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八人目:屋上の女

昼休み。俺は購買でパンを買い、一応立入禁止の屋上へと向かう


ジャムパンとメロンパン。後はツナサンド


焼きそばパンが欲しかったが……


メロンパンにかじりつき、屋上へのドアを開けると


「………………」


「………………」


曇り空の下、屋上のフェンスを乗り越えて立つ女と目が合った


長く、ボサボサな髪は女の表情を隠しているが、多分俺と同じ表情をしているだろう


よーするに


「勘弁してくれよ……」


久しぶりに来た屋上だってのに


俺はため息を付き、屋上内へと入る


「こ、来ないで……下さい」


風が無い為、かろうじて聞こえた小声


「来ないでって言われてもな、今から飯食うし」


「べ、別の所で……」


「ま、気にするな。俺もお前を気にしないから」


屋上に唯一あるベンチ。そのベンチを利用してフェンスに登ったのだろう、ベンチのすぐ後ろに女はいる


俺は女を意識しない振りをして、そのベンチ近付き、ドカっと座った


「…………」


「ジャムパン食う?」


「い、いりません」


「そうか? 結構美味いのに」


「…………」


「お前、一年?」


「…………」


「違ったか?」


「…………そうです」


「そうか。……学校嫌いなのか?」


「………………」


「つか、好きな奴も余りいないよな。じゃ、お前何が好きなんだ?」


「え? な、なに」


「俺はそうだな……こうやって空の下で飯食うの結構好きだぜ。後、スカル。知ってるか? スカルクラッシャー」


「ご、ごめんなさい」


「なら、今度聞かせてやるよ。って、俺の話しばかりじゃねーか。お前の好きな事を聞かせろよ」


「わ、私……は……お料理」


「そうか。じゃスカルのアルバムと交換だ、明日弁当を作って来てくれ」


「そ、それは……」


「約束だ。……ところでお前、めっちゃ震えてるな? そっち行っていいか?」


「だ、だめ……です」


「行くぞ。俺は……俺が、お前の側に行く」


女を真っ直ぐ見て、目を逸らさせない


「あ……う……」


俺は女が戸惑っている間にベンチの背もたれに足をかけ、フェンスを登る


「今日、雨降りそうだな。明日とか晴れっかな?」


「…………っ!? 来ないで!!」


「おせぇよ」


フェンスの頂上から飛び降り、女の横に立つ


「あ、ああ!?」


「と、逃がさねぇって」


軽いパニックを起こした女の体をきつく抱きしめ、離さない


「夏だってのに、お前の体超冷て~」


「あ、あぁ……うああ!」


「何があったのか知らねーが、暇な俺が話し聞いてやるよ」


それから10分。チャイムが鳴り、今だ泣きじゃくる女を抱きしめている訳だが……


早いとこフェンスの内側に戻らせてくれねぇかな…………こえーし



「で、どうしたんだ?」


五時間目開始のチャイムが鳴った後、大分落ち着いた女に尋ねる


「………………」


「………えっとな、俺は一也ってんだけど、お前は?」


「………………柊です」


「柊? 名前?」


「……はい」


「柊か、良い響きたな。冬生まれ?」


たく、もっと気の利いた事言えねーのか俺は?


「12月……です。あ、ありがとうございます」


「ん? ああ」


「………………」


「………………な、理由話してくれねぇか? 俺には沢山の弟子が居るから、何かの役に立つかもしれねーぞ」


「………………」


「……イジメか?」


「ち、違っ」


「本当か?」


さっきから気になっていたが、柊の手の甲にシャーペンで刺された様な傷が幾つもある


それを指摘すると、柊はビクッと体が震わせた


「言えよ、柊」


「………………」


「会って間もないけどよ、俺を信じろ。俺は女の涙を晴らす男だからな」


…………あれ? この台詞、なんか嫌なデジャヴが……


「………私、クラスで」



五時間目終了のチャイムが鳴る頃、柊の話を聞き終えた


「……ひでぇな」


話を聞くと、柊がクラス内で聞いているだけでも腹が立つ、酷いイジメを受けている事がわかった


「よし、分かった。何とかしてやるよ」


俺のカプセル怪獣である新之助を使おう


「え? で、ですが……」


「でもな、イジメは無くなるだろうがクラス内では暫く気まずく、辛いかも知れない。勿論俺も出来るだけ助けるが、基本はお前次第だぞ? 頑張れるな?」


「わ、私は……」


「頑張れるな!」


反論を許さない強い口調で言う。強引でも頷かせてしまえば、少しは自殺を思い留ませる鎖になるだろう


「……は、はい」


「よし、なら任せろ」


薄情な様だかそれでも自殺をするなら、もう俺の知った事じゃねえ


「しかし、柊は髪なげぇな。取り合えずきっちりビシッと切って、気持ちも髪もスッキリしてみようぜ?」


俺は柊の前髪を掻き分けて…………


「あ…………ぅ……」


「…………え~」


ボサボサの髪を掻き分けて現れたのは、超絶な美人顔だった


「……お前、ベタだなぁ」


「ご、ごめ……なさい」


「まぁ良いや。じゃ、行くぞ?」


「え? ど、どちらにですか?」


「俺のクラスだ。カプセル怪獣を用意してくる」



んで、俺のクラス


廊下で柊を待たせ、新之助に事情を話す


「イジメだと!? うぉおおおお!!」


目を血走せ、吠える新之助


「こ、声でけぇ!」


「む、すまん……イジメか……イジメ!? ふざけるなぁああ!!」


「と、取り合えずクラス出ようぜ。人を待たせてあるんだ」


「しかし、六時間目が……」


「……イジメ」


「うぉぉおお!! 行くぞ森崎ィイ!!」


新之助は教室を飛び出して行った


「……後、頼むな優太」


「あいよ。行ってらっしゃい」


廊下で暴れる新之助と、怯える柊を捕らえ、再び屋上へと行く


「此処か! 屑共がいるのは!?」


「落ち着けって。六時間目が終わったら直ぐ乗り込むから」


「分かった! 早く終わらせろ!!」


ボキボキと指を鳴らす新之助


「……無理言うなよ」


新之助は空手部の主将であり、剣道の段も持っている猛者だったりする


しかも親父は警視庁の警視様、兄貴は弁護士、母親は病院の婦長と、基本的には余り近寄りたく無い類の一家だ


だが……


「悪りぃな新之助」


こんな時ばっか利用しちまって


「ん? 良く分からんが気にするな」


「借りは返すからよ」


それから柊に詳しく話を聞き、気付けば六時間目終了のチャイム


「じゃ、行くぞ」


「おう!」


「……………」


震えている柊


「……行くぞ、柊」


お前は起きる結果を近くでしっかり見なくちゃいけねぇ。そうじゃないと多分、次何かあってもまた自分で解決出来なくなる


ま、とにかく


「俺はすこぶる機嫌が悪ぃぞ、ガキ共が」



1-C。柊のクラスだ


放課後のホームルームが終わり、教室内が騒がしくなる


俺達は廊下で待機し、教師が消えるのを待つ


「んじゃ、また明日な~」


最初に教室から出て来た頭の悪そうな野郎。俺はソイツの前に立つ


「おい、てめぇさ、教室入れよ?」


「は? なにアンタ? 邪魔なんだけど」


「年上に向かって何だその口の聞き方は!」


新之助が吠える。……もう少し静かにしてくれないだろうか


「ヌウウ!」


唸りながら恐ろしい目で睨みつける新之助


……こ、怖いな


「た、田村先輩!?  す、すみませんでした」


「分かればいい。さっさと教室に入れ!」


「はい!」


異変に気付いたのか、教室内が騒がしくなる


「……何やってるんだ、お前ら」


そして教師もそれに気付いた


「……たく、肝心な事は気づかねぇ癖によ」


「な、なんだその目は! 私は此処で何をしているんだと聞いているだけだぞ!」


「…………」


「答えなさい!」


「あ、一也! こっちのクラスだよん」


教師と睨み合っていると、突然後ろから声を掛けられ、そのまま首に抱き着かれた


「美鈴!?」


「も~。またクラス間違えるんだからぁ」


いつになく甘い口調だ


「も、森崎!? 破廉恥だぞ!」


「…………学校内であんまり目立つ事するんじゃないぞ」


呆れた顔をし、教師は廊下を歩いて行った



「……ありがとな美鈴。つか良く分かったな?」


「よく分からないわよ。でも何年幼なじみをやってると思う? 一也のピンチぐらいは分かる」


「……助かった、ナイス幼なじみ」


親指を立て合い、コツンと拳を合わせる


「それじゃーね、一也」


「ああ、気をつけてな」


俺達が別れの挨拶をしている間、新之助は勝手にクラスを仕切っていた


「良いか、俺達の話が終わるまで一歩も教室に出るなよ」


「ぶ、部活があるんですけど……」


「何部だ? 後で俺が話をつけてやる」


「い、いえ……大丈夫です」


新之助の事を知っているのか、誰一人反抗しない


俺は柊を連れ、教室内へと入る


「ありがとな、新之助。……えっと、お前らに話が有るのは俺なんだけどさ、お前ら俺の女に嫌がらせしてるらしいな?」


「お、女!? も、森崎いつの間に……」


新之助は目を丸くして驚く


「ち、ちょっと黙っていてくれ」


新之助が会話に入ると話が進まない


「……えっと、こいつが俺の女で柊。知ってるだろ? 当然」


教室内に戸惑いとざわめきが湧く


「人の女にさ、随分散々な事してくれたらしいじゃねーかコラ?」


「ち、違うんすよ、別に俺達は……」


「森崎が黙れと言っていただろう!」


新之助が机を叩く。その机は信じられない事に、真っ二つに割れ、パイプが歪む


その衝撃にクラス内は凍り付き、張り詰めた静けさに包まれた


「…………し、新之助。ちょっと抑えような」


「ぐぬぬ!」


相当怒っているな、こいつ


「……いいか、無理に仲良くしろとは言わねぇ。だがな、無視をしたり、陰口を叩いたり、嫌がらせをしてみろよ。学校に居られなくすんぞ?」


「町にも居られなくしてやろう」


新之助が付け足す


「……お前が言うとマジっぽくて怖いな」


「……も、申し訳ございませんでした」


「に、二度しません、許して下さい」


クラスのあちこちから、そんな声が上がった


それを震えながら、泣きながら、それでも俯かないで聞く柊


……これで解決か?


いや、今迄よりはマシになったぐらいだ


きっと、これから先も柊はクラスで孤立してしまうだろう


だけどな、生きていればいつか打ち解け、仲良くなる事もあるかもしれない


新しい本当の友達が出来る事もあるだろう


それに


「俺達が居るから」


頑張れよ、柊


泣きながら頷く柊の頭をポンっと叩き、俺は新之助は何と無く笑いあった

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