光の声/思いの中で
光はきっと、一種の声。届きそうで届かない、哀れな存在。
光はただ消えてゆく。
だから〝わたし〟は光を見る。
光が可哀想だからではない。光はそういうモノだから、光は決して触れてはならない。
深く……深く関わってはいけない。
光は一つでおおきな存在。
〝わたし〟は思う。
──あの光に触れたい
あの光に触れ、あの光の様になりたいと。
心から……思う。
きっとそうすれば、いつかは届くだろうから。
〝わたし〟の声と、〝あの子〟の声が……。
× × × × ×
妹の満は言っていた。忘れていると。
俺はそんなことはないと否定した。
だけど忘れていると、妹の満は言い張った。
どっちが正しいのだろうか。
俺が本当に忘れているとして、妹の満だけが覚えているのは……おかしい。妹の満が勘違いしているのだろうか。
どこかですれ違いが起こっているはず。
俺と妹の間に。
それを見付けない事には、何も始まらない。
きっとそうしなければならないと思った。
そうしなければ後悔すると、何故かそう思った。
「……」
妹の、満との約束を思い出す。
……、
…………、
………………。
……思い、出せない。いや、わからない?
──俺は、妹の満と約束をしたのか?
疑問が脳の中を走る。
いや、したはずだ。それは覚えてる。そうでないとおかしいと、そう思えるのに。
「どうして」
どうして思い出せない?
確かに約束をしたはずなんだ、約束してないと、おかしいんだ……。
カセットテープを巻き戻した様な音が頭を引っ掻き回す。
雑音しか聞こえない。ただ虚しく乱しただけだった。
どうして──どうして思い出せない?
約束はしたのに……何故。わからない。
ずっと一緒に過ごして居たんだ。
いや、違う。中学までは、中学になって俺が家族と絶縁してからだ。
そこから俺と妹の満の記憶が違えたのは。
何か理由が……理由があるはずだ。
記憶を手繰ると、妹の、満を呼ぶ自分が映る。
『──、──』
あれ、
『どうして……行かないでくれよ、──!』
名前の所でノイズが被って聞こえなくなる。
背景はメガネの度が合わないみたいに歪み、音は鮮明さを無くして途切れ途切れだ。
自分の記憶なのに。どこか他人事みたいだ。
妹の名前……。
いや、妹の名前は、『満』ではない?
それはない。ないのだが、どうしてかそう言い切れない。
名前。何か大事なことを思い出せそうだ。
「……。……っ」
ダメだ。何度記憶を辿っても、どうしても昔の〝あの日の約束〟を思い出せない。
妹の名前を思い出せない。
本当の妹の名前がわからない。
──どうして?
俺は記憶の渦に飲み込まれて沈んだ。