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第2章 4 氷結の魔女カシオペア

「いただきます」


 山賊の襲撃が終わった夜。俺達は少し開けた場所で野宿をしていた。今日は天気が良くて、ペガサス山の空気が綺麗なおかげか星空がよく見える。俺はミランダが作った夕食を食べている。


「ど、どうだ……?」


「美味しい!」


「良かった。そう言ってもらえて嬉しい」


「ミランダは良い奥さんになるね」


「そ、そんな調子の良いこと言っても何も出ないぞ! ……デザートも追加してやる」


「あ、ありがとう」


 ミランダの料理はとても美味しかった。とても野宿で食べるような料理の数々に驚いた。ミランダ曰く、エルフやダークエルフは自然と共生しているから食べれる野草など分かるらしい。俺が思わず褒めると、美味しそうなデザートを追加してくれた。ミランダの好意を知っているだけに、俺の顔が真っ赤になっているだろうね。恥ずかしいけど、ミランダといると楽しいぜ。


「それにしても、スバルは本当に星空が好きだな」


「うん……。星空は俺の夢そのものだ。俺はたくさんの星空を見るために冒険者になったからね」


「……そうか。おっと、夕食が冷めてしまうぞ」


「それはもったいないね」


 俺はミランダと一緒に星空を眺める。日本と同じでこっちの世界にも星座があった。違うものもあったけど、同じものもあった。俺の星座おうし座もある。俺達は夕食を食べながら星空を満喫した。





「仮面さん、お願いがある。ミランダの奴隷首輪を外してほしい」


「奴隷首輪の解除は、奴隷の制御が出来なくなって周りを襲えるようになるの」


「この通り!」


「お断りなの。私はともかく、周りの連中の安全に保証が無いの」


 夕食が終わって俺は仮面さんの所に来ていた。話題はもちろんミランダの奴隷首輪についてだ。奴隷首輪は戦闘能力を制限する効果があって、今回はたまたま勝てたけど、油断は出来ない。仮面さんに首輪を外してほしいと頭を下げて頼んでいるけど、やっぱり断られる。仮面さんの言っていることは正しいから反論出来ないね。


「それなら、山賊との戦闘の時だけでも解除してくれないか?」


「それなら良いの。商品が奪われるのは今後の営業に影響するの」


「ありがとう、仮面さん」


「これは特別なの。スバルさんは信頼出来るの」


 俺は仮面さんの正論を受け入れた上で妥協案を出す。それは昼間の山賊による襲撃など、護衛対象が危険な場合のみといった限定場面だ。仮面さんも、そのことは理解していたから先程と違って、あっさりと認めてくれた。俺が特別らしくて嬉しい、感謝でいっぱい!


「この依頼が終わったら、冒険者ギルドで仮面さんの商店を宣伝するね! 俺も、仮面さんはミランダと同じくらい頼りにしているから!」


「あ、ありがとうなの。……でも、ダークエルフと同じなのは嬉しいような、悔しいような、微妙なの~」


 思わず俺は、仮面さんの両手を握りしめてぶんぶん上下に降る。黄色い仮面で表情は見えないけど、声を聞く限り驚いているみたい。改めて、お礼を言って仮面さんの商売を応援することを伝える。でも、ミランダと一緒なのは微妙なのか。ごめんね、2人の好意を知っているけど、恋愛より冒険したいから。





「お話は終わり、お風呂にするの」


「お風呂? ペガサス山に温泉があるのか?」


「無いの。自分で用意しているの」


 仮面さんはお風呂に入るようだ。でも、山の中にお風呂なんて無いし、温泉も無い。俺が分からないでいると、見たことある小さなゴーレムを仮面さんは出した。


《サモン ハウスゴーレム》


「おおっ!」


「これはハウスゴーレム。見た目は小さいけど、中はかなり広いの。持ち運びが出来る一軒家なの」


 何も無いところにゴーレムの家が現れた。すげえ、魔道具! 世界を旅したい俺にとっては理想のゴーレムだ。欲しい!


「スバルさん、見張り番をしてくれたら後で入っていいの」


「本当!? ありがとう、仮面さん」


 仮面さんはそう言ってハウスゴーレムに入っていった。内側から鍵をかけても誰かが来るかもしれない。うーん、せっかくのお風呂なのに俺だけ入るのは罪悪感を感じるや。そうだ!


「いいお湯だったの、スバルさ……」


「風呂があると聞いてきた」


「……確かに入っていいとは言ったけど、ダークエルフじゃないのー」


「あはははは……」


 しばらく待っていると仮面さんがハウスゴーレムから出てきた。でも、ぽかぽかの仮面さんの声が低くなっていく。理由はお風呂好きなミランダにも誘ってみたからだ。仮面からでも分かるジト目が突き刺さる。結局、諦めた仮面さんがミランダをお風呂に入れてくれた。いつかお礼として、ハウスゴーレムを買おうと思った一夜だった。





「このペースなら、今日の夕方でマヨネップ帝国の国境に到達できる。ペガサス山を下りるぞ」


「ケッ、何も起こらなきゃの話だがな」


 3日目の朝。雑貨商人アレックスさんと奴隷商人マリクが話しながら馬車を進める。今のところ、山賊達が攻めてきたぐらいだ。頭に入れておこう、また攻めてくるかもしれない。まあ、ペガサス山に登ったから幻のペガサスを一目でも見たかったぜ。


「それにしても、なんか冷えるね」


「昨日の山道では何も感じなかったが……寒いぞ」


「ゆ、雪なの!?」


 俺達は馬車を進めにつれて、気温の低下を肌で感じていた。吐く息も白くなって季節が冬に変化したみたいだ。更には空から雪が降ってくる。いったい何が起こっている!?





「そこの馬車、止まるザマス。足を挫いて動けないので、乗せてほしいザマス」


「誰ですの、おばさん。わたくしが通るのに邪魔ですわ。さっさと避けて」


「ふ、フレア……言いすぎじゃ」


「誰がおばさんザマスか、氷塊〈アイスバレット〉!」


「きゃあああああああっ!?」


 雪が降るなか、先頭アレックスの馬車が通る山道に、銀色の帽子を被った女性が倒れていた。助けを求める女性に対して、フレアは相変わらずの傲慢な態度で罵声を出す。エドガーが戸惑っていると、女性は立ち上がり銀色の長い杖を構えて氷魔法を放った。完全に油断していたフレアはまともに直撃した。


「だ、だだだ大丈夫、フレア!?」


「このくらい平気ですわ。相手は、ただのおばさんですわ!」


「失礼な、何度も言うじゃないザマス! 氷連弾〈アイスガトリング〉!」


「「わあああああああっ!?」」


「銀色の長い杖に、氷の上級魔法……。気を付けろ、賞金首『氷結』だ!」


 フレアが倒れたことに驚くエドガー。魔法耐性が高いエルフといえど、氷で切れた肌からは血が流れている。しかし、相手を馬鹿にするフレアは再び罵声を出すことで、エドガー共々更なる追撃をされてしまう。ここでアレックスが気付く。女性と同じくらい長い杖、銀色に輝く帽子、この女性は賞金首の魔女。


「あら、よく知っているザマス。私は氷結団のトップ、カシオペア! あなた方の商品全て頂くザマス!」


 様々な活躍で人々が自然と有名人に名付ける異名。その『氷結』の魔女カシオペアが現れた。





「ふん! ゆ、油断しただけですわ。ここからがわたくし達のステージ。行きますよ、エドガー様!」


「えっ!? わ、分かった……。がんばるよ! …………………………戦いは、怖いよーーーー」


 カシオペアは水属性の氷魔法使いである。フレアは左太ももを凍らされても、無理して立ち上がる。隣には最強種族のドラゴニュートがいる。そして、自分はエルフという魔法を自在に操る最高の種族。目の前にいる『氷結』はただの人間。自分達が負けるはずが無い。その気持ちがフレアを引き立てる。しかし、エドガーが怯えていることに気付かなかった。


「ごみは燃えなさい、火矢〈ヒートアロー〉!」


「ら、光射〈ライトシュート〉~」


「……っ!」


「直撃ですわ! わたくし達の勝利ですわ!」


「よ、良かった~」


 フレアとエドガーはカシオペアに向かって魔法を放つ。火を纏った矢に光り輝く光線。2人が得意とする魔法は、軌道を描いてカシオペアに直撃した。直撃の影響で爆風が舞う。フレアは勝利を確信する不適な顔で、エドガーは安心しきった顔でいた。しかし、世の中はそんなに甘くないことを2人は身をもって知ることになる。


「氷盾〈アイスシールド〉! そんな簡単に倒れていたら『氷結』の名が傷つくザマス。だいたい私を相手にマッチのようなショボい火やホタルのような光など通用しないザマス」


「嘘、有り得ないですわ!?」


「ひいいいいいいいいいいいい!」


 カシオペアは無傷。透き通る氷の盾でフレアとエドガーの魔法を防いでいた。2人の魔法がカシオペアには効いていないことにフレアは驚き、エドガーは尻餅をついて震えている。特にフレアは、2つ名を持っている相手に勝ち目が無いことを認められなかった。その傲慢な気持ちがカシオペアの魔法に対する反応が遅れた。


「引っ込んでいるザマス! 氷連弾〈アイスマシンガン〉!」


「「ぎゃあああああああああああああああああ!」」


「お前ら……!? ぐわっ!」


「しょうもない時間を取ったザマス。アンタら、荷物を奪うザマス。私は次の馬車に向かうザマス!」


「「「ヘイ、姐さん!」」」


 フレアとエドガーに放たれる氷のつぶての嵐。2人は身体中に氷のつぶてを当てられ、最後には頭に直撃して気絶した。カシオペアは商人アレックスも同じように気絶させて、2人の生存より、商人アレックスの荷物を優先。隠れていた部下達に指示して商品を全て奪い去った。次なる馬車に向けて飛び立つのであった。

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