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第2章 1 指名依頼

「指名依頼?」


「はい。スバル様に是非ともお願いしますとのことです」


 ヴァンパイア目撃から2週間。俺は冒険者ギルドに来て依頼を考えていると、受付嬢メアリーさんから指名依頼を頂いた。指名依頼は、その通り依頼者が冒険者を指名して依頼すること。そして、指名依頼は冒険者にとって新米卒業の証だ。とても嬉しいぞ!


「依頼者は?」


「仮面商店の商人、自称……仮面さんです」


「仮面さんか~」


 メアリーさんが言いづらそうに答える。仮面さんの名前は偽名だと思うけど、冒険者の依頼って偽名の人が多い。例えば、貴族の人や匿名希望とかある。知ってる人で良かった。


「今回の依頼は商人小隊を隣の国マヨネップ帝国に連れて行く護衛依頼です。スバル様パーティの他に、冒険者D級パーティと傭兵隊が参加されます」


「他の冒険者か」


「参加するかは明日までに報告をお願いします。明後日から出発です」


「ありがとう、メアリーさん」


 俺はわくわくしている。初めて隣の国、護衛依頼、他の冒険者との冒険と楽しみがいっぱいだ。早速ミランダと相談して考えよう。ちなみに俺がいる国の名前はオレメロン王国。他の国については知らないけどね。メアリーさんにお礼を言って冒険者ギルドを出る。いつも通り魔本を買って宿屋『満腹亭』に戻った。





「指名による護衛依頼か」


「護衛依頼は仮面さんだよ」


「ぐ……。あの、見るからに怪しい仮面商人か。私の勘が信用するなと告げている」


「まあまあ。仮面さんから詳しい依頼内容を聞いてから判断しよう」


 俺はミランダに今回の依頼について説明した。ミランダは依頼主が仮面さんだと言うと、微妙な顔をして腕を組む。確かに黄色い仮面やら怪しさ満点だから否定しないけどね。ところで腕を組んじゃうと、豊かな膨らみが強調して目が合わせられないよー。ミランダが前より明るくなって笑顔が増えたけど、えっちな事も増えて恥ずかしい。魔本の読書も集中出来ないよ。結局、もやもやしたまま仮面さんの商店に行くことにした。





「仮面さん!」


「お久しぶりなの、スバルさん」


 仮面商店。仮面さんが立ち上げた商店の名前。仮面さんが指定した場所は裏市場じゃなくて賑やかな表の市場。そこに仮面商店があった。相変わらず、黄色い仮面が妙に似合ってる。


「まさか、表の市場にいるとはな。裏市場を辞めたのか?」


「呪いの商品は売らないことにしたの。これからは表の市場で商店を開くの」


「何が狙いだ、仮面女」


「ふふふ。強いて言うなら、スバルさんに来てもらうためなの」


 ミランダは警戒したまま、仮面さんと話している。でも、仮面さんと会わなかったらミランダとも会えなかった。出来るだけ、仲良くなってほしいな。そんなことを考えていると、仮面さんが俺の左腕を引っ張った。


「なっ!」


「わっ!?」


「ダークエルフ、隙だらけなの。スバルさんは私が頂くの。立派な闇属性の人間にしてあげるの」


 仮面さんが俺の左腕をぎゅっと寄せて抱き着いた。わわ、何か当たっているよ! だぼだぼの服で分からなかったけど、たゆんと弾力が伝わってくる。仮面さん、着やせするタイプだったのか……って俺は何を考えている!?


「わ、私だって!」


「わっ!?」


「負けないの」


 ミランダまで! 右腕に大きくて柔らかい物が当たってる。ミランダは服の上からでも分かる大きな膨らみだから、余計恥ずかしい。仮面さんが負けじと引っ付いてくる。俺の理性が本能に負けちゃう! ま、まだ駄目!


「2人とも嬉しいけど、俺はまだ恋愛より冒険がしたいよー! お願いだから離れて!」


「す、すまない……」


「ご、ごめんなの……」


 俺は思わず大声で怒鳴ってしまう。ミランダと仮面さんがビクッと震えて離れて行った。2人の気持ちは嬉しいし気持ち良かったのは否定しないけど、俺は冒険するために旅立った。このまま流れていたら、父さん、母さんに会わせる顔が無い。何より俺を転生させてくれた闇の女神コスモス様に申し訳ない!





『モテモテですね。スバルさんのような頑張り屋さんは魅力的ですから。恋愛より冒険の夢を忘れずに選んだことは、花丸をあげましょう』


 何か褒めて貰った気がした。最近、誰かの声がちらっと聞こえてくる。聞いていると、温かい気持ちになるから安心は出来るけどね。





「こ、こほん。指定依頼について説明するの」


「あ、ああ。頼むぞ、仮面女」


 2人が真っ赤になりながら話し始める。自分達がいかに恥ずかしいことをしたのか自覚してきたみたい。俺はそれ以上に恥ずかしかったけどね!


「冒険者ギルドの説明通り、商人小隊が隣国マヨネップに行く時に護衛をしてほしいの。他の商店も冒険者パーティに依頼しているの」


「仮面女、具体的な護衛は?」


「どういうこと、ミランダ?」


「商人小隊全てか、仮面女限定か、商品か、で護衛する対応が変わるからだ」


「正確には商品なの。商人にとって商品は命より大切なの」


 仮面さんの護衛依頼。ミランダがより正確な護衛対象を聞いてくれた。細かい事も冒険者にとって大切か、勉強になるし頼りになる。俺もしっかり内容を覚えておこう。商品を優先的に護衛すれば依頼は達成出来るね。


「これなら大丈夫そうだ。ミランダ、受けても良いね」


「スバルは私の主人でパーティのリーダーだから異存は無い」


 俺とミランダは、この依頼を受けることにした。だけど、仮面さんが次に言うことに衝撃が走る。


「スバルさん、1つ言い忘れていたの。依頼中、ダークエルフにこれを着けておいてほしいの」


「これって、まさか……奴隷首輪!?」


「何だと!?」


 俺は仮面さんから貰った魔道具を見て今日1番に驚く。奴隷首輪は俺が前に戦闘奴隷を買おうと、奴隷について調べていたから覚えている。この魔道具は奴隷の行動や戦闘能力を制限させて、命令に忠実な人形にすら出来る超レア物! 貴族や王族でも喉から手が出る物を何で仮面さんが!?


「その奴隷首輪は護衛商品の1つ。今回の依頼は私以外にも商人達がいて、ダークエルフが主人以外を襲う可能性があるの」


「仮面さん、ミランダはそんなことしないよ」


「初対面の商人達は信頼してないの。このダークエルフは、過去に主人を傷つけている過去があるから警戒しているの」


「くそ……」


 ミランダは悔しげに槍を握りしめていた。仮面さんの言う通り、ミランダには主人を傷つけたことがある。でも、それは無理矢理ミランダの身体を求めた主人達が悪い。ここから認めさせていけば良い!


「……分かった、奴隷首輪を着ける。ごめんね、ミランダ」


「スバルは悪くない。依頼のためだ、それに私自身が護衛商品と考えれば問題ない。スバルの初めての指名依頼を達成するためだ」


「ありがとうなの。それじゃあ、明後日に冒険者ギルド前へ来てほしいの」


 俺は仮面さんの言い分を理解して、ミランダに奴隷首輪を着けることになった。これでミランダは奴隷首輪の効果で本来の力が出せなくなる。俺が後衛として、いつも以上にサポートをしよう。指名依頼でどんなことが起こるかは分からないけど、ヴァンパイアバロンのルビーが出て来ても今の俺は負けないぞ!

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