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第2章 2 D級パーティ『日天の剣』

「おはようなの、スバルさん」


「おはよう、仮面さん」


 指定依頼当日。俺達は冒険者ギルドに集合している。3つ馬車があって、見慣れない装備をしているパーティがある。多分、傭兵隊だね。傭兵は冒険者とは別の職業で冒険者以上に幅広い仕事をしている。仮面さんはゴーレムが引っ張る馬車(?)で、これが俺達が護衛する対象だ。


「こっちは雑貨商人アレックス。そっちは奴隷商人マリクなの」


「よろしくな、坊主」


「けっ、こんな新米かよ。こっちは奴隷のダークエルフか。おい新米、ダークエルフを買ってやってもいいぜ!」


「お断りします。ミランダは俺のパートナーですから」


「パ、パートナーだなんて」


 仮面さんの紹介で商人さん達に挨拶。奴隷商人マリク。こいつ覚えているぞ、俺の尻を蹴り飛ばした奴だ! 新米なのは認めるけど、ミランダは渡さない。そのミランダは頬を染めて照れている。ちなみにアレックスさんは俺達に握手してくれた。


「ここだけの話、マリクには怪しい噂があるの。気をつけるの」


「分かった、気を付けようね。ミランダ」


「あ、ありがとう。しかし、仮面を被って顔を隠している女には説得力が無いぞ」


「黙るのダークエルフ。スバルさんに守られて、デレデレした顔は似合わないの」


 アレックスさんとマリクと離れてから、仮面さんがマリクについて小声で話す。やっぱり、口が悪い人は良い噂を聞かないみたい。ミランダが仮面さんに皮肉を言っているけど、仮面さんも負けじと応戦している。確かにミランダの顔は幸せそうな笑顔で、恥ずかしいね。


「何だと」


「何なの」


「「ムムムムムム」」


「2人共、すっかり仲良しだね」


「「仲良くない(の)!」」


 ミランダと仮面さんが睨みあう。俺が仲良しと言うと、揃って否定する。思わず、笑ってしまって2人から怒られちゃった。反省。





「ここからペガサス山を通り抜けて、隣国マヨネップに行くみたい」


「冒険者D級パーティ『日天の(つるぎ)』と一緒か」


 ペガサス山。たまにペガサスが見れることから名付けられた山。ペガサス、ユニコーン、ドラゴンはファンタジーの定番だから、わくわくするぜ。俺達と一緒に行く冒険者パーティーはD級。初心者ダンジョンをクリアしている先輩か。どんな人達か楽しみだ。


「そういえば、私達のパーティの名前は決めてなかったな」


「パーティ名か。実は思いついてない、センスないし」


「私もあまり得意ではない」


「俺達の共通点も無い。闇属性と風属性、攻撃方法も違う」


「パーティ名は保留だな」


 D級パーティの名前で思ったけど、俺達のパーティの名前はまだ無かった。はっきりと浮かばない。思いつくのは怪しい名前ばかり。パーティの名前は、俺達の第1印象だからじっくり考えてから決めよう!





「僕達がD級パーティ『日天の(つるぎ)』。リーダーのエドガーです、よろしく」


「従者のフレアですわ」


「俺はスバル。こっちはミランダ。E級パーティだけど、パーティ名はまだ無い。よろしく」


 俺達は商人小隊の次に、D級冒険者パーティに挨拶。俺達と同じく男女コンビ、俺と同年代に見えるエドガーさんはオレンジ髪のドラゴニュートで、女性のフレアさんは金髪エルフだ。ファンタジーの定番のエルフは初めてでテンション上がる。それにドラゴニュートは所謂竜人で、顔が竜でゴツゴツした鱗が皮膚になっている。すごい迫力の外見、同じ生物とは思えない。流石はたくさんの種族のなかで、ヴァンパイアと並ぶ最強種族と呼ばれるだけはあるね。世界は本当に広いなー! ここまでは良かった。ここまでは。


「まあ、ダークエルフですわ!」


「エルフ……」


「奴隷に落ちたダークエルフとは良い気味ですわ。せいぜい足を引っ張らないでほしいわ」


「……っ」


「こ、こら、フレア。ごめんね」


 ミランダとフレアさんが睨み合っている。先程の仮面さんとは違って、本気の殺意すら混じっている。エルフとダークエルフは近年、敵対関係にある。500年前のヴァンパイアの王との伝説の戦闘では共闘していたのに。原因についてはエルフとダークエルフしか分からない。エドガーさんが奴隷腕輪を着けたミランダに攻めるフレアさんを止めてくれた。それにしては、おどおどしていて何だか頼りなさそう。


「ミランダ、落ち着いて。俺達、護衛依頼は初めてだ。どうすれば良いか、教えてくれるか?」


「え!? ええ、っと、その……」


「エドガー様が答えることはありませんわ。庶民はそんなことも分からないですの。奴隷が奴隷なら、主人も主人ですわ」


「スバルは関係ない。私の主人に暴言とは、覚悟は出来ているな」


「ふ、奴隷ごときが耳障りですわ。大人しく帰って自宅でぶるぶる震えて引きこもっているのですわ」


「何!?」


 俺は話題を変えて護衛依頼について話す。基本的な護衛方法は冒険者ギルドで、ミランダと一緒に受付嬢のメアリーさんから勉強はした。それでも、実際に体験している冒険者から聞くのも大事。エドガーさんとフレアさんに聞いてみると、あやふやと罵声が帰ってきた。何だこれ、こいつら質問に答えてないぞ。しかも、ミランダが怒って先程と同じようにフレアが攻めている。これは話せば話すほど、ぐだぐだになるな。


「抑えて、ミランダ」


「しかし!」


「今は仲間だ。護衛依頼が終わった後に話せば良い」


「ふふ、フレア、や、止めて、ね。お願いだよ」


「申し訳ありませんですわ、エドガー様」


 俺はミランダを止める。エルフとダークエルフの問題以上に、ミランダとフレアの相性が悪すぎる。ミランダは俺を思って怒っているが、フレアはただの悪口だ。頼りないエドガーさんがフレアを止めていたが、謝る相手が違うだろエルフ。もうフレアとは呼ばない。ただのエルフだ。頭が痛くなってきたぞ。それにしても、最強種族と呼ばれるドラゴニュートがへっぴり腰なのは、見ているだけで残念だよ。





「とりあえず基本通り、護衛対象の左右に別れて行動。それじゃあ、そちらの戦闘方法を教えてほしい」


「嫌ですわ」


「……………………は?」


 俺は耳を疑った。どや顔で答えるエルフに対して、思わず声に出てしまった。このエルフは口調だけでなく頭も悪いのか。こいつら本当にD級冒険者パーティなのか? 怒りを通り越して頭が痛くなってきたぞ。帰ったらメアリーさんに、こいつらのことを尋ねてみないといけない。


「冒険者は自らの情報を秘匿することが常識ですわ。わたくし達は簡単に話さないですわ」


「この依頼は護衛だぞ。チームプレーとかしないのか」


「わたくし達で充分ですわ」


「そうですか、分かりました。各自判断か、行くよミランダ」


「ごごご、ごめんね、スバルくん。あわわわ」


 俺はエルフの話すことを半分聞き流しながら尋ねていく。エルフの言う冒険者の常識は事実だが、この依頼は護衛なので信頼関係が大事だ。このエルフ、マジでおかしいぞ。リーダーのエドガーは謝っているだけで何もしていない。新米の俺が言うのも変だが、こいつら半人前じゃないのか。俺は右手で槍を力強く握りしめているミランダの空いている左手を掴んで、D級冒険者パーティから離れた。


「スバル、私の我慢……そろそろ限界だ」


「あっちに離れてから話そう。俺も流石にイラっとしているよ」


 従者のエルフは除外して、あのリーダーも論外だ。あのヘタレな態度、どっちが従者なんだか。まずはミランダを落ち着かせよう。そして、護衛方法を仮面さんと一緒に考える。あのD級パーティは最初から居ないと思わないとな。





「はあ、雲行き怪しいな。この依頼」


 俺の呟きが小さく響くなか、隣国マヨネップに向けての商人小隊が進み始める。怪しい商人に耳を貸さない冒険者パーティ。仮面さんだけが頼りだよ。護衛の指定依頼は、わくわくするどころか、いらいらする始まりだった。

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