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【11作品】クズと吸血鬼と青い春  作者: あぱ山あぱ太朗
2章 吸血鬼・花火はどうしようもないコミュ障である
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2-3

「はぁー、疲れた」

 徒歩で自宅マンションまで戻ってきた。学校まで徒歩で通っているので、バイト先にもそのまま歩いて向かう。

 バイト先から自宅までは約2km。歩きだと絶妙に疲れる距離感なのだ。

 程よい疲労感を覚えながらも自分の城に戻ってきた。さて、これで一安心だと思ったのも束の間、なぜか自宅の電気が点いている。

 うん、悪い予感しかしないぞ。

「……って、鍵も開いてるし」

 恐る恐るドアレバーを引いたら、一切の抵抗なくドアが開いた。

 たぶん、空き巣ではない。ここは三階で敷地内に入るにもエントランスのオートロックを突破する必要がある。

 そうなると俺の関係者である可能性が高い。……まさか、な?


「あー、英吉ー!! おっかえりー!!」

「ちょい待て! 何で花火がいるんだよ! つか、その格好!」


 部屋に入るとあまりにも意想外の光景が広がった。

 まず部屋の中央に胡座をかいて座る花火。

 黒のランジェリー? キャミソール? ベビードール? 正式名称は知らないが、黒レースのスケスケワンピを着ている。エロい。

 その周囲には酒の空き缶や瓶が大量に転がり、部屋の隅には大きなトランクケースが広げられていて、その中に詰められていたであろう衣服や下着などが散乱していた。

 当の本人は酒に酔ってご機嫌だ。完全に出来上がっている。

「英吉も飲むー? これ、いいワインらしいよー。全然味わかんねーけど! キャハハ!」

「飲まねーよ! 未成年だ、こっちは!」

 明らかに高そうなワインをラッパ飲みしている。

 ワインってのはいかにも吸血鬼っぽいと思いつつも、こんな酩酊した吸血鬼に高尚さなんてものは存在しない。

 バイト先で幾度と見てきた酔っ払いと同じだ。ちゃんと脳みそがバカになっている。

「そもそもどうやって入ったんだよ!」

「オートロックの解除キーは『*777』でしょー。簡単すぎるから覚えちゃった」

「覚えちゃった、じゃないわ!」

 管理会社から番号を聞いたときは「覚えやすい!」と喜んだが、防犯上の観点では最悪と言ってもいいな。

 現にこうして突破されてしまったわけだし。

「だとしても部屋の鍵はどうした、鍵は!」

「今日、移動教室の授業があったでしょ? その時にこっそりカバンから」

「……うわ、マジだ! 鍵が無ぇ!」

 キーケースを確認したら、自宅の鍵が見事になくなっていた。なんて手癖の悪さだ。

「とりあえず、鍵を返せ!」

「はーい、どうぞ」

「あ、あぁ……」

 思ったより簡単に返却されたので拍子抜けしてしまう。

「もう合鍵作ったからね、てへ」

「てへ、で済まねーよ!? やっていること完全にストーカーのそれだぞ!」

「そんな『卵が先か、鶏が先か』みたいなこと言っても仕方ないでしょー」

「絶対に意味分かってないだろ! 使い方、間違ってるし!」

 ダメだ、この酔っ払いに何を言っても通じなさそうだぞ。ただでさえ疲れているのに追い打ちをかけるようなこの状況。

 もう大声を出す気にもなれないので、その場に座って精神を落ち着かせる。

「……はぁ、それでどういうつもりだよ? まさかここに住むつもりじゃないよな?」

「あはは、さすがにそれはないって! 茉莉ちゃんの両親が心配するからね! 言うなれば、セカンドハウスみたいな!」

「勝手に人の家をセカンドハウスにするなよ……で、今日は真中さんの家に帰るのか?」

「いや、常識的に考えてよー。こんな泥酔して帰ったらびっくり仰天でしょ!」

「お前だけには常識を語られたくないぞ」

 鍵を盗み、人の家に侵入し、勝手に酒盛りをしている。非常識の塊だ。

「なので今日は泊まりまーす! 真中家には友達の家に泊まるって伝えてるから!」

「はーいはーい、ここでしっつもーん! ベッドが一つしかありませーん!」

 女性の来客しか想定していないので、予備の寝具など用意はない。

 我が家に泊まりにきた女性は、俺と一緒に寝ることが前提の設計となっております。

「ごめんね、床で寝てもらって」

「ふざけんな!?」

 そこは逆だろ。俺が家主なんだぞ。

 仮にそうなったとしても、提案するのは俺からじゃないとおかしい。

「じゃあ、おねーさんと一緒に寝る?」

 スケスケワンピ(?)の裾をそっと持ち上げて挑発的な表情を浮かべている。

 スッと目を細めて、妖しく微笑む姿にはそそられるものがあった。

「んー、ヤってもいいなら」

「おい、マセガキ。ちっとはドギマギしろ。ち◯こ切るぞ」

「こわっ!」

 年下男子を揶揄うつもりが、思い通りにいかずに挙句キレていた。

「もぉー、英吉ってかわいくなーい! 今の若い子ってちっとも分からん! 今日も全然うまく行かなかったし! ぐびぐび」

 涙目になってワインボトルをひっくり返す。

 荒れているな。ヤケ酒ってやつか。居酒屋で働いていると、酒によるトラブルをよく目にするのでアルコールにあまりいいイメージがない。

 こんな二十歳にはならないように気を付けたいものだ。

「やっぱ、今日はうまく行かなかったか」

「うん……。こっちの話に合わせてくれるんだけど、表面上でしかないっていうか」

「そんな感じだよな。しゃーないけど、根気よくやるしかないんだろうなー」

 側から見ていてもそんな空気だったからな。しかし、きららの戦略にも一理ある。このまま時間をかけて、友情が芽生える可能性だってゼロではない。

「うえーん! 友達が欲しいよー!! ムシャムシャ!」

「泣くのか、食うのかどっちかにしろよ……」

 とても成人しているとは思えない。泣きながらスナック菓子を咀嚼している姿は、呆れるを通り越してもはや哀れだった。

「てか、その菓子に『ガーリック味』って書いてるけどさ。にんにく食えるの?」

「食べれるでしょ! 当たり前じゃん! 某ラーメン屋では『にんにくマシ』だよ!」

 吸血鬼だとしたら当たり前ではないだろ。にんにくNGなイメージある。

 別に裏切ろうとは思っていないが、吸血鬼としての花火の特性や能力は早いうちに把握しておきたかった。

 友好な関係は築きたいが、『もしも』の時に対処できるようにしておきたい。

「まぁいいや。でも、躊躇なくにんにく食える女子ってレアだよな」

「そう? 入れたらもっと美味しくなるものが多いじゃん。それこそラーメンとか」

「激しく同意なんだがニオイとか気にならないのか?」

 正直な話、俺は他人のにんにく臭を気にしたことがないのだが、今はスメルハラスメントとかうるさいからね。

 嫌に思う人がいる以上、社会生活を営む上で気にするに越したことはない。


「そんなニオイごときで大騒ぎする人は、あーしの周りにいなくて結構!」


 花火が進もうとしているのは茨の道だ。

 人間関係ってのは『個性』と『社会性』の綱引きだからな。個を全面に出すと全体での承認は得にくい。

 そこのバランス調整を学校やアルバイトで学んで、人は『社会の一部』になっていく。

 だけど、その花火の姿勢が間違っているとは断言できない自分もいた。

「ストロングスタイルだな。貫くなら頑張ってくれ。応援はする」

 自分の中でも答えが出ていないのだから、俺から花火に言えることはない。

「ねーねー、なんかラーメンの話してたらお腹減ってきた! 英吉なんかつまみになりそうなもの作ってくれない?」

「前言撤回。ちょっとは空気を読めや」

 いくらなんでも自由がすぎるだろ、おい。

「えー、ケチー」

「そもそも、俺は料理とかしないぞ」

「あ、冷蔵庫に何も入ってないのを思い出した」

「おーい、人んちの冷蔵庫を勝手に開けるなー」

 よし決めたぞ。当面の目標は『花火に常識を教える』だな。

 あまりにもゴーイングマイウェーすぎる。これじゃあ友達作りに苦労する一方だ。

「けどさー、料理しないってなると普段何を食べてるの?」

「朝はお茶漬け、昼は学食、夜は外食かバイト先のまかないだな」

 一人暮らしを始めてお茶漬けの素晴らしさを痛感している。

 楽に作れるのに全然飽きが来ないんだよな。

「その生活、食費やばくない?」

「そこは仕送りでなんとか」

 花火が「いくら貰ってるの?」と突っ込んだ質問をしてくるので、「普通そういうこと聞かないだろう」と悪態をつきながらも、具体的な数字を伝えた。

「うわ、結構もらってんねー。何だかんだ実家が太いお坊ちゃんか」

「……かもな」

 それは否定できない。大人振ってはみても、結局は親の庇護下で好き勝手にしているガキでしかなかった。

 一人で生きてきた花火からすれば甘ちゃんとして映るのだろう。

「いや、いつもみたいに反論しなさいよ。調子狂うじゃない」

「父親が医者だからな。実際、裕福なのは間違いない」

「そんな坊ちゃんがどうして地元を飛び出してきたのよ?」

「踏み込んでくるなぁ」

 こんなストレートに訊かれると呆れて笑ってしまうな。

「あーしと英吉の仲でしょ」

「まだ出会って二日なんだが……もういいや。クラスのやつには話してないけど、地元に居づらくなってな」

「色んな娘に手を出しすぎて嫌われた?」

「いきなり正解すんなー」

 その通りである。両親は知らないだろうが、これが東京に逃げてきた理由だった。当時は中学生だったこともあり、アフターフォローがしっかり出来てなくてね。

 ちょっと荒んでいた時期があったんです。こんなの言い訳にもならないんだけど。

「うわー、サイテー」

「我ながら」

 苦笑いするしかない。自覚はある。

「けど、あーしも最低人間だからなー。最低同士、仲良くやろうよ」

「ははっ、それこそ最低すぎる共通点だな」

 花火も自分が生きていくためとは言え、〈魅了〉の力を使って人々の生活や人生を捻じ曲げてきたはずだ。

 そういう意味で、俺と花火は似たもの同士なのかもしれない。

「んじゃ、暗い話はこれくらいにして! お腹ペコペコだしなんか食べに行こうよ!」

「一つ気になったんだが、花火って吸血鬼のくせに食欲旺盛だよな。その欲求が血を吸いたいって方向になったりとかは――――」

「その話はしたくなーい」

 ピシャリと答えた。プイッと顔を逸らして「聞こえませーん」の一点張りである。

 どうもそこは触れられたくない話題みたいだ。

「俺には喋らせておいて」

 こっちは正直に答えたのに不公平ではないだろうか。

「ちっちゃいことは気にしなーい! そんで、何食べに行こうか?」

「……はぁ、俺はもうバイト先でまかない食ったんだけど? それにあんま遅い時間にガッツリ食ったら太るぞ」 

「見ての通り太らないタイプなの、うふふ」

 上半身をくねらせて自分のプロポーションをアピールしてくる。

 布面積が少なく厚みがない服なので、体のラインがしっかりと出ていた。なんとも目のやり場に困る。

「乳に栄養が行き届いてないみたいだけどな」

 だけど、花火が貧乳でよかった。

 これで胸までデカかったら辛抱たまらなくなっていたぞ。

「えっとー、英吉って何型だっけー?」

「い、いきなりなんだよ……B型だけど……」

 花火はニコッと笑っている。それに加えて意味不明な質問。不気味でしかない。相場は怒ったり騒いだりするものじゃないのか。

 貧乳キャラをイジるとその反応が定番だと思うが。


「じゃあ、B型は全員死刑」

「まさかの連帯責任!? 発想がこえーよ! 悪かったって!!」


 俺の失言一つで全世界のB型を巻き込むわけにはいかない。

「詫び代として、ご飯は英吉が奢ってね」

「えー、俺は腹減ってないのにー」

 年下の高校生相手に容赦ない。タワマン住みの高等遊民のくせにがめつい奴だ。

「さもないとO型とAB型も道連れにするわよ」

「お前がA型なのはハッキリしたよ! ……あー、もう! しゃーないな!」

 俺が奢らないことで、全世界のA型以外を巻き込むわけにはいかない。

 元々は貧乳をイジった俺にも責任があるからな。それに、だ。頭の中で「血液型も乳もAなのかよ」と考えてしまったことに、それなりの罪悪感もあった。

「やったー! で、で? 何食べるー?」

「それこそラーメンはどうだ?」

 手軽にサッと食えるし、ラーメンは大好物だ。

 近くに行きつけの店もある。疲れているので遠出はしたくないからな。

「最高かよ! ひょっとして、英吉ってIQ53万くらいある?」

「戦闘力じゃねーんだよ。逆にバカっぽいだろそれ」

「ちな、何ラーメン?」

「博多風ラーメン」

「風? どういうこと? 博多ラーメンじゃなくて?」

「百聞は一見にしかず、だ」

 説明するよりは実際に見てもらった方が早い。

「よし分かった! じゃあ、しゅっぱーつ!」 

「ちょ、待て待て! その格好で外に出る気か!?」

 ほぼ下着姿みたいな格好で外に出すわけにはいかない。どうしてこうも酔っ払いは頭がバカになってしまうのか。

 疲れた体に鞭打って、再び出かける気力を無理やり呼び起こした。

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