五人目:デパートの天使
それなりに栄えている駅前広場。その中でも一際目につく、八階建てのデパート。七海のご機嫌取りアイテムを買う為に、取り敢えず俺はそのデパートへ入る事にした
デパートの中は日曜日だと言う事もあり、中々混んでいる
「さて、何を買うかな」
俺はデパート内をブラブラと歩く
「…………くく」
「…………ぷっ!」
「ん?」
何故か俺を見て笑う奴らがいる
「何だってんだ?」
どうも奴らは俺の股間を見ている様な……
「ぬわ!?」
お、おもらし!?
「な、何でだ? 何でなんだー!!」
ひざまづき、頭を抱えて叫んでいると、ポンと優しく肩を叩かれた
「大丈夫ですよ、お客様」
優しい声だ。だが俺は顔を上げる事が出来なかった
「……ほっといてくれ。俺はもう、アテント無しでは生きられない体なんだ」
「大丈夫です、お客様」
「え?」
顔を上げると、俺の視点に合わせる様しゃがんでくれている、制服姿の店員
優しい笑顔と、割と短いスカートから覗くむっちりとした太ももが印象的だ
「あ、貴女は……」
まさか……天
「私もよく彼氏とのプレイでおもらしをしてしまいます。でもそれは生きている証。健康であると言う証なのです」
「んなもんと一緒にするんじゃねぇ!!」
俺は店員の手を払い、トイレへと小走りで向かった
※
「しかし、いつ漏らしたんだ?」
トイレの大便所。鍵を閉め俺はズボンを下ろす
「…………ん?」
ズボンは濡れているが、トランクスは無事だ
「…………あっ!?」
さっきのお茶じゃねーかよコレ!!
テンパり過ぎて気付かなかった……
「……たくっ!」
紛らわしい!!
俺は怒りの形相でトイレを出る。しかし……
「は、恥ずかしいじゃねーか」
怒りはソッコー消え、羞恥心だけが残った
……安いズボンを買おう
俺はコソコソとデパートの三階にある紳士服コーナーへ向かう
「だからアニキのKOKAN様に似合うネクタイを用意しろってんだろがぁ!」
「ん?」
三階に行きズボンを捜していると、レジの横で言い争う声がした
「ぬふぅん。ネクタイ巻いてだべ~」
こっそり覗いてみると、品の悪いアロハシャツを着た金髪リーゼントの男と、アニキと呼ばれたスーツ姿の背が低いメタボが衣料服売場の試着室前に居る
メタボの襟には鈍く輝く金バッチ
「ヤクザか……」
「パッツン、パッツンの太もも。たまらんのぉ」
「い、いや……ああ」
絡まれているのは先程の店員だ
「野郎……ふざけやがって」
俺のたまに起きる正義感が、ズブズブと湧いてくる。しかしヤクザと争うのは……
「そうだ!」
帽子やサングラスで変装すれば………
見渡すとズボンや靴下、パンツ等の下半身に身につける物ばかりだ
「上半身コーナーは向こうかよ!」
なんつー変な並べ方だ! 急いで帽子を……
「い、いや! 止めて下さい!!」
「試着室でワテのKONISHIKI様にネクタイを巻いてもらうだけだべ~」
ま、間に合わねぇ!
「これしか無いのか!?」
俺は覚悟を決め、1番ジャストにフィットするソレを頭から被った
「ぐふ。さ~巻いてもらおうか~」
「あ、ああ……だ、誰か、誰か助けて~!!」
「待てーぃ!!」
「何っ!? 誰だ!!」
「貴様ら悪がいる限り、お天道様にゃ雨が降る」
「き、貴様は!?」
「悪を憎み、女の涙を晴らす男。人呼んで」
「へ、変態だぁ、変態が現れたぞー!」
「ひ、ヒィィイイ!? お、お許しを~」
「ひ、人呼んで……」
ヤクザ達は逃げて行った
「………………」
「………………」
残された店員と俺の間に、沈黙が訪れる
「……………そ、それじゃ失礼します」
「……はっ!? ま、待って下さい、ぶ、ブリーフさん?」
「……もう何でもいい」
「助けてくれてありがとうございました!」
「いや、いいさ。気にするな」
俺は振り返り、歩き出す
「あ、あの! 貴方の本当のお名前を!!」
「ふ。名乗る程のもんじゃねーさ」
こんな格好してるのに本名なんか名乗れるかよ!
「ブリーフさん……………あっ! あ、あの半乾きのズボンは、もしかして……」
「い、居たぞ! マジでブリーフ被ってるぞ!?」
「囲め、囲めぇ~」
警備員共がぞろぞろと集まって来やがった!
「じ、冗談じゃねー!!」
捕まったら社会的に抹殺されるじゃねーか!?
俺は群がる警備員達を薙ぎ倒し、デパートの非常階段へと飛び出した
「ちくしょー!!」
一時間後、自宅
「んで、階段から飛び降りたんだよソイツ!」
「そうですか」
結局何も買えなかった俺は、先程起きた出来事を土産話にする。……他人事として
「ん? あんま面白く無いか?」
「お話にリアリティが無いですよ。えっと……ブ、ブリーフですか? そんな人が居る筈……」
ピンポンパンポン
町内放送が鳴る
[先程、11時頃。ブリーフを被った変態が〇×デパートに……]
「………………」
「……な、居ただろ?」