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一人修業の果てに  作者: EKO
4/6

謎の老婆

(これまでのあらすじ)

 天使人類リーダー・帝釈天(たいしゃくてん)の策略により、サイクロンの荒海に落とされた浮世(うきよ)は、七福神のリーダー・大黒天(だいこくてん)に救われる。

 その後、彼から釣竿を託された浮世は、修行のため、北海道・摩周湖ましゅうこへ…。

 一人修行を始め、約半年が過ぎたある日の午後のこと、一人の老婆と出会う。


老婆は、浮世の姿を見るや、

 

挿絵(By みてみん)



  いきなりしがみついてきた老婆に、浮世はたじたじとなった。

 ~何だ、この婆さん?それに”孫”だと?北海道に知り合い、いないんだけど?…~

「婆さん、孫って言われても…」

「割とめんこい(=可愛い)ね。確かにこの辺の人と違うようじゃ。ないち(=本州など)の人か?

「ああ、本州から来たよ」

「坊や、ちせ(=家)は?」

「摩周湖の展望台を借りて住んでる」

「摩周湖…一人で住んどるだべ(=住んでるのか)?」

「ああ…婆さんは、この辺の人かい?」

 だが老婆は、その質問には答えず、

「今夜、坊やのちせで、ねまって(=休んで)いいか?もうこわくて(=疲れて)」

「ええ~?」

 見ず知らずの老婆に図々しく言われた浮世だが、よく考えて見れば、彼も摩周湖の展望台を借りて住んでいる。

(人のこと、言えねえな…)

 まだ世界中が、大災害から立ち直れない時世だし。

「いいよ、婆さん、だけど遠いぜ。俺、ランニングしてこの弟子屈まで往復してるんだ」

「坊やが展望台まで、私をおぶるっしょ(=おぶるでしょう)」

 ますます図々しい老婆だなと一瞬思ったが、浮世は老婆の瞳に注目した。疲れてるには違いないが、両の瞳だけは輝いている!

(この婆さん、何か情報を知ってる?)

「よし、おぶるよ。修行がてらだ!」

「ありがと」

 

 さすがに長距離を、しかも老婆をおんぶしながら歩くので、浮世は時々休憩した。それでも夕方には摩周湖展望台にたどりついた。

 簡単な夕食を済ませた後、浮世は片付けをしながら、老婆の様子を探っていた。

 優しそうな顔立ちの老婆だ。まだ疲れてるように見えるが、彼女も時折、浮世の様子を見ているようだ。

 (そろそろ訊いてみる…)

「坊や…」老婆のほうから語りかけてきた。

「え?」

「ありがとう。坊やが、大災害の折、行方しれずとなった孫とよく似とると思ったが、よく見れば坊やが、なまら(=とても)めんこい」

「婆さん、それより訊きたいことがある。何故俺に、近づこうとしたんだ?

俺の勘違いかもしれないが、あなたはただ者じゃない…ても、天使人類のような邪心を感じない…」

 そう言うや、浮世は老婆に近づき、ひざまずいた。

「ここへ来てから修行の日々を過ごし、半年余り…なのに北海道東部という地形の影響か、ほとんど情報が入ってこない…。お願いです!どんな小さなことでもいい、何か変わった情報があったら教えてほしい…」k

「坊や…」老婆は、弱々しい表情から一変、険しい表情に変わると、

「ここでは情報は無理だよ。でも確か一つ…」

言葉づかいも、北海道弁から標準語に変わっていた。

「一つ?…それでもいい、教えて下さい」

「明日にでも、この摩周湖から離れたほうがいい!」

「ええっ?」浮世は驚いた。

「坊や、ただ者じゃないね」

「………」

老婆は言葉を続けた。

「ここにこのまま居続けたら、命を狙われる。災害で大分損害したとはいえ、この摩周湖は観光地!

観光地を破壊されたくないだろう?」

「それは…」

(俺の存在が、敵・天使人類に知られたのか?ひそかに修行を続けてきたつもりだったが)

「よく考えて…」

 そう言うと老婆は、立ち上がった。ちょっと切なげな表情になる。

「坊や、私はもう帰らねば…。夕食は美味しかったよ」

「…婆さん!?」

「ありがとう…したっけな(=さようなら)~」

 最後の別れの言葉を北海道弁で言うと、老婆の姿は薄くなり、

「待ってくれ!あなたは何者…」

 そう叫ぶ浮世の目の前で、老婆は消えてしまった!

「ああ…?」

 同時に、疲れが押し寄せたのだろう。

 浮世はそのまま横になってしまった…。


 気がついた時は、もう夜が明けていた。

 浮世は、凍りつくような寒さも忘れ、飛び起きると、釣竿を片手に摩周湖に向かった。

 冬の摩周湖は、霧はほとんど発生しない。湖も凍りついていた。


挿絵(By みてみん)


(せっかく気に入ったところなのに、ここともおさらばしなければならないのか…。

それにしてもあの婆さんは、何者だったんだ?孫に似てるって…摩周湖と関係あるのか?)

(いや、それも気になるが、今の現状から考えると、すぐにでも移動すべきか、それとももう少しの間、ここで修行を続けるべきか…?)

 浮世はしばし悩んだ。

 


 







 



 




 


 

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