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008.ヒナタと新しい相棒

昨日は帰宅が明け方になったため更新できず……


 一年前の事を思い出してから、少しの時間がたった。


 すっかり暗くなってしまった部屋の中にはワシとシズネ。


 シズネがまた泣き出した一方で、何故だかワシは頭の中がすっきりしておる。


 確かに相棒にもう二度と会えないのは悲しい。


 でも、なんと言ったらいいんじゃろうな。


 こう、とにかく相棒と過ごした日々に涙は似合わんのじゃよ。


 それに自分のせいで時間が止まるなんて絶対に許さんような気がする。


 このままだと、明日も、明後日も、そしてまた一年後もこうしてシズネは泣いておるんじゃろうな。


 シズネだけじゃない。今日集まった連中のうちの何割かはそうじゃろう。


 ……それじゃいかんのじゃよ。


 それじゃぁ、いかんのじゃ。



 ふぅ……老猫一匹じゃこの時計の針を再度動かすのは一苦労じゃの。


 どれ、ドアの外で盗み聞きしておったあやつにオイルになってもらうとするか。


 

 ……廊下に戻り、そこにおった者の肩にのる。


 ホールの方の空気が変わっておる所をみると、時間的にもちょうどいいか。


 一つ二つ頼みごとをすると、はにかみながら快諾してくれた。



 シズネにもホールに来るように伝えてもらい、ワシらもホールへ向かう。


 一階に降りるための階段の手前には、ホール全体を見渡せるテラスのような場所がある。


 今朝キリカから逃げるために飛び降りた場所じゃな。


 そこに移動してもらった。


 ホールにいた連中は、皆戦支度を整えておる。


 前に出て作戦の説明をしておるのはシュナイザーじゃな。


 さて、一仕事してもらおう。


 ワシに続いてしゃべるんじゃぞ?―――




―――ヒナタを追いかけて来たらシズネさんの話をドア越しに聞いてしまって、どうしたらいいかわからなくてしばらく戸惑っていたら、突然ヒナタが肩にのってきた。


 ヒナタに頼まれて、テラスに移動する。


 下を見渡すと、ホールにいる人たちは真剣に作戦会議をしてる。


 さっきまでの雰囲気とはうってかわって、ホールから伝わってくる空気がちょっと怖い。


 一部の人とは一緒に狩りにいくこともあったけど、こんな姿はみたことない。


 なんとなくわかってはいたけど、普段は私に合わせてくれてたんだな。


 こんな人たちをまとめていた相棒さんってほんとすごい人だったんだろうな。



……っと、どうやら私はヒナタの言葉をここにいる人たちに伝えればいいようだ。


 でも私なんかの言葉を聞いてくれる空気じゃないよね?


 ん?任せろ?ヒナタ、何で詠唱してるの……?


 ……ヒナタから一筋の赤い光がホールの天井付近に飛んでいく。


 嫌な予感。


 続いて起こる真っ赤な爆発。轟音。


 火属性上級呪文、エクスプロージョン。


 ホールにいた人たちが一斉にその呪文の発生源であるホール……つまり私とヒナタの方を向く。


 なんでヒナタ自慢げな顔してるの。ねぇ。


 では始めようか?


 ……もうこれは覚悟決めるしかなさそうだね。


 どうにでもなれっ!




 覚悟を決めて口を開く。


「一部の方は初めまして、魔剣士のククルです。肩に乗ってるのは紹介不要ですよね。私はヒナタとお話ができるので、その言葉をお伝えしたいと思います……」


「相棒が死んで一年が過ぎた……じゃが一年経ってどうじゃ。ここにいる者の多くは時間がとまったではなかろうか。」


「恥ずかしながらワシにいたっては、この一年間その記憶を封印し逃げておった……思い出したのは今さっき。ワシも一年時間がとまっていたんじゃな。」


「こんな状態をあいつがみたらこう言うじゃろな。俺なんかのために一年無駄にするとか馬鹿じゃねぇの?それともあれか、時間あり余ってるのか。この廃人共め。時間わけろ。」


 話し始めたときは沈んでいた空気の中に、少し苦笑が混ざり、同意する声が聞こえる。違いねぇと。そして毎日ログインしてた廃人筆頭が言うなと。


「だからワシは止まっていた時計の針を動かすことに決めた。同時に年寄りのおせっかいとしてお主らの錆び付いた時計にオイルをさしてやろうと思う。」


「ワシは思うんじゃよ。まずこのギルドがマスター不在なのがよくないと。そしてワシのパートナーが不在なのはもっとよくないと。」


「じゃからこの2点を同時に解決するいい手段を思いついた。」



 そこまで言うとヒナタがこっちをみてくる。


 なんだろう。この悪巧みしてる顔。この顔のヒナタにはろくな思い出がない。


 続きいくの?まぁここまで来たら付き合うけどさ。


「神よ。この世界を創りし神よ。我らの約束を聞き給え。我らの永久の誓いを見届け給え。」


 なんだろ。ここにいる人みんなで何か約束するのかな?


「我らこの先いかな事があろうとも、共に喜び、愉しみ、哀しみ、怒り、苦しみ、その全てを共有していくことを誓う。」


 空から光のヴェールが降りてきた。すごく綺麗で、そして暖かい。


「神よ。我らを見護りし神よ。ここに猫神ヒナタと人の子であるククルは約束を交わし、今後パートナーとして共に生きることを誓う。」


 そこまで言うとヒナタが私にキスしてきた。


 ホールの人たちがざわついてる。


ってえっ?え?どゆこと?パートナー?私とヒナタ?


「私で…私でいいの?」


ヴェールが消えていく中で、肩にのったままのヒナタはうなずく。


「ヒナタ以外にはおらんよ。これからよろしくの、“相棒”」


「相…棒……私がヒナタの?……嬉しいっ、すごく嬉しいっ!私こそよろしく、ヒナタ……うぅん、“相棒”!」


「さて、契約も終わったことじゃ。まずはこのホールの騒ぎを収めんとな。」


 静まれー!静まれー!っとヒナタが横で叫ぶ。


 パートナー契約を結んだことで、その声は私以外にも聞こえるようになっていた。


「静まるのじゃ馬鹿共!これから新ギルドマスターからありがたいお言葉があるっ!」


 新ギルドマスターという単語に騒ぎがざわめきに変わる。


 誰だろう。新しいギルマスって。


ってあれ?なんかみんな手元に開いたウインドウ見た後、苦笑しながら私を見るんだけど……


「相変わらず仕事が早いの。シズネ。」


 背後に声をかけるヒナタにつられて振り返ると、そこにいたのは一本の剣を持ったシズネさん。


「ヒナタ……あなたは進むことにしたのね……なら、私もいい加減進まないと。」


 そう言うとシズネさんは私にその剣を差し出す。


「これはあの人の使っていた剣よ。きっと私が抱きしめて泣くよりも、ククルちゃんに使ってもらった方が喜ぶと思うの……受け取ってもらえる?」


 シズネさんがそういうならそうなんだろう。断れる雰囲気でもないし、受け取ることにする。


「受け取ったわね?それはこのギルドのギルドマスターの証でもあるのよ。受け取り承認したことで、その剣の所有者はククルちゃんに……つまり正式にギルマスってことね。」


 ふふっと笑うシズネさん。にやりと笑うヒナタと見詰め合っている。


「は…はめましたねっ!」


「はめたとは猫聞きの悪い。さて、ククル、早速じゃが初仕事じゃ。」


「そうよ人聞きの悪い。ギルド戦の時間だからさくっと就任挨拶して行きましょうか。」


 二人に促され再びホールの方を向くと、かわいそうにだとか、またあの二人の悪巧みかとか聞こえてくる。


 あぁもうっ……もう知らないっ!


「どうも!この度真っ黒い一人と一匹にはめられてギルドマスターに就任しましたククルです!この苛立ちをどこかにぶつけたいので、さっさと会場に行きますよっ!」


 一気に言い切ると、みんなぽかーんとこっちをみてる。


「あやつがギルマス就任した日もすぐに結成祝いのギルド戦があっての。」


「その時あの人がちょうどここで話した内容とそっくりそのまま同じだったのよククルちゃん。」


「そういうことじゃ。さて、皆聞いたの?ギルマスのストレス発散にゆくぞ!」


 ヒナタが声をかけるとホール中の人が武器を高く上げて応え、そして会場へと転送されていく。


 もうっ……ヒナタには後で絶対仕返ししてやるんだからっ。



次話で完結です。

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