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即席英雄と七人の柱と一つのお皿  作者: 砂上天秤
第一章 魔王と少年と少女の放浪
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魔王の始まり

シルド・タルヴォという男の話をしよう。

その男は魔族の領土と人の領土を隔てる城の辺境伯の子供として生まれた。

タルヴォは好奇心旺盛な子供で、赤ん坊の頃から彼方へフラフラ此方へフラフラと這いずりまわっていたらしい。

言葉を理解し、2本の脚で歩き回るようになると、

活動範囲を広げ魔族の領土にこっそり入ったりもした。


そして彼は城に一番近い森……とある大蜘蛛の住処に足を踏み入れた、好奇心からの出来事だったのだろう。


その森で彼は不思議な女性に出会った、下半身が地面に突き刺さったそれはそれはとても美しい女性だ。青く艶のある長い髪をなびかせた上半身裸の、大凡人間とは思えない程に美しい女性に対し彼は思わず駆け出しそのまま女性に抱き付き………。


「おなか冷えるよ?温めてあげるね」


と、言ったそうだ。

彼は心優しい少年だった、だがセクハラだ。

しかし、女性は特に怒らず少し困った顔をしてこう言った。


「お魚は人間の手の温度で火傷してしまうそうよ?私がお魚だったらどうするの?」


「手を冷やして温める!」


女性は本来ならばそれぞれ住む世界が違うという意味で言ったのだが、少年には通じなかったらしい。

だが……少年の言う言葉も最もであると思った。

それは双方が死なない程度に互いを合わせれば、互いの生物は共存できるという事。歩み寄るとは大変な事である、双方に自己犠牲を払うのだから。

だが……双方を思いやればこそ………このような言葉が出てくるのだと女性は察した。

この目の前の少年は底抜けに優しく、底抜けにバカで、底抜けに大物なのだ。


女性は少しうれしくなった、おそらく少年は私が魔物だという事に気づいているだろう。だが、それでも彼は私を心配してくれた。

そういう心こそが、今の魔族と人には必要なのだと。

そして、互いが無理をせず同じ土台に立った時…………誰も、何も、殺しあわずに済むのではないかと。

そう思ってしまったのだ…だから彼に一つの希望を授ける事にした。


「心配してくれてありがとう、でも私は大丈夫だから……心配してくれたお礼にこれを上げるね?」


そっと、少年の胸に手を触れると一つの文様が浮かび上がる。

刻み魔術といわれる文様、術式を直接体に刻み込む事で魔法が使えない物でも魔法を使えるようにする物。

彼に刻んだのは力を分け与える刻み魔術、元来魔王等が配下に力を分け与える為に使う物である。


「もしも、貴方が小さき者を見つけて、共に生きようと思ったのならその子に力を分け与えなさい、

でも、貴方が選べるのは一つだけ」


「ごめんあんまりわかんないや」


普通そういう事言われても常識ある人は理解が追いつかなかったりする、そういう意味でこの少年は比較的常識的だった。


「そ、そう?えー、えーっと………誰か!ハイちゃん呼んできて!私じゃダメっぽい!」


彼女が頼ったのは同郷のハイディと呼ばれる始まりの魔如の一人、

この魔如との出会いが、彼の運命をさらに加速させた。



この出会いから数年後、タルヴォの両親は魔族の侵攻を受け他界、そしてタルヴォは僅か11歳という若さで父のすべてを継承した。


その5年後、タルヴォは乱立する魔王を一掃して見せた。


僅か5年、全人類が今まで必死になって無しえなかった偉業を彼は成し遂げたのだ。



『タルヴォ』の名は大陸中に駆け巡り、世界を震撼させる事となる。

もともとタルヴォの父親の名は非常に優れた人物として名を広めていた、

魔族に数も力も劣る人間の兵のみで、30年間に渡ってその猛攻を凌いだまさに名将。

その倅、わずか11歳の子供が魔族相手に打って出て、その領土と力のすべてを手に入れた。


普通ならばその麒麟児の実力におそれおののく所なのだが……

魔族なぞ大した事は無い、そう思う平和ボケした奴等も現れるのは必然である。


利権に眩んだバカが戦争を吹っ掛けたのだ。


タルヴォの役職は辺境伯、即ち王に使える存在である。

だがタルヴォの国の王は動けなかった。王は魔族の恐ろしさを知っていたし、タルヴォが持つ兵の恐ろしさを知っていた。

あるいは外敵からの進行を食い止められる程、自分達の兵が強くないと思っていたのかもしれない。

実際には、そんな事は無かったのだろう。

だが、魔族に対し人が紙切れ程の役にも立たない事を過去に目の当りにしていた王は手を出す必要も無いと考えたのか、あるいはタルヴォに近づく事すらを恐れたのか……真意の程は分からないが、何も考えずに動かなかった訳では無いのは確かだろう。


それに、もしもその考えが王の考えであったのであれば、行動としては間違いなく正解だった。


怒号響く戦場、合戦の開始から僅か10分で身の程知らずは殲滅された。

壊滅でも、全滅でもなく、殲滅。

敵陣で炸裂する原始の魔術、一列に並んだビル程もある水晶を纏った蜘蛛の突撃、言葉にするのも憚られる程圧倒的に蹂躙した。


そして、敵本国に攻め上がる魔王。

初戦から12の砦を攻略するのにかかった時間は僅か8日、時に魔術で一撃の元に城ごと粉砕し、時に蜘蛛の突撃で城門を吹き飛ばし、時に城内に潜り込ませた魔族に暗殺させ……どこまでも圧倒的であった。


そうして、自らの本城に攻め入られた王は、目前に迫る魔族と蜘蛛と魔如と人の列を見てこう言ったという。


『人中が魔王』と。


この戦いは15日戦争と言われ、人々の記憶に深く刻まれた。

最早誰もその実力も疑いはしない、文字通りの魔王の誕生だった。


しかしながら、そんな事を気にするでもなくタルヴォは魔族領土の開発に頭を抱えながら政務を行った。ぶっちゃけ死ぬほど忙しかったのである。


タルヴォは侵略した領土の平定を王に丸投げすると魔族の領土の平定を急いだ、

その後、資金計算から近々資金難に陥るとわかるや否や今度は精兵を使って運送業を始めたのだ。

その名も水晶運送、かれの領地の特産物は魔力を通さない水晶で、それを模していたりする。

ちなみにこの水晶、実は水晶蜘蛛から取れる物である。


戦時中彼等は馬の代わりに水晶蜘蛛という5m以上の大蜘蛛に乗り戦場を駆け抜けた。時速は優に300kmを超え、その重量を持って突撃する騎兵達は文字通り無双の強さを持つ。

戦後タルヴォが目を付けたのはその速度だった、どんな駿馬であろうと絶対に追いつけぬ速度。山岳部であっても速度を落とさぬ足、糸で橋を作り崖を渡る器用さ。そして足が多いが故に出る安定性と積載量の多さ。


これはもう運送するしかないんじゃないかなフフ、

と不意に怪しい笑顔で笑う彼を見た兵はその邪悪な笑顔に震え上がったとか。


なんにせよ兵は金を食う、そしてタルヴォは質素倹約を愛していると言っても過言ではない。金は使わねば増える、増えれば増えるだけ幸せ、そしてその幸せを愛する皆にばら撒けばもっともっと幸せ、やや歪んでいるが、そういう考えの持ち主なのである。


チャージ(貯金)とバースト(散財)、この2つを彼はこよなく愛した。

故に兵の練度を損なわず、かつ金銭を稼ぐ方法が運送業であると考えたのだ。


その俊足を持って彼が大陸の陸路を牛耳るのは3月も掛からなかった、

たった3か月だ、それぞれの町や城下町の土地を買い叩き、

領地で建てた建築物を蜘蛛に直接運送させた。

手法としては現代の仮設住居を移動させる方法に酷似していたりする。

速度とは力だ、情報が伝わって僅か数ヶ月の間に他の運送業者や商人達に牽制させる暇もなく、各街に水晶運送の支社を建てた。


そして、宣伝。

安心安全の水晶運送、品物が途中で奪われた場合払い戻しがあります。

そんな甘い言葉に引かれた小金持や小悪党達が寄って来る、品物を運ばせそれを奪って払い戻しを求める。

まぁ、よくある手段だ。それに便乗する形、いや、本来は此方側がメインだったのだろう。

水晶運送の評判を落とす為、商人達はあらゆる手法を持って邪魔を繰り返した。


だが、相手が悪かった、なんせ品を運ぶのは魔王戦争で前線で戦い続けた蜘蛛騎兵。

魔族とのキルレシオは蜘蛛1対魔族500、人間相手ならば1対1.5万。

強さの秘訣は水晶蜘蛛の作り出す水晶は魔力の一切を拒絶するという点である。

元来そういう化け物を止めるのは魔術師の役目なのだが化け物が魔術を受けてくれないのだ、

先生!魔術師さんが息をしてないの!!と軍師も叫びたくなる。


更に言えば水晶蜘蛛は糸を出す、

それも水晶と同じく魔術遮断の能力を持ち合わせた糸で強度もかなりの物。

まぁ、そんな化け物が1万5千程列になって突撃してくる所を想像してほしい、

そりゃ魔王も死ぬ事請け合いである、合掌。


世界が世界ならチートだと関西弁で非難されかねない。


そんなこんなで、蜘蛛騎兵の力を知らぬ物達は一瞬で肉塊へと転生した。

あるいは御伽話程度の認識だったのだろうか?

肉塊は答えてくれないのだがあえて問いかけるのも手かもしれない。


同時に、小金持ち達や商人のの認識は変わった、

俊足を持ったツーマンアーミ-が荷物を運んでくれるのだ。

お値段は高めだが早いかつ安全確実であれば皆使いたがる。

要人護送や高級品の運搬に喜ばれ、事実現在もほぼすべての町に存在している。


大体大金貨1~10枚(大体10~100万ぐらい)ではあるが、時間と安全を金で買えるのであれば金持は糸目を付けない。

故に細かいコース等を設定し、高い金銭を効率よく金持ちから毟っているがそれはまた別のお話。

値段を高く設定したのは他の業者から要らぬ恨みを買うのを回避するためだ、

故に、人の輸送を依頼するとこれまた結構な金額が掛かる。

又、ほかの商人からの依頼は運んだ商品の総額25%を運送料金に上乗せする事により、冒険者が受ける商人護送や護衛の依頼を無くしてしまわないようにするという意図もあった。


タルヴォは思慮深い男である。

まぁ、思慮深いが故の欠点も抱えているのだが……それは別の話だ。

少々長くなったが、コレをもってタルヴォという男の話を締めくくらせて頂くとしよう。

ここからしばらく魔王サイド、ギャグシリアスギャグギャグシリアスぐらい。

もっとも主人公主人公してる筈

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