十四人目:メイドさん
世の中には不可解な事が沢山ある
例えばテントに暮らしているバカに会ったり、屋上で飛び降りようとしている女と遭遇したり、意味の分からない集団が集まる部屋へ連れ込まれたり、幽霊に取り憑かれたり……だ
……まぁ良い。百歩譲ってそれは許そう。そう言う事もたまにはあるのかも知れない
「だがこれは無いだろ!」
「どうかなさいましたか、一也様?」
メイドは心配そうに俺を見つめた
事の起こりはこうだ。俺は小夜子と共に家へ帰宅した
んで玄関を開けるとメイド服を着たメイドが居た訳だ
そして今、リビングでメイドに容れて貰ったお茶をニアと一緒に飲んでいる
……分からねぇだろ?
俺にも分からねぇ
「………………」
「一也様?」
「……メイドさん?」
「舞とお呼び下さい」
「舞……さん?」
「はい、一也様」
舞さんはニッコリと微笑む
「えっと……婆さんに言われて来たって言ってたな」
婆さんは母さんの連れ子だった七海の実婆で、あまり俺と親父に良い感情を持っていない人だ
地元に山を数個持ち、地主でもある為、それなりに金持ちではあるが、基本的には質素な暮らしをする人だ。メイドなんか雇う人では無いんだが
「大体何で今頃……」
「お手紙を預かっております」
「ん?」
七海が読んだのか、開封された封筒を受け取り中の手紙を取り出す
「えっと、何々」
愛する七海と、どうでも良い一也へ
七海、元気にしていますか? 一也にセクハラされていませんか? おばあちゃんは心配です。
一也のセクハラが辛くなったら、いつでも帰って来るのですよ。進学や就職の事は心配しなくて下さい。私が何処へでも捩込んでみせます
さて、本日一筆認めましたのはそちらにいらっしゃる舞さんの事です
先月まで舞さんは私が長年お世話になっていた主治医であり、尊敬すべき友人である田代 幸造さんのお屋敷で働いておりました
ですが幸造さんの死後、残された家族の醜い遺産争いを目の辺りにし、このまま屋敷で働く事が出来ぬと辞表を出したのです
過ぎた遺産は分配方法を誤ると、お金と引き換えに、家族の絆をバラバラにしてしまいます。その点、私も気をつけて遺言書を書かなくてはいけません
七海に九割は確定ですが、後はどうするか……
話が逸れましたね、すみません。舞さんの事です
舞さんはとても優秀な女性です。彼女はその若さで、田代のお屋敷の女中を束ねる女中頭であり、病院の経営も任されていました
幸造さんの遺書にも有りましたが、本来ならば彼女こそが病院を受け継ぐべき方なのです。ですが彼女はそれを辞退し、ただ屋敷に尽くそうと考えていた所へ、遺産争いです
屋敷に尽くすのが女中とは言え、元の主人は幸造さん
そんな幸造さんの遺産を争う家族達。それに堪えられなくなったからと言って、誰が舞さんを責められましょうか
私は、私の所へ最後の挨拶にいらっしゃった舞さんに、ある頼み事をします
それが
「……俺の家に行ってくれと言う事か」
手紙をしまい、舞さんを見る
舞さんは姿勢を一切崩さず軽い微笑みを添えて俺を見つめ返していた
………………しかし綺麗な人だな。顔がって言うか、立ち振る舞いやら雰囲気がやたら綺麗だ
「一也様?」
「あ、いや……事情は分かりましたが、舞さんは宜しいのですか? 見知らぬ家へ突然来させられ迷惑なのでは?」
「いいえ。以前から佐藤様には大変お世話になっておりましたので、何か恩返しをと思っていました。それがこうして新しい仕事を紹介して頂き、感謝の言葉しかありません」
「そ、そうですか……」
あの婆さん、俺以外には面倒見が良いらしいからな
「むに~」
横に居たニアが、突然自分の顔を横に広げる
「どうした、ニア?」
「退屈!」
「退屈っつったって……ゲームでもやってろよ」
「一人じゃつまらない!」
《あ、なら私が相手しょっか?》
ニアの背中に回る小夜子
「にゃう!? い、今、ぞくっとしたよ!」
「気のせいだ気のせい」
二人はほっといて、舞さんの事だ
婆さんの紹介。身元はしっかりしているし、給料も婆さんが出してくれるらしい
この家も二人で暮らして居た頃は広過ぎる家だと思っていたので、住む人が増えるのも構わないのだが……
「……七海次第だな」