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【11作品】クズと吸血鬼と青い春  作者: あぱ山あぱ太朗
1章 衛藤英吉は自他ともに認めるクズである
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1-4

「もぐもぐ、まずはあーしの身の上話を聞いてくれる?」

「むしゃむしゃ、本音を言うと遠慮したいな」

 俺たちは二人揃ってピザを食べていた。

 突然、真中さんモドキが「なんか喋ってたらお腹減った! ピザ取ろ、ピザ!」と言い出したことにより今に至る。

 吸血鬼ってピザとか食うんっすね。血以外摂取できないものかと。

 お好みはペパロニが大量に乗ったアメリカンピザらしい。久しぶりに食べたけど、やっぱりジャンキーなものって別格に美味いよな。

「……ピザ、奢ったよね?」

「ぐぬぬ」

 実家が裕福でも仕送り額には限度がある。

 バイトをしないと娯楽費を捻出できない学生からすればタダ飯は有難い。

「女の子の話聞くの得意なんでしょ?」

「そうだけど、二十歳の人を『女の子』って表現するのは――」

「黙れ、小僧」

 あ、地雷を一個見つけた。

「とにかく、黙って聞きなさいよ」

「はーい」

 毒を食らわば皿までか。ピザも奢ってもらったことだし。


「――――あーしさ、最初から吸血鬼だったわけではないんだよね」


 またもや新しい設定。

 生まれてオギャーの瞬間は吸血鬼ではなく人間だった。先天的なものではなく、後天的なものであったという理解で良いのだろうか。

「両親はただの人間なのよ。サラリーマンと専業主婦の平々凡々な家庭でね」

「どうしてそんな家庭から吸血鬼が?」

 当然、その疑問が生じる。

「先祖返りってやつなんだと思う。父の曽祖母が吸血鬼だったとか。でも、潜性の遺伝子みたいで発現しなければ普通の人間と変わらない」

「いつ、そのことを自覚したんだ?」

「高校進学の直前だったかな。中学三年の春休み。あーしさ、その時まで生理が来てなくて。周りもかなり心配してたんだけど、ようやっと始まってさ」

「…………」

 男目線、大変コメントしづらい。

 女の子と関係を持ってざっくばらんに話せるようになった後でも、そこは触れちゃダメだよねっていう不可侵な領域だ。

「その時なんだよ。あーしが吸血鬼に『なった』のは」

「なった、か」

 おうむ返しで応じる。

 余計なことは言わずに話し続けてもらうにした。

「そう、それまでは間違いなく人間だった。今だってこうしてピザも食べられるし、陽の光も浴びられるし、鏡にだって姿は映る。でも『吸血衝動』だけ抑えられなくなって」


 そこから彼女が話したのは初潮を迎えた日、皮肉にも彼女の誕生日の出来事。

 吸血衝動を抑えられなくなった彼女は、両親に襲い掛かり致死量ギリギリの血液を吸い出してしまう。

 我に返って最初に目にしたのは家具や物が散乱した部屋。そして倒れる両親。

 強盗が押し入ったと思った。震える手で警察と救急に電話をしたらしい。助けが来るのを待っている間、床に散らばった鏡の破片が目に入る。

 そこに映ったのは、赤黒い血液を体中に纏い、瞳を紅く染めた一体の吸血鬼だった。


「……その後は意外と冷静だったな。このままだと自分は化物として処分されると思ったから、返り血を洗い流して、服を着替えてすぐさま家を飛び出した」

「…………」

 想像以上にヘビーな話に、何一つ言葉を発することが出来ない。いや、むしろ中途半端な同情などは不要だろう。

 彼女に過去を吐き出させることが、今の俺に与えられた唯一の役割なんだ。

「それから両親には会ってない。一応、生きてはいるみたいだけど」

「そんな大事になって事件化しなかったのか?」

「なかったね。どう言い訳したのかは分からないけど」

 娘が吸血鬼になった、とは言えないか。捜索届も下手に出せないだろうし。

「その後は? だってその時点で一五歳とかだろ?」

 身寄りのない一五歳が一人だけで生きていくなんて不可能に近い。

 仕事をするにも、家を借りるにも、きちんとした身分が必要であり、未成年者が親の同意なく出来ることには限りがあるはずだ。

「〈魅了〉の力を乱用したね。君には効果なかったけど」

「あぁ、例の……」

「この力を使えば相手を意のままに操れる。それでほとんどの問題は解決できた」

 自分が体験していないため半信半疑ではあるが、こうして彼女が不自由なく暮らせている、その事実が何よりの証明だろう。


「そこからはもうシンプル。お金が欲しかったから三年くらいキャバ嬢やってさ。キャバ嬢と〈魅了〉って相性良いから荒稼ぎよ。そんでタワーマンションと億単位のお金を手に入れて、資産運用だけで生きていける状態になったと。めでたしめでたし」


 彼女は俺の反応を待つことなく、「話し疲れた。タバコタバコ」と換気扇の下でタバコを吸い出した。ドッと疲れてしまって注意する気にもなれない。

「……それは分かったけどさ。一つだけ腑に落ちないことがある」

「なに?」

「どうして真中さんと入れ替わることになったんだ? 過去に色々あったのは分かったけど、最終的には成功者になれたわけだろ」

 高等遊民とかシンプルに羨ましい。俺も可能であれば働きたくはないし。金で買えないものはあるが、大半のことは金でカバーできると思う。

「あーしもそう考えてんだけどね。ふと虚しくはなるのよ」

「虚しく?」

「なんか満たされない。それで考えてみたの。足りてないものを。そして、答えはすぐに出た。あーしは大金を手に入れる代わりに『青春』を犠牲にしていたんだって」

 そういうことか。

 確かにどんな大金があったとしても、この青い春を買うことは叶わない。

「あぁ、ようやく話が見えてきたぞ。そこで女子高生の真中茉莉さんと入れ替わって、失った高校生活もとい青春を取り戻そうとしたわけだな」

「その通り!」

 これでようやく「あーしが『最高の高校生活を送る』サポートをしてもらうから!」という発言の意味を理解することができた。

 でも、そうなると一つだけ気になることがある。

「……一つ確認だけど、本物の真中さんは納得してるんだよな? その〈魅了〉ってやつで無理に操っているとかではないよな?」

 彼女が青春を取り戻したい理由も分かった。そう考えるのも理解できる。

 しかし、だからといって自分のエゴのために、一人の少女から青春を取り上げるのは許されることではない。

「もしそうだとしたら、俺は貴方を軽蔑する」

 我ながら綺麗事を言っている。

 お前はそんなに清廉潔白なのか。そう問われたら二秒で白旗をあげる。それでも、キレイだから『綺麗事』なんだ。

 俺も彼女もそこを見誤ってしまったら、寄る辺がなくなってしまうと思う。

「そこは信じてほしい。この入れ替わりは彼女にもメリットがあってのことだから」

「メリット?」

 真中さんモドキは神妙な面持ちで応えた。

 自身の言葉に嘘偽りはないのだと、言葉だけではなく態度で表明している。

「茉莉ちゃんね。漫画家になりたいんだって。そのためには一分一秒も無駄にできないって。今もあーしのタワマンで必死に原稿を書いてると思うよ」

「……二年になって不登校になったのはそれが理由なのか?」

「両親とは揉めたみたいだけどね。でも、夢のために全てを犠牲にするって姿勢は、決して正解ではないと思うけど尊敬はできる」

 それで真中さんは学校に来ていなかったのか。

 だけど、両親が気が気でないのは理解できる。きっと彼女に「学校に行け」と何度も声を掛けていたはずだ。

 そのタイミングで幸か不幸か、青春コンプレックスの吸血鬼と出会ってしまった。

 口うるさい両親から解放されて好き勝手に漫画を描いている。それが彼女の幸せであるなら外野が口出しをするのもおかしな話だとは思う。

 だけど――――

「俺にそんな権利がないのは重々承知だが、これだけは約束してほしい」

「約束?」

「真中さんが『戻りたい』って言った時には、その通りにしてあげてくれ」

 本人が学校に行きたくないのなら無理して行く必要はない。やりたいことに熱中しているのであれば尚更そうだ。

 それでもセーフティーはあった方がいい。目の前のこの人は例外として、多くの人は青春を取り戻すことなんて出来ないのだから。

 本物の真中さんには後悔のない選択をしてほしい。

「――――君ってさ、実はかなり優しいよね」

 彼女はただ優しく微笑んだ。

 その大人びた表情にドキリとさせられるが、それを表に出すまいと必死になる。

「あ、あぁ! 言うまでもなく、俺は優しいからな!」

「ふふ、照れちゃってー」

「て、照れてない!」

 ちくしょう、この吸血鬼に付け入る隙を与えてしまったのは遺憾である。

「でも、分かった」

「え?」

「約束する。茉莉ちゃんが高校生に戻りたい、そう言った時には二つ返事で受け入れる」

「いいのか?」

 あまりにも素直な回答に驚いてしまう。失った青春を取り戻したい、彼女がそう考える気持ちも分からなくはないから。

「あーしも少し罪悪感はあったんだ。だから、言ってもらえてよかったよ」

「……それなら協力するのも吝かではない」

 洗脳されて自我を奪われそうになったが、未遂ということでそれはチャラにする。彼女の事情を知って、力になりたいと思ってしまった。

 仕方がないので脅されてやろう。

 ただ、今後の協力関係を結ぶにあたって確認しておきたいことがある。


「だからさ、本当の名前を教えてくれよ」

「……っ!?」


 そんな驚いたような顔をされても困ってしまう。

「本物の真中茉莉さんと入れ替わっていることは分かった。それに一五歳までは普通に人間として暮らしていたことも。つまり、日本人としてちゃんとした名前があるわけだよな?」

 さっきから『真中さんモドキ』と失礼な呼称、もしくは『貴方』『彼女』といった代名詞しか使えてないからな。

 これから一緒にやっていく相手の名前くらいは知っておきたいものだ。

「本当の名前、か」

 彼女はどこか遠くを見ているような、心ここにあらずの状態だった。

「……その、最近まではずっと源氏名だったんだよね」

「でも、俺は客じゃない」

「そ、そんな大した名前じゃないというか……っ!」

 言葉を選んで、逃げようとしている。空気を読むのならここで引くべきなんだろう。

 だけど、彼女とは長い付き合いになる。そんな予感がしたから、ここは押す。

「ほらほら早くー」

「っ……! 強引だな、もぉ!」

 ぷくっと頬を膨らませる姿には、年上とは思えないあどけなさがあった。


「――――は、花火よっ!! 苗字はその、勘弁して」


 顔を背けながらも自身の名前をしっかり名乗ってくれる。

 過去のこともあって、苗字にはきっといい思い出がないのだろう。そこのラインを踏み越えては駄目だ。

 それに大事なのはそこじゃないからな。

「花火ね、いい名前じゃん。じゃあ、よろしく花火」

「ねぇ! さっきから思ってたんだけど、なんでタメ口だし呼び捨てなのよ! あーしの方が年上なんだけど!?」

「けど、俺たちは同級生なんだろ?」

 バイト先にいる大学生の先輩が言っていた。

 大学に入ると年齢が異なる同級生がちらほら出てくるが、学年が一緒なら基本的にタメ口&呼び捨てで会話をしていると。

 変に年上扱いされる方が、相手も気を遣われている感じがして嫌なんだとか。

「ほんとクソ生意気! じゃあ、いいわよ! あーしもアンタを『英吉』って呼ぶから!」

「気安いな」

「英吉に言われたくない!」

 まさか「衛藤くんには死んでもらう」から、こんな展開になるとは思わなかった。成り行きに身を任せてしまったが、俺の高校生活はどうなってしまうことやら。

 GW明け初日。こうしてクズと吸血鬼の奇妙な同盟関係が結ばれることになった。

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