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第2章 6 作戦会議

『スバル……。スバル、さん……』


 目の前が真っ暗で見えないなか、声が聞こえる。優しい声だ。誰だ?


「あ、なた、は……」


『意識を取り戻しましたね。もう大丈夫、ゆっくり目を覚ましてください。あなたの夢はまだまだ始まったばかり、これからも見守っていますよ……』


「ま、って……」


 いや、俺はこの声を知っている。暗い何も無い闇から聞こえてくる。今と同じような時に聞いた、忘れてはいけない、あの人生。寝たきりで一度も外に行けなかった前世だ。そして、俺をここに連れてきてくれたのは……。





「大丈夫なの、スバルさん?」


「仮面さん……。ミランダは?」


「生きているの。でも、回復に時間がかかっているの」


 目が覚めた。俺はどうなった、いや何か大切なことをしていたはず。思い出せない、何で。ミランダ、そうだミランダは無事なのか。周りを見てみると、仮面さんがいた。何かの小屋の中なのか、先程までの山道じゃない。仮面さんによると、ミランダは無事みたいで良かった。





「起きたか、坊主。実はマリクが裏切りやがった!」


「マリクが氷結団と繋がっていたの」


「何だって!? ……それで俺達の動きが読まれたのか」


 ここは仮面さんが身に着けていた魔道具で作ったハウスゴーレム。外からアレックスさんが入ってきた。怒っているみたいで、氷結団が襲ってきた理由はあのマリクの手口らしい。初めて会った時から信用できなかったけど、まさか山賊の一員とは思わなかったな。雇われた傭兵隊は何も知らなかったみたいで、マリクによるカモフラージュだった。


「こ、ここは……」


「ミランダ! 良かった、気がついたね。俺も気がついたばかりだよ」


「ちょうど良いタイミングなの、スバルさん。アレックスとも相談したけど、マヨネップ帝国で依頼された商品の奪還したいの」


「それは、つまり……」


「このペガサス山にある氷結団のアジトに突入するの」


「ええええええええー!?」


 ミランダも気がついた。俺は優しく起き上がらせてあげて、温かい飲み物を渡す。すると、仮面さんが氷結団に乗り込むと言い出した。あまりの発言に大声でびっくりしてしまった。





「仮面さん、いくら何でも無茶だよ。他の冒険者やギルドに報告したほうが良いって!」


「落ち着くの、スバルさん。氷結団と戦うわけじゃないの、アレックス説明お願いなの」


「ああ。奴らは意外と近い場所にいるだろう。最初の襲撃からカシオペアが来るまで半日しか経っていない。手下が報告して、カシオペアが待ち伏せした時間も考えて間違いない。どうだ?」


 俺は仮面さんに諦めるように促す。俺とミランダを倒した魔女カシオペアに加えて、仲間がいっぱいいる相手のアジトに行くなんて危険過ぎる。俺の発言を予想していたのか、仮面さんはアレックスと共に説明してきた。あくまでも、戦闘ではなく奪還のみ。そして、相手のアジトは近い場所にあることを聞く。言っていることは正しいけど不安だよ。


「考えとしては間違っていないな」


「ミランダ……」


「だが、決めるのはスバルだ。依頼が失敗したのは痛いが、今なら生きてギルドに報告出来る」


 俺の心情を察してミランダが助け船を出してくれた。そうだね、全ては俺次第か。


「現状『日天の剣』と坊主達のパーティは問題ない。傭兵隊は凍傷による怪我が酷くて俺が面倒を見る。そして、仮面商人が一人でも行くそうだ」


「仮面さん!?」


「商品は盗まれたけど、魔道具は肌身離さす持っているの。氷結団、特にマリクだけは許さない、誰を敵にまわしたかその身に刻みこんでやるの」


「恐ろしい女だな」


 アレックスさんが『日天の剣』は無事で傭兵隊は戦える状態ではないと言う。俺達が断れば、仮面さん一人で行くことに驚く。仮面さん曰く、商人が同業者から商売道具を盗むのはタブーらしくて、なおかつ舐められたままでは嫌なようだ。仮面さんって意外と情熱家なのかな、と思ってしまった。ミランダも同じように考えたみたい。


「……分かったよ。俺達の依頼は仮面さんの護衛だ。護衛対象が行くなら、護衛しないとね。ミランダもいい?」


「スバルなら、そう言うと思っていたぞ」


「ありがとう、スバルさん」


「まずは、あいつら『日天の剣』を何としてでも説得しないとな。さすがに俺達3人だけだと厳しーーーー」





ドォォオオオオーーーーーン!!





「な、何だ!?」


「ペガサス山の頂上が燃えているの!」


「おい、大変だ『日天の剣』の奴らがいねえ!」


「「「ま、まさか……」」」


 俺は仮面さんの護衛を目的とした氷結団に奪われた護衛商品の奪還に挑むことを決意する。ミランダと仮面さんも協力的。問題は、あの問題パーティ『日天の剣』だ。ヘタレのドラゴニュートとムカつくエルフを何としても言うことを聞かせないと。そう思った矢先の爆発音。外に出てみると、ペガサス山の頂上が燃えている。しかも、まだ爆発音が続いている。さらに別のハウスゴーレムで休んでいたはずの『日天の剣』がいないとアレックスさんが叫ぶ。俺達は最悪の予想を思い浮かべるしかなかった。あいつら、氷結団のアジトを襲撃してやがる!


 何やっているだああああああああー!?





「わたくし達が先に氷結団から奪い返すのですわ」


「す、スバルくん達も一緒に……」


「エドガー様、これ以上お兄様から引き離されたいのですか?」


「っ! そ、それは嫌だ……」


「行きましょう。わたくし達が氷結団を倒して英雄になるのですわ!」


「お、おおーっ!」


 スバルが目覚める前。アレックスから氷結団への浸入を聞いたエドガーとフレア。フレアはやる気満々で自分たちのみで行こうとしているが、ヘタレなエドガーは不安で心配。そんなエドガーをフレアは、エドガーの兄を思い出させて強引に進めて行く。本来リーダーであるエドガーだが、最早そこにリーダーの姿は無くて従者の暴走を止めることすらしない。ハウスゴーレムを抜け出して、エドガーがドラコンの翼を広げフレアを背中に乗せて飛び去った。ペガサス山の夜空は暗雲が漂い始めた。





「恐らく勝手に行ったと……」


「馬鹿なの」


「馬鹿だね」


「馬鹿だな」


 アレックスさんが言いずらそうに『日天の剣』について話す。俺達はばっさりと諦めた。うん、あいつらに期待した俺がアホだった。


「それじゃあ、逆に利用させて貰おう。どうせ真正面から攻めているに違いない。俺達は裏から突入しよう」


「私が居れば護衛商品が分かるの。それにゴーレムも戦力になるの」


「スバル、氷結の魔女はどうする?」


「後回し。今回の依頼はあくまでも護衛依頼。護衛商品の奪還が最優先。護衛商品さえ有れば、戦闘は避けるべきだ。ミランダの因縁相手だけどね」


「いや。スバルの言う通り、今は依頼中だ。依頼が終わってから決着をつけてやる」


 俺は『日天の剣』が真正面から氷結団と戦っていると考え、ミランダと仮面さんに作戦を伝える。2人もまた意見を出してきて今やるべき内容をまとめる。特に強い魔女カシオペアは会わないようにして、素早く護衛商品を奪還して脱出することだ。ミランダも納得してくれて、この依頼が終わった後に決着をつけると意気込んでいる。


「スバルさん、良いリーダーシップなの」


「ありがとう」


「坊主、生きて帰ってくることを祈っているぜ。……俺の商品を頼む」


「はい、俺達全員で帰ってきます!」


 俺は仮面さんに評価され、アレックスさんから改めてお願いされた。ハウスゴーレムから出て、ペガサス山の頂上にあると思われる氷結団のアジトに向かって走る。待っていろ、氷結団!

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