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第2章 8 スターライトバスター

「ひ、酷い目にあったザマス。まさか、ペガサスが逆らってくるとは思わなかったザマス」


「キュオオン……!」


 魔女カシオペアが膝まずいてボロボロになって身長ほど長い杖も、くの字に曲がっている。ペガサスが体当たりした時に変形してしまっただろう。ペガサスは魔物のなかでも珍しい光属性で、その戦闘力は本気を出せば圧倒的だ。氷結団の奴らは恐らく力を抑える魔道具を使ってから捕獲したのだろうな。ペガサスは空中でカシオペアを睨み付けている。


「それはお前がペガサスを舐めているからだ!」


「闇人間……!」


「喧嘩を売ってきたのはお前だ。前回の借り、きっちり返してもらう!」


「ダークエルフ……!」


「私の商品を奪うなんて許さないの。誰を相手にしたか思い知らせてあげるの」


「仮面商人……!」


「ペガサスはそこで見守ってくれ。ここからは俺達が相手だ、氷結の魔女カシオペア! 闇人間、ダークエルフ、仮面商人のチームワーク。俺達の力、とくと味わえ!」


 俺はペガサスの分の怒りもこめて魔女カシオペアに叫ぶ。魔女は俺達に気付いて、直ぐに戦闘態勢になる。切り替えの早さは賞金首に指名される実力者か。だけど、俺にはミランダと仮面さんがいる。2人も魔女に対して発言して、やる気満々。魔女も俺達を睨み、全員の魔力がぶつかりあう。ペガサスが空中で見守るなかで初めて3人でのチームワーク……わくわくするぜ!





「影弾〈シャドウボール〉!」


「風槍〈サイクロンスピア〉!」


「魔道具、土魔人〈ランドゴーレム〉!」


《サモン ランドゴーレム》


「氷連弾〈アイスガトリング〉!」


 俺達の魔法と魔女の魔法がぶつかりあう。シャドウボールはアイスガトリングに消されるが、ランドゴーレムを盾にしたミランダが魔女に近づく。


「ゴーーーーー」


「はああああああっ!」


「ふふふ! あの迷惑パーティより遥かに強いザマス。出し惜しみはしないザマス、氷世界〈アイスワールド〉!」


「いきなり!? 仮面さん、足に魔力を纏って飛んで!」


「了解なの!」


 ミランダが凍るランドゴーレムを踏み台代わりにして、魔女に向かってダッシュ。槍が届く寸前に、魔女がアイスワールドを発動。俺は仮面さんにアイスワールドで凍る地面の対策を伝えて飛び退く。氷結団のアジトや周辺の森林は凍りついて銀世界に変化した。


「ミランダ、仮面さん、無事か!」


「私は大丈夫だけど、ダークエルフが凍っているの!」


「ーーーー」


「このまま砕いてあげるザマス」


「やめろぉぉぉぉぉーーーーーっ!」


 俺と仮面さんは何とか無事だったけど、接近していたミランダはまともに当たって凍っていた。しかも、目の前には魔女カシオペアが杖を使ってミランダを砕こうとしている!? 俺は気付いて走り出すけど、間に合わない!


「仕方ないの。スバルさんの信頼のため特別に助けてあげるの。魔道具、火魔人〈フレイムゴーレム〉」


《サモン フレイムゴーレム》


「ゴーーーーー」


「砕け……ん? ぎゃあああああああっ!」


 仮面さんが魔道具に魔力を込めて凍ったランドゴーレムに投げる。ゴーレムは炎を纏ったフレイムゴーレムに変化。一瞬で氷が溶けて、ゴーレムの拳がミランダを砕こうとする魔女をぶっ飛ばした。あ、危なかった……。





「フレイムゴーレム、ダークエルフの氷を溶かすの」


「ゴーーーーー」


「わ、私は……」


「ミランダ! 良かった、良かったよ、本当に良かった! 仮面さん、ありがとう!」


「どういたしましてなの」


 フレイムゴーレムが凍ったミランダを溶かしてくれた。ていうか、仮面さんのゴーレムは魔道具によって属性が変わるのか、すごいな。ミランダが気付いてホッとして抱き締める。もう、仮面さんには頭が上がらない。でも、これならアイスワールドに対抗できるかもしれない!


「仮面さん、その炎ゴーレムの力で周りの氷は溶かすことは可能?」


「アイスワールドは、なかなか強力な魔法なの。溶かしても一瞬で戻ると思うの」


「一瞬か。でも、魔女の有利な地形で長期戦は厳しい。短期決戦をしよう、ミランダ、仮面さん、作戦を伝える」


「了解!」


「了解なの!」


 俺はフレイムゴーレムを見て仮面さんに氷魔法に対抗できるか聞く。火の効果は一瞬でアイスワールドの再生が早いらしく、ミランダを溶かした氷も再び凍り始めている。でも、これなら行ける。前回の戦いも魔女がアイスワールドを使ってから一方的だった。ならば、俺達の一斉攻撃なら勝てる!


「い、痛いザマス……」


「「「行くぞ!」」」


「く、氷針〈アイスニードル〉!」


 魔女がフレイムゴーレムのダメージで動きが鈍い今がチャンス。俺達は今まで以上に集中して攻める。魔女も俺達の雰囲気に気付いて、全力で氷魔法をしてきた。


「影腕〈シャドウアーム〉! 仮面さん!」


「ゴーレムファイヤーなの」


「ゴーーーーー」


「そこだ、影拳〈シャドウパンチ〉!」


「なぬ、アイスワールドが!? でも、無駄ザマス。氷壁〈アイスウォール〉で防御!」


 俺は影で作りだした巨大な黒い右手をゆっくり握りしめてから、アイスニードルに向けて放つ。さらに追加の氷魔法が来ないように、仮面さんのフレイムゴーレムが周りの氷に向かって火を吐く。周りの氷が使えなくなった魔女カシオペアは自らの魔力でアイスウォールを作って防御。シャドウアームは氷の壁を砕いたが、消え始めて塞がれた。





「ちっ!」


「ふふふ、惜しかったザマスな」


「いいや、チェックメイトだ……ミランダ!」


「はあああああああっ!」


 俺が舌打ちしているのを見て笑みを隠さない魔女。だけど、それが俺達の狙いだ! 消えていくシャドウアームの拳から現れたのはミランダ。俺はミランダを握りしめながらシャドウパンチをしていた。ミランダが傷付かないように殴るのは大変だった。


「ダークエルフ!? まさか、影に隠れて……」


「奥義! 風音牙〈サイクロンソニックファング〉!」


「ぎゃあああああああああああ!」


 魔女は突然現れたミランダに驚いている。防御をしようとしても、周りの氷は溶かしたし、再び魔力を貯めるには一瞬の時間が必要。でも、その一瞬の時間もミランダは与えない。ミランダが放った風の上級魔法サイクロンソニックファングは、魔女が持っていた長い杖を真っ二つでして、魔女カシオペアを上空に吹き飛ばした。


「よっしゃああああああ!」


「はあ……はあ……やったぞ……」


「ダークエルフ、なかなかやるの。流石、スバルさんが見込んだことだけはあるの」


 俺は完璧に決まったミランダの一撃を見て叫んだ。ミランダも仮面さんも勝利を確信していた。





「……よくも、私のアイスワールドを……壊したザマス! 最後に笑うのは、この私ザマス!」


「あいつ、まだ!?」


「これが本当の最後の一撃ザマス……! 奥義……氷結隕石〈ブリザードメテオクラッシュ〉!」


 勝利を確信した俺達だったけど、空から魔女の声が轟いた。しかも、感じたことのない恐ろしい魔力! これはヤバいと考えた瞬間、ペガサス山の空を覆い尽くす巨大な氷塊が現れて落ちてきた!





「お頭、俺達も潰れてしまう!」

「関係無いザマス! 闇人間達もろとも潰れるザマス!」

「い、嫌だ!」

「逃げろ!」

「待ってくれーーっ」

「置いていかないでーー」

「畜生!?」

「くそったれれれれれ」

「ちっ、ヤバいな。ここで捕まるわけにはいかねえ」


 今まで俺達の戦闘から離れて戦闘不能だった氷結団の奴らも、魔女の攻撃は予想外だったのか狼狽えている。最後の声は裏切ったマリクっぽいけど、捕まえる余裕は無かった。





「あれは不味いの。ペガサス山を含む周辺が潰されてしまうの。今から逃げても間に合わず、私達もぺっちゃんこなの」


「キュオオン!」


「ペガサス……? ありがとう。でも、俺達が逃げれてもきみの住み処が壊れてしまうよ。だから……俺が、行く。あの氷魔法を破る……! カシオペアを倒す!」


「スバル!?」


「無茶なの。今のスバルさんに、あの魔法には勝てないの」


 仮面さんは落ちてくる巨大な氷塊を見て冷静に破壊力を予測していた。空中にいたペガサスが俺達の元に来て低くしゃがんだ。これは俺達に乗れってことか? 嬉しいよ、ありがとう。まだやりたいことがいっぱいある、こんなところで命を落とすにはいけない。でも、それ以上にここで逃げたらダメな気がした。俺は闇属性だから、回復したカシオペアが今後襲ってくるかもしれない。ここでカシオペアを倒すという俺の発言にミランダは驚き、仮面さんは俺の実力を考えて否定してくる。確かに俺達はぼろぼろだ。


「1つだけ方法がある……。お願いだ」


「……分かったの。どのみち逃げ切れないなら、スバルさんに賭けるの」


「スバル! 信じているぞ!」


 俺は2人に頭を下げる。仮面さんは状況を考えて諦め、ミランダは信じてくれた。2人とも本当に良い仲間だよ、その仲間を守る! そして、このペガサス山にはかっこいいペガサスや集落の親子さんも暮らしている。何より俺の故郷カルデア村に似ているこの場所を破壊させてたまるか!


「じいちゃんと違って、まだ未完成だけど、やらなきゃ。今やらなきゃ、いつやるんだ! 行くぞおおおおおおおお! 影衣〈シャドウスタイル〉!」


「影が……スバルを……纏った!?」


「こんな魔法知らないの……それに、この膨大な闇の魔力は……! スバルさん、あなたは一体……!?」


 俺は2人から離れて空に向かって覚悟を叫ぶ。じいちゃんから教えてもらった必殺技を使う時が来た。修行を思い出せ! まずはシャドウスタイル、それは俺の身体を全て影に染める魔法。顔から腕に手先の爪まで全てを影にする。これで真っ黒人間の完成だ。さらに、右腕を高く伸ばして左手で右手首を支え、両足は影を地面に突き刺して固定。右手の手のひらに闇の魔力をチャージ開始。あとは放つのみ!





「ひぃさああああああつッ! スタァァァライトォ! バスタァァァァァァ!」


 限界までチャージした魔力を発射。放出し続けて反動で吹き飛ばされないように無理矢理両足をさらに固定。俺の必殺技である星影砲〈スターライトバスター〉は、威力が高すぎて不安定な影の上級魔法。じいちゃんにはまだまだ及ばないし、俺自身コントロールが上手く出来ていない。だけど、あれだけ巨大な標的ブリザードメテオクラッシュなら当たる。絶対に打ち砕く!





「下から巨大な闇の魔力!? か、影ごとき、潰して……!」


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


「な、なんて、馬鹿げた魔力ザマス!? に、人間がこれほどの闇の魔力を放出するなど……化物ザマス!」


「ぶっとべええええええええええええええええええええええええええっ!」


「わ、私の奥義が砕かれた……!? そ、そんな馬鹿なことが……あり得ない、あり得ないザマああああああああああああああああああああああーーーー」


「よっっっ、しゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」


 地上から膨大な闇の魔力を感じた魔女カシオペアは、ペガサス山を覆い尽くす巨大な氷塊を落とす速度を速めた。しかし、その瞬間とてつもない力が氷塊に激突して勢いが無くなってしまう。何とかバランスを整えて再び落とそうと試みるが、それを上回る影魔法スターライトバスターが氷塊を呑み込んでしまった。氷結の魔女カシオペアは、己の現状を認めないままスターライトバスターによって吹き飛ばされて、氷結団は名もなき新人パーティに敗れる。スバルの勝利の雄叫びがペガサス山に轟くのであった。

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