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即席英雄と七人の柱と一つのお皿  作者: 砂上天秤
第一章 魔王と少年と少女の放浪
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シルドという魔王


目が覚めると、普段の身体と違うことに気付いた。

暗い暗い闇の中に、自らの身体を確認するとドロドロに溶けた闇のような感触に不快感を覚える。


「……オハヨウ」


暗闇の中、テレビを見つめる一人の髭面の男を捉え、挨拶を交わした。


「おう、オハヨウさん、こっちに居れる時間も少しづつ伸びてきたな」


「アア、アチラガワが、少しイソガシイからト言うのモ関係シてルガナ」


「それに言葉も随分と流暢になってきた」


言われて気付く、確かに最近は流暢に喋れるようになってきた、否、チャネルが合ってきたと言うべきか?


「世界がチカヅイテる証拠だヨ……ああ、スコシ調べ物ヲたのミたいンだが?」


その言葉にいままで此方を一瞥すらしなかった男が驚いたように振り向く。


「……ま、まぁ物によるが?」


どうやら初めてのお願いに驚いているようだ、いや、恐れているのか?

此方が何かを要求するなど初めてだから警戒してるのかもしれない。


「アチラから、ヒトリカエッタ少年がイル筈だ、黒いカタナをモッテる、そのショウネンに、アワネばナらん……フセキの為ニ」


「人探しか……お前もしかしてコッチで寝てる最中はアッチで動いてるのか?」


「ソンな所ダ、こうミエテ世界最高峰ニ忙しい」


その言葉に男が笑う。


「何時も人目を気にしながら図書館通いしてる奴がそれを言うかね?」


「テキジョウ視察って奴ダよ、どんな歴史を刻んでキタのかシルコトで、戦い方ヲモサクするのサ」


そう、我々は何れ戦わねばならない。


目の前の男の第一目標は弟の奪還であり、これは俺との協力によりほぼ成されるだろう。

俺の第一目標はこの世界の情報収集であり、これもこの男との協力によりほぼ成されるだろう。


第二目標のみが二人を交差させる、この男はこの世界を守りたい。

そして俺の第二目標は、俺の世界を守りたい。


「サテ……次ハ衛星のイチと、周回軌道デモ調べルかナ、そちラはオトコヲ……」




『ヤタ・ヒロアキの捜索を頼ンダ』




                  *


ふと、目が覚めるとそこは木造作りの天井と床、

ややゴツゴツした床に眉を顰めるも、身体を痛めた等の被害は無いようなのは不幸中の幸いか。


ふと、視線を感じ隣を見るとリンさんが此方を見つめており、

目が合うと彼女は子猫のように笑った。


「おはよう、お互いオークやゴブリンのお腹の中じゃなくて良かったわ」


「……彼は高潔な王です、少なくとも我々に対してはね?」


クスリと笑い、起き上がりながら背伸びを行い昨日の夜の事を思い出す。

あの戦車の事を知りうる限り話した事、あの王から戦車が出て来た状況を聞いた事。


そして王の出した結論が『英雄』あるいは『魔王』を基軸とした戦術を行えば、

一切の苦なく撃破可能、しかし通常人員で倒そうとすると中々に難しいという事。


『シルド殿や龍騎殿も気付いていて黙っている状態か……となれば、今は独自に対策を練りつつ、情報を集めるのが必要だな』


というのが王の判断だ、シルドは世界の危機になりうる事柄に対しては、

嘘をついたり連絡を怠らない魔王であるとはゴブリンが王の言葉だ。


『ハイディ様が悲しむような事だけは絶対に避ける、彼はそういう王だな』


ちなみにハイディという魔如は全ての魔より生まれ出た存在の姉にあたり、

事実上の魔王の選定者にあたる存在との事。


魔如あるいは魔物と言われる存在であれば魔王たる器を数多の鍛錬を経て獲得し、彼女が持つ始まりの火をその器に灯される事で魔王への変化が訪れる。


彼女の選定無しで魔王に到れるのは彼女と同じく火を持つ他の名持ちの始まりの魔如に選定されるか、魔王を打ち滅ぼしその火を奪う事、あるいは火を持たずとも自称し得るだけの実力を持つ事らしい。


シルドさんは『火』を持たない自称……ではなく『他称』魔王である。

前魔王を滅したが、火をハイディに返し自らは人であって初めて『王』であれると言ったそうだ。


話は少し逸れるが、要するにシルドさん人間としてあの吹っ飛んだ強さなのである。さらに言えば、事象や時空を捉える程の技量は魔王になる前からあったとの事。


唯一彼が敗北する時は情報収集と割り切った時だけらしい。


すくなくとも、防衛戦と決戦においてはもうあいつ一人でいいんじゃないかな?

となる程に強く、しかもハイディと大将と呼ばれる人物2人も、決戦状態状態でのシルドに並ぶ強さを持つ為事実上国を相手に勝つのは不可能。


しかも3人が飛び抜けて強い訳ではなく魔王級の兵もゴロゴロいる為、防衛に徹するのであれば他の全ての国を1度に相手取ったとしても確実に守り切れると豪語していた。


……話を戻す。

ハイディとシルドは世界を愛しているらしく、

同じく龍騎王と呼ばれる男も愛しているらしい。


その3人が世界的な危機に陥っても動かないという事はありえない、

で、あれば現状彼らは危機に対しての準備中、あるいは既に行動中であると考えるのが自然であり、自分達も危機があるのでは無いかという前提で軍備だけは怠らないようにするのが最も良い行動なのだと言う。


結論は戦力の増強、それは僕達にとっても変わらないのだ、

あるいは、そうなるようにシルドさんが仕向けているのかもしれない。

あの人は本当に油断も隙も―――


「今日街に戻るけど、どうするの?」


リンさんのその言葉で現実に引き戻された。


どうする?とは、この集落の事を伝えるか否かという事だろうが……まぁ伝える利点も無ければ伝えない利点も無い。


「黙っておきます、彼等は人にどうにかして近づきたいらしいですし、それを蔑ろにするのも……違う気がしますし」


「なら、貴方の指示にしたがっておくわ……個人的には言いたいんだけどね?」


彼女の言葉も至極当然だろう、なんせ防衛施設を備えた街とは言え、魔王が隣に住んでいるとなれば気が気でないだろう。戦うにしろ共存するにしろ情報は渡しておけばいいと考えるのが『普通』の『人間』だとは思う。


―――だが別に伝える必要も無い。


「ええ、助かります」


「じゃ、お別れ言って早めに帰りましょう、アイテムボックス目当てに捜索隊でも出されたら事だわ」


そう言いながら脱ぎ散らかしてあった軽鎧を着こむリンさん、下着の横から少しだけ桜色が見えたがここは紳士的にスルーしておこう。


「それで、帰るのはいいんですけれどあの街にはもう居ない方が良いんですかね?」


「んー、確かに動きづらくは成るでしょうけど、情報を集めてからでも良いと思うわ」


情報を集めると言うと?


「何の情報を集めるんですか?」


「シルドさんが探しそうな人の情報よ、シルドさんの水晶運送に行けばある程度の情報は引っ張れると思うわ」


……すっかり忘れていた、あの人そういえば会社を経営してたんだった。


「そういえばそんな話もありましたね、最王手の運送企業なんでしたっけ?」


その言葉に小さく頷くリンさん、しかしその表情は少し暗い。


「ええ……兵でも武器でも兵器でも、なんでも恐ろしい速度で必要な分だけ必要な戦場へと運ぶ集団、アレを敵に回した状態で戦争起こすなんて何度も経験したい物じゃないわ……気付いたら自国のど真ん中に敵兵がうじゃうじゃ居た時なんて目眩を覚えたわよ」


それは確かに想像したくない……悍ましい光景だ。


「その上此方の兵に化けてた時なんで……リーダーが見抜いてくれてなかったら死んでたわね」


「速度だけでなく隠密性もという事ですか」


その言葉を否定するように首をふるリンさん。


「―――それもあるけど動きが早すぎて情報が間に合わないのよ、飛龍や早馬が来た頃には全員死体よ」


「……恐ろしいですね」


聞いただけでも怖気が走る。

『足が早い兵は強い』

そう言ったのは誰だったか?

情報よりも早く動けるのであればもはや強い等という言葉では言い表せない程だ。


「航空機の移動には及ばないけど並の車両より3倍近く早い………隠密と錯乱は魔で行えるとすれば、やっぱり滅茶苦茶ですね」


シルドさんが目指したのは自らが消えても立ち行くだけの『強靭な組織』魔王クラスの『兵』を集めるのも……それが理由。


見ている世界が違うのだ、恐れる事が違うのだ、彼は自らの死ではなく組織の死を恐れている。


「シルドさんって……何なんでしょうね?」


「魔を統べる人が王、人間が達しうる限界を飛び越え……神へとその刃を届かせた『だけ』の人間よ、多分ね」


太陽が少しづつ高く上がる中、ほんの少しだけ自身の中の『人』の感情が緩やかに揺れた気がした。


作者の夏休みねぇから!!

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