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七人目:委員長

朝のチャイムが鳴る前のギリギリの時間で、教室へと入る。美鈴のせいで危うく遅刻する所だったぜ


「おはよっす」


廊下側の2番目、俺の席に座り挨拶をする


「おー」


「うぃー」


怠そうに返事を返して来た奴らは、俺の席の前と後


「神山優太、独身ね」


「田村新之助だ」


二人は形容しがたい何者かに自己紹介をし、俺の席へと集まって来る


「一也、昨日ブリーフを被った変態が現れたって話、知ってる?」


優太が楽しそうに聞いてきやがった


「……知らねぇな」


「そんな変態見かけたら、ぶっ倒してやる」


親父が警察官の新之助。新之助は正義感がハンパなく強い


「い、色々事情があるんじゃねーか? 多分」


「ブリーフを被る事情ね、……俺にはちょっと分からないや。彼を見た人が言うには彼、ビルからビルへスパイダーマンみたく飛び移ったらしいよ」


「成る程、一筋縄では無い変態と言う訳か。俺にその変態が倒せるのだろうか……」


悩む新之助


「多分二度と現れないから忘れて良いぞ、新之助」


朝のチャイムが鳴る


「は~い、みんな席に着いて」


そのチャイムと同時に、新婚ホヤホヤの清美先生が教室へ入って来た


もうすぐ30歳とは思えない童顔と、優しい雰囲気が人気の清美先生は、何故かピンクのエプロンを着けている。……いやマジで何でだ?


「起立、気をつけ……お早うございます」


きちっと挨拶するのはクラス委員長の宮永。無骨な眼鏡と、シャギーが入ったロングな髪が特徴だな


「はい、おはようございます。それではまず今日の予定と出席を……」


先生は一人一人点呼を取り、欠席が無い事を確認する。つか何でエプロン?


「はい、みなさん居ますね。それで、えぇと……今日から文化祭の準備を始めるのですが、今日は1時間目と2時間目を使って、みなさんの分担を決めます。クラス委員の二人、前に出て来て下さい」


「はい」


「分かりました」


前に出る宮永と北村


「それでは、宮永さんと北村君。進行お願いね」


「はい」


コンコンと教室のドアが鳴る


「清美先生、少し良いですか?」


「海田先生? 宮永さん、北村君ちょっと任せて良いかしら?」


「はい、先生」


しっかりと頷く宮永


「ありがとう。お願いします」


先生は教室を出て行った。てか誰かエプロンの事聞けよ


「…………それじゃ、始めるから」


先生が居なくなり、宮永は急に態度が変わる


「始まったね」


優太が苦笑いと共に振り返った


「ああ、そうだな」


「うっさいそこ! ……いい? 基本あたしやる気無いからあんた達が自主的に頑張るのよ!」


「み、宮永? 僕らクラス委員なのだから……」


「じゃ、あんたが頑張りなさい。あたしはあんたを温かい目で見守ってあげるから」


そう言って宮永は教壇から降り、教室の端の余っていた椅子へドッシリと座り込む


「み、宮永~」


「情けない顔するな! あんたクラス委員長でしょ!?」


「そ、そうだけど……はぁ」


北村はため息を付き、仕方ないと言った風に黒板へ分担する仕事を書き出した


「相変わらず宮永は凄いよね」


「あいつぐらい裏表がハッキリしていると、逆に清々しいよな」


コソコソと話している内に北村は黒板に書き終える


「そ、それじゃ分担を決めます。先ずはやりたい方に手を挙げて下さい」


うちのクラスはクレープと喫茶店をやる


基本的に食い物関係は当日こそ大変だが、準備する事があまりなく、精々看板を用意するぐらいだ


では、どちらがより簡単で客が来ないか。答えは簡単


「俺、喫茶店ね」


俺が手を挙げると、何人かも手を挙げる。正解だよ、お前ら


外でやるクレープは次から次へと客が来ると予測出来るし、火や鉄板を使う作業は地獄と化すだろう



対して教室でやる喫茶店。飲み物と、シュークリームを出すらしいが、所詮出来合い物を出すだけだ


それに喫茶店は客の回転が少ない。例え満席になろうとも、そんなには忙しくならない筈


「……あたしも喫茶店!」


眼鏡のフチを押さえ考え込んでいた宮永が、手を挙げた。そして俺を見る


(やるわね、あんた)


(ふ、お前も気付いたか、宮永よ……)


宮永とアイコンタクトをしていると、クラス中の連中が一斉に手を挙げた


「俺も喫茶店だ!」


「私も、私もよ!」


「クラスが誇る二大無気力が手を挙げたんだ……これは楽だぞ!」


「誰が無気力だ!」

「誰が無気力よ!」


宮永と声が揃う


「いい? あたしは無気力じゃないの。やる気が無いだけなの」


「俺は面倒臭いだけだ。無気力なんかじゃない」


俺達がウンウンと頷いている中、クラスメートと北村は俺達を無視してホームルームを進行していた


「では28人が喫茶店ですね」


「全員じゃねーか!?」


「仕方ないよ。何だかんだ言って宮永は人気あるし、一也と一緒だと面白い事起きそうだしね」


優太は爽やかに微笑む。人を喜劇役者みたく言いやがって……


「ちょっと人数が多過ぎますので、半分に分けたいと思います。そうですね……喫茶店の方にはクレープ店の屋台設営と、買い出しもやってもらいます」


「な、何ぃ!」


屋台の設営は骨組みを組み立て、テントを被せる非常に面倒臭い作業だ。買い出しは言わずもがな


北村の野郎、キテレツみてぇな顔してる癖に中々えげつない


「え~じゃあ私、クレープでいいや」


「え? じ、じゃ私も」


数人がクレープの方へと移る。残りは20人だ、後6人が消えなくてはならない


(宮永!)


(ええ!)


「買い出しって面倒なのよね。何回も行かなきゃならないし、領収証が必要だから釣銭ごまかせないし」


「屋台の設営? あれ手が荒れるんだよな、手袋してるとあせもが出来るしよ」


俺達が面倒臭さそうに呟くと、クラス内がざわめく


「あせも嫌だなぁ」


「買い出しって要はパシリだろ? それはちょっと」


そして6人がクレープの方へと移った


(くく、あせもが嫌だと? 夏場に鉄板でクレープを作る方がよほど出来るわ!)


(ふふ、買い出しが嫌?  自分以外の誰かに行かせればいい事でしょうに!)


「くく、くくく、ははははは!」


「ふふ、ふふふ、あはははは!」


「やる気あるね~、2人とも。2人を買い出しと屋台設営のリーダーにして良いのかな?」


「…………良い度胸だな北村? 俺と」


「このあたしを敵にするなんてね」


俺達は北村を睨みつけながらゆっくり近付く


「ち、ちょっと、ふ、2人とも!?」


「くくく」


「ふふふ」


腰を抜かした北村に手を伸ばし……


ガラガラとドアが開いた


「遅くなって、ごめんなさいね。……どうしたの?」


清美先生がキョトンと俺達を見つめる


「大丈夫? 北村君。急に貧血なんて起こして」


「北村! お前寝不足の体で無理を……」


「え? ええ!?」


戸惑う北村を俺達は両脇から支える


「……なぁ、北村よ。余計な事を」


「言わないわよねぇ?」


「……はい」


誠心誠意な説得が効いたのか、北村は頷いた


「大丈夫? 北村君」


「は、はい! すっごく大丈夫です!!」


「そ、そう……」


「それでは北村君に変わり私が司会を引き継ぎます。テント設営リーダーは北村君に決まりましたが、買い出しの方は……」


俺は教卓で堂々と司会をする宮永の勇姿を見て振り返り、席へと戻った


(良くやったな宮永)


で、2時間目終了。続いて休み時間


優太や新之助と話している俺の元に、ツカツカと宮永がやってくる


「あんた名前は?」


「森崎だ。つかクラスメートの名前ぐらい覚えておけよ」


「あたし、興味ない事は覚えないから。あんた達の名前も知らないし」


優太と新之助を見て、そう言う


「ハッキリ言うよね、宮永って」


さすがの優太も呆れ気味だ


「ふん……森崎ね。覚えてあげる」


「そりゃどうも」


俺がそう答えると、宮永は興味を無くしたのか自分の席へと戻っていった


「……でも、あれだけ自己中心的なのに」


席へと戻った宮永の周りに、女子達が集まる


「好かれてるよな」


ずる賢いと見せかけて意外とマヌケだし


「くしゅん! ……風邪引いたかしら?」

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