光の粒/夕暮れの帰り道で
ちいさなちいさな粒。
僅かな光を灯しながら〝わたし〟の手の平に迷い込む。
それはまるで蛍のように淡くて……切ない灯火だった。
その切なくては儚い、だけど淡く優しい光を手で覆い、包み込んだ。
その光は……仄かに暖かかった。
× × × × ×
空は夕暮れの色に染まり、茜色のグラデーションを彩って夕日は明日へと朧気に去ってゆく。
そして、明日はやって来るのだ。
過去は色褪せ、今日はもう終わりを告げていた。
「……」
俺はそんな中、一人教室で窓の外の風景を眺めていた。
ただボーッとしていただけで、何も見ていなかったのかも知れない
「帰らないの?」
不意に疑問の声が聞こえた。
誰だと思いながらも首を曲げてみると案の定、予測していた奴がそこにいた。
芦田桜。クラスメートで、委員長だ。
芦田は不良らしい俺を更正させようと画策する、生真面目な奴だ。直々話し掛けて来ては、何かしら要求してくる。
俺にとっては有り難迷惑な奴だった。
「……別に」
素っ気なく答えた。
「じゃあ一緒に帰ろうよ」
何が『じゃあ』なのかわからないが、特にこれといって用もなかったから付き合う事にした。
「良かった。断られるかと思ったから」
俺はそんなに付き合い悪いことはないはず。
……たぶん。
寂しさを醸す夕暮れをバックに校舎を後にする。
あまりない二人きりでの帰宅に違和感を覚えながら無機質な地面の上を歩く。
そんな中、芦田は言う。
「君って、意外と優しいとこあるよね」
意外、か?
てか何が。
「相手の歩調に合わせて歩いてくれるとことか」
「……たまたま」
「そんな事ないと思うけど」
そこで会話ほ途切れる。
沈黙が流れ、妙な居心地の悪さを感じる。
「君は……」
芦田は何か言おうとして、
「うぅん、やっぱりいい」
数秒間逡巡して、やめた。
沈黙を切って、流して。
それからは帰路で別れるまで無言だった。