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序幕
ひみつだよ。
見られたくない過去がある。見られたくない現実がある。見られたくない自分が、ここにいる。なのになんで、みんなはそれを無理やり見ようとその秘密をこじ開けてくるのだろう。苦くて苦しいはずのそれが、みんなには甘い蜜にでも感じられてるのだろうか。
ひみつだよ。
なんて言葉に力はない。どうしても滲み出る甘美な香りに群がってくるたくさんの蜜蜂を、誰が止められるだろうか。
だから。もし正当じゃなくても、バチが当たるような事をしても、自分自身がバチそのものになったとしても、絶対隠したい。秘密にしたい。秘密を知った者もまとめて、秘密にしたい。
全て飲み込んでしまう宝箱の化け物のように、ずっとずっと。
ひみつだよ。
うすらな意識の中、少女は口に人差し指を当てたのだった。