夕立(下)
それは幼い少女……女の子のようだった。慌てて回りを見渡してしまったが、人の気配はない。私は何をどきどきしているのだろう。ただ通りすがって、たまたま見つけて、それだけ。それだけ。動揺なんてしなくていい。そう心の中で呟きながら、私は夕立のシャワーの下で茂みに入った。
近づいて、やっぱりこの赤いのは血にしか見えない。心なしか鉄の臭いもする。女の子の顔は横を向いていてはっきりとは見えなかったけれど、やたらに白く感じられた。動かない。
「…………」
沈黙してるのは、どちらもだ。
まさか。いや、まさか。そう思って、女の子の傍にしゃがみこもうとして、体が動かない。もしかして。いやまさか。頭で巡る考えを吐き出すように、私は大きく息を吐いた。ゆっくり、しゃがみこむ。
小さな女の子だ。小学生、それもきっと低学年。雨を弾くその髪の毛は鮮やかなツヤを返す黒色をしている。私はその女の子の頼りなく細い腕を持ち、手首に指を当てた。
脈。
…………。
代わりに自分の心拍数が跳ね上がる。うるさくて、周りの音が聴こえなくなりそうなくらいに。
きっと私の確認の仕方が下手くそだっただけだ、死んでない。死んでませんように。
雨に濡れた服の下で、脂汗が気持ち悪い。雑念と一緒にそんな感覚も振り払いたくて、今度は女の子の首に指を、おそるおそる近づけ、押し当てた。
脈。
一定のリズムで刻まれる感触。
自然と息がわざとらしく大きな音を出した。良かった。生きている。しかしその安堵と同時に、女の子のその異常な程に華奢な体が気になり始めた。その痩せ方が病的なものなのかは私の知識では分からないけれど、一線を越えた痩せ方のように感じた。
この子を家で看よう。
そう思ったのが自然なのか異常なのか私には分からなかった。けれど放っておけなかった。助けてあげたかった。いや、本当はただ、私が独りぼっちで寂しかったからかもしれなかった。
抱き抱えた女の子は露のように軽かったけれど、確かな命の重みがあった。夕立は小降りとなり、夕日はその顔を水平線に埋め出していた。