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生ける伝説

 その日の夕方過ぎ、辺境伯領に着いた。アレクスは自室に、セルヴィアンは仕事に向かうとのことで女神への挨拶は私とフェリクスだけになった。

 初めて邂逅する女神ミラは他の何にも例えられないほど美しく、ただ存在するだけで空気まで浄化してしまいそうな神聖さを感じさせる。本や絵画でその姿を拝見してはいたものの、実物は想像の遥か上を行く美しさだった。

思わず「ミラの顔って美しすぎて表現しようがないじゃないですか。なので、あえてその素顔が書きませんでした」と、製作者の頭カチ割れさんがインタビューを答える空想ノロクビファンブックの一文が脳裏を過る。え、なに?この世界の主要人物って美形しかおらんの?オタク、致死量の美を浴びてしまったんやが。

 私が感動に打ち震えていると

「あの人、なんかおかしくないか」

フェリクスがまた空気の読まない発言をする。

「ちょっと、ここはミラ様のお屋敷で、私たちは今夜滞在するのよ。あなたの今の発言、使用人に聞かれたらどうするのよ」

 私はフェリクスの耳を引っ張り、小声でくぎを刺す。

「けどなあ、なんか顔がパッとしないというか。歪んで見えるというか」

「はあ?!」

 内緒話の距離感で大声を出されたフェリクスはぐあんと頭を揺らす。ふん!あまりに見る目がないんだから、自業自得だわ!私はフェリクスを廊下に転がしたまま、与えられた部屋に向かった。

女神ミラの姿は日の光のように眩しく、その瞳は深い湖のように澄みきっていた。喉を震わす声は天の調べのように柔らかく、世界の秩序を優しく包み込むスズランの調べ。そんな美しい方をおかしい、だなんてどうかしてるわ。

それにしても、この世界の「神おろし」って姿形まで女神に寄せられるのね。どういうしくみなのかしら。

「どう?皆様は楽しんでいただけているかしら」

「はい!ご招待ありがとうございます」

 アレクスの帰還に伴い、ミラが宴を催した。パートナーの同伴もいらない簡易的なものだけれど、さすがは女神が治める辺境伯領家。王家のパーティーに規模は及ばないもの、用意された品々は華やかで、どれも一級品だった。

「それにしてもお友達は残念ね。急なご用事なんて」

 この宴の少し前、フェリクスは王都に戻った。どうもお父様である宰相様に何も告げずに巡礼に同行したらしい。そりゃあ、強制一時帰宅も命じられるわけだ。

「アレクスも楽しんでいるかしら?今日はあなたのための宴なのよ」

 王都では私をエスコートしていたアレクスも、今日はミラの隣にいる。なんだか寂しいけれど、勇者と女神は一対。これが正しい姿なのだ。

「では、私は飲み物を取ってまいりますね」

「待ってください、俺も——」

「いいのよ、アレクスはミラ様の隣にいて」

 そう言い残し、私は二人から離れた。今日はダンスをする必要もないからパーティーを気楽に楽しめる。よって、私はビュッフェの橋から食べ物をチェックすることにした。まずはあの辺境伯領でしか取れないと言われる魔苺のタルト?いや、べジファーストでバーチリー領特産の野菜を使ったサラダ?いや、でも迷っている間にお肉とかのメインディッシュがなくなっちゃうかも……!

 心が彩り豊かな食べ物にはしゃぎ、逆になかなか決められない。

「一旦精神統一のためにバルコニーにでも出ようかしら……」

 そう部屋の隅をトボトボ歩いていると廊下にセルヴィアンが横切る。そういえば、彼はここに到着してから仕事をすると言っていた。パーティーも楽しめないほど忙しいのだろうか。

そうだ、離席ついでに彼に手伝えることがないか聞いてみよう。前世社会人として、後輩が自分より忙しそうならフォロー入れないとね!

 彼の背中を追い、廊下を進む。社交用のヒールのせいか、なかなか彼に追い付けない。

彼の後を追ううちに、随分会場から離れてしまった。……他人が人様のお家を無断徘徊しているほうがよくないかしら。もう会場に戻ろうか。その考えが過った時、セルヴィアンがある一室に入った。

「セルヴィアン?」

中を覗くと明りの付けられていない。でも、机の上には短い蝋燭が灯っており、その光がある本を照らしていた。ここは誰かの書斎だろうか。あのまま放置すれば、炎が本に燃え移ってしまうかもしれない。

「失礼しまーす」

私は蝋燭を消すため、部屋に入った。まずは蝋燭を使って部屋の明かりを探そうと思ったけど、目の前の本に惹かれてしまった。

「これ、勇者と女神の文献?私、これ見たことないんだけど!」

 死亡フラグ回避のため、私は国内外から勇者と女神関連の資料を取り寄せていた。でも、この本は私の記憶にはないものだった。

「背の分類記号とタイトルから考えるにこれって、わらべうただよね?!初知りなんだけど!」

思わず本を開いて読み進める。でも、そこに書かれていたのは、わらべうたというには残酷な歴史。この歌が本当なら、私を殺すのは——。

「——逃げなきゃ」

そう決意した時——後ろから、ガンッと何かで殴られ、私は気を失った。

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