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プロローグ-そして始まる喜劇のお話-

儀式陣からゆっくりと人影が歩み出ると同時に歓声が上がる。


「ようこそお越し下さいました英雄様!」


いまだ覚醒しない意識の中で英雄という言葉が耳を引いた。


「えい……ゆう?」


「英雄様!急ぎ此方へ、敵は既に目前まで来ています故!」


「あ?え?」


意識がはっきりしない中腕をグイグイと引っ張られて、

個室へと連れ込まれると、

手慣れた作業で服を脱がされ、サイズを図られ、鎧を付けられ、

武器を手渡された。

………ここまでの時間に3分も掛かっていない、妙に手慣れてないか此奴等。


「どこか苦しいところはございませんか?」


ふと、鈴の響くような声がいまだ朦朧とした意識の中に響き渡る。


「あ、いえ、ない……です」


振り返ると、如何にも『お姫様』な女性がにこやかにこちらを見つめていた。

長いブロンドの髪に整った顔立ち、やや痩せ形の小柄な体系……

そっち方面の趣味の人ならばかなり喜びそうな少女だ。


少女はクルリと指を回すと、俺の頭の上に小さな光が一瞬点った。


「ご武運を」


ペコリと頭を下げ去っていく姫様(仮)………この国の祝福か何かだろうか?


「ささ、英雄様、ほかの英雄様もお待ちです故どうぞこちらへ……」


先ほどよりも霞がかった頭で言われるがままについていく。

……何かおかしい気がするが、まぁ、心配ないだろう。

グラグラと揺れる頭の中で自分を納得させておく、

そっちの方がよい気がしたからだ。


兵士に引っ張られるまま石畳を歩く、

いったい此処は何処のなんという場所なのだろうか?

考える度に思考に霞がかかる……まぁ深く考えないでおこう。



思考や視野に霞がかかること計20回オーバーした所で、

ようやく意識が覚醒してきた。


どうやって此処まで来たのか分からないが、

自分は他の英雄と呼ばれた少年少女と並び、

城壁の外で剣を持って立っている状況。


「……なんだこれ?」


自分達の置かれた状況を確認する、無理やり着せられた鎧に剣と盾。

そして目前に広がる敵の軍勢、うん、なんだこれ!?


「おい、お前も早くステータス振り分けろ!

まだ召喚酔いが抜けてないのか!?敵はもうそこまで来てるんだぞ!?」


息を荒げた少年が見えないウィンドウらしき物をカチカチと操作している、

おそらくステータスを割り振っているのだろう。

……って成り行きでここまで連れてこられたが、

もしかしなくても戦わなければ生き残れない系なのではないだろうか?


「いやいやいや………初っ端からクライマックスすぎるだろう………」


ステータス画面を呼び出しカチカチと操作する、先ほどの白衣のオッサンが言ってた通りAGI(素早さ)とSTR(力)とDEX(技量)を上げて、

スキルの振り分けを行う、スキル一覧には剣術や槍術、

魔術などのスキルも出ているがどう考えても魔術は現状でははずれ枠だ。


いろいろな魔法があるだろうし中途半端なスキルの振り分けになる可能性が高い、故にここは常時発動パッシブしそうな、

剣術系のスキル等を優先的に取得していくべきだろう。

こういったゲームは結構やり込んだ覚えがある……はて……?

何処でやり込んだんだろうか?まぁ、些細な問題だ。


「ああもう!!こういうのって召喚されてしばらくは、

ゆっくり説明とかあるんじゃないのか!?」


「ボヤいてる暇あったらさっさとステータス割り振れ!あとスキル!!」


「もうやってる!!」


剣術のレベルを引き揚げながら叫ぶ、どうやら剣術スキルは現状8で打ち止めらしい、

が、剣術を8まで上げた瞬間刀剣術と表記されたスキルが表記された………。


「刀剣術?」


「刀とか癖のある剣類を扱う時のスキルだ、現状上げても恩恵は少ないと思う」


その言葉に反応した隣のイケメンがこちらにやさしく教えてくれた、

さすがイケメンである。


なるほど、よくよく考えてみるとイケメンの言い分は正しいだろう、

なんせ今手元にあるのは先ほど意識が朦朧としている時に渡された剣と盾のみ、

刀なんて無いし振っても意味が………


「だが振ってみる」


だがイケメン、テメェはダメだ。

カチリとスキルを1だけ振ってみる………むろん意味はない、なんとなく浪漫があったからだ。

すると、スキルツリーの一番下の方に、

『ユニークスキル:観察眼』と書かれたスキルが表記された。

どうやら無詠唱で相手のスキルや能力を看破するスキルらしい。


あれ?もしかしなくても滅茶苦茶強くね?


などと思っている間に波のように敵兵が押し寄せてくる、

もはや戦いは避けられないようだ。


「まったくもって忙しいな……みんな、名前は?」


「終わったら教える、だからみんな死ぬなよ!!」


「「「応!」」」


皆の声が響く、さぁ……開戦の時間だ。



それぞれが戦場に駆け出す、ふと、

また何か違和感を覚えたがそれも些細な問題だろう。

敵が波のように押し寄せてくる、

敵の兵が持つ大盾には串刺しになった竜と火の紋章。


(ま、最初の雑魚のスライムみたいなもんだ、サクっと倒すとするかね)


より強く一歩踏み出し速度を上げ突き進む、

尚、AGIは謎の補正込で113に達している。

この速度について来れる者は世界広しと言えど両手両足で数え……結構多いな。


等と、とりとめのない事を思いつつ大盾を構えた相手が突き出した槍を。

苦もなく回避し、お返しとばかりに、相手の首を鎧の隙間から跳ね飛ばす。

とはいえ隣の兵達は、大盾と上に掲げられた槍が邪魔で、

それ以上踏み込む事ができなかった為殺せなかったが……


(もうちょっとDEXに振るべきだったか?)


今回素早さのステータスに振ったのは、

ダメージを受けないようにという考えからだ。


痛みにこらえながら自分がどの程度戦えるか分からない、

ならば一撃も受けないようにして、

すべて回避すれば問題ないし逃げ足も速くなって一石……

あれ?そこまで行くなら現状戦場から逃げたほうが良…………



はて?自分は何を考えていただろうか?



再び覚醒した意識の中、

鮮血が巻き上がり敵の兵の首が飛ぶのが見えた。


と、同時に敵の兵達に動揺が………走らなかった、

大盾をしっかりと構え、後方の兵が上に槍衾を敷き詰め、

完全に防御の体制へと移行する。

まるでマスゲームを見ているかのようだ。


ふと、そんな事を思いながら敵の兵達の波が割れるのを見ると、

奥から一般の兵達よりも豪華なフルプレートをまとった兵達が3人現れた。

中央のリーダーらしき二刀流の鎧はキザったらしくマントをバサリと振るうと、

左右の二人は槍の頭を下げてゆっくりと左右へ別れた。


(相手は3人、全員重鎧で武器が十文字槍?二人にククリナイフと切先諸刃の……刀?の2刀流が1人か……『観察眼』)


雰囲気からして他の兵達と違うのは明らかだ、

色が違うだけで速度が3倍扱いされるような存在も居るし、

念には念を入れたほうがいい。

少年はそう頭の中でつぶやくと敵対者3人の詳細情報が脳内に表記された。


『名前:大弓の兵団』

『スキル:個人取得可能戦闘関係スキルALL Lv6 ステータス隠蔽:LvMAX』

『統一された個:個である事を捨て完全なる軍となる、

それは神に近づきし人ならざる所業』


『名前:大弓の兵団』

『スキル:個人取得可能戦闘関係スキルALL Lv6 ステータス隠蔽:LvMAX』

『統一された個:個である事を捨て完全なる軍となる

、それは神に近づきし人ならざる所業』


『名前:大弓の兵団』

『スキル:個人取得可能戦闘関係スキルALL Lv6 ステータス隠蔽:LvMAX』

『統一された個:個である事を捨て完全なる軍となる、

それは神に近づきし人ならざる所業』


(なんだこれ!?)


3人ともまったく同じスキル……そして名前が表記されない、

他のステータスが開示されないのは、

隠蔽スキルによるものだろうが……いや、だからと言ってコレは異常だろう。

先ほど駆け抜けていく際にちらりとほかの英雄のステータス見てみたが、

しっかりと名前等に関しては表記されていた。

無論、ステータス隠蔽LvMAXがついている英雄もだ。


さらに言えば、個人取得可能戦闘関係スキルALL Lv6などもおかしい。

ひと通りの基礎でLv1、戦闘慣れしてLv2、同業者が目を見張る程でLv3、

生涯を剣に掛けた師範代クラスでLv4~6の間との事。


つまり、あの3人は全ての武装において、

最低でも数十年の歳月が必要な鍛錬を行い、

センスが必要になってくる領域へ踏み込んでいるのだ。


さらに中途半端に表記されたスキル達は……おそらくユニークスキルだろうか?

いや、だが、3人も持ってるから汎用スキルかもしれない………

まぁ、現状効果が分からない為どうしようもない。


というよりも自分のスキルに関しても説明文でやっと分かった程度なのに、

あれでは自分たちにどういったスキルが備わっているか理解できな………

いや、そもそもこっちの人はステータスなんて見れないのだから、

ある意味必要無いのかもしれない。


(こっちの剣術Lv8だけど……

なんにせよ一旦様子見しながら戦うしか無いか……)


Lv8で大凡人類が到達し得る最高峰とされているらしい、

事実、コレ以上のスキルアップは無理だった事を考えるに、

おそらく人間という種族カテゴリーが足を引っ張っているのだろう。

流石に一撃で負ける事も無いだろうが念には念を入れた方がいい。


(さて、どう出る!)


抜刀した剣を構えながら更に速度を上げて走る、

速度を生かした刺突、回避されればそこからの横薙ぎ、これで先手を取る!


「フッ!」


目にも止まらぬ早業、

大凡の剣士が反応さえ許されず一撃で絶命するであろう一撃を、


(なっ……!)


刀の刃先に曲剣の腹部を軽く当て、

そのまま滑りこむようにこちらの懐に入り込む、

こちらの目に留まらぬ攻撃を、目に留まる速度で往なされた。


「グッ!?」


同時に腹部に鋭い痛みが走る。

事もあろうに敵は、スライドさせた曲剣を鍔に当たる直前で刃を斜めに傾け、

その曲剣の面積の広さを利用し、

鍔の上をスライドするように刃を振り抜いたのだ。

正直自分でも一瞬何をされたのか理解できなかった。


その上、ご丁寧にも次の一撃の準備をこちらに悟らせぬように、

上半身を動かさず1歩を無挙動で踏み込み、

逃れようとする体にそのまま一撃、さらに曲剣を一瞬で逆手に持ち替え、

流れるように此方の腹部を切り裂いた。


もっとも、無挙動での一歩踏には切られた後に気付いたのだが。


懐に滑りこまれた時点で此方の視覚は相手の大型の鎧とマント、

そして上半身で遮られ、最後の踏み込みが見えなくなる。


さらにそこに上半身を動かさないという行動を加えた為、此方からすれば、

瞬発力に物を言わせ後方へ飛べば回避可能であるという、

僅かな心理的な余裕が生まれ、どうしても後方に逃げようとする。


……恐ろしい事に相手は、此方の速度と練度を見て、

ここまでの流れを完璧に読んでいた。

瞬発力で勝っていると完璧に思い込ませ、

既に確殺できる範囲に踏み込んでいるとも知らずに。


後ろに飛び跳ねる瞬間目に留まる速度、

達人止まりの人間が行える速度で流れるような剣戟が体中に刻まれた、

一方の手にもった切っ先諸刃の刀で一撃、

刹那遅れて逆手に持った曲刀をクルリと手のひらで回し、持ち替え、

先ほど振るった剣戟の軌道に吸い込まれるようにに斜め上から切り下げる一撃、

そのまま後ろ回し蹴りの要領で、体をクルリとひねり回し、

前方へと大きく踏み込み2本の剣による同時回転斬り、

ここまでで合計6発、時間にして僅か2秒。

……普通であればこの6発で終わっていただろう。


剣を振るう度に揺れる鎧のマントは、

まるで返り血が鎧へ付着するのを嫌うかのように、

少年の血を吸い取って赤く染まっていく。


(こいつ……強っ……!!)


だが、その男は英雄だった。

瞬発力を活かし、後ろに飛び跳ねる。

普通ならば肺を裂かれ絶命していたであろう攻撃を体に受けたとは言え、

数センチ程度切り刻まれ回避したのだ。


同時に、その兵はあくまで兵だった。故に。


自分の首筋の後ろから冷たい何かが、

押し付けられる感覚に振り向こうとするも、

後ろに押し付けられた何かのせいでそれ以上飛び退く事も、

振り返る事もできず。


そのまま、首に触れた何かに力が加わり地面に押し付けられた。


「へ?」


間の抜けた声を気にかける事もなく英雄の目の前の二刀流兵は、

まるで業務のようにその刀で地面に伏した英雄を断罪した。


「英雄1、討伐」


義務的に、されど戦場に届くように声を発する。

ほぼ同時のタイミングで、

この場以外で同じ内容の報告が合計5箇所で上がった。


戦闘時間わずか5秒。


未だ脳が動くその『少年』は、

自らの首に突きつけられていた物が残り2名の兵が持っていた十文字槍だと、

切断されてからようやく理解した。

少年のスペックは間違いなく兵を凌駕していただろう、

奢りがあっても油断はなかったし、総合的に見て慎重だったと言える。


だが『コレ』が現実だ。


マントをなびかせ視覚を遮り、

左右の二人を阿吽の呼吸で左右後方に回りこませた事も、

全ての動きがフェントであった事も。


相打ち覚悟で斬りつければ、

あるいは勝利があったかも知れない事も少年は気づかず息絶え、

打ち捨てられた遺体は消滅した。

自分よりも強い敵と戦うときは頭を使いましょう。

後プロローグは次でラスト。

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