6. 犬
紗奈様専用の人間椅子、もとい第一王子キュオスティ・アクアマリン様が病に臥せっているとの情報を国王様から言われました。
これは暗に紗奈様に伝えて見舞いに行かせろとのことですね、めんどくさい。
なんで人間椅子ごときじゃなかった、第一王子様のお見舞いに紗奈様が行かないといけないのでしょう?
シクラメン(鉢植え)でも持参しましょうか?
「紗奈様、国王様より第一王子様のお見舞いに行けとのご命令です」
「めんどくさいわね。だから、シクラメン(鉢植え)を持ってるのね。そんなに病床に縛りつけたいわけ?」
「切り花より、手入れが楽かなと思いまして」
「切り花も、鉢植えも手入れするには変わりないわよ。結果的には、鉢植えの方がめんどくさいんだから」
「マジでか」
「うん」
「では、このままこれを見舞い花として持っていきましょう」
「結局持っていくんだ...うーん、そうね。主として、人間椅子のお見舞いに行くのは当然よね。私が行くから、ついて来て」
「わかりました。紗奈様」
第一王子様のお見舞いに行く途中で、サードニクス国の双子の王子様たち、第一王子のケレイブ・サードニクス様と第二王子のコナー・サードニクス様が、私たちの前に現れました。
「「きみが、異世界から来た巫女だね!」」
「そうです。紗奈と申します。よろしくお願いします」
「「じゃあ、きみの巫女としての実力を見るために、簡単なゲームをするねっ!」」
「えっ?」
「「ねっ!」」
「あっ、はい」
「「『どっちがどっーちゲーム』って言うゲームなんだ。はい、どっちがどっーち? はい、ケイレブの方を答えてね!」
「右斜め上かな?」
「「ブッ、ブッー。もう一回チャンスを上げる!」」
双子の王子様たちは腕を組んで同じところを何度も周ってから、
「「はい、どっちがどっーち? 今度は、コナーの方だよ!」」
「一メートル先行って、右五十センチ進んで庭に出て、池の中かな?」
「「ブッ、ブッー。もう」」
紗奈様は、双子の王子様たちの声を遮って
「ちょっと待って下さい。今から私、アクアマリン国第一王子様のお見舞いに行かないといけないんです。また、今度にしてくれませんか?」
「「えぇっー!? そんなのどうでもいいじゃん!」」
「お願いします」
紗奈様は、頭を下げて言いました。
「「ダメだよ!」」
「紗奈様、ここは私がこの方々の相手をしますので先に行ってもいいですよ」
私はシクラメン(鉢植え)を下に置き、流星錘を手に持ち構えて言いました。
そうすると、双子の王子様たちは顔を青褪めさせて
「「仕方ないね!今度で、我慢してあげる!」」
と言って、逃げ去りました。
「ヴァレンティーナ、それは?」
「マイ武器の内の一つです」
「ふーん。それじゃあ、人間椅子のところに急ぎましょ」
「はい。紗奈様」
あれから、サードニクス国の双子の王子様たちの妨害もなく無事に第一王子様の部屋までつきました。
部屋の前で警備をしている人に取次いでもらい、お見舞いの許可をもらいました。
「「失礼します」」
「お加減はいかがですか? 人間椅子」
「巫女様。おかげさまで、少しは楽になりました」
「第一王子様。これは、巫女様よりお見舞いの品です」
「ありがとうございます。巫女様」
「いいえ、お気になさらず。お花があれば、少しは気分が晴れるかと思いまして。病は気からといいますし」
「ありがとうございます」
「でないと、他の人間椅子を使うことになりますし」
「ちょっと待って下さい、巫女様。俺様以外を人間椅子に仕立て上げる気ですか!?」
第一王子様、突っ込むところそこ!?
「そうね。早く元気になってくれないと他の人間椅子を作らないといけないわね」
「分かりました、巫女様。なるべく早くこの病を治します!」
元気よく、第一王子様が返事をしました。
あまり長居をしては、第一王子様の病がぶり返してしまうかもしれませんね。ご本人様が原因で。
ここは、退散いたしましょう。
「紗奈様、ここまでで」
「そうね。人間椅子が思ったより元気で安心したわ」
「巫女様、もう少しいていただいても」
「そういうわけにはいかないわよ。他の人間椅子じゃ満足できないかもしれないもの」
「巫女様っ...!」
第一王子様。そこ、感動するとこじゃないから。
遠い目をしそうになった私は気を引き締め直し、
「第一王子様、そろそろお休みになりませんと。紗奈様、お部屋に戻りましょう」
「ヴァレンティーナ!」
第一王子様が、私を咎めるように言いました。
「そうね。人間椅子、これで失礼するわ。お大事にね」
「ありがとうございます。巫女様」
紗奈様の部屋に戻る途中、サードニクス国の双子の王子様たちがどこからともなく湧いて出てきました。
「「異世界の巫女、もう用事は済んだよね!さぁ、さっきの続きをしようよ!」」
紗奈様は、双子の王子様たちにイラついたようです。
そして、紗奈様は双子の王子様たちを問答無用でボコボコにしました。
私の出番がありませんでした。残念です。
なので、私は大型ハンマーを取出し、止めに双子の王子様たちを潰して気絶させました。
大型ハンマーで、双子の王子様たちを潰す時に、「「グェッ!」」と蛙を潰したような声が聞こえたのは気のせいでしょう。
私は彼らを縄でグルグル巻きに縛りつけ、引き摺って紗奈様の部屋に運び込みました。
「ご苦労様、ヴァレンティーナ。ちょっと、このウザイ双子を調教するから、見張り番をしてくれない?」
「もちろん、やります。紗奈様」
「ありがとう」
私は、紗奈様の部屋に通じる廊下に仁王立ちし、無理矢理突破するであろう誰かを待ち構えていましたが、誰も来ませんでした。
数時間後___
紗奈様の部屋をノックしました。
「入っていいわ」
「紗奈様、終わりました?」
「もちろんよ、私を誰だと思っているの? 異世界の巫女様よ?」
部屋の中で見たものは、先ほどと打って変わり従順な犬になったサードニクス国の双子の王子様たちでした。
犬でいう、お座りをしている状態です。
「ヴァレンティーナ、首輪ない?」
「もちろん、あります」
クローゼットの中から、双子の王子様たちの名前を日本語で書いてある首輪を取出しました。
「日本語で書いてある。...ひょっとして、全員分?」
「もちろん、ありますよ。見ます?」
「今は、この二つだけでいいわ」
紗奈様は、犬と化した双子の王子様たちと戯れていますが、私は何か胸に残るモヤモヤ感と『ナニカ』が足りないような気がして、考え込んでいました。
「ヴァレンティーナ、難しい顔をしてどうしたの?」
「いえ、この状態に何かが足りないなと思いまして」
「ホント? 私もそう思っているのよね。あなたが難しい顔をしていると、落ち着かないわ。考え事がまとまるまで、休んでいいわ。今日は、下がりなさい」
「ありがとうございます、紗奈様。これで、失礼します」
「えぇ」
私は部屋に戻り、再び足りない『ナニカ』のことを考えるのでした。
この世界では、見た目がよければ見舞いの花はなんでもよい設定です。
もちろん、鉢植えも可。




