戦果報告-中編-
「で、言い訳を聞こうか」
ゴシック&ロリータ姿の少女が踏ん反り返りながら、
メイド服とヘッドドレスを無理やり装着されたリーゼリアに問いかける。
リーゼリアの首には私は敗北主義者ですニャンと書かれたプレートが吊り下げられていた。
「姫に美味しいお菓子を食べてもらおうかと」
「よし許す、私は懐が広いからな」
「ちょろいですね」
彼女こそ、麗しき……バカ姫と呼ばれる神聖帝国が姫だ、
尚、人間ではなくこの山……というよりも城の精霊である。
「が、まぁ条件敗北であろうと負けは負けだ、2対1であろうが100対1であろうが我らに敗北は許されない、ひとまずはその姿で反省する事だ」
「はぁ……ゴワゴワして動き辛いですねコレ」
不服そうにスカートを引っ張るリーゼリア、こうして見ればかなりの美少女である。
「さて、最後の役者が揃ったな」
その言葉と同時にリーゼリアの隣に閃光が走り、内より死に体になったナナオと骨鉄が現れた。
ナナオのその手には網カゴに入ったオヤツがしっかりと握られており、彼が少女の願いを達した事が伺える。
「セブン……流石です」
目頭に涙を浮かべながらゆっくりとナナオの頭を膝に載せるリーゼリア、
骨鉄もナナオも双方意識を失っているようで、ピクリとも動かない。
「みんな、そろった、ひさしぶり」
ふと、リーゼリアの後方から子供のような幼い声が響いた。
声の主は二頭身のぬいぐるみのような外見の妖精、彼こそ龍狩りの刀剣と呼ばれる存在であり、真実の眼を持つ妖精である。
名をマルサス。
可愛らしい外見とは裏腹に、戦争を司る精霊だ。
「お師匠様、私達はずっと一緒ですからね」
そんな刀剣を膝の上に乗せる、銀髪ツインドリルの少女が一人。
彼女はマルサスの一つ前の龍狩りの刀剣であり現在は龍狩りの大斧を務める、名をディル・ハルス・ヒストリー。
ヒストリーとは歴史、即ち国に仕えて500年以上その地位を保ち続けている者に与えられる称号だ。
尚龍狩りは皆、龍を倒せば与えられる最高峰の称号、ドラグーンを名乗る事を許されているが皆称号はバラバラである。
余談ではあるが、ハルス家は代々神聖帝国に仕える名門であり、歴代後継者が全員歴史の表舞台に立ち続けた剛の者達でもある。
「でぃる、いいこ、いいこ」
「ええ、私は良い子です、ですからもうしばらくこのまま……」
「せき、ぜんいんぶん、ある、かいぎ、はじまる」
「ざ、残念です」
心底残念そうにうなだれるディルを隣の少女がチラチラと眺める、
彼女は龍狩りの大剣、ツァディ・ソフィート・ドラグーン。
最近龍狩りに成り上がったばかりの新人であり、リーゼリアと同じくナナオと組む事が多い少女だ。
龍狩りは龍を殺して一人前ではなく、あくまで龍を殺してスタートライン、
故に彼女は龍狩りの中では間違いなく一番弱いのだが、それでも一軍以上に匹敵する能力を持つ。
そんな彼女はマルサスを触りたいのか、先程からチラリチラリと横目でディルを羨ましそうに見ている。
「さて、全員揃ったな……にしても貧相な顔ぶれだ、女と妖精と優男しか居ないではないか……」
やれやれと声肩をすくめる姫の言葉に大剣がふと、疑問を投げかける。
「大盾と大槍がまだのようですが?」
「おおたて、ぜんせん、おおやり、きてる」
「あー……大槍に関しては気にするな、話は聞いてるみたいだから」
姫がバツが悪そうに顔を逸らすと、コホンと咳払いをし立ち上がった。
「では、これより円卓会議を行う、証と威をここに」
そう姫がつぶやくと、それぞれが龍狩りの装備を見える位置へと立てかけた。
皆、普段は持ち歩いていないのか、詠唱して呼び寄せたり、無詠唱で取り出したり様々だ。
「うむ、では骨鉄、報告を頼む」
いつの間に意識を取り戻したのか、骨鉄がスっと立ち上がると何事もなかったの如くに報告を開始した。
「はい、ではまずは此方の資料を御覧ください」
そう言いながら懐より水晶玉を取り出し、魔力を込めると、壁に向かって映像が写し出された。
「まず、大弓が以前簡易英雄討伐遠征を行ったさいに捉えた術者によると、
かの王国の姫が率先して簡易英雄召喚を行っていたそうです」
投射された映像が姫の姿を映し出す。
長いブロンドの髪に整った顔立ち、やや痩せ形の小柄な体系の少女だ。
「で、話はここからです、この姫なのですがどうやら偽物だったようで、
魔王シルド・タルヴォと交戦し、敗逃走したようですね、
本物は花壇の中で永遠に眠っていたのを手駒が発見致しました」
「入れ替わったのか……しかし、魔王が絡んでいるとはな」
姫が神妙そうに呟く。
無理もない、魔物の領地を瞬く間に併合した手腕とその軍は十分警戒に値する。
「入れ替わっていた者の名前はルーフス、
始まりの10人の魔如に名を連ねる生粋の化け物です」
深い沈黙が流れる、始まりの10人とは古き神の一人であり、
先代の龍狩り12人掛かりで戦い、4人が殺された化け物なのだ、
辛うじてナナオが止めを刺せたものの、生き残った残りのメンバーの殆ども後遺症等で前線を退かざるを得なかった。
「あの……始まりの10人のマジョってなんですか?」
そんな中、空気をよんでか読まずか、大剣の少女が素朴な疑問を口にした。
「おや、新入りは知らなんだか?まぁ……この辺りではあまりポピュラーな伝承ではないからな…良い良い、無知は恥だが知らぬ事を知りたいと思うのは悪い事ではない、特別にこの私が読み聞かせてやろうではないか」
そう云うが早いか遅いか、姫の手には一冊の童話本が握られていた。
尚、この本の表紙は人間の皮であるのは完璧に蛇足だろう。
*
世界の始まりは混沌の火だった、
どこまでも燃えたぎる火を白き神は見つめていた。
何万年か過ぎた頃だろうか、神は火を見つめる事に飽き、
近場にあった石を投げてみた。
だが、石は、その火に触れる前に蒸発し、
その蒸発した物が空を形作った。
続いて神は火に向かって強い強い風を吹き付けた。
風は僅かながらにその火を消し火が消えた場所に、
空が入り込み、海ができた。
しばらくすると、火から海へとその身を投げ出す者達が出た。
神は、彼らを新しき者と呼んだ。
新しき者は海で繁殖を初め、やがて海が手狭になった。
新しき者は海を広げる術を考えた、
考えて、考えて、考えて、それでも答えはでなかった。
そこで、自分達を見ている者に問いかけてみた。
「どうすれば海を広げられますか?」
神は答えた、
「気合でなんとかなります」
人々は気合で海を広げた、広がった。
*
「待って下さい、なんだか色々と突っ込みどころが」
「む、なんだ、不明点でもあったか?」
「気合って……」
大剣の少女が頭を抱える、まぁ、神話では光あれと言うだけで世界が光りで満たされるのだから、気合で広がるぐらいなんの問題もなさそうではある。
「ちなみにこの気合は後に魔力と呼ばれる物だ、話を続けるぞ」
「えっ……あっ……はい」
素直に魔力の使い方を教えて海を広げたと、
書くべきでは無いのだろうかと思わなくもない少女だった。
*
新しき者は歓喜した
「ありがとう!気合で広がった!」
「いいって事です」
新しき者達はこれでもっと数が増やせると、希望に目を光らせた。
そこから、新しき者達は数が増えると気合でどんどん海を広げた。
同時に、気合という物が何なのか新しき者達は考えた。
考えてもわからなかったので再び神に聞いた
「気合ってすごいけど、リスクとか無いの?」
「あるよ、使い続けると火が滅びる」
「えっ?」
「滅びる」
新しき者は気付いた、自分達が海を増やしすぎると、
混沌の火が滅びてしまうという事に。
新しき者は再び神に問いかけた。
「何か方法ないですか神様?」
「まぁまだまだ先の話だし先送りでいいよ」
「なるほど」
新しき者は問題を先送りにして増え続けた。
そして長い年月が流れ、世界の半分が海で覆われた時、
火の中から一つの古き者が形を成した。
「お前等増えすぎ、こっちが住めなくなるんですけど」
「マジかよはよ言えよ、ちょっと皆に言ってくる」
新しき者は古き者の言葉を聞き、皆に伝えた、
しかし、殆どの新しき者はその言葉を無視し海を広げ続けたのだ。
その行為に……新しき者の横暴に火が怒り狂った、
原始の火に気合はなかったが新しき者が捨てた力を彼らは持っていたのだ。
そして原始の火から生まれ出た10人の魔如、俗に始まりの魔如と呼ばれる者達が現れた。
始まりの魔如の扱う荒れ狂う火に新しき者は手も足も出なかった、
燃える海と新しき者達、
海の3分の2の海を焼かれた所で火の勢いは止まった。
「別に海が広がるのが嫌であっただけで、そちらが生きてる分には問題ない」
古き者がそうつぶやくと火の勢いは収まった、
そして、火に飲まれていた海が合った場所に大地が現れ、
今度は火と海から大地へと移動する者達が現れたのだ。
人類の誕生である。
海にそのルーツを持つ者は魔力の扱いに長け、
火にそのルーツを持つ者は魔の扱いに長けた。
大地が生まれ、神は大地へと降り立った。
神の狙いは人類の誕生であり、神は人の中に紛れ今も生き続けている。
*
「と、まぁこういう神話があってだな、白銀の神話はこの後に続く物語だ、
ちなみにそこな二頭身と私は海から出た物だから、人間とはまた違う訳だな」
「つまり、新しき者が精霊で、古き者が魔如、大地に生まれた物が人間?」
「うむ、よく出来ました、褒めて使わす」
フフン、と満足そうにふんぞり返る姫を横目に骨鉄が話を続ける。
「で、どうやらルーフスが召喚術を各国にばら撒いたようです、
神出鬼没で単体の戦闘力も破格、おそらく空間移動の技も持っているようです」
「打つ手無しですね、流石に現状の龍狩りでは討伐は厳しい」
リーゼリアが呟く。
「なんで、るーふす、かみをよぶ?
せかいが、みだれる、しんわは、がんばっても、もどらない」
「先生は、何故ルーフスと名乗る魔如は、白銀の世界から量産型の英雄を呼ぶのか?不用意な力を持った無邪気な存在では災厄をまき散らすばかりで、世界を乱す事になるし、神話の世界に戻りたいのだとしても、神を呼ぶだけでは意味がないのでは?とおっしゃっています」
すかさず翻訳するディル、マルサスの言うことももっともである。
「それなのですが……どうやらルーフスは簡易英雄をある程度操れるようです、
今回我々の手駒が捉えた簡易英雄を殺さぬようにバラ……ゲフンゲフン調査してみたのですが、脳に数種類の魔力陣が確認きました」
魔法陣が壁に投影されると、精霊の二人が眉をしかめた。
「ほう、随分とまぁ……周りくどいな」
「るーふす、きけんだな」
「まぁ待てマルサス、殺すにしても戦力が整ってからだ、
それにこの陣………魔力だけではなく魔でも動くのか」
魔と魔力は似て非なる物である、精霊は魔力を使えるが魔は使えない。
魔如は魔は使えるが、魔力を使えない。
人間は魔力と魔を使えるが、中途半端。
と言った具合なのだが……。
「おそろしい、ぎじゅつ、けど、ゆうよう、ようせいでも、
まの、ぎほう、つかえるように、なるかもしれない」
ルーフスが行っていたのは魔と魔力のハイブリット陣、これを解析すれば、
戦力アップにつながるのではないかという判断だ。
「あの、この陣がどういった物か解説して頂いても?」
二人で盛り上がる妖精に骨鉄が解説を促した。
「ふむ、いいだろう、まずこの外側の青い陣だが、これは対象者の思考能力を極端に低下させる陣だ、おそらく回復魔法の応用だろう、これにより魔力抵抗を持つ簡易英雄に対しても高い効果があると見た、
そして次にこの内側の赤い陣、これは特定のキーワードや行動に至ると青い陣側に干渉し、前後の記憶を曖昧にするようだ……干渉の条件はおそらく逃走だとか、その辺りに準ずる物だろう」
「あと、このおれんじ、とうそうほんのうを、しげきしてる」
「大体そんなかんじだ、しかもこの陣は魔力を簡易英雄から引き出して稼働しているようだな、つまり死ねば消滅する、簡易英雄は死ねば白銀の世界に戻るが……かなりの念の入れようだ、骨鉄、大手柄だ、後に褒美を与える故、追って沙汰を待て」
「ありがたく……では話を続けますね、陣に関しては一発で分かったので次のお話です、この陣から考えうるのがルーフスは簡易英雄の軍をつくろうとしているのではないかと」
その言葉に息を飲む一同、現状数十人程度であれば問題なく対処できる、
ナナオが対簡易英雄部隊を作ってもいるし、龍狩りで簡易英雄に劣る面子も居ないだろう。
だがしかし、数千となってくると話は別だ。
「あんしんして、このじん、みかんせい、までも、きどうするいがいは、
きぞんぎじゅつの、おうよう、つまり、そうさほうほう、みつかってない」
「発想こそ見事だがな……まぁ、既存技術の連結だけではおそらく、
簡易英雄を完全に操作するには至らんだろう、油断はできんが時間的余裕はあると見える」
その言葉を聞いて胸をなでおろす一同、時間があれば軍備を整え決戦に向ける事もできるだろう。
「では軍備を整える方針でいきます、続いて、
簡易英雄の強さの秘密を一部解析できたので報告します」
「まじで!?」
ガタリと席を立つマルサス、戦の精霊としてあの強さの元はかなり気になっていたらしい。
「え、ええ……
いやはや、そこまで食いついてもらえると調べた者達も喜びます、えー、では此方の資料を御覧ください」
水晶から映しだされる映像、どうやら何かの木構造のようだ。
「まず、簡易英雄なのですがどうやら我々の技術を解析し、
その能力や技術を簡易英雄に複写できるようにする技術があるようです、
即ち、昨日まで剣を持った事が無い者でも一秒後に数十年剣に打ち込んだ者と、
同等の技量や技術を発揮できるという事ですね、ちなみに刀剣殿が持つ目も再現できるようです」
「おお……かっきてき、さすがかみのせかい……」
「続けます、
ですが、我々のように武装にある程度依存する能力である『威』や、人間という存在を超えるような能力はどうやら覚える事はできないようです」
「なるほど……さすがに、そこまでは、むりなのか」
「ええ、それとどうやら獲得できる技能の量にも個体差があるようです、
此方の図を御覧ください」
再び水晶の映像が変わった、今度は棒グラフのようだ。
「尋問の結果、呼び出されたばかりの者でもかなり能力に差がある事が判明しました、原因は脳にあるようでして……すごく簡単に言うと技能を直接脳内に叩き込む為、空白部分が多い者であれば沢山の技術を、少ない者であれば少量の技術を習得できるようです。
ですが、これらの領域はどうやら戦闘経験を積むことにより効率よく圧縮され、
開いたブランクに再び技術を入れれるようですね」
「こつてつ、すごい、ねがい、なんでもかなえる」
「ハハ、大斧がすごい怖いので止めておきます……で、この技術なのですが、
どこかで聞いたことありませんか?」
一同がふと、気付いたようにナナオに目線を集中させる。
「ええ、大弓の兵団が使う一律化の鎧に少し似ています、
もっとも、一律化の鎧は装着した者の中で最も全性能が低い者を基準とし、
全員がその能力まで低下するという物ですが」
「ナナオさんが神様と知り合いって事ですか?」
大剣が真剣な面持ちで尋ねる。
「いや、ただ一律化の鎧が白銀の世界の技術を元にして作られたのではないかというだけです、おそらくですが、過去に我々と同じように簡易英雄を解析した者がいたのでしょう、まぁその頃の資料とかあったら良いなー程度……正直そこまで必要もないですし」
以前だったら欲しかったかもしれませんけどね、と付け加える骨鉄。
ある程度以上に解析したのでそこまで必要でもないと考えたのだろう。
片言で話す生物はすべからく可愛いが胡散臭い
後、即席の人たちの言動がアレだった理由が明らかに