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二十三人目:姉妹

「…………」


「…………」


黒いフードの二人は同じ歩幅、距離を守りつつ俺の周囲を左右から回る。こちらが片方へ距離を詰めると、相手はその分離れ、逆が詰めてくる


「…………ふー」


二人の手には炭を塗っているのか刃の黒いダガーが握られていた。強くなろうがなんだろうが、やはり刃物は怖い。全身から嫌な汗が流れてきやがる


「ヤア!!」


右側に居た奴が掛け声を上げ、俺へ走り寄る。俺は左側を軽く警戒しながら、体を右に向けた


「ギャッ!?」


「なっ!?」

「え!?」

「なに!?」


突然、俺と左側の奴の間を縫って吹っ飛んで来た物体に、俺達の声は重った


「油断し過ぎよ」


いつ俺達の側に寄ったのか、3メートル先にダーマが立つ


「ダーマ!? お前、何を投げて……あ! お前が戦ってた男か!?」


「あちゃー名前呼んじゃった。もうこの二人を帰す事は出来ないわね」


月明かりのせいか、ダーマの目の色が赤く変わって見えた。あくまで口調は軽いが、 その雰囲気に不穏なものを感じる


「ごめん、あんたら殺すわ」


「くっ」


「ね、姉さん」


二人はダーマを自分達より実力が高いと認識したのだろう。ダーマの言葉に怯えを見せた


「お、おい、物騒な事を言うなよ。そこまでやらなくても良いだろ?」


異世界だろうが何だろうが、人を殺したくなんか無いし、死ぬ所も見たくねぇ。相手はびびってんだ、物さえ返して貰えればそれで良い


「とは言ってもねぇ。ギルドに目を付けられても困るし」


「つってもな……」


「こら警戒を緩めない。左のがまだアンタを狙ってるわよ」


「あ?」


言われて左を見ると、フードの女は慌てて手を後ろに隠し、一歩引く


「炭を塗った投げナイフね。単純だけど、こんな夜には中々効果的かな」


ダーマが俺達の方へ歩み寄ると、二人がズサっと左右に別れて逃げ出した


「逃がさない」


ダーマは右に逃げた奴の方へ即座に走り、追い付いた所で首を掴んで吊す


「は、かはっ!? ひ、ひきっ!」


「エレナ!?」


左のは足を止め、吊された奴の名前を呼ぶ


「ね、ねぇ……さっ」


「止せダーマ!」


「……甘いね」


ダーマはボソッと呟き、エレナって奴を強く地面に投げ捨てた


「あぅ! ぅう……」


うずくまり、エレナは苦しげに体を丸める


「エ、エレナー!」


悲鳴を上げエレナの元へ駆け寄ろうとするのを横から捕らえ、鳩尾に軽く一発入れる


「ぐっ!?」


「……わりぃな」


俺が名を呼んだせいでダーマに迷惑が掛かる事になるかも知れない。殺す事は出来ないが、ダーマの言う通りただでは帰せないだろう


「……しかしろくでもない事になっちまった」


ぐったりとした女からダガーを取り上げ、右肩に担ぐ。超軽い


「取り敢えず宿屋に戻りましょう。あ、そこらで寝てる三人は宝石を持って無かったわよ」


「いつ調べたんだよ……お前、マジですげぇな」


「アタシの村、シグラではこれぐらい普通よ」


感心半分の皮肉半分で呟いた俺にダーマは苦笑いをし、そう答えた


「さ、宿屋に戻るわよ」


そう言いながら、ダーマはエレナを担ぐ


「あいよ」


こんな所、人に見られなきゃ良いがな



この町は明かりが少ない為か、夜に出歩く人間も少ない。幸い誰にも遭遇する事無く宿屋へと戻れた俺達は、その裏側に回る


ダーマは素早く俺の部屋へ女を担いだまま窓から忍び込み、続いて上から俺が担いでいる女を引っ張りあげた


二人の女を上げ終わった所で俺も入口から宿屋に入る。そのまま部屋に行くと、泥棒二人は手足をロープで縛られ、ベッドに転がっていた


「……なんつーか俺ら極悪人ぽくね?」


「そうかもね。じゃ服を脱がしましょう」


あ~、やっぱそうくるか


「俺パス」


「アタシもパス。女を剥くのは趣味じゃないわ」


「全部脱がさなくても何とかなるだろ」


「でもこういうヒラヒラしたマント系の服は何処に何が入ってるか分からないわよ」


「……ダガーとナイフ以外何も持って無い」


目を覚ましたのか縛った女の一人が、不機嫌そうに言い顔を上げた


「どっちだ?」


「エレナって方でしょ」


ダーマはエレナ? のフードをめくる


んで現れたのは、目つきの悪い13、14歳ぐらいの茶髪女。セミロングの髪を短いポニーテールにしている


「鋭い目つきね。殺す事、殺される事を覚悟している目だわ」


「これから何をされるか想像はつくけど……姉さんは許して」


「何って何されると思ってるの?」


意地悪な口調でダーマが尋ねる


「……顔を見せたって事はわたしを殺すんだろ。それともその前にわたしを犯るのか? 変態」


侮蔑した目で俺を見やがるエレナ


「お前なぁ……」


「ひっ!? ……お、お前みたいな変態、怖くなんて無いんだから!!」


「…………ハァ。めんどくせーから早く終わらせてリリースしようぜ、ダーマ」


「くす……でもねぇ、アタシの名前はこの辺で結構有名なのよ。そっちの子にも名前を知られちゃったし、逃がした後ギルドに駆け込まれたら困るの」


「……それは無い」


ダーマの言葉に、エレナは自嘲げに呟く


「へぇ……どうして?」


「私と姉さんは裏切り者の娘だからだ。わたし達は裏切り者の家族として、ずっとギルド内で酷い目にあってきた! でもチャンスが来るまでじっと、じっと耐えて……今回の試験が最初で最後のチャンスだったんだよ!」


エレナは目で殺さんとばかりに怨みの篭った目で俺達を睨みつける


「最後のチャンス?」


「そうだ!! これで合格出来ないような奴らなら、もう飽きたし、高く売れる内に二人揃って人買いに売るって!」


「うん? あっ! オッドアイね……なるほど」


頷くダーマ。一人で納得しやがった


「……オッドアイって何だ?」


「左と右で目の色が違う事よ。アタシの肌もそうだけど、こういう珍しい目を持つ子は特に高く売れるのよ」


そう言われて確かによく見ると、右の目は燃える様に赤く、左の目は穏やかな青色


「汚い目で見るな!」


ぺっ、と俺の顔に唾を飛ばす。その唾は見事に俺の眉間にヒット!


「こ、この野郎……」


「元気な子ね」


そう言い、ダーマは俺の額を袖で拭く


「わ、わりぃな」


「いいえ。……さて、どうしよっか?」


「殺るなら殺れ!」


「…………まいったな」


「妹を殺すなら代わりに私をお願いします」


どうしたもんか頭を悩ませていると、静かな声が部屋に響いた


「姉さん!? 姉さんはコイツらの顔見てないから大丈夫だよ!」


「今更顔を見た、見ないなど関係無いでしょう。

もう、わたし達に帰る所はありません。後は殺されるか、売られるか、捕まるのみ……。売られて玩具にされる屈辱を受けるぐらいなら、私は死を選びます」


最後にフードを外して下さいと女は言い、ダーマはそれを受けフードをめくる


すると左右の目の色は逆だが、エレナによく似た顔立ちの女が現れた。だが、こいつの方が髪は長く、雰囲気も何となく柔らかい


「わたしの名前はエレンです。エレナの姉で、スタイルはわたしの方がずっと良いです。あんな表か裏か分からない洗濯板より、わたしの方が抱き心地良いですよ? あ、因みにわたし女の方も大丈夫です。受け、責め、果ては3人、4人と何でもござれです」


「ね、姉さん!?」


エレナは怒って良いものか泣いて良いものかが分からない様な、複雑な顔をした。気持ちは分かる


「……ごめん、アタシこういう女苦手。後は任せて良い?」


「俺だって、嫌だっつーの。……だが、まあ大丈夫そうだな」


「油断は出来ないけど、妹の方は嘘を付ける程器用じゃなさそうだしね。

好きにして良いわよ、アタシは下で何か食べてくるから」



そう言ってダーマは部屋を出て行く


「ああ、そうさせてもらうよ……さてと」


俺はゆっくり二人に近付き、見下ろした


「わ、わたしの方が男を喜ばせるの上手いから!」


「エレナは凶暴だから噛み切られるかも知れません。此処は年長者のわたしにお任せ下さい」


「お前らなぁ……人を何だと思っていやがる」


「変態」

「変態」


「ぐっ!」


否定出来ねー所が悲し過ぎる


「おら! お前らでかい宝石盗んだだろ!? それ出せ!!」


「宝石? それでしたらわたしの懐に……」


「お前の懐には無いだろ」


腹黒そうなコイツが正直に言うとは思えん


「………………ちっ」


「……何をする気だったんだ、お前」


たく、めんどくせーな


「ハァ……盗んだ宝石を俺に渡せば、後はどうでもいいから」


すんげー邪魔くさそうに言ってみる


「……本当か?」


「嘘ついても仕方がないだろうが」


「ん…………わ、わたしのゴニョ、ゴニョ」


「ゴニョってなんだよ」


「わ、わたしの股下に隠してある! 探したければ探せ変態!!」


「何だってんな所に」


「股ぐらは女の武器でござりませれば」


「……すげぇ変わった喋り方だな、お前の姉ちゃん」


なんか頭がいてぇ


俺はエレナのマントの紐を外し、めくり上げる。すると白い足が際どい所まで見えた


んで、下手すりゃパンツじゃねーのってな短パンの内側にぽっこりした膨れを見付ける。それを取ろうと手を伸ばすと……


「ひゃ!? ど、どこ触ってるんだよ! 変態!!」


「わ、悪いな。つか俺もいっぱいいっぱいだ、我慢してくれ」


それから四苦八苦し、ようやく赤い宝石を取り戻した


「よし。んじゃダーマが戻ったら解放だ、後は好きにしろ」


「………………」


「………………」


「どうした?」


「…………別に」


エレナが無表情に呟く。さっきの話か


「……この町を出たらどうだ?」


ダーマから貰えるであろう賞金を半分貸してやってもいい


「……簡単に言うな」


「わたし達は此処でしか生きる術がありません。それに、わたし達は未登録児です。一度町を出たら、もう二度と町へは戻れない」


「そう……か」


重い沈黙が部屋を包む


「…………これからどうしよう」


エレナが何気なく呟いた一言が、何故だか1番俺ん中に突き刺さった。だが、俺にはどうする事も出来ない


「…………」


「私と勇者様にお力を貸して下さい」


立ち尽くしていると、突然ドアが開き、部屋にはエルテが入って来た


「お前……、大丈夫なのか?」


「はい、勇者様。ご心配おかけしました」


まだ顔色は悪いが、それでもエルテは力強く頷いた。意外と強い奴なんだな


「ゆ、勇者様?」


エルテの言葉にエレナやエレンの目が戸惑いに満ちるって、名前にエが付く奴ばっかで混乱するじゃねーか


「お前、青さん。お前、赤さんね」 


「はぁ? 何言って」


「青さん、赤さん。私はエルテです。宜しくお願いします」


エルテは優しく微笑み、優雅に頭を下げた


「……うっ。姉さん、わたし多分こいつ苦手」


「わたしとも相性悪いと思うわ……」


「青さん、赤さん、話を戻しますよ。……私と勇者様のお力になって下さい」


「いや、あんた達の力になれって言われても……」


「私の本名はフィーナ。フィーナ・オル・エルクライムと言います」


「フィーナ? フィーナって確か……フ、フィーナ様!?」


「そ、そんな! ま、まさか……」


二人は驚きの声を上げ、まじまじとエルテを見つめた


「………俺、話についていってねーぞー」


「早い話、私がこの国の姫だったので、お二人とも驚いたんですね」


「ああ、成る程って俺も驚いたっての!?」


とんでもねー事を気楽に打ち明けやがって!


「……信じられない。だって今の時期は」


「時離しの時期ですね」


「時離し?」


「はい。この世界は勇者様の世界より若干不安定で、徐々に時がずれるのです。それで年に一度、時離しをし、世界を安定させないといけないんですね。20年ぐらいほっておくと、世界潰れますから」


ニッコリと話すエルテだが……


「いや、そんなスケールがでかそうな話は勘弁してくれよ」


俺はただの高校生だぞ?  どうも出来ないって


「3日程前の事です。姉が私より先に時離しの間に篭りました。その時、姉は魔王になりました」


「………………」


「………………」


「…………いや、なんか今、すげぇ話飛ばなかった?」


唖然として黙り込む赤と青に変わって、俺がツッコミを入れる


「もう眠いので、説明を省いてみました」


「重要っぽい話を省くなよ!」


「そうですね……儀式の最中、姉は時の魔物に体を乗っとられました。時の魔物の正体は他の世界の人間で、こちらの世界を潰して自分の世界を広めようとしている悪者です。困った方ですよね」


エルテは苦笑いをする


「いや、苦笑いで済むレベルの話じゃ……」


「今、時の魔物は姉の力を使って時を僅かづつずらしています。このままですと、後一年を待たずに、こちらの世界は滅びるでしょう」


エルテがハッキリそう言い切ると、さっきまで疑い半分だった赤と青の顔が、真剣な物に変わっていた


「本当にあんた……貴女は王女様なの?」


「はい。こんなものしかありませんが……」


そう言って見せるのは、あの長い耳だ。それを見た二人は、息をはっと呑む


「……分かった。信じるよ、協力する」


「そのかわり全てが終わったら褒美を下さい」


「どんな事ですか? 私に出来る事でしたら何でも」


その言葉に二人は顔を見合わせ、そして同時に言った


「自由を!」

「自由を!」


それが欲しいと

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