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異世界の喫茶店  作者: 白波
プロローグ
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プロローグ



 その日の空は鉛のように重い雲が立ち込め、バケツをひっくり返したような大雨が降っていた。


 突然の雨に人々は雨宿りをしたり、走って家に向かっている。その少女もその一人だった。

 黒い髪をポニーテールにしていて、瞳は黒、肌は透き通るような白色という世界的にみても珍しい容姿をした竜宮祠(りゅうぐうじ)姫奈(ひめな)というその少女は、ふと路地裏にあるものを見つけた。


「まぁ大変!」


 姫奈は、道端に倒れている人影に駆け寄った。

 意識を失っているらしく、その少女は何の返答を返さない。目が覚めるような真っ赤な髪の毛は腰あたりまで伸びていたが、あまり手入れしていないらしくぼさぼさで、来ている服もお世辞にも良いとは言えなかった。見た目からして、年齢は10歳前半だろうか?


「どうしましょう……」


 この人物をこのまま放置するわけにもいかない。

 姫奈は、仕方ないとばかりにその少女をおんぶする。


「結構軽いのね、あなた」


 話しかけても返事は返ってこない。

 姫奈は、少女が雨に濡れないようにかばいながら歩き出した。




 *




 古くより戦争がなく、世界の中でも平和的な国とされるトナ王国。

 その国の地方都市アリーナのはずれにその店はあった。「喫茶 異世界」というその店は、異世界から飛ばされてきた人物が営んでいるだけあって、周りの店とは一風変わった雰囲気を持っていた。


 店主である竜宮祠(りゅうぐうじ)大輝(たいき)は、心配そうに空を見上げる。

 空には、鉛色の空が重く立ち込めていて、視界を遮るほどの豪雨が降り始めていた。


「なんだい、マスターはヒメちゃんが心配なのかい?」


 そんな大輝に話しかけたのは、この喫茶店の常連にして、この付近で居酒屋を経営している奥平(おくだいら)龍斗(りゅうと)。龍斗や大輝、姫奈は、日本出身でこちらからいえば、異世界の出身者だ。なお、この町で黒い髪に黒い瞳という容姿の人間は、この三人ぐらいである。


「まぁね。それよりもさ、龍斗はそろそろ仕込みに行かなきゃいけないんじゃないの?」

「いやいや、仕込みはレミちゃんがやってくれてるから心配いらないよ」


 レミちゃんというのは、龍斗がこちらの世界で見つけた妻のことで一緒に居酒屋を切り盛りしているそうだ。本人曰く仮に龍斗が日本に戻らねばならぬ時は、向こうまでついていくそうだ。なお、レミというのは本名ではなく、龍斗が呼びやすいからという理由でそう呼んでいるのだとか……


「でも、一人でやらせるとやっぱり心配だ。俺はこの辺で失礼するよ」


 龍斗が立ち上がると、大輝は机に置かれた紙を確認する。


「はい。それじゃ、コーヒー一杯で150Gです」

「はいよ」


 龍斗は、金貨と銀貨をそれぞれ一枚ずつ袋から出して大輝に渡す。


「どうも、ありがとうございました!」

「また来るよ」


 龍斗が店の扉を開ければ、カランカランと独特の音が鳴る。


 せめて、雨が小康状態になるまでいればいいのに……


 そんな心配をよそに彼は、柄のないシンプルな傘をさして豪雨の町に消えて行った。




 *




 姫奈が少女をおんぶする形で帰ってきたのは、龍斗が帰ってから2時間ほど経過した時だった。

 偶然にも客がいなかったため、びしょ濡れになっている姫奈とその背中でぐったりとしている少女を見るなり、店を閉めてタオルを奥から持ってきた。


「姫奈。その子はどうしたんだ?」

「町の中に倒れていたのよ……それで、どうしていいかわからなくて、とりあえず連れて来たの」


 姫奈が事情を説明している横で、少女の体を手早くタオルで拭いたあと、お姫様抱っこをするような形で少女を奥の住居スペースにつれていく。


「まったく……犬や猫を拾ってくることがなくなったと思えば、今度は人間を拾ってくるわけか……」

「仕方ないでしょ! 犬や猫もかわいいし、この子もなんかほっとけないじゃん!」

「犬や猫と同じ理由か!」


 姫奈は、堂々と主張したが、少女を寝かして両手が空いた大輝がその頭を思い切りたたく。しかし小さな女の子(かわいいもの)を目の前にしている彼女には通じなかった。


「うん! かわいいものは、みんなヒナのものなんだよ!」

「どっかで聞いたぞ、そんな言葉……」


 大輝は、大きくため息をつく。

 姫奈という人物を長年見ていたが、とうとう人間を拾ってくる日が来るとは……

 これまで、日本にいたころを含めて犬や猫を拾ってきた回数は数知れず。最近は、めっぽう減ったのだが、かつてはどうやって見つけてくるのか、三日に一回は何かしら動物を拾ってきていた。


 それぐらいなら新しい飼い主さんを探して引き渡しておればよかったのだが、相手が人間となればそうもいかない。保護者を探し出してちゃんと連れて行かなくては……



 大輝がこれからのことを思い悩んでいる横で、姫奈は少女のやわらかいほっぺたを指でつついていた。



 読んでいただきありがとうございます。


 これからよろしくお願いします。

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