すりりんご
しゅりしゅりしゅり。
私はやたらと広いダイニングキッチンで1人、りんごをすりおろしている。消化に良さそうな物を考えたら、ふと思い付いたからだった。後からおかゆも思い付いたけれど、水の分量が分からなくて止めた。
あの女の子を家に運んできて2時間くらい経ったのだろうか。外はもう暗い。女の子の体をできるだけ綺麗に拭きあげて、たんすの奥から子供服を引っ張り出して着せてあげて、自分もシャワーを浴びて、そうこうしていたらこんな時間だった。
しゅりしゅりしゅり。
りんごをすりおろす手から意識を離さないようにさっきから気を付けている。1回、手を滑らせて自分をすりおろしそうになったからだ。血で染まったりんごを食べさせるほど私は鬼じゃないつもりだし、まずそんな痛い思いをしたくないし。というか赤く染まったすりりんごをどうごまかせば食べさせる事ができるというのだろうか。りんごの実は皮と同じで赤いんだよー……とか、幼稚園児でもひっかかりそうにない。というか匂いでバレそうだ、鉄の匂いが混ざったりんごなんて誰が食べ――
「うわっ」
しゅりしゅりしゅり。
私は中指にばんそうこうを付け、りんごをすりおろしている。じんじんする痛みが辛い。赤く染まったすりりんごは流しに捨てた。
「……おかゆ作ってた方が良かったかな」
いやでも、多分おかゆでも熱湯をぶちまけるのがオチだったかもしれない。こっちの方がまだマシか。……結構痛いけど。
そうこうするうちに今度はなんとか、甘い香りのすりりんごを作る事ができた。途中、汗が入ってしまった気がするけれど、大目に見てくれますように。
そうして私は女の子を寝かしている2階の部屋に向かった。階段でこけないように少しだけ気を付けて。