問いかけ
ぐすっ。
女の子は一通り泣き終えたのか、鼻をすすりながら私を見上げてきた。茶色い双眸が濡れている。この子の身には一体何が起こってきたのだろう。普通なら警察とかに連絡するのだろうけれど。
「帰る場所、ないの?」
訊いても答えない。けれど、私を見据えるその目がその答えを伝えてくる。
どうするべきか。この子をこの家に住ませるとしても、問題が色々とあるのは少し考えただけで分かる。私にとって最悪の事態が訪れる可能性も十分あった。
だけど、私はそんなに理論的でも計算高い人でもないし、むしろ天然だってよく言われるくらいだ。
「名前、お姉ちゃんに教えてくれる?」
訊いても、答えない。……最近の子どもは小さくても不審者対策ばっちりなんだねー。
じゃなくて。
「私は恵っていうの。恵お姉ちゃんって呼んでね。呼んでくれたら、どんな時でもあなたの所に行くから」
「ほんとに」
女の子が、私に問いかける。
「ほんとに、ぜったいきてくれる?」
訊かれて、答えられない。
「ここ、どこなの? めぐみおねえちゃんのおうち? しのぶ、ここにいていいの?」
「あ、名前、しのぶちゃんっていうの?」
あっ。小声で言った後、しのぶちゃんはしかし言いづらそうにするわけでもなく答える。
「うん、よとばり しのぶってなまえなの」
「じゃあ、今度からしのぶちゃんって呼ぶね」
そう言うと、しのぶちゃんは心なしか顔をほころばせた。今この子に色々訊いても疲れさせるだけかもしれない。私はテーブルにあるすりりんごの入った皿を渡すと、あまりお腹は空いてないと言いながらも、それを口に運んでくれた。今日はもう夜だから食べたら寝るんだよ、と言うと、しのぶちゃんはこくりと頷いた。私は部屋を後にした。