第1章 1 異世界転生
俺の名前は佐藤昴(さとう すばる)。生まれながら病弱で、15年間病院から出たことが一度もない。しかも最近はベッドに寝たきりで何のために生きているか分からなくなってきた。いつも見える景色は白い天井、ベット、カーテンで窓から見える青空だけ。夜空の星は綺麗なことが救いで、たくさんの星座や流れ星を見るのが夜の楽しみだった。星空のことなら大人にも負けないほど覚えた。
昼間は趣味のアニメを見ることや読書をしていた。でも最近は、病院に置いてあったライトノベルも寝たきりで読めなくなってきた。何故なら両手に力が入らなくなっているからだ。ライトノベルはフィクションだけど、現実離れしたワクワクの冒険が大好きで、いつか病院から出て冒険に出てみたい。でも、それは一生叶わない夢だった。
「流れ星……。今日は運が良いね……」
とある日の真夜中。この日はおうし座が見える満天の星空。流れ星が一瞬見えた。俺は今日自分の命が消えることを確信していた。もう、今朝から足の感覚が無くなってきたからだ。覚悟は決めていたけど、意外と簡単に受け入れた。ゆっくりと足元から暗い闇が近づいてくる。だけど、怖くないよ。孤独に比べたら全然怖くないし、闇を受け入れるよ。それにしても、今日は本当に星空が綺麗だな。天国に行けたら星空はどう見えるのかな。
「もしも……生まれ変われるなら、世界中を駆ける冒険がしたいな……」
さようなら、俺。さようなら、日本。ただ生きているだけの何も無かった人生だったな。俺は何のために産まれてきたのかな。最後ぐらい、流れ星に向かって願い事を言ってみる。そして、俺は白いベットで眼を閉じて動かなくなった。
『その小さな願い、私が叶えましょう』
意識が無くなる時、どこからか女性の優しい声が聞こえた気がした。
「…………。そこ!」
緑豊かな山岳地帯。森の中に立っている黒髪の少年。その少年は五感を過ぎとまして集中しており、野生の鳥が羽ばたく音にも耳を貸していない。辺りは茂みが覆った草木で様々な音が聞こえている。少年は音を聞き分けると、右手に黒いボールを作り出して、茂みに向かって投げた。
「ちぃ! やるな……、だがっ!」
茂みから緑髪の大人が飛び出してきた。大人は黒くて丸いボールを難なく避けて黒髪の少年へ走っていく。その両手には少年より大きな緑のボールを持っており、少年に向かって同じように投げた。
「くっ!」
「もらった!」
黒髪の少年は迫ってくる2つのボールを両手を使って掴んだ。その様子を見た大人は口元をニヤリと笑うと、どこから出したのか緑の剣を構えて少年に斬りかかる。今、少年の両手は2つのボールを持っていて塞がれている。目の前に迫る危機にも関わらず、少年は逃げることもせずに緑の剣を見つめている。まさに少年の命を奪おうと緑の剣が当たる瞬間、それは起こった。
「影腕〈シャドウアーム〉!」
黒髪の少年の影から黒い腕が飛び出した。黒い腕は緑の剣を意志があるかのように掴みとって握りしめる。緑髪の大人は驚くこともなく、緑の剣を手放して少年から離れる。黒い腕は緑の剣ごと少年の影に帰っていく。少年と大人は見つめあっていたが、やがて互いに笑い始めた。
「はっはっは! やるなぁ、スバル。改めて、手加減無しで行くぞ!」
「おう、父さん!」
俺の名前は『スバル=ブラックスター』、冒険者を目指す魔法使いだ………………どうもスバルです。久しぶりに消える記憶を思い出した、いやあ懐かしい。実は本当に生まれ変わりました。しかも、読んでいたライトノベルのジャンルの1つ異世界転生。ここは地球とは違う世界で、科学より魔法が発展。そして、冒険者が未知なる場所を開拓している夢の時代。それが分かった時は本当にわくわくした。
俺が転生した家はブラックスターという名字だ。名字があるのは貴族や王族、それから昔からの一族らしい。俺の家はその昔からの一族になり、山岳地帯にある小さな集落で田舎のカルデア村だけど珍しい。そして、今年で前世で終わった15歳になって、この世界では15歳で成人と認め、冒険者登録も15歳からだ。俺は冒険者になるべく努力してきた。今、目の前にいる父さんは引退しているけど冒険者として活躍したので、今日も修行を手伝ってもらっている。
「影弾〈シャドウボール〉!」
「風弾〈サイクロンボール〉!」
「父さん、少しは手加減してよ」
「まだまだ負ける気は無い!」
父さんの名前はアトラス。風属性でとても強い。俺は人間では珍しい闇属性。髪も黒髪だ。闇属性の魔法はあまり有名ではないらしく、父さんが使っている風魔法を真似て使っている。所詮は物真似だから、いつも負けるけどね。まあ、魔法を物真似する影魔法だから練習にはなる。
昔、父さんが言うには闇の女神コスモス様の影響と考えている。何でも俺が産まれた時にカルデア村の小さな教会で天命として『スバル』と名前を与えてもらったみたい。もしかしたら、俺を転生してくれたのはコスモス様かもしれない。 父さんに買ってもらった闇の女神の紋章を現すアクセサリーを使って、俺はコスモス様への祈りを毎晩している。
「母さん、魔本を買ってくる」
「スバルちゃん、無駄遣いしないでね」
「はーい」
父さんとの修行の後は読書の時間。母さんからお小遣いをもらってカナミキ村の小さな本屋に行く。母さんの名前はプレオネ。どうもブラックスター家はおうし座に関わる名前が多い。俺の名前もプレアデス星団から由来している。
俺は闇属性だから闇関係の魔法を教えてくれる人が周りにいない。そのため、昔から他の属性の魔法が書いてある魔本を読んでいる。俺の影魔法はパワーは無いけど、応用しやすい。だから、他の魔法を真似た影魔法の練習をしている。幸い、初級魔法は全属性共通らしいから積極的に覚えている。
「コスモス様、今日も1日生きることが出来ました。おやすみなさい」
父さんとの修行、魔本を読み終えた後は、母さんの料理を満喫。病院食ばっかりだった前世とは違う。初めて食べた家庭の味は涙でいっぱい。それを毎日繰り返しながら、異世界での1日がまた終わる。これが転生後の俺の生活で15年経った。山岳地帯の小さな集落にある田舎のカルデア村で、美味しい食事や自由に身体を動かせることは、それだけで幸せだった。
「父さん、母さん、冒険者になってくる!」
「血は争えないな」
「1年に1回は帰ってくるのよ」
とある日、俺は両親に夢を語った。父さんは冒険者だったからすぐに認めて、母さんは条件付きで賛成してくれた。転生した俺を15年育ててくれてありがとう。前世の病院生活では両親とあまり話せなかったから、今の両親のほうが想いが大きいよ。ちょっと泣いてから旅立ちの日を迎えた。
俺は転生したけど、ブラックスター家への感謝を胸に、カルデア村の端にあるご先祖様のお墓参りをする。この墓地は特殊な結界が張られている。昔に墓荒らしがあったみたい。全く、罰当たりな奴らがいたもんだ。白い墓碑、黒い星型の石がはめてあるブラックスター家らしいお墓だ。お墓にはご先祖様の名前が書かれており、この人達がいたからこそ俺はブラックスター家に転生出来た。感謝の気持ちをこめてちゃんと手を合わせて、両親の元に向かう。
「スバル、お前の闇属性は珍しい。周りが怪しいと感じたら逃げろ。そして、自分を受け入れてくれる仲間を見つけろ。冒険者は1人では生き残れない」
「身体にも気をつけてね。それから名字はあまり名乗らないこと。貴族じゃないかと勘違いされるわ」
「分かった、覚えておく」
「それからプレゼント。俺達手作りのローブだ」
「寂しくなったら、これを見るのよ」
「ありがとう、父さん、母さん! 行ってきます!」
父さんと母さんから忠告を聞く。闇属性や名字は目立つから話さないことが良いと覚えておこう。そして、魔法使い必須のローブを貰った。黄緑色をメインにした黒い星柄が描かれている。カッコいい! 俺は父さんと母さんに別れを告げて、1番近いデュランド街へ向かうためにカルデア村にやってくる商人の馬車に乗る。ここから3日間の旅だ。寂しい気持ちと冒険の気持ちが半々。それでも前世も合わせて15年以上、待ちに待った夢の始まり。冒険者の生活が楽しみだ。わくわくするぜ!
「でっけー」
3日後、デュランド街に到着した。商人さんにお礼を言って街に入る。俺は冒険者ギルドを探すために街を歩くが、周りは人、人、人。カルデア村の祭りより人が多いと思う。迷子になりそうだ。しばらく歩いていると、冒険者ギルドと書かれた大きい建物が見えてきた。早速入ろう。
「冒険者ギルドへようこそ! ご用件は何ですか?」
「カルデア村から来ましたスバルです。冒険者登録お願いします」
冒険者ギルドの中は街中より賑やかだった。酒場があるらしく、ほろ酔いのおっちゃん達が楽しそうにお酒を飲んでる。受付はメアリーさん。眼鏡が似合ってる。俺は冒険者登録の申し込みを伝えた。今さらながら緊張してきた。ドキドキするな。
「カルデア村……ですか。ずいぶん遠くから来ましたね。分かりました。スバル様、それではこちらの書類にご記入してください」
「出来ました」
「ありがとうございます。今のスバル様はF級です。こちらをどうぞ」
俺の冒険者登録は出来た。これで一安心、と思ったら何やらメアリーさんがカードみたいなものを出してきた。
「これは?」
「これは冒険者カードです。依頼を受ける時はこれが身分証明書になります。スバル様、魔力を当ててみてください」
「こう?」
「はい。これで世界に1つだけのスバル様専用の冒険者カードになりました。もう1度、魔力を当ててご自分の情報を確認してみてください」
スバル=ブラックスター
性別 男性
年齢 15歳
種族 人間
出身 カルデア村
職業 F級冒険者
属性 闇
魔法 影
称号 闇の女神コスモスの加護
「冒険者カードは紛失しますと、再発行に10万ソンになります。お気をつけてください」
「は、はい」
メアリーさんが注意を言っているけど、それどころじゃなかった。称号のところにはコスモス様の名前があった。コスモス様が、俺を見守ってくれていた。それだけで泣きそうだ。 転生させてくれて、ありがとうございますコスモス様。そうだ、この後はこの街の宿屋を聞かなきゃ。流石に知らない街で野宿は危ない。
「あの、おすすめの安い宿屋はありますか?」
「初心者冒険者の御用達『満腹亭』ですね。スバル様、これから頑張ってくださいね」
「ありがとうございます。まずはお金を稼がなきゃ」
俺はメアリーさんにお礼を言って冒険者ギルドを出る。父さんと母さんからお金はもらったけど、いずれは無くなる。今日はもう宿屋を探してから休むとして明日から頑張らないと!
「スバルと言います。宿泊お願いします」
「毎食付き1泊100ソン、何泊するかい?」
「10泊でお願いします」
「あいよ、スバルちゃん」
俺は満腹亭を見つけて、全財産の半分を宿泊に使った。残りは1000ソン。食事は大丈夫だけど、この10日間でお金を稼がないといけない。夕食を食べながら決意を固めた。
「初めての街、初めての宿屋。コスモス様、俺冒険者として頑張ります」
『いよいよですね。あなたの小さな願い、最後まで見守っていますよ』
今日もコスモス様に祈って眼を閉じた。意識が無くなる瞬間、久しぶりに女性の優しい声が聞こえた気がした。