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十七人目:転校生(王道)

水曜日の朝は目覚めが悪く、体を起こすとやけに怠かった


「…………はぁ」


昨日は色々あったからな

ふらつく頭を堪えて、立ち上がる


「………………はぁ」


もう一度ため息をし、部屋を出る。そのままションベンでもするかとトイレへ向かうと、ちょうど七海が出て来る所だった


「おはよう七海」


「あっ!? お、おはようございます……」


「ああ」


七海の横を通り、トイレのドアを……


「ち、ちょっと待って下さい!」


「な、何だ!?」


「え、えと……兄さん! 目やにが酷いです、洗って来て下さい! ついでに歯磨きも!!」


「あ、ああ。それじゃトイレに行ってから……」


「先に洗顔です!」


「わ、分かったよ」


何だかよく分からねーが逆らうのは止めた方が良さそうだ


七海に言われた通り、顔を洗い、歯を磨く


んで改めてトイレへ


「……しかし何だったんだアイツ?」


≪どうしたの?≫


「ギャアアア!?」


便器から女の顔が!


≪うわ! 汚いなぁ。何だか魂を汚された気分≫


「なら、んな所から出て来るなよ!!」


慌ててションベンを止め、KOKANを隠す


≪ごめん、ごめん。見てないから≫


小夜子はプカプカ浮かび上がり、目を両手でわざとらしく覆った


「お前なぁ……昨日は見当たらなかったが、何処行ってたんだ?」


≪ん? 寝てたけど? てゆーか私、君が近くにいないと移動出来ないから。だからいつも君の傍に居るよ≫


「…………マジで?」


≪マジで。あ、でもプライバシーは守るよ? 一日2時間ぐらいしか起きれないし≫


「……色々言いたいが、取り敢えずションベンの続きだ。外に出てってくれ」


≪私の事は気にしなくても良いよ。もう見たし≫


「やっぱ見たのかよ!」


それから小夜子を追い出し、ようやく落ち着いてションベン。済ませた後は洗面所で手洗いだ


「お兄さん、おはよ!」


「ああ、おはよう」


洗面所を出る時、ニアと入れ違う。そしてリビングへ行くと、舞さんと七海が朝飯の準備をしていた


「おはようございます、一也様」


舞さんは一度料理を中断して俺に頭を下げる


「はい、おはようございます」


俺も頭を下げると、舞さんは困った顔をした


「一也様。一也様は主なのですからどうか敬語はおやめ下さい」


「ですが……」


「兄さん、舞さんのお願い聞いてあげて下さい。兄さんが敬語を使うと、舞さんも気を使ってしまいます」


「……分かったよ。それじゃ改めて宜しくな舞」


「は、はい。主……様」


「だ、誰も呼び捨てにしろとは言ってません!」


んな感じで朝っぱらから騒ぎつつ、朝飯だ


ちょうど四脚ある椅子。遠慮する舞さんを何とか説得し、みんなでテーブルを囲む


4人で食う朝飯は久しぶりで、親父達が生きていた頃をちょっと思い出した


「兄さん」


向かいに座る七海が嬉しそうに微笑む


「ああ」


七海に微笑み返す俺を横からニアが不思議そうに見ていたので、ソーセージを一本盗んでやったぜ



「それでは行ってきます」


「ああ」


「行ってらっしゃいませ」


「行ってらっしゃい!」


七海が早めに学校へ行った後、俺はやっぱり朝ズバ


《別れなさいよ!》


《ですが私も悪い所があったのかも……》


《別れなさいよ!》


「……しかしこの女もハッキリしねーな」


≪そうねー、私なら慰謝料とって別れるわ≫


いつの間にか小夜子が横に来ていたが、もう驚いてやらねぇ


「だよな。やっぱ別れるよな」


≪結局、職がない事が不安になるのよね。女は結婚すると仕事辞める事が多いから≫


「そうかもな。で、お前は今日も俺に着いて来るんだよな?」


時計を見ながら適当に聞いてみる


≪もちのろんよ。もうすぐ寝るけどね≫


「……そういやカロリーを取らねーといけないんだったか?」


≪ハチミツとか良いみたいよ≫


「……太りそうだな」


≪大丈夫。私が栄養半分貰うから≫


「………………」


マジで寄生虫並にタチが悪いなコイツ


「それじゃ俺もそろそろ行くとするか」



七海から遅れる事、40分俺も着替えて学校へと行く事にした


舞さんやニアに見送られて出た外は、俺の体調を無視するかの様な快晴。微妙に腹が立つ


「小夜子」


≪はいは~い≫


「あの太陽を消して来い」


≪報酬は?≫


「スイス銀行に振り込んでおこう」


≪口座持ってないからパス≫


んな会話をしながら歩いていると、学校に近付くにつれ人の数が増えてきた


「んじゃ引っ込め」


≪は~い≫


小夜子は風景に溶け込む様に消える


「……話し相手ぐらいにはなるか」


割が合わない気はするがまぁ良い。その内どっか行くだろ



それから10分前後。遊歩道に入り、暫く歩いていると、不思議な光景に出くわした


学校の連中がある場所を通る時、必ず見上げるのだ。その場に立ち止まって携帯で撮影している奴もいる


「……何を見てんだ?」


みんなの視線を追ってみると、遊歩道の中でも一際大きな柿の木。どうやらそれを見上げているようだ


俺も通り掛かった時、見上げてみる


すると5、6メートル上に黒猫と、その猫へ下から手を伸ばしているポニーテールの女がいた。短い制服のスカートからは下着が丸見えだ


どうも女は、降りられなくなった猫を救おうとしているらしいが……


「…………ハァ」


朝っぱらから心温まる風景を見て、俺のテンションは激下がり


「お前ら下らねーもん見てないで学校に行けよ。遅刻するぞ?」


ダチと笑いながら携帯で撮ろうとしているアホを追い払い、俺も学校へ向かって……


「……うわっ!?」


枝が折れる音がし、女が空から降ってくる


そして不幸にも手が届く場所に居た俺。仕方がないから落ちて来る女を腕で抱き抱えた


「………………あれ?」


俺の腕に収まった女は、恐る恐る目を開ける


「猫を助けるのも良いが、お前が落ちてれば世話ないだろ? 気をつけな」


「………………」


女は何も喋らず、ポケーっと俺を見つめてやがる


「なんだよ?」


「…………あ、ありがとう」


「偶然だ。気にすんな」


女を地面に転がし、柿の木を登っていく


柿の木は折れやすいから、ぱっぱと登らないといけない


「おら来い猫!」


木の幹にへばりついて手招きをすると、猫は震えながらゆっくりと近付いて来る


「……やっぱ飼い猫かな」


野良はこんなマヌケな事はしないしからな


猫をキャッチし、木から飛び降りてリリース。猫まっしぐらで逃亡


んでキラキラした目で俺を見ている女


「猫を助けてくれてありがとう! 僕は相馬 葵。君は?」


「森崎だ。じゃーな」


後ろ手で手を振り、学校へ向かう


「ま、待ってよ。君、同じ学校でしょ? 一緒に行こうよ」


相馬は俺の右横に並んで歩き出す。黒く焼けた体と、バネのある歩き方がなんつーか健康的だ


「構わねーけど頭が痛いからあんま話し掛けるなよ」


「風邪?」


「多分な」


「夏風邪は辛いよね」


「そうだな」


「お大事に……」


「……ああ」


「うん…………」


相馬は顔を下げ、黙り込む


「………………ハァ」


仕方がねーな


「……お前何年だ?」


「あ……三年! 今日横浜から転校して来たんだ!」


えらい笑顔とハイテンションで言う


「三年で転校か。大変だな」


「……うん。部活頑張ってたし、転校は残念だったけど僕のせいだし仕方がないんだ」


寂しそうに呟く


「……ま、この学校も悪くはないから。まだ学校のイベント全部残ってるしよ」


「うん、ありがとう。

……ね、君の学年聞いて良いかな?」


「三年だ。3ーD」


「え! 本当に!?」


「ああ」


「やった!」


相馬は小さくガッツポーズをする


「……なんだよ?」


「君と同じクラス! 一緒だよ!!」 


「んな嬉しい事か?」


「うん!」


「……そりゃ良かったな」


それから互いの学校の事を話し、昇降口へと着く


「それじゃまた後でね……森崎君!」


階段下で相馬と別れ、教室へ


「おはよっす」


クラスメートどもに適当な挨拶をして席へと座る


「おはよう一也」


相変わらず爽やかな優太


「うぃっす一也」


相変わらず暑苦しい新之助


「…………ハァ」


「……どうしたの森崎? ちょっと顔色悪い?」


隣の田中が、心配そうに聞いてきた。まさか田中に見破られるとは……


「……田中。お前、良い女だな」


「な!? な、なにを言って……バカァ!!」


「褒めたのに馬鹿呼ばわりかよ……」


「風邪?」


優太が声を掛けて来る


「ああ。最近忙しいかったからな」


「辛いなら出席取った後、保健室に行こうか?」


「……そうだな。3時間目体育だし、それサボるわ」


話を終わらせて、机でうつぶせになる


……………だりぃ



何分か経ち、騒がしくなる教室内。清美先生が来たらしい


「起立」


宮永の毅然とした声が腹立つぜ


渋々立ち上がり、教壇を見ると清美先生と若干緊張している相馬の姿があった


「気をつけ……礼」


おはようございます


んな声が教室内に響き、一斉に着席


「はい、おはようございます。えっとみんな私の横の子を気にしていると思うけど、多分みんなが思っている通りよ。

今日からこのクラスで一緒に学ぶ事になる転校生の相馬 葵さん」


「横浜から来ました、相馬 葵です。宜しくお願いします」


ぺこりと頭を下げると、肩まであるポニーテールが揺れた


「健康的で可愛い子だね。良かったね一也」


「なんで俺に振る」


「……あっ! 相馬 葵ってもしかして100メートルの!?」


相馬に負けないぐらい焼けている中島が突然叫んだ


「え? う、うん。よく知ってるね」


「そりゃ知ってるわよ! 去年の県大会で優勝した人の名前だもん。57,08だっけ? すっごいわよね! ……よっし! 我が弱小水泳部、私の引退前に最後の華が咲かせられるかもっ」


「あ、でも僕……」


「はいはい。個人的な話はあとあと。……えっと相馬さん? 席だけど目が悪いとか窓際希望とかある? 転校生サービスで希望聞いてあげる」「え、えっと……あ!」


相馬はキョロキョロとクラスを見回し、廊下側の席を見て声をあげた


「僕、森崎君の近くが良いです!」


……………………時が止まった


「……に、憎しみで人が殺せたら……」


「手が早いなんてレベルじゃないわね。私も卒業式には妊娠してるんじゃ……」


「彼のKOKANは魔物です! 魔物が憑いております!!」


叫ぶ者、怯える者、祈る者


クラス内は阿鼻叫喚に包まれた


「……流石だね、一也」


「最っっっ低!!」


優太や田中まで俺を罵倒しやがった


「お前らな……」


「こら! 転校生が困ってるじゃないの、静かにしなさい!!」


突然宮永が立ち上がり、一喝する


「森崎を責めるなら裏でやりなさいよね! あ、顔は駄目よ、痣が出るから」


「宮永の野郎……」


「はいはい、静かにー。ありがとね宮永さん」


清美先生がパンパンと手を叩くと、クラスは完全に静まった


「えっと、じゃ相馬さんは森崎君の隣で良いかな。田中さんから後ろの子は下がってもらって良い?」


「え? ええー!?」


何故か田中が嫌そうな声をあげた


「どうした田中?」


「な、何でも無い! 森崎と少しでも離れられて清々するわよ!」


「あら、じゃ窓際に行く? 田中さん。席空いてるわよ」


「そ、それはっ……わ、私、太陽嫌いだから廊下側で良いです」


「吸血鬼かお前?」


そんなこんなで騒がしい朝のホームルームは終わり、相馬は俺の隣に来たた


「ご、ごめんね。君を見掛けたら、何だか凄く嬉しくって……」


「そうかよ。……宜しくな相馬」


「うん、森崎君!」

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