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光のそばで  作者: ぬこぬこ教徒
第1章
5/7

約束はどこで/妹のとなりで

 夢。夢を見ていた気がする。

 どんな内容だったかは、覚えていない。

 (まぶた)を開け光を受けると、そこには白目な熊の顔があった。自分の腹の上だ。

「……」

 怖い。リアルに怖い。

 焦点の合っていない目が俺を見て薄ら笑いを浮かべている。

 これはホラーと呼べるのではないか。

 口元に(よだれ)が垂れ狂気が満ちている。

 こんなものを置いていく奴なんて一人しかいない。

 朝の妖精だ。あいつならやる。てか、あいつしかこんなぬいぐるみ持ってる奴を知らない。

 だから、朝の妖精こと田倉夜璃の仕業だと一目でわかった。

 こういうのは一般的に女子の好きなものなのか、それとも朝の妖精の趣味の内なのか、判断しかねる。

 ずっと腹の上に置いておくのも怖いからどける。

 なんだか監視されている気分になる。


 ──ブ、ブ……ブ、ブ……


 枕元に置いておいた携帯がバイブが鳴り始めた。

 誰からだろうか。

 着信相手を見ずに出てみる。


『もしもし、ひさしぶりだね』


 ──プツン

 即座に通話を切った。

 だがまた鳴り出す。

『ひどいよ、あたしだとわかった瞬間に切るなんて。それとも私だってわかっていたから切ったの?ねぇ、おにぃちゃん?』

 怖かったのでとりあえず切った。

『次、切ったら……どうなるかな?』

 また鳴ったから出ると、低い声で脅迫された。

「話を聞こう」

『物分かりのいいおにぃちゃんだぁい好き♪』

 わざとらしい甘い声を出すのは、実の妹だった。


* * * * *


 今日は最悪な気分で居間に腰をおろしている。

 対面するのは妹の隼凪(はやなぎ)(みつる)だ。

 こいつと会うと、運気が矢継ぎ早に消えてゆく気がしてならない。

 夢オチとして目が覚めたりしないだろうか。これが夢ならまだ安心して一日を過ごせるのだが。

 現実は厳しく理不尽なのだ。

 もはや絶望の域である。

「……はぁ」

「なんで溜め息吐くかなー」

「…………はぁ」

「今のは完全にあたしを見て溜め息吐いたよね?──死ぬの?」

 これが夢なら醒めてほしい。

 今すぐに。早急に。完膚なきまでに。

「死なない。そういう物騒なこと言うのやめろよ。お前は本当に俺の妹か。悪魔の申し子じゃあないだろうな」

「あたしは完全無欠におにぃちゃんの妹だよ」

 ぶりっこみたいにあざとく笑う。

 これが妹とか、笑止。

「今、失礼な事考えたでしょー」

「意味がわからん」

 鋭い奴だ。

 なんで妹なんだろうか。

「あたしはおにぃちゃんの事ならなんでもわかるよ」

 わからなくていい。

「……で、なんの用なんだ」

「うん。そうだね」

「忘れるなよ」

「忘れたら全部おにぃちゃんが悪い」

「なんでだよ」

「そう、おにぃちゃんが全部。ほんと、いつもそうやって逃げるんだ。何もかも……あたし、ううん……〝隼凪満が死んだ〟のだって……」

 今まで積み上げたものは崩れ、バラバラになる。

 〝死んだ〟その一言で崩れ落ちた。


 ──何か大事なものを、失くしたかのように

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