猫夫人の日常
猫夫人が主人公の番外編です。
少々短めとなっております。
猫夫人の朝は早い。
日が昇る前に起きて、日の出とともに帰ってくる猫たちのために食事をつくる。
可愛い猫の健康を害してはならないと材料は、安全だと判断できたものだけを使用し、大輝に教えてもらったとおりに栄養のバランスも完璧に整える。
食事を作っているとたいてい、ミーちゃんがやってくるのだが、ミーちゃんはケガをしているため布団の上でおとなしくしている。
「ミーちゃん! できたわよ」
夫人が食事を持っていけば、ミーちゃんは元気よく返事をする。
ミーちゃんのけがの具合は良好で元気も取り戻していた。
「それじゃ、皆も食べましょうね」
皿に盛られた食事を並べれば、たくさんの猫たちがどこからかやってきて、食事をとり始め、夫人もそれを見ながら自分の食事をとるのだった。
*
夫人の生活は常に猫とともにあるといっても過言ではない。
昼は、日当たりのいい場所で寝転がっているネコを眺めていたり、買い物に出れば散歩に出ている自分の“家族”に会う。
路地で軒先でどこかの塀の上で……自らが大切にする家族は、いつもそばにいるのだ。
「あっこれはこれは、猫夫人! いい魚が入ったのですが、いかがですか?」
声をかけてきたのは、猫夫人がいつも通っている魚屋の店主だった。
「あら、見せて頂戴?」
「はい。こちらでございます」
店主は、立派な赤い魚を見せる。
その魚は、大輝がタイと呼んでいた魚で、この付近ではあまり取れないものだと聞いている。
「いくらぐらいなの?」
「えっと……こちらですと、5000Gで売らせていただいております」
値段を聞いた夫人はタイを穴が開くのではないかと心配になるほど見つめる。
細部まで細かく見聞した夫人は、財布を取り出した。
「それ、いただくわ。5000Gでしたっけ?」
「はい。その通りでございます!」
夫人は一枚で1000Gの価値がある大金貨を5枚店主に手渡す。
店主は、ありがとうございます! と威勢のいい声で返事をし、それとタイを交換した。
「いいものが手に入ったらまた、声をかけますので!」
「えぇこちらからもお願いするわ」
そんな会話を交わしたのち、夫人は袋に包んでもらったタイを持って家へ急ぐ、そうでないと魚がすぐに腐ってしまう可能性があるためだ。
「猫夫人! ミーちゃんはあの後どうですか?」
そんな時に声をかけてきたのは、喫茶店の店主である大輝で、その横には黒猫のカグヤがぴったりと寄り添っている。
市場にいることを考慮すれば、今日は早めに店を閉めたのだろう。
「えぇ。けがの治りも良好よ。元気になったら、ミーちゃんを連れていきますわ」
「そうですか。俺としてもミーちゃんの元気な姿を見たいので、早く回復することを祈ります」
「その言葉、ありがたく頂戴するわ」
自分は急いでいるという旨を伝え、夫人は大輝と別れた。
*
そこから少し歩けば、アシアンと一緒に歩いている姫奈に出会った。
相変わらずというかなんというか、彼女はどこからか捨て猫を拾ってきていて、夫人に引き取るように頼んできたのだ。
「まぁかわいい子ね」
「ですよね。まったく、なんで捨てたりするのかしら」
その猫は、小さな三毛猫で人に慣れていないためか、夫人や姫奈たちをおびえた目で見ている。
「よしよし。怖くないわよ」
不思議なことに夫人が抱っこすれば、子猫も徐々に警戒を解いてゆき、夫人はその場で名前を考え始める。
「そうね。あなたの名前は、メーちゃんにしましょう。さぁさ、メーちゃんの新しいお家へ連れてってあげますからね」
夫人がそう語りかければ、メーちゃんはおとなしく返事をする。
「姫奈ちゃん。また、可愛い猫ちゃんがいたらよろしくね」
「えぇえぇ! もちろんですとも!」
姫奈の兄である大輝は知る由もない。
最近、姫奈が動物を連れ帰らなくなったのは、たいていの場合、新しい飼い主のところに直接赴くだけで、拾う回数が減ったわけではないという事実を……
「そうだ。あの子、ミーちゃんはどうなりましたか?」
「あぁそれ、さっき大輝君にも聞かれましたわ。おかげさまで本当に元気で……ありがとうございました」
夫人が頭を下げれば、姫奈はまんざらでもない顔をする。
「いえ、ミーちゃんが元気になったらまた、遊びに行きますね!」
「えぇぜひ来て頂戴。おいしい紅茶を入れて待ってるわ。アシアンさんも今度どう?」
「はい。行かせていただきます」
アシアンのそんな返事を聞いた夫人は、満足げにこの場から立ち去った。
*
その後も姫奈の時のように知り合いと立ち話をしながら歩いていたためか、夫人が家にたどり着く頃には、ほとんど日が暮れかけていた。
これが猫夫人の一日である。
読んでいただきありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。