第2章 5 スバル・ミランダVSカシオペア
「ぎゃあああああああっ!」
「手があああああああっ!」
「足があああああああっ!」
氷結団のトップであるカシオペアが現れた。カシオペアは先頭馬車の護衛をしていたエドガーとフレアを倒して、奴隷商人マリクが雇った傭兵隊の手足が凍らせている。基本的に傭兵は魔法を使わず、己の力のみで戦う。そのため魔法使いとは相性が悪い。
「チッ、役に立たねえな、オイ!」
「これで2台の馬車は頂いたザマス!」
マリクは傭兵隊を見捨て、商売道具の馬車すら放置して、カシオペアから逃げる。そのカシオペアはマリクを無視して、スバル達が護衛する仮面さんの馬車に迫ろうとしていた。
「仮面さん、お願い!」
「良いの? あの冒険者達を助けることになるの」
前方の馬車が次々とやられて行く様子を見ていた俺は、仮面さんにミランダの奴隷首輪について頼む。仮面さんが『日天の剣』をそれとなく含めて尋ねてくるけど、問題はそこじゃない。
「俺達の目的は仮面さんの護衛だ。このままだと、こっちにも被害が出る。あの冒険者達はついでだ」
「スバルさんはやっぱり面白いの。接近してくる相手は、かなりの魔力を感じるから今回だけ特別なの。ダークエルフ、こっちに来るの!」
「何だ!?」
「ミランダ、奴隷首輪を解除する。最初から全力全開で戦闘開始だ!」
「ありがとう、スバル!」
俺は仮面さんの護衛のために戦う。仮面さんの言う通り、すごい魔力が迫っている。先頭にいた『日天の剣』も倒したに違いない。相手は格上、ミランダの奴隷首輪も外して全力で戦う。皆で生き残って依頼を達成しよう!
「最後の馬車、覚悟するザマス!」
「影弾〈シャドウボール〉!」
「風槍〈サイクロンスピア〉!」
「ぎゃあああああっ、何者ザマス!」
魔女が目に見えた。あいつが馬車を襲っている相手か。見た目は銀色の帽子に長い杖、おばさんみたいだけど油断出来ない強大な魔力。先手必勝でミランダと共に得意魔法を放った。上手く直撃したみたいだけど、直ぐに立ち上がってきた。やっぱり油断出来ないな、こりゃ。
「……お前は!」
「おほほ、誰かと思えばこの前のダークエルフ。お久し振りザマス」
「スバル、こいつだけは逃がしてはならない! ここで倒す!」
「ミランダ、知っているのか?」
「私を捕まえて奴隷商店に売り付けた張本人『氷結』の魔女カシオペアだ!」
ミランダが魔女を見て驚いている。どうやら知っているみたいで魔女も同じように驚いており、因縁があるな。ミランダが纏う魔力が高ぶって、暗黒の槍を力強く握りしめている。話を聞くと、ミランダが奴隷になった原因の相手か。こんな国境近くの山道で出会うなんてお互い思っていなかっただろうね。それにしても、カシオペアってあのカシオペア座かな? 北極星を探す時は北斗七星と一緒によく探したもんだよ。
「まさか裏市場から出てくるとは。今度は王族にでも高く売りつけて、彼らの玩具にするザマス。ついでに、あの人から聞いた闇人間は裏ルートで調べて解剖、楽しみザマス」
「そんなこと」
「絶対に」
「「お断りだ!」」
ミランダを再び売り付けるだと。そんなこと絶対にお断りだ! 逆にお前を裏市場に売り付けてやる。でも、闇属性の俺を知っているなんて誰に聞いたんだ? いや、それよりも戦闘だ。俺とミランダは魔力を高めて魔女に向かって走り出した。
「まずは氷面〈アイスフィールド〉!」
「わわっ! す、滑る!?」
「スバル、足裏に魔力を纏え! 多少は踏ん張れる」
「ありがとう、ミランダ」
「ふん、面白くないザマス」
「いつかお前と戦うためにと、対策は考えてあった」
魔女は周囲の地面を凍らせた。朝の冷え込みや雪が降っているのは氷魔法のせいか。ヤバい、めちゃめちゃ滑って踏ん張れない。ミランダが対策を教えてくれて助かったけど、俺一人だと厳しかった。足に魔力を纏って、シャドウボールを放つ!
「影弾〈シャドウボール〉!」
「おほほ」
「なっ!?」
「そんな遅い魔法、簡単に避けれるザマス」
俺のシャドウボールが簡単に避けられた。俺自身の影魔法の中でスピードがある魔法の1つだぞ。どうやら、氷上を滑って回避力を高めているな。流石は『氷結』の魔女と呼ばれるだけあるな。
「それなら、影連弾〈シャドウボール・シックス〉!」
「おほっ!? ちょっと危ないザマス」
「すごいぞ、一度に魔法を複数作って撃つなんて!」
「へへ、俺の得意技だ!」
ならば避けられた場所にシャドウボールを追加で撃てば良い。影連弾はシャドウボールを6発同時に作れる影魔法。これは俺のオリジナル魔法だ。魔女も動きにくそうにしている。それだけでも充分。ミランダに褒められて嬉しいな、っと戦闘に集中しないと!
「私も負けてられないな、風突進〈サイクロンラッシュ〉!」
「なかなかやるザマス、先程のエルフとドラゴニュートに比べて厄介ザマス。氷壁〈アイスウォール〉!」
「くっ!」
「それなら影喰い〈シャドウイート〉! ミランダ、突っ込め!」
「なっ!?」
ミランダは風槍を増やしてカシオペアに攻撃するが、巨大な氷の壁が現れて塞がれる。でも、ここまで大きいと壁の影が俺の影と重なって、俺の影魔法の範囲に入る。まだ自分以外の影を利用するのは出来ないけど、これなら大丈夫。巨大な影の中に氷の壁を引きずりこむ。これで防御は無い、行けミランダ!
「ありがとう! レイチェル、覚悟!」
「甘いザマス。足元を生かせるのは影魔法だけではないザマス! 氷針〈アイスニードル〉!」
「くっ、風盾〈サイクロンシールド〉! きゃああああああああっ!」
ミランダの風槍が魔女に直撃する瞬間、足もとから氷のトゲが生えてきた。ギリギリで防いでいるけど、あれはマズイ!
「伸びろ、影腕〈シャドウアーム〉!」
「チッ、氷気〈アイスオーラ〉! 闇人間、うっとおしいザマス」
「ミランダ、大丈夫か!」
「ありがとう、助かった。だが、やはり氷結は強いな……。私もそれなりに修行してきたつもりだったが、ヤツはさらに上回っている」
空中で身動きが出来ないミランダをシャドウアームで対応。俺の影から両腕が現れ、左腕でミランダを掴んで、右腕で魔女を殴る。魔女も防御して俺の攻撃を防いだ。上手くいったと思ったけど、そう簡単には勝てないか。
「ふぅ、ふぅ……。ここまで私と戦って生き残るとは久し振りザマス。仕方ない、とっておきを見せましょう。上級氷魔法、氷世界〈アイスワールド〉!」
「っ! まずい、スバル跳べ!」
「うわあっと!」
魔女が息を切らしながら魔力を高めている。こっちも先手を出せるほど気力が残っていない。相手の出方を見てから判断するしかないと考えていたら、ミランダが大声で叫んだ。俺は反射的に飛び上がるとアイスワールドという氷魔法は、一瞬で山道の景色が変わった。
「ま、周りが銀世界になっちゃった!」
「スバル気をつけろ、私はこの魔法に負けたのだ!」
「その通り。避けることの出来ない全方位からの氷魔法を味わうザマス」
しかもヤバい。俺達は飛び上がっており、空中だと身動き出来ない。影魔法を使おうとしたけど、魔女の魔法が速かった。周りには先が尖っている大量の氷が浮いており、一斉に俺達に向かって飛んできた。
「影盾〈シャドウシールド〉!」
「風盾〈サイクロンシールド〉!」
「盾など無駄。アイスワールドの力は全てを凍らせるザマス!」
「「ぐわあああああああああっ!」」
俺とミランダは上下左右全ての方向から来る氷魔法をまともに直撃した。咄嗟に防御魔法を発動したけど、尖っている部分を阻止しただけで氷の塊が襲いかかっている。身体が地面に着くまで何十発もの氷が当たった。痛い、意識が飛びそうだ……。
「思った以上に、強かったザマス。もしも、ダークエルフがアイスワールドを完全に調査していれば危なかったザマス。さて、一番気になる闇人間を……」
「火矢〈ヒートアロー〉!」
「氷壁〈アイスウォール〉。ふん、しぶとく生きていたザマスか…………エルフ」
「今まで行ったわたくしへの侮辱、絶対に許さないですわ!」
カシオペアは倒れたスバルとミランダを見て勝利を確信。1番の目的であるスバルを捕まえようとした瞬間、ヒートアローが飛んできた。しかし、カシオペアは避けることもなく氷の壁を作って防御。スバル達の絶体絶命のピンチに現れたのはボロボロのフレアだった。しかし、助けたというより自分のプライドのためだけに来たようだ。
「これ以上の戦闘は魔力が尽きるな、カシオペア」
「やっと戻ってきたザマスか。ええ、闇人間とダークエルフに手こずったザマス」
「あなたは……奴隷商人マリク!? まさか、わたくし達を裏切ったのですか!」
「裏切るもなにも、俺は最初から氷結団の一員だ。想定外の闇人間は捕獲出来なかったが、想定内の馬車は全て手に入った。ここらが潮時だろう。じゃあな、まぬけエルフ」
「さようなら。あなたとは2度と顔を見たくないザマス。氷幻〈アイスファントム〉」
「このぉ! 火矢〈ヒートアロー〉、火矢〈ヒートアロー〉! わたくしを差し置いて勝ち逃げなんて卑怯ですわ! 帰ってきなさい、勝負しなさい!」
カシオペアとフレアの合間に現れたのは、逃げたはずの奴隷商人マリク。驚くフレアをよそに、マリクはカシオペアの状態を見て撤退を判断、フレアを見下しカシオペアと共に消えていく。フレアは怒りをあらわに火魔法を放っており、魔力が尽きるまで打ち続けるのであった。
「不覚なの。スバルさんに期待し過ぎたけど、なかなか面白かったの。闇属性の影魔法は本当にすごかったの。あの純粋な闇の魔力……私の目に狂いは無かったの。ふふっ、ここからの反撃が楽しみなの♪」
氷の大地に黄色い仮面を着けた女性が立っている。ゴーレム馬車が消えて護衛商品も無い。全て氷結団に盗まれたにも関わらず、考えていることは闇属性の人間スバルの実力。この後に行うことに仮面の中で笑っているのであった。




