔力切れでペガサスが甘噛みして捕まえていたことで見つかった。ミランダの風魔法で捕縛、氷結団の奴らも逃げる気は無くて罪を償うみたい。裏切り者マリクの奴が見つからなかったのは仕方ない。これで全てが解決した……。





「見つけましたのですわ!」


「「「はぁ……」」」


「キュオオオオ……」


 解決したのに、1つ問題があった。勘違いエルフとヘタレのドラゴニュートだよ。この声を聞くだけでため息が出るって何だよ、空気を読め、頼むから。隣を見てみろよ、魔物のペガサスでさえ困っているぞ。


「待って、フレア!」


「エドガー様!?」


「……ごめんなさい、スバルくん。いっぱい迷惑をかけて……」


「謝るぐらいなら、最初からしっかりしろ先輩。ギルドできっ~~ちり報告するからな」


「うん……、1からやり直すよ……」


「貴様ああああああああ! エドガー様になんたる屈辱おおおおおおおおっ!」


「フレア!」


 俺が冷めた目で見ているとドラゴニュートが謝ってきた。謝るのが遅いし、もう全部終わってしまったよ。ギルドへの報告も全て了承をもらっていると、とうとう勘違いエルフがブチキレて魔力を纏い始めた。さて、こっちもブチキレるか!


「ミランダ、終わったから好きにしていいよ! 戦闘を許可する!」


「っ、了解!」


 俺はミランダに自由を与えた。その意図を理解したミランダは、槍を構えた。


「火〈ヒート〉……!」


「遅すぎる。風槍〈サイクロンスピア〉!」


「がはぁっ!」


「お見事」


 瞬殺。勘違いエルフとミランダの対決は一瞬で終わった。これほど勝負が最初から分かった戦いは無いだろうね。


「わたくし、は、イストール家、の、英雄、です、わ」


「おう、無駄口を叩けるなら治療魔法いらないな。がっつり自然治療1ヶ月、入院してきな!」


 アレックスさんが勘違いエルフを台車に投げ込んでいる。あえていおう、ざまぁ。エドガー先輩も謝りながら入っていった。ま、次に会う時はマシになっていることを願うよ。


「お疲れ様、ミランダ」


「すっきりしたぞ、スバル!」


「災難だったね。それにしても、あいつらってそんなに偉いのか?」


「なんだ、スバルはイストール家を知らないのか。常識だぞ」


 ミランダが笑顔で帰ってきた。エルフとダークエルフのしがらみは置いといて、勘違いエルフとの対立は圧勝で良かったね。それから、エドガー先輩の家イストールについては。





「知っているよ。ヴァンパイアキング討伐、伝説の勇者オリオン=フォン=イストール様だろ。でも、エドガーやフレアとか、おまけは知らないよ」


「はははっ! おまけか! 全くその通りだな」


 もちろん知っている。冒険者になる前から調べて憧れている伝説だ。ヴァンパイアキングを倒した『勇者』『英雄』と呼ばれている。まあ、オリオン座っていうのは何となく、おうし座とは縁があるから嬉しいような、悲しいような、微妙な気分だけどね。勇者がいるってことは、もしかしたら魔王もいるかもしれない。怖いけどね。ちなみにヴァンパイアキングは魔王ではなくて『覇王』と呼ばれている。理由は歴代ヴァンパイアキングは、ヴァンパイア同士で闘いあって勝者になった者が『覇王』と名乗れるらしい。そういえば、ヴァンパイアバロンのルビーも話していたな。フレアとか初対面だし、ただの従者じゃん。ミランダもすっきりしたし、改めてマヨネップ帝国に行こう。でも、ここで問題が起きた。





「そういえば、仮面さんは?」


 どこに行ったのかな?





「はぁ、はぁ、ちくしょう……畜生が……!」


 暗闇の森を駆け抜けて逃げる男マリク。奴隷商人として、氷結団として、仮面商人が持っていた奴隷首輪は何としても奪いたかった。あれさえあれば、どんな人でも操れる。ギルドマスター、領主、国王。作戦は全て完璧だった。


「見つけたの。氷結団副リーダー、マリク」


「仮面野郎!」


「野郎じゃないの、女なの」


 しかし、マリクの作戦は失敗した。仮面商人が護衛として依頼した闇属性の人間とダークエルフによって、氷結団壊滅。さらにはカシオペアの敗北。今のマリクに出来ることは裏社会で一旦身を隠すこと。走り疲れたマリクが休んでいると、作戦失敗となった原因である仮面商人が現れた。その瞬間、マリクの中で悪意が轟く。


「うるせえ、お前のせいで俺は終わりだ。せめて道連れでその仮面ごと消してやる!」


「……」


「へっ、ざまあねえな」


 マリクは腰から鋭いナイフを取り出して仮面商人に向かって突き刺した。仮面から赤い血が流れて、マリクに多少の満足感が満たされる。しかし、それが最後の幸福だった。





「……満足したの?」


 額にナイフが刺さったまま、仮面商人が話し始めた。





「な、ななな、何で、生きている!? 脳みそに突き刺したはず!」


「私は……私達は、そんなオモチャで傷ひとつ付かないの」


 マリクが狼狽えているなか、仮面商人の仮面が剥がれた。その素顔はある種族の特徴である赤い(・・・)と小さいながらも鋭い牙。額に刺さっているナイフを簡単に抜き取った。


「あ、赤目だと……!? てめえ、まさかヴァンパーーーー」


「ごちそうさま。う~ん、いまいちの味なの」


 仮面商人の正体がヴァンパイアという恐ろしい現実に絶望していくマリク。本能的に逃げようと足を動かした瞬間、首筋を噛まれた。その一瞬でヴァンパイアの食事は終わった。


「……た、す、けて」


「いつかスバルさんの血も吸ってみたいの。でも、我慢我慢。スバルさんは支配する眷属より、隣で自由について行くほうが面白そうなの♪」


 ヴァンパイアに噛まれた人は、同じヴァンパイアになるか、生きているか死んでいるか分からない廃人になる。それを決めるのはヴァンパイア次第。マリクが暗闇に助けを求めているのを背に向けて、仮面を再び被るヴァンパイア。身だしなみを整えた仮面商人は、笑顔でスバルが待っている場所に戻っていく。やがて、森は何事もなく静かになるのであった。

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